48 二人の男が遠ざかる
二条雅子が大盤所に詰めていれば、否応なく、御所さまの噂が耳に入る。
院宮(=御所)に勤める女房たちにとって、やはり最大の関心事は御所さまであり、そしてその次には院宮に参内する若い公家たちなのであった。
御所さまは近頃、牛車を出させては、涼子という若い女の許に通われているという。
雅子にとって、それは妬けぬことでは決してなかった。
(そんな院外の女のところに行くくらいなら、なぜ院宮(=御所)でわたしに声を掛けてくださらないのかしら…。もう、わたしのからだに飽きてしまわれたということなのだろうか?)
冷たい、いや、浮気な御所さまのことを想うと胸が痛いくらいに疼く。
もう、その疼きは、実兼さまに抱かれないと癒すことができないと思われるほど強いものであった。
御所さまのことを想ってつらくなると、二条は、実兼さまのことを想う。
二条にとって、そんな心が引き裂かれるような日々が続く。
5月になった。
もう自分では、おなかが大きくなったことが歴然とわかる。
もうすぐ、外見(そとみ)にもおなかが大きいのがわかるにちがいない。
御所に通ってくるのも何かしら抵抗がある。
雅子は、御所さまを尋ねる。
「身重になりました」
「そうか…」
「・・・」
喜んでくれていない。
声でわかるのだ。
不信感を抱いているような。
「時々は、御所へ参ることができない日もあるかと思います」
「そうか。からだをいとうように」
御所さまはそれ以上は何もおっしゃらない。
いつもなら、近寄ってきて、肩を抱いてくださるものを。
仕方なく、二条は立ち去る。
5月も終わりを告げる。
6月7日になって、二条雅子の屋敷に実兼から品物が送られてきた。
雅子はその包みを開けてみる。
腹帯であった。
うれしい。
(実兼さまは、わたしのことを心配してくださっているのだ。でも、わたしが今里帰りしていることを、実兼さまはどうしてお知りになったのだろうか)
一方、こちらは御所である。
後深草院は、腹心の部下である鷹司兼嗣を近くに呼んでおられた。
後深草院は、何やら機嫌がわるそうであった。
二条さまのことで、機嫌がわるいのだろうかと、兼嗣は思う。
で、御所さまに尋ねている。
「このところ、二条(雅子)さまのお姿が見えませぬが…」
「ああ。何やら、懐妊したようじゃ」
「・・・」
「誰の子か、わかったものではない」
「御所さま、お言葉が過ぎます」
「われは、本当のことを申しておる」
「……」
「われは上皇という立場にあるというのに…。ままならぬは恋の道よのぉ〜」
「いずれにしても、御所さまは、腹帯をお贈りなさってください」
「いやだなぁ」
「二条さまは、御所さまの愛妃ということになっておりますから…」
「そうか?」
「どうして、そのようなことを仰せになるのですか?」
「いや、なに。御所の女房たちは口さがない。女房たちは、『二条さまの想い人は西園寺実兼さま』などとうわさをしているのではないかと思っての…」
「それは御所さまの被害妄想というもの。そのようなうわさ、わたくしは聞いたことがありません」
「そうか…」
「では、二条さまに腹帯を贈る手はずを整えましょう」
「そなたに任す。よきように…」
6月12日、二条の住む屋敷に、御所さまからも、御帯が届く。
二条は、青ざめていた。
5日前には、西園寺実兼さまから届いた帯をおなかに巻いたばかりなのだ。
それなのに、今度は御所さまから届いた帯を巻くことになるのだ。
同じ赤子(あかご)に、違う男の帯を二度も巻くというのであろうか。いや、そんなことはできない。
赤子(あかご)は、まがうことなく、実兼さまの子。御所さまのお子ではないのだ。
一体、わたしは、誰の帯を巻いたらいいのだろうか?
