５６　浮気の止まない院

　例によって、二条あがこは、屏風を隔てて、宿直（とのい）をさせられてしまった。
　ゆっくり休みたい、と二条は思う。

　何も考えずに寝ていたい。
　でも、宮仕えの身、勝手に御所を退出することもできないのだ。
　ただ、実兼さまのことが想われた。
　そして、その次には、実兼さまとの間にできた子どものことが頭の中に浮かんできて…。
　その子は、女の子だった…。
　でも、実兼さまは、生まれてすぐに、その子をいずこにともなく、連れ去っていかれてしまった。
　今、その子はどうしているのだろう…。
　その子の幸せを念じているのだが、その子の顔の形や目鼻立ちのありようが、なかなか像として、頭の中で実を結ばないのだ。

　しかし、そのうちには、御所さまとのあいだにできた皇子のことも思い起こされてくる…。
　その皇子は、隆顕（たかあき）叔父にお世話になっていたのだが…。この秋、その皇子も亡くなってしまった…。
　その皇子の死は、実兼さまとの不倫の報い…。神様がわたしに罰をお与えになっているのかもしれない…。
　わたしは、出家をするか、それとも、首でもくくって・・・・・。

　と、二条はわれに気がつく。
　夜明けを告げる鐘の音が…。
　少しばかり、二条は、うたた寝をしていたらしい。
　斎宮さまが退出なさっていく。

　斎宮さまの目にうっすらと涙が見える。
　御所さまは、そっけない、あまりにも、と二条は思う。
　もっと、おいたわりなさってあげればよいのに。
　斎宮さまの、お悲しい様子は、はた目にも涙を催すというのに。
　御所さまは見送りもなさらず、斎宮さまは、明け行く鐘の音とともに、泣きながら帰っていかれた…。
（御所さまは、冷たい、むごい）
　と、二条は思うのだ。
　男の人は、ヤれば、それでもう終わりなのだ。
　女はちがう、女はちがうと二条は思うのだった…。

　お昼をすぎて、御所さまは目覚められた。
「ひどいことですわ」
「どうして？」
「もっと、斎宮さまに優しいお声をおかけになってあげられたら…」
「でも…。わたしは、わざとおおげさに演じるというような器用さは、持ち合わせていないからね」
「でも…」
「それより、そなた、少しは、焼き餅を焼いてくれたかい？」
「すみません、宿直（＝寝ずの番）は命じられていながら、うたたねをしてしまいましたから」
「ああ、そうだろうね。わたしがいくら嫉妬をして欲しいと思っても、そなたはいつも平気な顔をしているからね」
「・・・」
「焼くのは、いつもこちらなのだから・・・」
「・・・」
「今夜は、この屋敷を抜け出すつもりだよ。そなたもその方がいいだろう。宿直の務めから解放されて…」

『どちらへ？』
　と思わず、二条は聞きそうになって。
　でも、口を「へ」の字に結び、言葉を飲み込む。
　わかっているのだ、行き先は。
　涼子という女のところなのだ。
　腹立たしい。
　しかし、これは、嫉妬ではないと思う。
　だって、御所さまはいつも言われるから、『そなたがわたしに対して焼き餅を焼くのを、わたしは今まで一度も見たことがないのだよ』と。

　いっそ、この御所から立ち去ってしまいたい…。
　いやなことばかり…。
　でも、父も母もいないのだ、叔父である隆顕大納言にばかり頼れない。
　御所に出仕をしていれば、食べることには困らない。
　御所さまも、時々、『あがこ、欲しいものがあったら、遠慮なくわたしに言うのだよ』と、気を使ってくださるのだ。

　御所さまは、何か、そわそわしておられる。
　そして、何やら、文を書いておられる様子。
　たぶん、それは涼子に遣（つか）わされる文にちがいない。
　その文は、見せてもらえない。
　二条はいらだっていた…。

