５　あがこに惑溺なさる院

　中宮の東二条院公子（きみこ）が身ごもったようなのだ。
（誰の子なのであろうか？）
　後深草院は苦い顔をして首を傾げておられる。
　それでも、見舞いに行かなくては、と後深草院は思われる。

　中宮東二条院の姉が大宮といい、この大宮が、後嵯峨法皇の妃（きさき）なのであり、後深草院の母であった。
　後深草院にとっては叔母に当たることになる。
　後深草院より、１１歳も年上なのであった。

　中宮は年上でもあり、後深草院はその前に出ると、なんとなく気が重い。
　それに中宮は、結婚の前、父の後嵯峨天皇とからだの関係があったと思われる。
　最初、中宮は、姉の大宮院に仕えていたのだ。
　その大宮院が懐妊した。
　その頃、父の後嵯峨天皇は、三熊野詣でに出かけている。がしかし、そのとき、母の大宮院は身重で熊野詣でに同行していない。
　母の妹、すなわち東二条院（中宮）が父の後嵯峨天皇に同行して、熊野参りに出かけたのだ。
　その旅の夜、東二条院（中宮）は、後嵯峨天皇に迫られ、女にされてしまったのだ。

　われは、東二条院と結婚する前に、大納言典侍近子によっておとこになった。
　東二条院は、われと結婚する前に、わが父後嵯峨天皇によっておんなになったのだ。

　東二条院（中宮）と父上のことは、結婚前のこと、それは大して気にすることではないのかもしれない。
　しかし、われは気になる。
　このたびの、東二条院（中宮）の懐妊とて、その胎児の父親はわれではないかもしれない。
　ひょっとしたら、父上（＝後嵯峨法皇）かもしれない……。

　後深草院は中宮東二条院の部屋にお渡りになる。
「このたびは、どうも、めでたいことである」
　と後深草院はお仰せになられた。
「……」
　中宮東二条院は黙っている。機嫌がわるいようであった。

　中宮東二条院の心は穏やかではない。
　あがこに対して激しい嫉妬を感じていた。
（父親が大臣でもない娘など、まるでさらうように御所にお連れになって、みっともない）
　女房たちに聞けば、あがこの母は、近子という。
　近子は、院が元服（成人）を迎えられた夜、新枕（性の初体験）の相手を務めた上臈であったという。
（新枕の相手の娘を囲われるなんて。よほど、新枕の相手をした近子という女が床上手（性愛上手）であったということなのでしょう）
　黙ってはいるが、中宮東二条院は皮肉な笑いを口元に浮かべていた。

　後深草院は、話題に事欠かれていた。
　こうしていても、あがこのことが思われる。
　それに、中宮の部屋には居づらい。
　なぜだろうと思う。
　ここの女房たちは、このわたしを馬鹿にしているのかもしれない。
　若いおなごに身も心も奪われて、と内心では非難しているのかもしれない。
　いや、そうではあるまい。
　女房たちはあざ笑っているのかもしれない。
『中宮さまのお子は、あなた様のお子ではありませんよ、あなた様が中宮さま以外のおきさき様の許にお通いになっているとき、あなた様以外の方がこちらにお通いになっておられたのですよ』
　しかし後深草院には、そのことはわかっていた、父上がこっそりと中宮を訪ねていたことぐらい…。
「では中宮、からだをいといなされて……」
　後深草院は、早々に中宮の部屋をお出になられた。

　毎日、院はあがこの許をおとずれになる。
　物珍しさもあるのであろうか、院は毎夜来られ、あきれるばかりに、やさしくされる。
　院が来られると、あがこはそれでも、ほっとする。
　院があがこの部屋へ来られた。
　しかし、後深草院はいつになく言葉が少ない。
「どうかなさいましたの？」
あがこが問う。
「いや」
　院にすれば、しかし、こういうことはすぐにばれるだろうとお思いになる。何しろ、あがこは今御所の中にいるのだ。
　女房たちは噂好きである。
　中宮東二条院の懐妊のうわさは、やがてあがこの耳にも届くであろう。
　気も、クシャクシャして悪かった。
　後深草院は居直っている。
「いやなにね。われの中宮（正妃）が懐妊をしてしまったのだよ」
「えっ！」
　あがこは思わず声を上げた。
　声をあげてしまってから、がっくりとあがこは肩を落していた。
　悲しいというより、気分が急に落ち込んだというのが当たっているかもしれない。

