７　閑話休題−鳴門の中将（２）

　後嵯峨院は迷っておられる。
　指が倫子（りんし）の恥骨の辺りで止まってしまっていた。
（もし濡れていなかったら、われの恥になる…）
　院は眉を曇らせておられる。しかし、院は、唇を噛み締められ、もう少し努力をしてみようと思い直された。

　後嵯峨院は、倫子のおなかの下に置かれた手よりも、倫子の胸につけた唇に、おのが神経を戻そうとなされた。
　院は、倫子の草叢にさわりかけられておられた手を、倫子の胸の上に戻されていく。
　院は、倫子の乳房を手で揉みながら、おのが顔を倫子の乳房にくっつけられ、乳首を、おのが唇でもってお攻めになる。
　唇を少し開け、舌を出して、その舌先でもって、チロチロと倫子の乳首の先端を舐められる。そして、両の唇で乳首をしっかりと挟みつつ、乳首全体をチューチューと吸われる。
　そして唇でさらにきつく乳首を挟みつけられ、乳首を乳房の肉ごと上へ引っ張り上げられる。そして、パッと離される。
　倫子の乳房には弾力がある。
　院は、乳房の裾の肉を手でしっかりとつまみ上げられ、乳首をより先鋭に立たされる。
　そこで、院には、乳首のみならず、手で持ち上げられた乳房の先端部の肉ごと、おのが口の中に入れ込まれ、チュパー、チュパーと大きな音を立てながら、お吸い上げになられるのだった。
　そして、そのような荒治療をしても、なお声を上げぬ倫子がにくくなられて、院には、とうとう乳首の根っこに、軽く歯を当てられる。
（ハァッ、グー、イヤイヤッ、ハァ、グゥ―――ッ）
　倫子は、今にも声を出しそうになる。がしかし、健気にも、しっかりと声を噛み殺しているのだった。
　院は、乳首を咬んでも、倫子が何も呻かないので、本当にお怒りになる。そして、カリカリッ、コリコリッと乳首の根元を、歯で……、相手が痛いと悲鳴を上げるであろうほどに…。
　それでも、倫子は声を上げなかった。
　しかし、瞑っている倫子の目の裏には、あまりの痛さと快さに、涙がにじんでいるのであった……。

　院にすれば、こうしてわざわざ御所にやって来てくれたのに、何の肉体の喜びも感じることなく帰ってもらうのは、何ともしのびがたいことであった。
　院は、今度は、一転して優しくゆっくりと倫子の乳首をおのが唇で愛撫しながら、考えておられる。
　確かに、倫子にとって、われとははじめての媾合（まぐわい）ではある。
　夫婦のように長い歴史があるわけではない。
　いきなり心を開け、力を抜いてからだをゆったりとさせよ、といっても、それは無理であろう。
　されど、われは倫子が気に入り、こうして懸命に愛撫をしているのだ、少しくらいは、仮に演技でもよいから、よがり声のひとつでも聞かせてくれてもよさそうなものではないか、と……。

　院は、乳房をやわやわと揉みながら、倫子にお尋ねになる。
「倫子、そなたは何も言ってくれないのだね。われに抱かれるのがそんなにいやなのか？」
「……」
　倫子には答えようがない。
　しかし、ともかく、倫子にしてみれば、着替えを手伝ってくれた女官たちが衝立の向こうに控えているような気がして落ち着かないのであった。

　すると、また、院が耳元で囁かれるのであった。
　倫子にすれば、くすぐったくて、とても気持ちがいい。
「確かに、われの愛撫など、そなたの夫に比べれば大したことはないであろうよ。それに夫婦というものは、心のつながりという長い歴史があって、われなど、そなたたち夫婦の間には、とてものこと入ることはできぬ。しかし、せめて、からだだけは開いてくれてもよいではないか。われは、そなたのからだを喜ばせたいのだよ。だから、もそっと、肩の力を抜いて、ゆったりとした気持ちになってはくれまいか？」
「……」
　倫子は黙っている。
　勝手なことを申されている、という気がしている。
　しかし、実際、何と答えてよいかわからないのだ。
　もし何かを言えとおっしゃるなら、衝立の向こうにいる女官たちに、この部屋から出て行ってもらいたい、ということなのだ。
　そして、院には早くに終わってもらい、早く屋敷に戻りたい、と叫びたかった。