　御所さまは、自分の気持ちをつかみかねておられた。
（最も好きなのは、あがこなのに。それなのに、われはまた、涼子の屋敷に行こうとしている…）
　わざわざ御所を出なくても、あがこを抱けばよいのに。
　でも、あがこには遠慮がある。
　本当に、あがこを正妃にできるなら…。
　もう、それはできないかもしれない、いや、できるはずもない。
　あがこの父親は亡くなってしまったのだ。もう少し長生きをしておれば、左大臣には、成っていたであろうに。
『天皇たるものは、大臣以上の父親を持つ娘でなければ、正妃にすることができない』
　なんて、そんなことは誰が決めたのだろう。
　そんな決め事など無視して、なんでわれは、あがこを正妃にできないのだろう？。
　あがこを正妃にできるなら、あがこにもっと無理難題を言うことができるのに。
　これでも、あがこには遠慮があるのだ。

　もっとも、少し、刺激がないのだ、あがこでは。
　もう、だいぶ、あがこのからだには慣れた。
　どこを愛撫すればあがこが喜ぶか、だいたいわかってしまった…。
　心ではあがこのことを想っている。
　でも、股間のアレは、いつもいつもは、あがこを求めていないのだ。
　時には、もっと、ほかの入れモノを求めている…。
（ああ、われは、自分がいやになるほど好色な人間であることよ……）

　このところ、涼子に会っていない。だから涼子に会いたい。
　あがこは御所に出仕してくる。あがこの姿は見ようとすればいつでも見られる。
　御所さまは、涼子からの文を、首を長くして、待っておられた。
　夕刻になって、涼子から返事があった。
　御所さまは、ついに涼子に会いに行くことを決断されていた。
（ひょっとしたら、あがこは、局で、実兼と会うかもしれない。それでもいい。とにかく、涼子に会いたい…）
　
　あがこに姿を見られないようにして、こっそりと牛車に乗り込まれる。
　そして、御所さまは、涼子の屋敷へと向かわれた。

　涼子が出迎えてくれる。
　が、機嫌はよくなさそうだ。
　文には、『お待ちしております』とは、したためてあったのに…。
「どうしたのだ？」
「・・・」
「機嫌がわるそうだね。白髪頭の年寄りや薄禿頭の年寄りたちと、今夜会う約束でもあったのか？」
「いいえ、別に・・」
「では、何か？」
「気まぐれなのです、御所さまは・・」
「そうか、われは気まぐれなのか！」
「ええ、御所さまは気まぐれですわ。もっと頻繁に、文をお寄越しくださってもよろしいか、と・・・」
「うん？」

　御所さまは不審そうな顔をなさっている。
（そんなにわれのことを待っていたなんて？。そんなに涼子は暮らしに困っているのだろうか？。そんなに困っている風には見えないのに…）
　いずれにしても、涼子は、われのことを待ってはくれていたらしい。
　御所さまは、ちょっとうれしくなって…。

　涼子とって、男は、わたしだけではないはずだ。
　でも、涼子はわたしをも求めているのだろう、それは涼子が好色だから。
　そういうことがわたしにはわかるのだ。たぶん、それはわたしも、涼子に負けず劣らず好色だからであろう。
　似たもの同志なのだ。
　
　白髪頭の年寄りたちへの嫉妬は確かにあった。それに、そんな男たちに平気な顔をして身を許す涼子がにくかった。しかし、それ以上に、好色な涼子に親密感を感じられるのだ、今は。
　だから、御所さまは、涼子に優しい言葉をかけておられた。
「わたしは、こう見えて、そなたに会いたいと思っていたのだが。そなたはわれに会いたいなどちっとも想っていない、と思っていたのに・・」
「御所さま・・・」
　涼子が顔を伏せる、頬を赤らめながら…。
　ちょっと、いじらしい、御所さまにすれば…。
「今日は、そなたに会いたくて、急いでやって来てしまったよ。でも、今度来るときは、そなたによく似合いそうな織物（絹などの糸で織ってつくった布地）を持ってきてあげようね」
「・・・」