　御所の女官たちは、昨日頃より、「二条さま」と呼ぶようになった。
　それは小路名（こうじな）であり、決して高貴な正妃に対する呼び名ではなかった。
（自分は決して上皇さまの正妃ではない）
　その現実が、あがこの心を暗く重いものにしていたのだ。
　それが今日は、正妃さまご懐妊の話が御所さまの口から出て。
　あがこは、日陰者としての悲哀を感じはじめていた。

　あがこは、上皇という権力者の想われ人になった。
　確かにいやいやながらではあったが…。
　しかし、それなりに、あがこにとって、時の権力者である上皇さまの愛を受けられたということは自尊心を満足させられることではあったのに…。
　やはり、家柄が物を言うのだ。
　父親の久我雅忠は大納言に過ぎない。大臣ではないのだ。
　大臣の娘でないと、正妃には成ることができない。
　確かに上臈の中では上位の女房として遇されるであろう。しかし、正妃ではない。
　正妃と上臈の間には、とてつもなく広く深い溝があるのだ。
　
　あがこは、今、院の正妃である東二条院の懐妊のことを知る。
　決して素直には喜べない。
　むしろ、自分がそのような安定した恵まれた地位にないことが情けなく、みじめに思われたのだった。
　涙が滲んでくる。
　くやしいのだ、自分の身分のないのが。
　自分が大臣の娘であれば、御所さまの正妃に成ることができただろうに。
　正妃として懐妊し、男の子を産めば、その子は皇太子にも天皇にも成ることができただろうに。
　実兼さまの愛を踏みにじってまでも、御所さまの愛を受け入れたのに、なんと言う実のないことをしてしまったのであろうか。
　むしろ、実兼さまの正妃となった方がよかったのではないだろうか…。

　後深草院は、あがこが肩を落としてじっと沈んでいる様子を気にされていた。
　しかし、なぜあがこが沈み込んでいるのか、その理由が院にはわからない。
「あがこ、元気がないね。わたしはこうして毎日毎日そなたの許に通っているというのに」
　院は苦情めいたことを言われる。
　確かに、あがこを御所に連れてきてから、早や１０日ばかり経つが、ずっと院には、あがこの部屋にやって来られているのだ。
　院の問いかけに、あがこの返事はない。

　院は勝手に、あがこの憂鬱さ、不機嫌さの原因を推察されるしかない。
　出てきた屋敷に何か未練があるのであろうか。
　父親のことでも気になるのであろうか。
「あがこ、心配しなくていいよ。そなたの父上には、文（ふみ）を使わしている。わたしが責任をもって、あずかっていると申し伝えてあるのだから…」
「……」
　あがこは依然として沈黙している。
　父親のことではないのだろうか？。
　父親以外に気にかかる人が、あがこにいるのだろうか？。
　後深草院は、考え込まれている。

　院は最近、気になっていることがおありになった。
　自分の身近に仕え、自分に忠誠を尽くしている公家の中の一人に、西園寺実兼がいた。その実兼が最近、御所に出て来ないのだ。御所に来ても自分を避けるようにしている。顔色も悪いようだ。心配ではある。
　
　院は、カマをかけられた（＝話を誘い出すように、それとなく問い掛けられた）。
「御所に、とてもいい男がいてね。でも、その男、最近、顔色がわるいのだよ。何か失恋をしたみたいにね。かわいそうだよ、まったく…」
　あがこは、内心、ドキリとする。
　しかし、冷静になろうと努めている。
　院はあがこの顔を盗み見されていた。
　あがこの顔色がさほど変わったようには見えない。

　院は、あがこが何も答えようとはしないので、退屈になられた。いや、あがこの部屋にいてもつまらないとお思いになって来られた。
　御所の後宮（＝権力者に性の奉仕をする女官たちの総称）にはたくさんの女房たちがいる。今夜はそんな気の置けない女たちの中のひとりと性の饗宴をするのもよいかとお思いになる。
「ああ、そうだ、思い出した！。ある公家が寄進荘園のことで相談したいことがあると言っていたなぁ。わたしは今夜はそちらの方へ行かなくてはならない…」
「……」
　あがこは黙っている。
　しかし、かといって、御所さまにこの部屋を出て行かれると、さみしくて、寒い。
「では、あがこ、明日の夜はまた来るから、今夜はこれで失礼するよ」
　院は、あがこを抱き寄せられた。
　そして、あがこの茱萸（ぐみ）のように赤いくちびるをお吸いになる。
「ああ、どうしてそなたのくちびるは甘くておいしいのだろうか！」
　院は、ため息をお付きになる。
　そして、院はふたたび、あがこのくちびるに覆いかぶさって行かれる。
　院は、長く口吸いを続けておられたが、やがて塞いでいた唇を解放された。
「ああっ　あああっ！」
　あがこは、肩で息をつき、呼吸を整えようとしている。
　院は、立ち上がろうとなさっている。
　しかし、あがこの手がしっかりと院の肩に置かれていた。
「さぁ、あがこ、また、明日の夜、やってくるからね。今夜はこれで…」