　院は倫子が何も答えてくれないので、仕様がなく、あまり心も入らず、乳房を揉みしだいておられる。
　乳房を揉むのも、少し退屈になられた。
　一か八か、院には、倫子の玉門の湿り具合を確かめようとなされた。
　たぶん、濡れてはいないだろうと思われた。
　濡れていないのに、指を突っ込んでは、倫子が痛いだろうと、院には思（おぼ）し召しになられた。
　院は、おのが人差し指を口に入れられた。
　ぐちゅぐちゅと、おのが唾液をしっかりと指先に塗りつけられた。
　その濡れた指先を、倫子の股間にやり、玉門の入り口（膣口）に差し込まれる。
『グニュ！』
「あっ！」
　院は驚きの声を上げられた。
　倫子の玉門（膣）の中は、濡れていたのだ！
　院は、まるで子どものように、お喜びになられた。
「倫子、そなた！」
　倫子は恥ずかしかった。
　自分が濡れていることを、上皇さまに知られてしまったのだ。
　それに、衝立の向こうで聞き耳を立てているだろう女官たちにも、自分のからだが男のモノを受け入れようと濡れそぼってしまっていることを悟られたと思うと、顔から火が吹き出るほどに恥ずかしかった。

　ふと、院は顔を挙げられて。
　倫子の顔が見える。
　倫子の眉と眉のあいだの額には、皺が刻まれている。
　倫子の睫毛（まつげ）も濡れていた。
（何か、悲しいことがあるのだろうか？）
　院には、倫子の涙の意味が皆目、わからないのだ。

　倫子のくちびるが、わなわなとふるえている。
　その半開きのくちびるが何ともかわいらしい。
　倫子への同情が吹き飛ぶ。とにかく倫子のくちびるを吸いたかった。
　院には、背を上に伸ばされ、倫子の可愛らしいくちびるを被さるようにしてお奪いになる。そして、倫子の後ろの首を抱え上げるようにして、深く激しく倫子のくちびるをお吸いになった。

　そして、くちびるをはずしして、院は、おのが上体をしっかりと倫子の胸にあずけながら、倫子の耳元で囁かれる。
「ああ、倫子（りんし）、そなたは、濡れてくれたのだね。われを受け入れてもよいと思ってくれたのだね。ありがとう、ありがとう……」
「……」
　倫子は黙っている。
「うれしいよ、うれしいよ」
　倫子は、情けなかった。心では許していないのだ、院を。
　しかし、院の愛撫に、からだは反応してしまっていた。
　倫子は、夫とのまぐわい（交接）においても、乳房をきつく揉まれ、乳首をまるで咬むように強く吸われると、からだの奥からジューッと音がするほど、淫液が湧き出てくるのだった。
　しかし、今、からだの上にのっかっているのは、夫ではない。
　しかも好きな男でもない。
　それなのに、それなのに、力強く乳房を揉まれ、強く乳首を吸われると、自然と濡れてしまうのだ。

　情けないことだが、玉門の筒（膣）が濡れてしまったということで、院に変な勇気を与えてしまったらしい。
　倫子（りんし）は、夫に口を吸われるのは、さほど好きではない。くちびるより、乳首を吸ってもらうのがいい。
　しかし、今、院には、しきりにくちびるを吸われてしまうのだ、いやなのに。
（あああっ、いやいや、そんなに吸っちゃ。なぜ、そんなに舌までお吸いになるの？）
　倫子は、抗議をしたいのだ、院に。
『そんなにくちびるをお吸いにならないで！』
と。
　しかし、恐れ多くも相手は、上皇さまなのだ、そんなことを言葉に出して訴えるなんてことができるわけがない。
　それに、姿は見えないものの、衝立の向こうで聞き耳を立てているであろう女官たちに、何と思われるだろうか。
　たぶん、女官たちからは、『上皇さまに向かって、そのようなわがままを申してはなりませぬ。上皇さまのためなら、たとえ火の中、水の中。くちびるや舌を吸われるぐらい、じっと我慢をしなさい！』とおしかりを受けるのが落ちであろう。