　部屋に入ると、香が焚きこまれていた。
　とてもいい匂いがした。
　涼子の小袿（こ・うちぎ）姿が、よく似合っていた。
　酒の用意がしてあった。
　しかし、もう御所さまには、一刻も待てないというように、小袿（＝うちかけ）の着物を脱がせにかかっておられる。
　そして、単（ひとえ）を肩口から取られて。涼子が恥ずかしそうにするのに、御所さまには荒々しく、五つ衣（いつつぎぬ）も剥ぎ取ってしまわれていた…。
　顔を寄せ、涼子の口を吸いつつ、小袖の併せから、右手を入れられて、むにゅむにゅと、涼子の乳房をお揉みになる。
　飢えた狼のような、御所さまの口吸い。
「うっ、うううっ」
　と涼子が呻く。

　御所さまは、腹のあたりで結ばれていた、袴の紐をお解きになって、おっぱいを吸いつつ、足でもって、袴を脱がしにかかられる。
　袴の下には、それこそ、申し訳程度の小さい下衣（＝パンティの布）が。
　乳首をお吸いになりつつ、下衣の中に指を差し入れられる。
　草叢が奇妙に熱い。熱でもあるように。
　ひょっとして、涼子は風邪でも引いているのであろうか。
　心配になって、手を上に持っていき、涼子の額の上に置かれる。
「そなた、風邪でも引いたのか？」
「いいえ」
「そうか」
　そういえば、額に熱はない。
　御所さまは、ふたたび、手を涼子の股間へ持っていかれる。
　こってりとした土手を撫で、さらさらとした恥毛の上で五つの指を遊ばされ…。
　乳首を口の中に含むうちには、何やら、涼子の胸の谷間から、いい匂いが…。
　何であろうか？。
　何か、香りのもとになるような木の葉の汁でも、胸に塗り込んでいるのであろうか。
　いや、それは、そんな外から持ち込んだものではないような気がする。涼子のからだの中から染み出た匂いのようだ。
　御所さまは、胸の谷間に顔をくっつけながら、クンクンと涼子の匂いを嗅がれる。それはまさしく、甘酸っぱい、雌の匂い（フェロモン）であった。
　御所さまは、自らの唇を、涼子の胸から、下腹部へと這わせられて。
　そして、草叢へ顔をべっとりとくっつけられる。
　涼子の匂いが、とても芳しい。
　きっと、このような雌の匂いというものが、男どもを引き寄せるのであろう。
　それは、まるで美しい花が、その雌蕊（めしべ）の匂いで、蜂たちを引き寄せるように。

　御所さまは、草叢に顔を押し付けるだけでは満足なさらなかった。
　素っ裸になった、涼子の股間に顔をつけ、涼子の亀裂に向かって、くちびるを這わせられる。
　御所さまは、舌先で、草叢を左右に分けられる。すると、やや、亀裂の溝がその形を露（あら）わにする。

　御所さまは、門構え（＝小陰唇）を舌先でなぞられる。
　涼子が腰を引く。
　しかたがない、逃がさぬように引き戻す。
　涼子がいやがっても、しっかりと腰を固定させ、亀裂の奥を舐めたいのだから。
　膝を曲げさせ、立ち膝にさせながら、大きく股ぐらを開かせる。
　そして、上へ上へと逃がさぬように、足の付け根付近の太ももの上に手をやり、しっかりと抱え込まれる。これなら、涼子は逃れようがないであろう。
　御所さまは、門構え（＝小陰唇）から、舌を陰淵（＝膣前庭）へと這わせられる。
「あっ、ああああ」
　涼子が腰をくねらす。
　しかし、太ももに置いた御所さまの手に力が入り、涼子は逃げられないのだ。
　陰淵（＝膣前庭）に御所さまが吸い付かれると、陰淵（＝膣前庭）からは滾々と湧き水が…。
　御所さまは、口をすぼめて、その湧き水をお吸いになる。
「イヤッ、いやっ、いやーん！」
　涼子が、淫口への口吸い（＝クンニリングス）をいやがって、股をすぼめようとする。
　御所さまは、立ち膝の内側から回しながら太ももの上に掛けていた手を解かれる。そして、今度はおのが両手を涼子の両方の内腿に押し当てて、しっかりと涼子の股座を開こうとなさる。
　でも、涼子の股の締め付けが強くて…。
「涼子、頼むから、あまり締め付けないでおくれ」
　と、上に向かって、御所さまは声を掛けられる。
「でも、あまりに・・・」
「われは、涼子の甘い蜜が吸いたいのだから、ちょっと、力を抜いて、股を開いておいておくれよ」
　実際、御所さまには、涼子の甘い淫液を吸いたいから、こうしてわざわざ御所を抜け出してまで、ここに来られたのだから…。

