５０　いやがる二条を説き伏せる

　文永１１年（１２７４年）１１月のことだった。二条あがこは、後深草院から嵯峨の里へお供することを頼まれたのだった。
　嵯峨の里に着くと、さっそく大宮院に、ごあいさつをする。
　大宮院は、後深草院（＝御所さま）の母君であった。
「宴（うたげ）までには少し時間があるゆえ、ゆるりとお休みになられませ…」
　大宮院にそう言われると、後深草院は、あがこの手を引くようにして、奥座敷へ向かわれる。
　奥の部屋にお入りになると、すぐに後ろ手で戸をお閉めになり…。
「あがこ・・・」
　あがこをやさしくお抱き寄せになって…。

　あがこはちょっとあらがってはいるが…。
　御所さま（院）の、引き寄せようとされる力には叶わない。

　御所さまは強引に引き寄せ、そして、すぐに、あがこのくちびるをお吸いになるのであった。
「もぉっ、お離しになって…」
　あがこは怒っている。
「いいではないか、久しぶりにふたりっきりになれたのだから…」
「……」
　あがこにすれば、今恋しいのは実兼であるのに…。
　それに、御所さまときたら、わたしが懐妊中のときには、涼子という女の屋敷にお通いになっていて…。わたしのことなんか、すっかり忘れて…。

「あがこ、どうしたのだ？、そんな冷たくしなくてもよいではないか」
「これから大切な宴（うたげ）がはじまりますわ」
「よいではないか、うたげのことなど…」
「だって、わたしの髪（おぐし）が乱れてしまいますわ」
「ああ、そうであったな。が、そなたの御髪（おぐし）は乱さぬようにするから、ちょっと、ちょっとだけ…」
「何をなさりたいのです？」
「うーん、ひさしぶりにそなたのおっぱいを吸・・・」
「だめです！」
「でも、もう一度、そなたのくちびるを！」
「口紅が取れてしまいますわ」
「よいではないか」
「それより、宴がはじまるまで、じっとお庭など眺めていましょっ」
「いやだ、いやだ」
「ほんに、しようのない、御所さま…」

「ほんとうに好きなのだ、そなたのことが…」
　御所さまは、またあがこを掻きいだき、あがこのくちびるをおいしそうに吸っておられるのであった。
　しかし、御所さまの好き心は止まらない。
　着物の、胸の併せのところに手を入れられようとしている。
「何をなさるのです」
「いや、久しぶりにそなたのおっぱいの具合を確かめてみたくなって…」
「いやです。宴の場所にはきちんとした身なりで出たいのです」
「ああ、そうか。では、口吸い（キッス）だけで終わるとするか…」

　宴がはじまっていた。
　しかし、後深草院はご機嫌がわるかった。
　たぶんそれは、あがこに迫って、ことわられたせいであろう。
　院は、盃を傾けながら、あがこを見ておられた。
　顔色がわるい。それに、宴がちっとも楽しそうでなかった。
　それに、何やら物思いに耽っているような…。
（恋しい実兼のことでも想っているのだろうか？）
　そう考えるとは、院にとっては、胸がむしゃくしゃとして、おもしろくないことであった。

　院は昔のことを思い起こしておられる。
（あがこが、９歳の頃から、われは琵琶を教えてやったものなのに…。それなのに、実兼のやつに、心をゆるしてしまって…）
　院は、盃を干される。
　苦い酒。
　そして、あがこが１０歳の時には、白河殿にて、わが父である後嵯峨院５０賀の試楽には、われが教えてやった音曲にて、琵琶を披露したものだ。
　あがこは実に落ち着いていて。立派な演奏であった…。
　確かに、あの頃のあがこは、輝いていた。

　あがこが１４歳のとき、われがあがこを、おんなにしてしまった…。
　今年が明けて正月になれば、あがこも１８歳になる。
　とすれば、あがこを女にしてから、もう４年が経つことになる…。