　院は、倫子が、たとえば、『上皇さま、そのようなこと、おやめになって』とか、逆らって来ないので、調子に乗っておられた。
　その証拠に、院には、くちびるを強く吸い上げながら、手を下へ下へと伸ばして行かれるのだった。
　そして、図々しくも、指を倫子の草叢におからめになって。

　上では、舌を吸われている。
　倫子は、いやで、いやで、頭の中が朦朧として来るのだ。
（あっ――！）
　倫子は、股間に痺れが走るのを感じる。
　院に、お○ね（陰核）を弄（いじ）くられているのだ。
　でもよかった。くちびるを塞がれているせいで、声は漏れなかった。

（はぁ〜、はぁ、はぁ、はぁっう〜ん）
　声は漏れないが、しきりに吸われている口からは切ない息が、かすかながら漏れてしまう…。
　倫子は、夫とのまぐわい（性交）においても、前戯（挿入前の愛撫行為）では、乳首を吸われたり、お○ね（陰核）をいじくられると、とても気持ちよくなってしまうのだった。
　不思議なことだ。
　相手は、夫でもない。
　それなのに、オ○ネをコキコキ、クリッ、クリッと揉まれているうちに、何やらとっても気持ちがよくなる。
　口を塞がれているのに、うめき声が出そうで。そして、自然に腰がむずむずと動いてしまう……。

（ハァ、ウッ、うっうううっ、………）
　倫子は、ついに玉門の中に、指を差し入れられた、と思った。
「ぐにゅ、ぐにゅ」
　倫子は、みだらな音が自分の耳に届くような気がした。
　しかし、中をいじくられると、相手は夫でもないのに、とても気持ちがよくって、そんな気持ちよさを感じてしまうのが情けなくて、涙をにじませている。
　まだ、院には、くちびるを吸われている。
『あなた、ゆるして！』
　倫子（りんし）は、涙を流している。
　夫に詫（わ）びているのだ。
　うちでは、夫が眠られぬ夜を過ごしているであろうに…。

　すると、倫子の閉じている目から、涙があふれてきて…。
　口吸いをしておられる院の頬が、その倫子の涙で濡れる。
　院は、倫子のくちびるから、おのが唇をはずされて、
「倫子（りんし）、そなた、泣いておるのか？。そんなにイイのか？」
　とおたずねになる。
「ぅん？」
　倫子は、薄く目を開けて、院の顔を見、小首をかしげている。
「随喜の涙とか、申すではないか？」
「ゥンっ？」
　倫子は、院が何を言っておられるのか、わからない。
　しかし、院は、いかにもうれしそうな顔をしておられた。
　倫子は、その院の顔を見て、少し心がなごむ。
「ああ、倫子は、泣いているのだね。そんなに涙が出るほど、いい気持ちになってくれたのだね。われはとてもうれしいよ」
「……」
　倫子は黙っている。何と答えてよいものか見当がつかないのだ。
　倫子は、涙を見られるのがいやで、顔をそむけようとした。
　しかし、調子に乗っておられる院は、また、倫子のくちびるをお奪いになる。そして、うれしそうに、また、チュウチュウと倫子のくちびるをお吸いになった。
　手はさらに下の方に伸ばして、ぐにゅぐにゅと、倫子の玉門を弄（いじく）っておられた。

（あっ、あああっ）
　倫子は、心の中で叫ぶ。自分の内腿に、何やら、コツコツとこん棒のようなものが当たるのを感じたからだ。
　そのこん棒は、とても固くなっていた。まるで木の擂り粉木（すりこぎ）のようであった。
　夫のまぐわい（性行為）のときにも、そんなことがある。しかし、そのこん棒の固さは、夫との、そのときよりも、もっと固そうな気がした。