　あがこは、不思議でたまらない。
　別に、御所さまをこの部屋に長く引きとめようなどという気持ちはないのだ。
　なのに、御所さまの肩に置いた手を解き放つことができないのだ。
　腕は、まるで膠着でもしたかのように、御所さまの肩から離れないのだ。
「あがこ、行かなくては。荘園の揉め事について相談したい者がわたしのことを待っているのだよ…」
　あがこが俯いている。
　俯いたあがこの睫毛（まつげ）がはかなげで、院はまた囁かれる。
「あがこ、中宮よりそなたなのだ。わたしは、そなたが四歳の頃よりいとおしく思ってきたのだからね。だから、それを信じて、明日の夜まで待っておくれ」
　
　あがこは、自分の気持ちがつかめなくて困っていた。
（きっと御所さまは、この部屋を出られたいのだわ。だったら、早く行っておしまいになったらいいのに…）
　あがこは、院を突き放したい気持ちがある。
　しかし、一方では、そうでもない気持ちがあることも確かなのだった。
（こんな夜更け、揉め事のお話なんて、あるわけがないでしょうに。きっと御所さまは、他の女のところに行きたいのだわ。そんな他の女のところに行かせたくない…）
　あがこには、御所を引き止めたい気持ちもあるのだった。

　院は、あがこを横向きのまま、寝かせつけになる。
　そして、ご自分も横になられて。
　院は横臥したまま、横向きに寝ているあがこの肩を抱かれた。
　しかし、やがて右の手を肩から、あがこの背中に回して、深くお抱きになり、あがこの口をお吸いになる。
　そして、おのがくちびるで、あがこのくちびるを開けられ、舌までお吸いになる。

　あがこはあがこで左の手を伸ばし、院の背中に手を置いていた。
　自ら御所さまの背中にある手に力を込めたとき、あがこは今夜は御所さまにそばにいて欲しいと思った。
　中宮さまは身重（妊娠中）なのだ、自分のそばにいられても不都合はないはず…。
　御所さまはここをお出になったら、他の女のところに泊まりに行かれる。そんなことなら、今夜はここにいて欲しいとあがこは思うのだった。

「名残は尽きないけれど、わたしは行かなくては、ね」
　院は、手を背中から肩に戻し、それから、自分の肩にあったあがこの手をはずされた。
『いやいや』
　とでも言うように、あがこが首を左右に振っている。
　そしてあがこはまた、自分の手を院の右の肩に戻している。
「あれっ！？、あがこ、今夜はおかしいね。いつもはそっけないのに…」
　あがこが甘えてきているので、院が少しお笑いになっている。
　あがこは何やら恥ずかしく、顔をそむけ、くるりと身を反転させて院に背を向けた。
　院は、後ろ向きになったあがこの右の肩に手を置きながら、やさしく言われた。
「あがこは強い女だよ。一晩くらい、わたしがいなくたって、さびしいなんて思わないだろうに…」
　あがこは、後ろ向きながら、そうではないとでもいうように、首を横に振っている。
　顔は見えない。しかし、そのしぐさが、院にはかわいく微笑ましかった。
「さぁ、あがこ、見送っておくれ」
　院は、背の方から身を寄せながら、あがこの耳元で囁かれる。
　あがこは、そんな院に甘えるように、身を左右によじっている。
「あがこ、そんないじわるをしないで見送っておくれ。大事な客人なのだから、あまり待たせてはいけない…」
「……」
「明日にはまた来るから、今夜はね、もうこれで…」
　院が優しく諭（さと）されている。
　あがことしては、何やら引き下がれなくなっている。
　院は、背を向けているあがこを自分の正面に向かせようとなされる。
　しかし、あがこは抵抗し、身を固くして、院の方を振り向こうとはしないのだった。
「あがこ、少しは、わたしの言うことも聞いておくれ。明日は必ず来るから。今夜だけは許しておくれ」
　そんなことを院は言われるのだが、あがこは、容易に『うん』とは言わない。
　院は、いたずらっぽく、あがこの右の肩を抱きながら、チュッとあがこのうなじ（首のうしろの部分）に、軽い口当て（キッス）をなされた。
　それでもあがこはじっと身を固くし、向こう向きのままなのだ。
　立ち上がって、見送ってくれるという雰囲気になってはくれない…。