（４年か…。とすれば、われのあがこへの恋心もそろそろ冷めつつあるのであろうか？）
　われのあがこへの気持ちが冷めつつあるとすれば、あがことて、われへの気持ちは薄らいできているのかもしれない…。
　やはり、あがこの気持ちは実兼に傾いている……。

　後深草院は、苦しそうな顔をしておられた。
　あがこは、酒を注ぎに来てくれるわけでもない…。
　と、院が宴席を見渡しておられる、あがこの姿はなかった…。

　院は、がっくりとされていた。
　にぎやかな宴席でありながら、心の内は、わびしいのだ…。

　宴の主賓である、異母妹の斎宮�ﾄ子（やすこ）を見た。
　実は、院にとっては、はじめての会見ではあった。
　異母妹の�ﾄ子は、子どもの頃から母方で育っていたのだ、顔を合わせる機会はなかったのだから。
　静かな顔立ちであった。
　何事にも、動じない…。
　いや、ひょっとしたら、閨（ねや）において、われがアソコ（＝女陰）をまさぐったところで、声すら上げない女ではないかと思えた。
（いや、�ﾄ子とておんなだ。われがアソコをいじったら、身もだえぐらいはするにちがいない…）
　院は、酔いはじめておられた。
　理性が遠のいていく…。
　母の大宮院も、すでに席をはずされていた…。

　院は、大宮院がおられなくなって、大胆にも、斎宮�ﾄ子（やすこ）の席近くに、にじり寄られていた…。
　そして、じろりと�ﾄ子を見られた。
「われの盃を受けられよ」
「……」
　�ﾄ子は、黙っていた。
　しかし、盃を取り、そして、院の方に盃を差し出された。
　院は、その盃に酒を注がれた。
　見ていると、�ﾄ子は、その盃をくちびるに寄せて、飲み干していた。

　院は、その�ﾄ子の紅のくちびるを見つめておられる。
　その、�ﾄ子の口はとても小さかった。
　酔いの回った院の頭の中で、好色な思考のみが駆け巡っていた…。
（くちびるの小さなおんなは、アソコも小さいというが…。われのアレが入るであろうか。いや、たぶん、�ﾄ子の小さなアソコに入れるには苦労をするであろうな。されど、入れたあかつきには、小さくて窮屈な淫壷ゆえ、われのアレがこすれて、さぞや、気持ちがよいにちがいあるまい…）
　院は、そのようなことを考えておられた。
　本当なら、『今夜、そなたの許を訪ねたい…』と�ﾄ子を口説きたいところなのだが…。
　�ﾄ子とは初対面。それに、なんといっても、産み母が違おうと、妹であることに変わりはない。
　それなのに口説くというのは、さすがにためらわれた。
　院は、自分の席にお戻りになった。

　院は、酔っておられた。
　宴が終わり、立ち上がろうとなされて、ちょっと、ふらつきなされる…。
　が、女官たちに支えられることもなく、おのが足で、自らの寝所として充てられた部屋に向かわれていた。
　女官たちが、着替えを手伝ってくれて…。
　女たちが出て行こうとする。
「ああ、ちょっと、待て。あがこを、いや、二条を呼んでくれ…」

　院は、布団の中に入っておられた。
　仰向けになり、薄暗い天井を見ておられる。
　と、誰か、入ってくる気配が…。
　あがこであった。
　近寄る。
　あがこもすでに、寝着に着替えていた。
　うれしかった。
　あがことて、その気がなければ、寝着の姿でやってはこまい…。
「あがこ、よく来てくれた。さぁ、ここに、お入り…」
　院は、身をずらし、寝床に、あがこが入るくらいの隙間をつくっておられた。
　
　と、あがこが、身を滑らすように入ってくる。
　あっけなかった。
　もっと、いやがると思っていた。
　あがこは、実兼が好きなのだから…。
（寒いのであろうか？）
　あがこが無抵抗に布団の中に入ってきたので、かえって院にはこれからどうしたものか、迷われていた。
　女官たちにあがこを呼ぶように、と言ったのは、ただ単に、あがこの顔が見たかっただけなのだ。
　いや、なぜ宴席を早くに退いたのか、その理由が尋ねたかっただけなのだ。
　何も、あがこのからだが欲しかったわけではない…。