実兼さまの子なのだもの、実兼さまからいただいた帯を巻かなくては…。
いや、おなかのお子は、御所さまのお子になっているのだ、御所さまからいただいた帯を巻かなくては…。
子どもが動く。おなかの中で。
何やら、赤子(あかご)が足で、わたしのおなかを蹴っているような気がする。
それは、まるで、御所さまのような…。
御所さまは怒っておられるのだ。
おなかの中のお子になって、わたしを責めておられるのにちがいない…。
二条はひたすら、耐える日々を送っていた…。
西園寺実兼は、二条雅子の屋敷から遠ざかっている。
二条雅子は、御所さまのお子をはらみ、時には御所への出所を休み、屋敷で養生をしているらしいのだ。
しかし、雅子さんの、あのおなかの子の父親は、確かにわたしなのに…。
自分がいかにも卑怯に思える。
雅子さんに顔を合わせることができない、合わせられるはずもない。
帯は確かに届けさせた。
時々、送り主はわからぬようにして、雅子さんの屋敷に、着るものや食べるものを従者たちに届けさせた。
雅子さんが苦しんでいると思うと、実兼は眠れない。
しかし、ひどいことだが、実兼は、眠られぬ夜が3日も続くと、正妃である顕子(けんし)の許へ忍び入っていた。
顕子の胸元に顔をくっつける。
すると何やら安心するのだ。
顕子は育ちがよいというか、他人(ひと)を疑うということがない。
幼い頃から父親にかわいがられ、すくすくと育ったのであろう。
わたしが雅子さんとの恋に苦しんでいることを顕子は知らない。
いや、仮に知ったとしても、顕子はさほど、やきもちを焼くようには思えなかった。おっとりとして、何事にも動じない、顕子はそんな女であるような気がした。
雅子さんの前ではどうしても緊張してしまう。
たぶん、雅子さんがとても好きだからだ。それに多少は、雅子さんが御所さまという上司の想い人(愛人)だからということもあろう。
しかし、顕子の前ではそのような気遣いは無用だった。顕子の前では甘えられるのだ。
雅子さんにはわるいとは思いつつ、顕子に添い寝をしてもらいながら、実兼は疲れた頭を休めていた…。
暑い夏がやってきた。
御所さまは、身重の二条の姿を見かけられることがある。
(何も、そんなに無理をして、御所に出かけなくてもよいのに。ゆっくり屋敷で休んでおればいいのだ)
そう思われるのだが、直接、二条あがこ(雅子)に声を掛けられることはない。
むしろ、あがこのことを避けておられるのだ。
あがこのことが恋しい、あがこの身重のからだが心配だ。
でも、そういう心の動きとは裏腹に、『あがこが本当に好きなのは、実兼なのだ』と思い、つい足がすくんでしまうのだ。
心は、あがこを求めていた。
しかし、あがこのそばに行き、あがこのからだを抱きしめることはできなかった。
あがこの心の中には、実兼がいるはずだ。
いや、あのおなかの中の子は、実兼の子かもしれない…。
御所さまは、またぞろ、御所を抜け出されるのだった。
めざすは、涼子の屋敷だった。
心は、あがこの向いているというのに…。
しかし、御所さまの股間のモノは、薄紅色をして、ジメジメと湿り気を帯び、ヒクヒクと内襞を脈打たせる、涼子の淫穴を求めているのだ。
御所さまは、牛車を降りられて…。
玄関には見慣れた沓が置かれていた。
一瞬、心が凍る。
しかし、それ以上に、からだが涼子を求めていた。
「涼子、涼子」
御所さまは、玄関先で大きな声を上げられる。
と、涼子が姿を現して…。
「ああ、涼子、会いに来たよ」
「……」
「さぁ、わたしを上がらせておくれ」
「……」
「白髪頭の男が来ているのか?」
「はい」
「では、さっさと、済ませろ。わたしは別の部屋で待っている」
「……」
御所さまは、涼子の返事も待たず、勝手を知っている涼子の屋敷の内に入られる。
暗いのに、御所さまは、むっとした顔をして、座っておられる。
誰かが入ってくる。
屋敷の侍女がお酒を持ってきたらしい。
部屋に灯りが点される。
侍女は、膳を置いて部屋を出ていこうとする。
「しばし、待て。われに酌をしてくれぬか。さぁ、ここに、宋銭がある。そなたにこれを取らせるほどに」
侍女が戻ってくる。