　院は、そんな子ども、子どもしたあがこが可愛かった。
　しかし、その一方ではそんなあがこを、犯してみたいという衝動にお駆られになるのだった。
　院は、眉を顰めながら考えておられるのだ。
（父上も、昔むかし、わが妻の中宮がねんねだった（＝幼く、子供こどもしていること）頃、男として中宮に挑まれたのであろうか。そして、父上が中宮をして、おんなにされたのであろうか）
　院は、中宮を大して愛してはいないと思うのに、なぜか、嫉妬に胸がうずく。
　犯した父の方が悪いに決まっている。
　しかし、犯した父よりも、父に身を任したわが妻がにくく思われる…。

　目の前にいるのはあがこであった。
　決して妻の中宮ではなかった。
　しかし、院は、中宮を痛めつけたいという気持ちになられはじめていた。
　院は、おんなを横抱えしながら、背後より攻めようとなさっている。院は、女の着物の袖口から、右手を深くお入れになった。
　おんなが身をよじりながら、いやいやをする。
　院は、からだの下にあった左手も伸ばし、すばやくそれをおんなの腋（わき）の下から通して、おんなの前に置き、おんなの上半身をわが胸にと、しっかりと抱き止められる。
　そうしておいて、右手は、着物の袖口の中を潜り通して行かれる。

　院の右手がとうとうあがこの腋の下にたどり着く。
「あっ、ああっ！」
　あがこが叫ぶ。
　院は、おんなが中宮ではなく、あがこだとお気づきになる。
　でも、腋の下をくすぐるように撫でておられる。
「あっ、あっふ〜ん、いやいや、そんなこと、なさって！」
　おんながあがことわかってからも、院はその愛撫に容赦をなさらなかった。
　院は、奥深いところで、右手をあがこの乳房の裾野にまで達せられていた。
「あっ、うっ、ぅうっ、うぅっ！」
　院は右手で、ムンズッとばかり、あがこの乳房をにぎりしめられたのだ。
　あがこが向こう向きのまま、胸を足の方へ圧し曲げる。
　院は左手でも、あがこの胸を抱きかかえるようにしながら、あがこの上半身を起こしつつ、くちびるであがこのうなじをお攻めになる。
　そして、右手では、しっかりとあがこの、生（なま）の乳房をお揉みになっている。
　院のくちびるは、うなじから耳のうしろへと動く。
「あがこ、そなたのおっぱいはなんと弾力があるのだろう」
　院は、おっぱいを揉みながらも、あがこの耳たぶを舌でお舐めになる。
　あがこはくすぐったくて。
　でも、おっぱいをしっかりと揉まれていると何やら悩ましく、疼くような気持ちになるから、変なのだ。
「あっ、あっ〜ん！」
　院が親指と人差し指で乳首を挟み、かまっておられるのだ。
「あっ、うっ〜ん、いや、いやっ！」
「それじゃ、あがこ、見送ってくれるね。わたしは客人を待たせているのだから…」
「いやいやっ。客人にはもう少し待っていただいても…」
「そんなことはできないよ」
「その客人は、女の方なのですか？」
「いや、男だよ。男に決まっているじゃないか！」
「だったら、少々、お待ちいただいてもよろしいのでは？」
　あがこを背から抱いている院には、あがこの顔が見えない。しかし、院にはあがこがわれを今夜は離したくないのだと思われた。
「あがこ、そなたはわたしを帰したくないのかい？」
「……」
　あがこは黙っている。
「帰したくない、と言って欲しい。そうすれば、わたしは、その客人との約束をすっぽかしてもいいのだよ」
「……」
「さぁ、あがこ、言っておくれ、帰したくないと」
　あがこは、顔を俯かせている。
　御所さまは背中の方におられる。御所さまの顔は見えない。
「御所さま、今夜はわたくしのそばにいてください」
　あがこは、ぽっと頬を赤らめた。
「あがこ、あがこ、愛しいあがこ。そなたが引き止めるのに、どうしてそなたをこのままひとりにして、この部屋を出て行けようか！」
　院は、顔をあがこのうなじにくっつけ、力をこめて、背中よりあがこをしっかりと抱きしめられた。

