１０（最終回）　ついに雪江を犯してしまう

　　格子のそとに　　しのび寄る
　　夜を待たせて　 化粧の間に
　　きのう別れた　　ひとを待つ

　　逢うたときに　　言うことを
　　ひとり言して　　恥ずかしや　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　この夜ごろ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　竹　久　夢　二　　作

　お葉は、すでに温泉治療が終わり、主治医の正木博士のところに居候をしていた。
　わたしは、正木博士に負い目を感じている。しかし、正木博士とは何となく気の合うところがある。
　正木先生は、「春草会」という短歌の会の会員で、わたしもその「春草会」の会員であったのだ。
　ある日、正木先生から手紙が来る。
　預かっているお葉さんのことで相談があるとのことだったので、急いで出かける…。

　わたしは、正木先生の自宅を訪ねた。
「お手紙をちょうだい致しまして…」
「竹久さん、短歌の会の皆さん、とても心配しておられますよ」
「ご迷惑ばかりをおかけして…」
「お葉さんは、あなたともう一度やり直したいと言っておられるのですが…」
「それは、わかっています」
「でしたら…。それに、あなたにとっても、お葉さんはなくてはならぬお人でしょう」
「自分のことは、これからじっくり考えます。でも、今は、お葉のことを。お葉こそは将来のことをしっかりと考えて、先々悔いのないようにしてもらいたいのです」
「でも、それにしても、お葉さんにとっては、あなたが必要なんじゃありませんか？」
「いいえ、そうじゃありません。お葉には、僕のことは抜きにして、将来のことを考えさせてやりたいのです」
　正木先生は、わたしがお葉と別れることを、なかなか納得されなかった。
　わたしはただ、頭を下げるばかりだった。
　わたしは、自分の卑怯さが情けなかった。
　わたしは、無責任にも、とうとう彼女の身の振り方を正木博士に依頼したのだった。
　そして、数日ののち、お葉は、母親とともに、郷里の秋田に帰ることになった…。

　山田順子が、お葉のいなくなった山荘にやってきた。
　わたしは彼女の話し相手になっていた。
　お茶も入れてあげた。
　しかし、わたしは、山田順子とこれ以上深い仲になることを恐れていた。

「先生、お葉さんのことはどうなさるおつもりですの？」
「僕は、結婚しません、お葉とは」
「・・・」
「僕と結婚したら、あいつは不幸になる」
「でも…」
「大丈夫です、あいつのことは。あいつの主治医である正木先生が病気のことも、将来のことも相談に乗ってくれるでしょうから」
「でしたら…。先生、わたしとのことは…。わたしとは結婚できないのですか？」
「だめです」
「どうして…」
「僕には生活感がないから…」
「・・・」
「僕にとって、最終的には、お金よりも創作意欲なんです。お金がいくらあっても完全には心が満たされない。むしろ今の暮らしが少々貧しくても、絵を画くという気力があった方が、自分にとっては満足なんです」
「そうなんですの…。先生にとって必要なのは、落ち着いた結婚生活ではなく、激しい恋のある創作生活なんですね」
「そうでもありませんが…。ともかく、どっぷりと家庭の幸福に浸かっていては、僕はとてものこと、いい絵を画く自信がないのです」
「・・・」

　わたしは、下高井戸の停留所まで山田順子を送っていくことにした。
「あっ！」
　わたしは思わず声を上げていた。
　坂道を、宇佐美雪江が登ってくるのだ。
「どうなさったの？」
　耳元で、山田順子の声がする。
　しかし、わたしは固まってしまって身動きできないでいた。
　雪江が見上げる。
　そして、気がついたようだ、わたしに。そして、わたしのそばに女がいるということに。
　雪江が驚いたように、目を大きく開ける。
　そして、踝を返し、停車場の方に戻っていく…。

　わたしは、雪江を追っかけていた。
　わたしは、心の中で、もうひとりのわたしに叫んでいた。
『何もかも失いたくない。せめて、今のわたしには、雪江が必要なんだ！』

　わたしは駈けていく。
　雪江に追いつく。
「あれは、あれは、何でもない人だから」
「・・・」
「あの人には、ちゃんと旦那さまがおられて。僕は、ただ、あの人に頼まれて。あの人の自伝小説の装丁を頼まれただけなんだから…」
「・・・」
　わたしたちは、とうとう下高井戸の停留所まで来てしまっていた。

「先生、どうなさったの？」
　ふりむくと、そこには、山田順子がいた。
　申しわけない気持ちでいっぱいだった。
「・・・」
　わたしは、宇佐美雪江の方を取ったのだ…。

「わたしをほったらかして、こんな人と…」
　わたしは、山田順子の方は見なかった。
　わたしは、ひたすら、雪江のことを心配し、見ていた。

「先生ったら、こんな小娘がご趣味でしたのね」
　わたしは山田順子の蔑みのこもった言葉に耐えた。
　実際のところ、わたしは、雪江を失いたくないのだ。

　わたしは、背に、山田順子の軽蔑のまなざしを受けていた…。胸が苦しかった。
「電車が。電車が行ってしまうよ」
　雪江の声だった。
「いいんだよ」
「でも…」
「あの人とは何でもないんだから。君が心配することは何もないんだよ。あの人はちゃんと自分の住んでいるところに帰って行くんだから…」
「・・・」
「ねぇ、君は画集を見に来たんだろ」
「・・・」
「さぁ、山荘に行こう…」
　雪江は、首を縦に振らなかった。