若い侍女であった。
涼子のことが思われる。
今頃、涼子のやつは、あの白髪頭の男にくちびるを吸われているのだろうか?。
男にくちびるを思い切り吸われるのは仕方のないことだ、涼子には、何かしら男を惹きつけてやまぬ色気があるから…。
しかし、涼子が自ら男の首に手を回し、男の唇を吸うのはいやだった。
そんな男の唇を貪る涼子を思い描くと、胸がうずく。
その胸のうずきは、何としても、この若い侍女にそばにいてもらわなくては、癒されることはなかろう。
涼子とあの男とのまぐわいが終わるまで、せめて、この女にそばにいてもらいたい…。
御所さまは、膳の上から浅い小さな盃を取り、若い侍女に向かって腕を伸ばされる。
「さぁ、これに注いでくれ」
侍女が手を伸ばして酒を注ぐ。
その酒の満ちた盃を、御所さまは、いったん、膳の上に置かれる。
御所さまは、注いでくれたお礼にと、宋銭を一枚、侍女に向かって差し出される。
侍女が手を伸ばしてくる。
御所さまは、その女の手のひらに、宋銭を載せられた。
御所さまは、盃を再び取り上げ、一気に飲み干される。
「さぁ、もう一杯、注いでくれ」
御所さまが腕を伸ばされる。
侍女が膝を付きながら多少、近寄って来る。そして、盃に酒を注ぐ。何やら侍女の手が震えているような。
「そんなにわれのことをこわがらなくてもよいぞ」
「……」
「さぁ、そなたが注いでくれたから、もう一枚、宋銭をやろうぞ」
侍女が身を固くしている。こちらには手を伸ばしてこない。
御所さまは、にじり寄られて、侍女の手を取り、その手の平に、宋銭を一枚、載せられた。
と、御所さまは、その侍女の肩を抱かれる。
甘酸っぱい匂いがした。
「もう少し、銭が欲しくはないか?」
女が肩の肉をビクッとさせる。
御所さまは、女の首に右手を巻いて。ぐっとばかりわが胸の方に女を抱き寄せられる。
女があらがうというのに…。
強引に女の顔を引き寄せて…。女の唇を盗んでしまわれていた。
御所さまの目の前で、涼子が、白髪頭の男の唇を吸っている幻が浮かぶ。そのまぼろしを消そうと、御所さまは、懸命に若い侍女のくちびるをお吸いになる。
女の口からは、芳しい雌の匂いが立ち上ってきて、御所さまは、さらに夢中になってその女の口をお吸いになっていた…。
「御所さまっ!」
若い侍女から唇を離して。見上げると。そこには、涼子が立っていた。
「もう、済んだのか!」
御所さまは、怒ったように言われる。
「あらかじめ、文(ふみ)をくださればよかったのに…。あの方には、事情をお伝えして、お帰りをいただきました」
「……」
と、侍女が背中を向けて、部屋を出て行く。
御所さまには、それを止める手立てもない。
しかし、ともかく御所さまは、内心、喜んでおられるのだった。
(あの男は帰って行ったのだ。邪魔者がいなくなったわ。屋敷には、われと涼子だけだ)
しかし、ふたりきりになったというのに、涼子の前で、御所さまは、わざとに拗ねて見せられる。
「あの男が帰ってしまって…。それでは、そなたとて、さみしかろうに…」
「……」
「今夜、われは、そなたの恋路の邪魔をしてしまったようじゃ」
「……」
「われは、そなたたちに嫉妬してしまい…。今夜はそなたを抱けぬと思い…。さきほどは、そなたの侍女を口説こうと思って、くちびるを盗んでしまった…。浅はかな男よ、われは…」
「……」
見ると、涼子はすでに座っていた。
それを見ると、御所さまは、涼子のそばに、すがり寄られていた。
涼子の膝の上に手をやり…。
「涼子、ゆるしてくれ」
「……」
「あの侍女を、われは口説こうとした。宋銭をやってな。われは、そんな下等なおとこなのだ。が、それもこれも、そなたへの嫉妬のゆえ。そなたが、あの白髪頭の男と仲良くしていると思うと、居ても立ってもおられず…。血の気が昇った頭を冷静にするには、あの侍女の肩を抱かねばいられなかったのだ。だから許して欲しい」
厚かましい、と思っている。
しかし、今、涼子が欲しかった。
涼子のからだを得るためなら、今はどんなことをしてもいいと思われた。
御所さまは、涼子の膝の上に、顔をこすりつけられた。
「涼子、涼子、こんなわれだが、そなたのことが好きなのだ」