　涼子は、それでも、素直だった。
　涼子は、股の力を少し抜いてくれたようだ。
　それで御所さまは、手を涼子の内腿の下にくぐらせ、両足の付け根のところに手を掛け、涼子の両腿をおのが肩に抱えるようにしながら、涼子の股間を自分の顔の方に引き寄せられる。
　涼子の股間が光っている。
　涼子の陰淵（＝膣前庭）に、淫水がこんこんと湧き出ているのだ。
　口から舌を出して、そして、その舌先で、甘い透明な淫水を、御所さまは、掬い取るようにお飲みになる。
　が、それだけならまだしも、いたずらっぽく膣前庭や膣口に、ざらりと舌を這わされるものだから、涼子は腰を揺らしながら身悶えするのだ。

　男とは、まさに変わっている、いや、残酷なものである。
　涼子が身もだえすればするほど、股間のモノがギンギンに張り詰め、長石（ながいし）のように硬くなったものを突っ込んで、女をさらにいじめてみたくなるのである。

　御所さまは、かなり、泉の奥から湧き出づる淫液をお吸いになったはずである。
　それでも、まだ飽き足らず、舌先を丸めて膣口へ差し入れ、さらなる淫水を導き出そうとしておられるのであった。
　が、涼子にも限界があるのだろうか。
　思ったほどには、出なくて。
　それで、亀裂（淫裂）から、オサネ（陰核）へと舌先を移動された。
　陰核を舌先でもてあそびつつ、中指を膣口へ差し入れ、淫水を掻き出そうと。

　陰核をくちびるでしゃぶられる。そして、中指でクニュクニュと淫壷の中を掻き回される。
　と、再び、豊かな淫水が湧き出でてきて…。

　玉門（膣口）あふれた淫水は、膣と肛門のあいだにある、蟻の門渡りにまで垂れ落ちていた。
　そして、御所さまには、その蟻の門渡り（＝会陰縫線）にまで、舌を這わせ、上から垂れ落ちてくる淫水をお吸いになる。その淫水はとてもおいしく、ますます涼子の雌の匂いがむんむんと立ち込めてくる。
　そして、御所さまの魔羅の鈴口からも、あふれるばかりの淫水が…。

「ああっ、御所さま・・」
　上から、涼子の呼ぶ声がする。
　御所さまは、身を起こされて…。
「涼子、どうしたのだ？」
「・・・」
「涼子、欲しいのか？」
「・・・」
　涼子は何も言わなかった。
　しかし、恥ずかしそうに、目を閉じた。
　涼子は待っているにちがいないと、御所さまは思われた。
　いや、もう、御所さま自身が待てないのであった。
　股間のモノがその先っぽより、涎（よだれ）を垂れ流しているのだから…。

　御所さまは、上体を涼子にあずけていかれる。
「涼子、もうわれは我慢できないのだよ」
「いいの、いいのよ」
　涼子は下から手を伸ばしてくる。そして、御所さまの肩へその手を…。
　御所さまは、上体をかがめ、乳首を舐めつつ、股間のモノに手を添えて。
　あたりをつけつつ、涼子の股間へ。
　亀頭部が濡れる。
　涼子のあそこは、もう、ヌレヌレの状態になっているみたいであった。
　玉門口に亀頭部を宛がい、ゆっくりと腰を押し付けていく…。
　雁首まで入って…。
「あっん、んっんんっ・・」
　が、御所さまはそこで腰を止められる。
「はぁ、う〜ん」
　涼子が腰をよじる。
　しかし、御所さまは腰を浮かし、もうそれ以上は押し進めにならない。