　院は、あがこのからだを触ってはおられない。
　仰向けに寝られたまま、手はぴったりと、おのが両脇にくっつけておられる。

『あがこ、そなたは、実兼が好きなのであろう』
　院は、心の中で、そのように、あがこに問うておられた。
『それなのに、そなたは、こうして、われの寝床にも来る。そなたは、いったいどういう女なのだ？』
　あがこが、実兼に抱かれている情景が目の前に浮かんでくる。
　酔いが回っている。
　それを鎮めることができない。

「あがこ、そなたは、われのことをどう想っているのだ？」
　突然、言葉が口を突いて出た。
「……」
「そなたは、われのことを好いてくれているのだろうか？」
「……」
「そなたが好きなのは、ひょっとして、われではなく、さ・・・（ではないのか）」
「……」

　ふたりは近くにいた。
　いや、並んで寝ているのだ。
　しかし、ふたりの間に、気まずい空気が流れる。

　院は、あがこへの嫉妬から、そして、酒による酔いから、頭が狂われていた。
「あがこ、われは、今夜、はじめて、妹の�ﾄ子に会ったぞ」
「はい」
　院は、はじめて、あがこの声を聞かれた。
「�ﾄ子はかわいそうなおなごじゃ」
「どうしてでございますか？」
「わが父上の後嵯峨法皇の喪に服すために、心身のけがれを断ち、まるで巫女のように、神宮に奉仕してきたのじゃ。あるいは、これからもそのような潔斎（けっさい）の暮らしを…」
「……」
「それは、いわば、男を一切近づけてはならぬということ。�ﾄ子は一生、未婚の内親王として、わびしい生活を送り暮らさねばならぬかもしれぬ…」
「それもよろしいではございませぬか」
「そなたは、そのように言うが…」
「わたくしとて、いっそ、尼になって、俗世間を離れたいと思います」
「馬鹿なことを申すでない…。そのようなことを言うて…。そなたが尼僧になって、誰が喜ぶというのだ。きっと、さ・・・（とて、悲しむことであろうに…）」
「……」

　院は酔っておられた。
　頭のちょっと上の方で、悪魔のささやく言葉がするのだ…。
「妹とはいえ、そなたとは母はちがうのだ。いとこか、またいとこみたいなものではないか。あのおんな、一生、おとこを知らずに過ごすのかもしれぬ。だとすれば、そなたが、またいとことして、性（まぐわい）の手ほどきをしてやればよいではないか…」

　悪魔のささやきはあっても、院には、どうしてよいかわからない。
　院は、からだを横にして、あがこの方にお向きになった。
　あがこの肩を撫でられて。
「あがこ、そなたは、幼少の頃より、われの許に来てくれて…」
「……」
「われには、ほんによく尽くしてくれた。感謝をしているよ…」
　院は、あがこの肩を抱き寄せつつ、そっと、あがこのくちびるに、チュッとばかり、おのが唇を押し付けられた。
「そなたがいてくれたからこそ、わが暮らしにも、華が咲いたようで…」
　院は、すでに、あがこの胸を触られていた。
　久しぶりのあがこの乳房…。
　乳房を揉むうちには、院にはすでに、股間のモノがムクムクと大きくなっていくのをお感じになっていた。
（実兼のやつも、こうしてあがこの胸を揉んだのであろうか…）
　実兼とあがこのまぐわいの場面（＝シーン）を思い描くたびに、股間のモノがビクン、ビックンと反応する。

「そなたがいない御所の生活など、考えられぬ」
　院はすでに、寝着の裾を掻き分けて、あがこの、すべすべとした内腿を撫でおられた。
「あがこ、出家をしたいなどと、そのようなことは決して言わないで欲しい…」