「倫子（りんし）、倫子（りんし）！」
　耳元で、倫子は、見覚えのあるような声を聞いた。
　夫の声のような…。
　倫子は、内腿が濡れるのを感じる。
　何だろうと思う。
　固いこん棒の先っぽから、おのこの淫液が出ているらしい。
　夫も、かつてわたしの許に通いはじめた頃は、こんなにも陰茎（お○んちん）の先から淫液を漏らし、わたしの内腿をしとどに（たくさん）、ぬらしたものであった…。
　倫子は、なつかしい夫が帰ってきたような気がした。

「倫子、倫子、もう、われは……」
　切なそうな声が、耳元を刺激する。
　かつて、夫も、そんな、たまらないような声を発しながら、わたしのからだの中に入り込んできたものだった……。

（ああっ、あなた、いいのよ、いいのよ、入ってきても……）
　倫子は、声を発しない。
　しかし、もじもじと下半身を動かしていた。
　それは、まるで、夫に、股間の中に入ることを促すような動きであった。

　院には、もう頭の中が、熱でふやけてきているように思われた。
　頭の中は、ただもう、倫子の中に、熱く滾った股間のモノを差し入れたいという欲望のみが猛り狂っている。
　院には、身を起こされた。そして、倫子の足を左右に、大きく開かせになった。その開いたところに、院は、おのが下肢を入れられる。
　院は、倫子の足を膝のところで、少し、曲げさせになった。
　そして、倫子のお尻の下に、敷物を、お宛てになる。
　倫子の草叢が上を向いた。
　それに、倫子の玉門の口だけでなく、その下の洞穴まで見える。
　院には、その光景をとても気に入られた。
　身を起こしたままで手を草叢に宛がわれて。そして、草叢の上にあるお○ネを、親指の腹で、コリコリッ、クニュクニュとお揉みになる。そして、中指を折り曲げるようにして、玉門に差し入れられる。
「グチュ！」
　玉門は、しとどに濡れそぼっていた。
　院は、とてもうれしそうであった。
　まるで、少年のようにキラキラと輝いた顔をしておられた。
「倫子（りんし）、もう、われは我慢ができぬ。入るぞ！。入らせてたもれ！」
　院には、倫子の両膝を立てさせながら、倫子の股間をお広げになり…。
　天に聳（そび）え、淫液（よだれ）を垂れさせている大陰茎（おお○ら）に、指を添えられて…。
　やや、腰を浮かしつつ、腰を前に進めて…。
　ググッとばかり、腰を入れ込みなさると、
「ズボッ、ズボッ！」
　と、雁（かり）首が、玉門に嵌って行き、
（あっ、あああああ・・・）
　と、倫子が声にならぬ声を発するうちに、その院の大陰茎が、玉門の中にめり込んでいく…。

　倫子は、目に涙をにじませていた。
　固いこん棒が、あたかもメリッメリッと音を立てるかのような勢いで、襞肉を押し分けるように入ってきて、痛いというより強烈な圧迫する刺激に、頭の中が痺れてしまったのだ。
　
　院が、おのが上半身を、倫子の胸の上に重ねてこられる。
「倫子、ようやくひとつになれたね」
「……」
　倫子は答えられない。下半身が突き上げられ、圧迫されているようで。苦しくて、むずがゆくて、気持ちよくて。
「われは気持ちがいいのに、そなたはどうなのだ？」
「……」
「気持ちがよくないのかい？。それでは、もう少し、われもがんばってみようぞ」
　院は、腰を浮かされる。
　浅く、ちょん、ちょん、ちょんと。そして、深く、ズボ――ッと。
　倫子はうめき声をあげそうになる。
「ちょん、ちょん、ちょん、ズボ――ッ」
　という動作を、院は繰り返しになる。
　院には、後宮の女たちとのまぐわい（性の接合）によって、三浅一深の法を会得されているのであろうか。
　院が浅く玉門の襞肉を太い雁首で攻められると、倫子は秘裂の肉をこすられ、気持ちよくて声を上げそうになる。
　しかし、院が深く腰を沈められると、大陰茎の亀に似た頭が奥の院（子宮口）を圧迫して、声を出せないほどに苦しくて、しかも気持ちがイイ。
　倫子は、両手を寝具の上に置いていたが、その布地をぐっと、握り締めていた。