　涼子のあそこが、ヒクヒクと、うごめいている。
　御所さまのモノをもっと奥に咥え込みたいのだろう…。
「はぁっ、はぁっ」
　と、涼子が手を伸ばし、御所さまの腰をつかみ取ろうとする。
　御所さまの腰を引きつけ、そして、自分のお尻を持ち上げて…。
　すると、ずぶズブと御所さまの魔羅が奥まで入る。
「あっ、うううーーーっ、いっいぃーっ！」

　涼子の中がとても熱い。
　そして、涼子の襞肉が、肉棒にからみついてくる。
　とても気持ちがいい。
　御所さまは、上体を涼子にあずけたままで。
　動かなくても、気持ちがいいのだ…。
　何しろ、魔羅（ペニス）がムニュムニュと蜜壷の襞肉によって、つままれているのだから。

　でも、御所さまは欲張りなのだ、動けば、もっと気持ちがよくなると思われて。
　ゆっくりと、腰を上下動される。
「あっ、あっん、ああああっ、アッンっ」
　動くたびに、涼子が額に皺を寄せて、うめき声を発するのだ。
　たぶん、それは、気持ちがよくてのものだと思う。
　だから、御所さまは、動きを続けられる。
　腰を引き上げると、蜜壷の襞肉も、魔羅に絡みながら、伸びるように食いついてくる。
　腰を降ろすと、蜜壷の襞肉は、魔羅にまとわりついて、魔羅の茎を締め付けてくるのだ。
　御所さまは、もう無心の境地になって、腰を上下に小刻みに動かしておられる。
　と、そのうち、腰の後ろあたりが痺れてきて。
　もう、頭の中は真っ白で何も考えられない。

「あああ、だめっ、ダメェ、来て、来て、来てェーーッ！」
　そんな涼子の声がしたとき、御所さまは、もう我慢の限界を超えられていた。
　キュ―ッとばかり蜜壷の肉襞が魔羅を締め付けてくる。
　御所さまは、抜くこともできず、堪らず、腰を深く打ちつけられ、
「あああっ、そんなぁ」
　と呻かれる。が、その瞬間、ドクッ、ドクッ、ドクッとばかり、熱いモノを涼子の奥深くに打ち放たれていたのであった…。

　御所さまは、射精のあとも、涼子の上体にしがみついておられた、なにしろ、とても気持ちのいい放出感であったので。
　そして、涼子の肉襞はまだ、小さいながらも収縮を繰り返していた。

　御所さまの股間のモノは小さくなりつつある。
　御所さまは、涼子のからだの上から降りようとされた。
　しかし、魔羅は、やわらかくなっているというのに、涼子の肉壷は、いまだに魔羅にまとわりつき、ムニュムニュと蠢いて、手離そうとしないのであった…。
　が、御所さまは、重いだろうと思って、涼子の上からお降りになる。
　と、その拍子に、ヌルリとばかり魔羅が抜けて。
「いやっ」
　涼子がしがみついてくる。
　そんな涼子を御所さまは、かわいいとお思いになる。
　御所さまは、横向きになりつつ、涼子を横抱えになさる。
　背中を撫でておやりになる。冬だというのに、涼子の背中は汗ばんでいた。
　汗を掻くほどに夢中になってくれたなんて、御所さまはうれしくなって、ゆっくりと手の平で背中を撫でておられる。
　すると、涼子が口吸いを求めてきた。
　口を吸ってやると、また、涼子から雌の匂いがしてきて…。
　再び、涼子の上にのしかかっていきたいほどに胸が疼き、股間のモノがむっくりと首をもたげる。