　院の指が、股間の淫毛をまさぐっている。
　二条あがこは、その院の手を払いのけたいと思っているのに。
　ただ、腰をもじもじとさせているだけだった。

　二条は悩んでいた。
　実兼となじんで行くうちに、朝になって実兼が去って行くときは、とても別れがつらくて。あと二、三日もすれば、また会いに来てくれると思っても…。
　実兼を送り出したあとも、なぜかさみしくて、ふたたび寝床にもどり、布団を掻き抱いて、涙を流す。
（実兼さまは、なぜ、ずっとわたしのそばにいてくださらないのだろうか…）

　二晩、三晩と、実兼さまのお訪れを待つ。
　しかし、なんという待つ身のつらさ。
（ああ、実兼さまは、今頃はきっと、顕子さまと仲良くなさっているのだわ…）

　しかし、実兼さまがお訪れになると、うれしくて、うれしくて…。
　待っていたときのつらさなど、吹っ飛んでしまう…。
　でも、長居をされると、今度は、実兼さまとのことが噂になり、その噂が広がり、御所さまのお耳に入りはしないかと心配になる。

　また、里に下がって、実兼さまと会っているときはよいが、実兼さまが来られないときには、顕子さまに嫉妬して、その嫉妬の炎（ほむら）は、御所さまのことを想うことでしか、かき消すことができない…。

　かといって、御所さまだけが想い人ではなくて。
　実兼さまのことも好きで。

　そして、実兼さまに嫉妬は感じても、御所さまに嫉妬を感じることはないだろう、と尋ねられても…、これにも返答に窮してしまう…。
　なぜなのだろうか、御所さまが、涼子という女の許にお通いになっているという噂を聞けば、胸が苦しくて…。
　
　あがこは、いっそのこと、尼になって、矛盾をし、同じところをぐるぐると、堂々巡りをしていく、この物思いの苦しさから解放されたいと思うのだった。

「あがこ、どうしたのだ？」
「……」
　御所さまの声がして、物思いから現実の世界に引き戻される。
　確かに、そうなのだ。濡れるはずがないではないか。
　こんなに迷い、苦しんでいるというのに…。まぐわい（セツクス）どころではないのだ。

「あがこ、どうしたのだ、われのことがいやなのか？」
　そうではないのだ。
　あがこにとって、実兼さまのことが好きなのだ。
　そして、その実兼さまのへの気持ちとは矛盾することなのだが、涼子の許へ通われる御所さまのことが許せないのだ。
「そなたは、われのことがきらいなのだ。そなたが好きなのは、実兼なのだ」
「……」
　あがこは悲しかった。
　涙があふれる。
　突っ張っていた気持ちが抜けてしまっていた。
　もう、どうでもいいと思いはじめていた。

　院の指は、しきりに、あがこの股間をまさぐっていた。
　しかし、股間は濡れない。

　院はしびれを切らしておられた。
　院は身を起こされて…。
　あがこを仰向けにされていた…。
　院のお顔のこわいこと。
　手をあがこの股間に入れられ、あがこの股ぐらを大きくお開きになる。
　院は、その開かれた股間に、顔をくっつけられて…。
　ぺろぺろと、舌全体を使って、あがこの淫裂を舐められる。
　淫裂の襞肉を舐め、淫壷の中のすべりを良くしておかなくては、ギンギンに硬くなったモノを、入れることはできない…。

　あがこの淫裂は、院の唾液で濡れていく。
　しかし、その唾液はすぐに乾いていくのだった。
　やはり、淫壷の中から湧き出でる淫液なくしては、硬く大きくなったモノは受け入れられない…。

　院は、あがこの股間から顔を上げられていた。
「あがこ、そなたは、そんなに実兼のことが好きなのか！」
「……」
「わかった。それなら、われにも覚悟がある」
「……」
「そなた、明日の晩は、われを�ﾄ子（やすこ）の部屋へ案内せよ」
「……」
「よいな。それがせめても、そなたのわれに対する忠誠のあかしじゃ、よいな！」

　二条は泣いていた。
　恋の手引きを命令されたのだ。
　くやしかった。
　自分の自尊心というものが、こなごなに打ち砕かれる。
　しかし、いやとは言えない。
　御所さまのご命令だもの…。