　わたしは、腹を立てていた。
「あの人とは何でもないと言っただろっ。そんなに疑うなら、そんなに僕が信用できないのなら、もう山荘には来なくていい」
　わたしは捨て台詞のような言葉を吐いていた。
　そして、わたしは後ろも見ずに、雪江を停留場にほったらかしにしたまま、山荘に向かった。

　期待は半々であった。
　しかし、宇佐美雪江は山荘にやってきたのだった…。

　わたしはうれしさを隠せない。
　抱え込むようにして、山荘に入れる。
　彼女を和室に案内した。
　そして、彼女に座布団を差し出し…。
　洋室の食堂に戻り、彼女のためにお茶の用意をした。

　和室に戻り、お茶を差し出す。
　ようやく、わたしはしげしげと彼女の顔を見た。
　久しぶりに会う雪江は、わたしには、やつれているように見えた。
「どうしていたの。元気だった？」
「ええ」
「絵は画いていたの？」
「いいえ、絵はあまり画いていません…」
「では、何を…」
「お歌を少々・・」
「歌？」
「ええ、短歌を少々…」
「ああ、短歌を、ね…」

　わたしは、しっかりと雪江の顔を見ていた。
　雪江の表情に明るさはなかった。
　わたしは、わたしなりに勝手な解釈をした。
（雪江には、今、恋人はいない…。もしいるのなら、こんな山荘になんか、ひとりでやって来たりはしないだろう…）
　わたしは、雪江にとって、かりそめの恋人になろうと思った。
　なぜなら、雪江のからだが欲しかったからだ。
　かりそめであろうと、何らかの恋人にならなくては、からだを開いてもらえないだろうから。
　そして、恋人になるには、もう、彼女を口説くしかなかった。
「僕は、さみしくてね。そして、とても君に会いたくて…」
　雪江は戸惑っているように思えた。
　しかし、わたしには、そんな雪江の感情のことはお構いもしなかった。
　雪江の迷いの感情など、とにかく無視しようと思った。
　たとえ雪江に軽蔑されようと、また、自分で歯の浮くような言葉だと思えるような言葉であろうと、ともかく雪江を恋しいと想う気持ちを、雪江の心にぶっつけようと思った。

　雪江のからだの近くに迫っていくと、雪江の匂いがした。わたしは、ますます、雪江のからだが欲しくなった。この胸に、しっかりと雪江を抱きしめたくなっていた。
　わたしは、どうであろうと、わたしの気持ちを言葉に表わして、相手に伝えるしかない。
「僕は、夜ごと、君のことを想っていた。夜眠る時は、いつも君のことを想って。でも、君のことを想うと、なかなか寝付かれなくて。そして、とうとう僕は、この手を股間に…」
「・・・」
「いけないことだとは、わかっている。でも、そうでもしないとわたしは眠れないのだから…」
「・・・」
「手でしごいて。でも、頭の中では、完全に君のからだを汚してしまっていて……」

　わたしは、わたしがさも懺悔をしているかのように正座をし、手を膝の上に置いて頭を垂れていた…。
「わるかった、すまない…」
　わたしは、あやまっているうちに、本当に、目頭を熱くしていた…。
「本当にわるかった…。純真な君を、僕は、夢の中で汚してしまって…」
「・・・」

　彼女は蒼白な顔をしていた。
　でも、欲望の塊となっていたわたしには、そんな青白い彼女は、ライオンのえじきとなる、白いうさぎに見えたのだ。
「君はいつもきれいだね。そんなきれいな君を、僕は平気で汚してしまう。なんという罪深い人間なんだろう、僕という奴は…」
　わたしは演技をしていた、手で頭を抱えながら。
　そして、頭を振りながら、顔を挙げた。
　彼女は驚いたように僕を見つめる。
　彼女のつぶらな瞳が、大きく開いたような気がした。
　わたしは、座布団の上に座っている彼女に、にじり寄っていた。
「でも、本当に、君に会いたかったんだよ、僕は。こんな罪深い僕なのに、どうしても君のことが忘れられなくて…」
　わたしは、彼女の肩に手を置いた。
　彼女の肩が震えている。
　わたしは、反って、自信を持ってしまった。
「好きなんだよ。だから…」
　わたしは、首を左の方に押し曲げて…。
　そして、彼女に顔を近づけ、くちびるを奪ってしまっていた。
　わたしは、くちびるに唇を当てただけではなかった。
　わたしは、彼女のくちびるを吸っていた。
　彼女の芳しい匂い。
　そして、雌の匂い。
　わたしは息もせずに彼女の甘いくちびるを吸っていた。