　涼子は、年寄りたちのほか、中年であるわたしにも抱かれたいのかもしれない。
　わたしにはわかるのだ、人のまぐわい（セックス）に対する欲望には、果てがないものだということが。
　わたしとて、あがこという恋しい女がいるのに、こうして男好きのする、肉感的な涼子のからだを抱いている。
　わたしという男は、一人の女だけでは、満足できないらしい。
　涼子という女だって、一人の男だけでは、満足できない性質（たち）かもしれない…。

　あがこはどうなのだろうか？。
　あがことて、わたし一人だけでは満足できないのかもしれない…。
　あがこは、実兼のやつが好きなのだ。だったら、実兼に抱かれることを許してやってもいいのではないか。
　わたしだって、こうして涼子を抱き、とってもいい気持ちになったのだから…。
　あがこだって、実兼に抱かれ、気持ちよくなってもいいではないか…。

　師走である。
　しかし、時が過ぎ、すでに晦日（みそか）になっていた。
　御所さまは、二条あがこと部屋におられて…。
　御所さまは、あがことふたりで過ごす時間にやすらぎを覚えておられた。

　あがこは、歌が好きだなぁ、と御所さまは時々、そう思っておられる。
　歌を詠むあがこは、わたしは好きだなぁ、と思っておられるのだ。
　もっとも、あがこが歌本を読んでいるそばで、よく自分はうたた寝をしてしまうが…。どうも、いい女だと、前の晩は張り切ってしまうせいであろうか…。

　ともかく、あがこときたら、おんなのくせに（あららっ、これは完全に、ジェンダー・ハラスメントだよね・・・）、『西行の修行の記』などという書物が好きみたいで。ったく、今は亡き西行法師にさえ、わたしは嫉妬を感じしまうほどなのだ……。

　しかし、時として、御所さまの、好色の心は、あがこのからだにはなく…。

　二条が思うに、御所さまには、今宵はどうも、寝所に東の御方（後の玄輝門院、伏見院の母）をお招きになりたい様子で…。
　二条は、夜の食事が済んで、御所さまに、自ら告げる、
「少し、おなかが痛いのです。下がって休ませていただきます」
　と。
「ああ、そうなのか」
　御所さまは、たったそれだけしかおっしゃられなくて…。
　引きとめてもくださらない。
　さびしい…。
（御所さまは、なぜ、わたしを正妃にしてくださらないのだろう…）

　局（つぼね）に退出したところ、なんと、
「だいぶ夜も更けてきましたね」
　と、声をかけてくる人がいるではないか。
　その人は局の上手（かみて）の戸口に立っていて。
　その立ち姿をよくよく見ると、まがうことなく、その方は実兼さま・・・。

　胸がどきどきしてしまう…。
　でも、ここは、御所の中…。
　世間はどんなうわさをすることやら。
　二条はどうしたものかと迷っている。
「ずっとお会いできなくて・・」
　実兼さまに見つめられる…。
　その目は真剣で、偽りなどなさそう…。
「・・・・」
「一目お会いしたいと、ここでお待ち申し上げていたのです」
「えっ！」
　二条はともかく、人に見られないようにと、実兼さまの手を取り、こっそり、局に、実兼さまを導いていた。
「会いたかった・・」
　実兼さまが、じっと見つめられる…。
　その目にはうっすらと涙さえ・・
「実兼さま・・」
　二条がつぶやく。
「雅子さま・・」
　その時には、もう実兼さまの顔が迫ってきていて。
　二条は、抱きすくめられていた。
　と、激しく唇を吸われていた。
（まがうことなく、実兼さまの匂いだわ・・・）
　頭の中がジーンと痺れる。
（甘いわ）
　実際、実兼さまの口吸いは甘いのだ。
　きっと、実兼さまが本当にわたしを好いていてくださるからなのであろう、と二条は思うのだった…。
　実兼さまの口吸いが続き、そして、腰を引き寄せられる。
（ああっ、実兼さま・・・）
　二条は、もう、噂をされてもどうでもいいとさえ思えてきた…。
（つづく）
（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
日本の古典１３「とはずがたり」　　いがらしゆみこ　著　　中央公論社　刊