御所さまの顔は、涼子の膝の上から、おなかのところに…。
そして、涼子が嫌がっているというのに、顔をぐいぐいと押し上げつつ、涼子の胸に…。
顔が涼子の胸に達したときには、とうとう、御所さまは、涼子を押し倒しておしまいになっていた。
御所さまは、荒々しく、涼子の袴(はかま)の紐の結び目を解き、表の袴(=スカート)をお取りになっていた。
表の袴の下には、紅色の腰衣(=パンティ)が…。
その腰衣すらお剥ぎ取りになって…。
涼子の、御所さまの好きな真っ白な内腿の肌が現れる。
そして、その真っ白な股座には、とうてい似つかわしくない、びっしりと生えた黒い草叢が見える。
御所さまはさらに涼子の股ぐらを開こうとなさる。涼子が嫌がって、足をバタつかせる。
その足をしっかりとにぎり、無理矢理、股を開かせられる。
涼子の左足の内腿辺りに、御所さまは、ご自分の右足の膝頭を当てられて。
そして、涼子の右足の膝頭には、ご自分の左手をしっかり宛がっておられる。
涼子の股間は大きく開かれてしまう。
御所さまは、自由になった右手で、涼子の股間の草叢を掻き分けられる。
と、その窪みに指先を宛がわれた。
窪みは乾いていた。
御所さまは、上体を前かがみにされて。
まずは、涼子の淫裂の突端部にある、陰核(クリトリス)をくちびるにて愛撫される。
くちびるにて、その包皮を剥かれ、舌先にて、お舐めになる。
涼子が、お尻をピクピクさせる。
御所さまには、やや顔を下に移されて。涼子の窪みに、湿り気をもたらそうと、おのが口を当てられていく。
御所さまが、その淫裂に舌を這わせられる。
「あっ、ああああっ・・」
涼子が、いやがってなのか、それとも気持ちがわるいのか、身をよじらせる。
しかし、御所さまには、構わず、舌先を丸く硬くしながら、淫裂の窪み深く舌を入れられる。
「うーん、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
涼子がピーンと足を突っ撥ねる。
舌先が、涼子の淫穴に入る。
「アーン、ハァッ!」
そこは適当な湿りが感じられた。
御所さまが少し顔を上げられる。そして、じっと、穴の開くほど、涼子の玉門(膣口)を見つめられる。
そこには、薄い紅色をした、宋銭の直径ほどの丸い淫穴があった…。
その淫穴をいとおしむように、御所さまが口をつけられる。
「あああっ、ごしょ・さっ・まぁ・・っ」
涼子はお尻を左右に振りつつ、嫌がっている…。
いや、それとも、男が好きで好きでたまらぬ涼子のことだ、気持ちがいいのかもしれない…。
しかし、涼子がお尻をもじもじさせ、胸を突っ張るほど嫌がっていても、この淫穴こそが、御所さまの大好物の品(しな)であった。
御所さまは、紅色の淫穴をむしゃぼるようにチュウチュウと吸い、味わわれる。
その淫穴からは、芳しい雌の匂いが沸き上ってくる。そして、その奥からは淫汁がジクジクと洩れ出てきて、御所さまは、それを夢中でお吸いになる。
「あっ、あああっ、あーん、アンアン・・・」
涼子はもだえ、そして、その淫穴より、御所さまが吸い取りになる以上に、淫汁を滴らせるのだ。そして、その淫汁は御所さまの上くちびるや、鼻がしらをびっしょりと濡らす。
涼子がもよおしてきたことは確実だった。
御所さまの股間のモノはギンギンに硬くなっている。
それは、涼子の狭く、きつい淫穴すら、楽に貫通できそうなほどに芯のある硬さを誇っていた。
「あっ、あああっ、もう、もう、もぉっ・・・」
「涼子、涼子、われのいとしい涼子・・・」
淫汁をあふれ出させてきた涼子のアソコを舌先でいたぶりながら、御所さまは、下より盛んに言葉を掛けて、涼子を愛(め)でられるのであった。
(つづく)
(注)この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
「とはずがたり」 新潮日本古典集成 福田秀一 校注 新潮社 刊
「女西行――とはずがたりの世界――」 松本寧至 著 勉誠出版(株)刊
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