　院は、倫子が苦しそうに顔をゆがめているのを、知っておられた。
　しかし、院には、もっと倫子を苦しめてみたいと、思し召しになった。
　院は、倫子の胸から、体を起こされた。
　そして、おのが体をさらに、倫子の足元の方へ反らされた。
　倫子の膝の下あたりに、院はおのが手を当てられて、倫子のお尻を少し上の方に持ち上げられる。
　院は、おのが腰を下から上に突き上げるようにしながら、倫子の玉門の天井を、固い鉄兜のような亀の頭で、お掻きになった。
（あああっ、気持ちいい！）
　玉門の上っ面を撫でられると、倫子は小水が漏れそうなくらい気持ちが良かった。
　しかし、倫子は、歯を食いしばって耐える。
　小水を漏らしてはならないと、しっかりと玉門を締め上げる。

　院は、身を起こされた。
　倫子のお尻の下に置かれていた敷物をお取りになる。
　そして、おのが上半身を前かがみにし、倫子の胸の方に倒すようにしながら、腰を上から下にえぐるように動かしつつ、倫子の玉門の底を、亀の頭の先でお掻きになる。
（はぁうー、はぁうう……、ハァ、ハァン、はぁーーー！）
　倫子は、夫には、そんなところを掻いてもらったことがなく、あまりの気持ちの良さに、声が出そうになる。
　そのとき、倫子は、
『ごくり！』
　と、生唾を飲み込む音が耳に届いたように思った。
　また、少し間を置いて、
『ごくり！』
　と音がした。
　倫子は、それが、上皇さまのものではないと思った。
　衝立の向こうで、聞き耳を立てている女官たちの生唾を飲む音ではないかと思った。
　倫子は、ちょっとそれが可笑しくて、心に余裕ができた。

　院も、大腰を使いながら、倫子のほこらの中を掻いているうちに、女官たちが飲む生唾の音に気がつかれた。
　平生なら、相手をしている女がうめき声を上げるので、女官たちの声が聞こえないのだ。
　しかし、今夜は、相手をしている女が声を上げないのだ。その静けさゆえに、女官たちの小さな音が院の耳に届いたのだ。
　それにしても、と院はお考えになる。
（われが、こうして抜き差ししていることが、どうも雰囲気で、女官たちにわかるらしいな）
　女官たちも、われと倫子とのまぐわい（性の営み）に並々ならぬ関心を抱いていると思われ、院は、ますます気合を入れられた。
　相手をしてくれている倫子のためにも、倫子とのまぐわい（性交）の音に聞き耳を立てている女官たちのためにも、しっかりと抜き差しをしなくてならぬとお思いになられたのだ。

　院は、ふたたび、倫子のからだの上にのしかかられる。
　そして、両の腕を倫子のからだの横に置かれ、その腕を立てられた。
　倫子のお尻の下に入れていた敷物の位置をお直しになる。
　そして、深く腰を入れられて……。
　ゆっくりと抜き差しをされる。
「すかり、すかり」
　院は、とても気持ちがよくなられる。
　何か、もう、倫子の中に吐いてしまいたいような…。
　それではならじと、今度は一転して、
「ズボッ！、ズボッ！、ズボッ！」
　と、激しく強く、奥の院をお突きになる。
　疲れると、院は倫子の上に体をあずけてお休みになり…。
　しかし、倫子の胸におのが胸板をしっかりとくっつけて動かれず、じっとされていても、倫子の中に納まっている院の大陰茎（オオマラ）は、時々、ビックン、ビックンと跳ねるのだった。
　倫子の玉門は正直であった。
　院のモノがビックン、ビックンと脈打つように跳ねると、まるでそれに呼応するかのように『ビュッ、ビュッ』と、襞肉の隙間から淫液が吐き出されるのであった。
　院がまた、腕を立てられて、動かれる。
「じゅぶぅー、じゅぶぅー、じゅぶぅー」
　倫子の中はしとどに（たくさん）濡れそぼっていて、院にはとても動きやすかった。
　それに、中はとても熱く、襞肉という襞肉はねばりがあって、院の大陰茎にからみつき、気持ちがいいというどころではない、院には腰がしびれて、とろけそうであった。
　院は、それでも、倫子のからだを喜ばせてやろうと、これでもか、これでもかと、倫子の玉門を、ますます膨れ上がるおのが大陰茎でお攻めになる。