　院は、うなじにくちびるをつけたまま、背中より、あがこの唐衣（からぎぬ）をお取りになる。それから表着（うわぎ）を、そして打ち衣（うちぎぬ）を、背中より剥いでおしまいになった。
　あわただしく、薄衣を取られると、真っ白なあがこの背中があらわれる。
　その白い背の肌に、院は頬を寄せられる。そして、唇をつけられる。
「ああっ、あああぁぁぁ………」
　あがこは背中に泡立つものを感じた。
　
「あがこ、あがこ、何というすべすべした肌をしているのじゃ。それに何とも言えぬよい匂いがする…」
「ああっ、あっ、ふ〜ん、いやいや、もぉっ！」
　院は、唇のあいだより舌を出して背中を舐められるのだ。あがこはくすぐったくて、くすぐったくて。
　あがこが身をよじっていやがるのが、院にはたまらない刺激になって。
　大腰や引き腰の腰ひもを引きちぎるように、院はお取りになる。
　とうとう、院は思い切って、あがこの下紐（肌着の紐）を解かれてしまう。
「アンッ！」
　院は、剥き出しになったお尻を掌（たなごころ）で撫でられる。
「ああっ、かわいいお尻！。すべすべとして、触るととても気持ちがいいよ」
　院は、しきりに、あがこの小さな、そして真っ白なお尻を手の平で撫でておられた。
「アンッ、だめだめ、そんなことぉおっ！」
　そのうち、院には、その右の手を、あがこのお尻の割れ目に差し入れられて。
「あん？、何か濡れているぞぉ」
　院は、なんでお尻の穴が濡れているのか不思議で。
　さらに手を先に進められる。
「ハァっ、いや〜ん！」
　と、あがこの玉門（＝お○ンちょ）に手が当たって。
　玉門の入り口が濡れている。そうなのだ、玉門より漏れ出たあがこの淫液がお尻にまで垂れていたのだ。
　院は、玉門をさらに濡らしてみたいものよ、とお思いになる。
　お尻の間にある手をさらに伸ばされて。
　そして、玉門の中に中指を突っ込まれる。
　親指をお尻の穴に添えながら、折り曲げた中指をくちゅくちゅと玉門の中で動かされる。
　すると、あがこの玉門の奥の方から、グニュグニュと熱い淫汁がしたたり出てくるのだった。
　指が焼けるように熱い。
　院は、股間にある自分のモノも熱く燃え滾っているように感じられた。
　院は、荒々しく自分の宛帯（あておび）を掻き揚げられた。そして、指貫（はかま）を脱ぎ捨て、下着をお取りになった。
　あがこの腰には、まだ、薄衣がひっかかっているというのに。
　それでも、院には、横向きのまま、あがこの腰をお引き寄せになる。
　院は、あがこの足のあいだに、ご自分の右足を入れられる。
　右足であがこの足を縦に開かれる。
　院は、足であがこの足を開かせつつ、お尻の方から攻めようとなされているのだ。
　院は上体を反らせるようにしながら、腰をあがこのお尻にくっつけられる。
大きく、硬くなったお○ん○んに手を添えられて、あがこのお尻の穴ではなくて、そのちょっと先にあるあがこのお○ンちょに。
　院はぐっと、腰を押し込められる。
「ニュッ、ズルッ！」
　院の先端部が玉門の入り口に。
「スブッ、スブッ、ズブズブ、スッ――ッ！」
　院の大陰茎が、玉門に埋没して…。
「あっ、ああああっ、アンアン、ア〜ン！」
　あがこは、目から涙を流していた。
　痛くって、それでいて、何やらむずがゆく。
　でも、おなかの方が暖かくなり、少しずつ気持ち良くなっていく…。

　院は、右手をあがこの内腿にやって、あがこの股間を開きながら、腰をあがこの小さなお尻に、ぶちゅン、ぶちゅンとお当てになる。
　そして、院が腰をお使いになるたびに、大陰茎と玉門とが接合し合っているところからは、グチュグチュと卑猥な音がして。
　あがこはその音が耳に入るたびに恥ずかしくて、打ち震えている…。
　それに、御所さまが、しっかりとお尻を抱えながら、
「あがこ、あがこ、気持ちがいいよ、気持ちがいいよ」
　とおっしゃるものだから、よけいに恥ずかしくなる。
「あああっ、いやいや、そんなこと、いやいや！」
　あがこがあばれる。
　はずれそうになる。
　院は、気持ち良さを中断させたくないので、あがこの細い腰をしっかりと抱きしめられる。