　目を瞑った、あがこの目の前に、楚々とした�ﾄ子の姿が思い描かれて…。
（本当に、�ﾄ子さまは、御所さまに口説かれて、からだをお開きになるのだろうか？）
　そんなことはあるまいと思われた。
　しかし、もしそうなったらどうしようかしら、とあがこは思った。
　そう思ったとき、あがこは、御所さまの顔を再び、股間に感じていた。
　御所さまの舌が、盛んに自分の股間の亀裂をいたぶっている。
「あっ、ああああっ・・・」
　舌先が、コリッとした陰核を責める。
「あっ、いや、いやぁっ！」
　股間をすり合わせようとするのに、しっかりと両手で股間を広がらされる。
　心は、御所さまを完全に拒否しているというのに…。
　御所さまの舌先が、玉門（膣）の奥深くに、めり込み…。
　そして、その舌先がうごめき、淫裂の奥から、湿り気を呼び起そうとしているのだ…。

　そして、御所さまの指先がからだの奥深くでうごめく…。
「ああっ、ああああ・・・、だめ、だめっ！」
　自分の意志とは別に、いじくられて、ジクジクと何やら淫液が滲み出ていくような…。

「あがこ・・・」
　いつのまにか、御所さまが、覆いかぶさってこられる。
「あがこ、愛しているのだ・・・」
　耳元が熱い。
　御所さまの息が耳にかかってくるのだ。
「あがこっ・・・」
「ああっ、だめっ！」
　熱いモノが股間に宛がわれるのがわかる。
「あっ、あん、ア〜ン！」
　ヌルっと、熱いモノが入ってくる…。
（あっ、あああ・・・）
　まるで、焼け爛れた火箸が入ってきたような…。

「あがこ・・」
「うーん、いやいやっ」
　御所さまが動く。
（アーン、そんなに動かないで・・）
「アッ、ダメ、ダメッ！」
　御所さまのモノが熱く、そして、そのモノが猛々しく、どんどん膨らんでくるのだ…。

「あがこ、たのむ」
「いやいや」
「たのむ、われの恋の手引きをして欲しい」
「だめ、だめっ」
（あっ、あああ、そんなに突かないで・・）

　御所さまは、あがこがにくかった。
　実兼に抱かれ、実兼の子を宿したあがこが…。
　だから、腰を使った。
　大腰を使い、激しく抜き差しをした。
「うーん、うーん、んんんっ、んっ・・・」
　あがこがうめく。
「ウッ、ウウウウッ」
　からだを反らしながら、あえぐ。

　にくい、にくい。それなのに、なぜ、あがこがかわいいのだろう。

　にくい、にくい。
　それなのに、もう、あがこをゆるしていた…、あがこがキューッとばかりに、締め付けてくるのだから…。
「あがこ、あがこ・・・」
「ウッ、ウッ、ウッ！」
「あがこ、恋の手引きをしておくれ！」
「ダメ、ダメッ、ダメ――ッ！」
　あがこが、腰を振り上げてくる…。
　いとおしい。

　と、あがこが、急に上半身をよじって…。
　そして、ピクピクッと胸の肉を震わせて…。
　目をひっくり返し、白目を剥きながら、ビクビクッと下肢をふるわせて、イってしまっていた…。
　あがこが、げんなりとしていた、まるで、からだからすべての気（精気）が抜け出たように…。
　院は、あがこのことが心配で。
　肩先をゆらしながら、耳元で囁かれる。
「あがこ、あがこ、だいじょうぶか？・・・」

「ぁぁぁぁ…」
　あがこはようやく気がついたようだ。
「ああ、御所さま・・・」
「どう、大丈夫なのか？」
「ぇぇ」
「で、気持ちよかった？」
「ぇぇっ・・」
「われは、まだなのだ・・・」
「えっ、どうして？」
「お酒が入っているから・・・。ねぇ、今度は一緒にイこぉっ！」
　あがこがにっこりと笑う。
（ああ、なんて可愛いおんななんだ、ちょっとこのおんなとは別れられないな）
　と、院には思われるのであった。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