　院は、おのれがそろそろ限界に近くなっていることを察せられていた。
　院は、倫子の首を抱え、顔を近づけられる。
　そして、おのが唇をしっかり倫子のくちびるに重ねられる。

　倫子は、待っていたかのように、自ら首を上げ、院の首に自らの手を掛け、院の唇に吸い付いていく。そのように口を塞がなくては、もう声が漏れそうで、漏れそうでたまらないのであった。
　漏れそうな声をふさぐにはもってこいと、倫子は、むしろ院の唇を歓迎したのであった。
　その倫子のしぐさが、院にはうれしくてたまらない。院は、倫子のくちびるをしっかりとお吸いになる。
　でも、それでもあきたらず、倫子の口をこじあけ、舌を吸い上げになる。
　と、倫子の舌も意思を持つようになってきて。
　舌と舌がからみあい、唇とくちびるが蠢き合う。
　院が、さらにおのが身を倫子の顔にまでのしかかるように起こされて、倫子の舌を咬むほどにお吸い上げになさったとき、倫子のくちびるが、猛然と襲い掛かって来た。
『倫子！』と叫ぶように、院は倫子をかき抱かれる。
　倫子は、閉じているにもかかわらず、自分の目がトロンととろけそうになってくるのがわかる。そして、頭の中が朦朧としてくる。

　院は、頭の中が痺れてきたのを察せられた。
　下腹部を獰猛なモノが突き上げて来る。
　と、院の意識とは関わりなく、『ドクッ、ドクッ、ドク――ッ』と最初の打ち込みがなされた。
「ああっ、あっ！」
　院は、尻の穴をすぼめるようにして、呻（う）めかれる。
　しかし、もう、後には戻れない。
　腰の後ろから、ドドーッと荒波が押し寄せてきて、もうそれを止めようがない。
『ドックン、ドックン、ドックン！』
　尻の肉が蕩（とろ）け、もう一度激しく下腹部を突き上げるものがあった。
『ドクッドクッ、ドク―ッ！！』
　最後の打ち込みが…。
　院は、上半身をガクガクッとふるえさせながら、しっかりと倫子の肩をお抱きになって。
　すると、倫子がワナワナとふるえはじめ、歯を食いしばり、胸を反らして、腰を跳ね上げる。
（くくーっ、くくぅぅっ、ぅううううぅぅぅっっっ―――）
　倫子は、耐えに耐えた。
　しかし、あの、院のビュッ、ビュッという勢いのある精の吐き出しに奥の院（子宮口）が痺れ、とうとうは絶頂感に襲われてしまったのだ。

　院は、大魔羅（大陰茎）に溜まっていた淫液を一滴も残らず、お吐き出しになった。
「ふぅ、はぁーっ、ふぅー、はぁ〜……」
　院は、倫子のからだの上に、自らのからだを預けたまま、深い息をつかれる。しかし、その顔には十分満足したような表情がうかがえるのであった。
　院には全身から力が抜けたようにお感じになった。
　気だるい。
　このまま、倫子のからだの上にのっかっていたい。しがみついていたい。

　院は、おのが体を倫子のからだの上に重ねたままにしておられた。
　倫子は、上皇のからだを重いとは思わなかった。
　倫子には、むしろ、上皇さまのモノが熱を失い、まるで波が引くように、ほこら（膣）の中から去ろうとしていて、それがいかにも名残り惜しいように思われた。