　ふと、院は父親である、後嵯峨法皇のことを思われた。
　父上もこうして、幼い中宮を痛めつけられたのであろう。
　幼い中宮があわれに思われる。
　しかし、どうしてなのであろう、男としては、幼い女をいじめてみたいという衝動を捨て去ることができないのだ。
　院は、父である後嵯峨法皇から淫蕩な血を受け継いだとしか思えなかった。

　院は、自らが好色であることを自省しつつも、横臥させた女を後背位で攻めることを決してやめようとはなさらなかった。
　院は、横臥のまま、手を伸ばしてあがこの背中を前の方に押される。
　あがこは、上体を足の膝の方に曲げられ、背中を丸くさせられる。
　胸が窮屈になる。
「いやっ！」
　あがこが窮屈な姿勢に抗議をするのに、院は、構わず胸を反らせるようにして、腰をさらにあがこのお尻に密着させられる。
　院は、自分の大陰茎が奥の奥まで入り、とても気持ちがよかった。
　あがこの小さなお尻をつかみながら、ゆっくりと抜き差しをされる。

　大陰茎と玉門とが交じり合っているところの音が少し変わってきた。
「ズボッ、ズボッ」というやや乾いたような音から、「じゅぅぶぅ〜、じゅぅぶぅ〜」という、やわらかく、より湿り気のある音になったようだ。
　あがこの中が熱い。中がしっとりと濡れているのだ。
　抜き差しにも力が入る。
　あがこの真っ白なお尻の肉をにぎっている院の手も汗ばんで来られて…。

　と、院の目の前に、四条隆親の女、大納言典侍近子の顔が浮かんできて。
　その近子（ちかこ）の顔が悩ましげな表情に変わっていく。
『あああっ、若さま、若さま！』
　院の耳には、典侍近子の声が聞こえるのだ。
「ああああっ、すけ、すけ（典侍）！」
　院は、新枕を交わした大納言典侍近子のことを思い出しておられる。

　あがこは下の方からからだを突き上げられて恥かしい。でも気持ちよくて、うめく。
（あああ、何か変、気が変になりそう）

　院は、抜き差しを突然封じられて。
「うっ！」
　締め付けられる。
　が、股間のモノは膨れ上がろうとする。
　キュッと締められた時、院は丹田（臍の下二寸）に力を込められて。

「ああっ、あああ・・・」
　と、あがこがうめいて。
「ああっ、すけ、すけっ、われは、もう・・・！」
　と、院は呻かれて。

　あがこは、ドビャーッと玉門の奥に、熱いものが吹きかけられたような気がして。
　下半身が熱くなる。
「あーん、いやいや」
　あがこはからだが宙に浮くように思われて、それを押しとどめようと身を縮めるようにして耐えた。
　けれども、なにか全身が痙攣したように震え、その震えが止まらない。
「アーン、イヤイヤッ、どうにかなりそう！」
　あがこはしっかりと寝具をにぎりしめていた。

　院には横臥による後背位で、おんなを攻められていたが、激情が過ぎ去り、やっと院は自分を取り戻しておられた。
　新枕を交わした大納言典侍近子は幻（まぼろし）であったらしい。
　しかし、幻とはいえ、近子がなつかしかった。

　そういえば、今ここに背を向けているおんなは、近子の血を引く者であった。
　院には、あがこを正面に向かせられた。
（よく似ている、近子に…）

　そして、院は、あがこをわが胸に引き寄せられ、心を落ち着かせ、そっとあがこにお聞きになった。
「あがこ、よかったか？」
「……」
「われはよかった。とてもよかった」
　院はあがこの小さな頭を抱え込まれ、しっかりと胸にあがこの顔をくっつけになられた。
　
　あがこは、院の胸に汗が浮き出ているのがわかった。
　それがなぜか、あがこの心を和ませる。
（御所さまは、一生懸命、わたしをお抱きになったのだわ…）
　しかし、それにしてもと、あがこは思うのだった。
（すけって、いったい誰のことなんでしょう？）

（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の書物を参考としました。
　　　新潮日本古典集成　「とはずがたり」　福田秀一　校注　　新潮社　版
　　「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
　　「とはずがたり」　　　　　　　　　　　富岡多恵子　著　　講談社　刊