　院は、静かにおのが体を、倫子の上から寝具の上に降ろされた。
　そして、院は、倫子を横向きにして横抱えをしながら、つぶやかれた。
「倫子（りんし）、われは、とても満足したよ」
「……」
「倫子、そなたを、少将のもとには帰したくなくなった…」
「……」
　倫子は黙っていた。そんなことは困ると思っていた。
　夫の顔が浮かんできた。
　お酒を飲んでいる。でも、なんてその顔は悲しそうなのだろう。
　倫子は、胸がふさがれるような思いがした。
「そうか、そなたは、少将の許がいいのじゃな」
「……」
「では、明け方には、車を回そう。しかし、また、この御所に来てくれるよな」
「……」
　倫子は目を瞑っていた。困り果てていた、上皇さまのわがままには。
（早く、夫のもとに帰りたい…）
　倫子は、祈るような気持ちで、身を固くしていた。
　すると、
「がぁぴぃー、がぁびぃー」
　と奇妙な音が耳に入り、倫子は目をあける。
　上皇さまは、口を半開きになさりながら、お眠りになっているではないか。
　倫子は可笑しくて、ちょっと笑った。
　そして、やっとほっとした。

　鳥の声がする、夜が明けたらしい。
　やっと、自分の屋敷に帰ることができると倫子は思った。
　倫子は、ひとり起き出した。
　倫子が衝立を回ると、女官たちが立ち上がり、身を囲んできて、身づくろいをしてくれた。

　すると、院も近寄って来られていて。
「もう、行くのか？」
「……」
「そうか…」
　院も、女官たちに身づくろいをしておもらいになった。
　院は、隣の部屋に行かれ、そして、何物かを持って戻って来られた。
「さぁ、これは、少将殿に。少将殿は酒好きと聞く。これは鎌倉よりいただいた、とてもめずらしい酒なのじゃ。さぁ、この反物（織物）はそなたに。これで召し物（着物）をつくるがよい」
　院は、外まで見送りに出られた。
　そして自ら、倫子のために、たいそうなみやげ物を牛車に積んでくださった。

　藤原の少将の屋敷にも、明け方の陽の光が屋敷の内に射しはじめている。
　目を細め、その光をまぶしそうに、藤原の少将はながめていた。
　藤原の少将は、酒を飲みながら夜を明かしたのだ。
　妻が帰っては来ぬかと、耳を凝らしている。
　牛車の音がした。
　藤原の少将は小走りに、門のところへ出る。
　牛車の御簾が上げられ、妻の倫子（りんし）が現れた。
　倫子の顔の、なんと悲しそうなことか。
　倫子の目に涙があふれているのが、藤原の少将の目に捕らえられた。
　藤原の少将の目も潤んでくる。
（かわいそうに、かわいそうに）
　藤原の少将は、妻の顔を見ただけで、悟ってしまったのだ、院がわが妻をお抱きになったということを。
「あなた……」
　倫子がすがって来る。
「ああ、ごくろうであったな」
　藤原の少将は、だき抱えるようにして倫子を牛車より降ろす。
　倫子の足が地面につく。　
　藤原の少将は涙ぐみながら、そっと倫子の肩を抱くのであった……。

　やがて、少将は、院に参内するようご下命があった。
　藤原の少将は中将に昇進した。

　突然の昇進に、人々はうわさをしはじめた。
『あの御仁は、さしたる才覚もござらぬのに、何ゆえの今回のご沙汰なのであろうか？』
　人々は探りを入れる。
　とうとうは、明け方、御所より牛車が出て、その後を付けてみれば、それは藤原貞綱の屋敷に止まったという、まことしやかな（＝いかにも本当のことらしい）うわさが流れはじめたのである。
　そして、人々は憶測の上に憶測を重ねるのだった。
　藤原貞綱は、出世のために女房まで差し出した、と。
　人々は、何とも、うわさ好きなのであった。
　藤原少将が上司に引き出物としてわが妻を差し出し、上位の官位に昇進したことが、まことしやかに人々の口に上るようになる。
　いつしか世間では、藤原の少将のことを、鳴門（なると）中将と呼ぶようになった。
　つまり、阿波（今の徳島県）の鳴門（なると）地方には、とても品質の良い若布（ワカメ）がとれる。その若布（ワカメ）に妻（メ）を掛け、妻のお陰で出世した中将のことを鳴門の中将と呼んだのである。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考とした。
　　　新潮日本古典集成　「とはずがたり」　福田秀一　校注　　新潮社　版
　　「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
　　「とはずがたり」　　　　　　　　　　　富岡多恵子　著　　講談社　刊