「うっ、ぅぅ」
　彼女が苦しそうに喘ぐ。
　そして、後ろに倒れそうになる…。
　わたしは、仕方なく、くちびるを解放してあげて。
　彼女の背中に手を当てて、彼女のからだを支えてあげる。
　彼女の息が荒い。
　しかし、それが、わたしには妙に性感を刺激し…。彼女を抱き寄せ、また、彼女にキスを迫っていた…。彼女がいやがるのに…。
「いやいや、胸が苦しいわ」
「・・・」
　わたしは、畳の上に、彼女を寝かせつけていた。
　彼女の顔が目の下にある。
「我慢して。僕は、君のくちびるがもっともっと欲しいんだ」
　わたしは、彼女がいやいやをしているのに、からだをおおいかぶせるようにして、彼女のくちびるを再び奪っていた。
　くちびるの中に、唇を押し込み、そして、彼女の舌を吸った。
「うっ、うううう」
　しかし、彼女の、下から伸びる手の抵抗が弱まる。
　わたしは、彼女を背中から抱きかかえるようにしながら、デープキッスを続けていた。
「うーん、もう、ゆるして…」
　わたしは彼女を抱く力を弱める。彼女の顔を見る。とても赤い顔をしている。
「苦しかったの？」
　彼女が頷く。
　と、わたしは、股間のモノがすでに硬くなっていることに気付いた。いや、パンツがヌルヌルしている。どうやら、勃起だけでなく、大きくなったペニスの先から、先走りの粘液が出ていたらしい。

　わたしは冷静になろうとした。
「ごめん。また、僕は罪深いことをしようとしていた…」
　そう言いながらも、わたしは彼女のことを観察していた。
　彼女は何かしきりに耐えているように思えた。
　何となく、わたしには、もっと攻めていけば、彼女が彼女のからだをわたしに許してくれそうに思えた。

　わたしは大胆にも、押入れから敷布団を出して敷いていた。
「さぁ、こっちに来て。そこは、畳の上で、膝が痛いだろう…」
　彼女は、身を固くしていた。
　わたしは、彼女の手を取って、やさしく布団の上にいざなう。
　わたしは、エッチな話をして、彼女の心を解きほぐそうとしていた。
「ねぇ、君は、夜寝る前に、ひとりエッチはしないの？」
「・・・」
　雪江は、頬を赤らめている。
「男は、好きな女の子の顔を思い浮かべながら、ペニスをね、指でしごくんだよ。もっとも、女の子のやり方というのは、きっと、指をあそこに突っ込んで、クチュクチュするんだろうね」
「・・・」
「それとも、ヌレヌレになったアソコに、万年筆でも突っ込むのかな…」
「わたし、そんなこと、しない…」
「そうだよね。雪江はそんなことはしない」
「・・・」
「アソコに指なんか突っ込んで、クチュクチュ掻き回したりしたら、処女膜が、破れてしまうことだって、あるかもしれないし…」
「でも、あれって、短距離走で一生懸命走ったり、体操で開脚運動したりしたら、破れることだってある、って、保健の先生が言ってたよ」
「そうなのか。でも、アソコのアレは大切にした方がいいよ。アレは、やはり、本当に愛する人に捧げた方がいいからね」

　そんなことを言いながら、わたしは、いつの間にか、雪江を抱いて添い寝をしていた。
「君の処女膜は破らないからね。あそこはそっと、撫でるだけだからね」
　わたしは、とうとう、彼女の上にのしかかりながら、彼女の上の着物を脱がせてしまっていた。
　そして、袴の紐も解き、彼女を上の真っ白な膚襦袢と、ズロース（＝パンティ）だけの姿にしてしまっていた。
　わたしは、膚襦袢の併せを掻き開き、雪江のおっぱいを吸った。
「うっ、ううう」
　雪江は苦しそうだった。しかし、その意に反し、乳首はおっ立っていた。
　乳首を唇ではさむ。こりこりとして、唇の肌触りがよい。
　わたしは、もうその先にと進まざるを得なかった。
　ズロースを剥ぐ。
　雪江はちゃんと、腰を浮かして、脱がせやすくしてくれる。
　わたしも洋服を脱いでいた。
　パンツひとつになる。
　わたしは、彼女の肩を抱きながら、彼女のくちびるを吸った。
「あっ、うっ、ううう」
　彼女がしがみついてくる。
　わたしは、股間のモノが痛いほど、イレクト（勃起）しているのがわかる。
　わたしは、その股間のモノを、彼女の股座に押し付けていた。
　キスを続ける。
　下半身も気持ちがよくて。
　と、ペニスの先端部から樹液が漏れ、パンツを濡らしていることに気がつく。
（危ない）
　わたしは、このまま行けば、パンツの中に射精してしまいそうであった。それに、彼女は今、剥き身なのだ。精液がパンツの布地から染み出て、彼女のヴァギナの中に沁み込んでいくかもしれない。

　わたしは、突然、山田順子が、ゴム（コンドーム）を置いていったことを思い出した。
　殺精剤のゼリーとともに、それは、食堂の水屋の引き出しにしまい込んでいたのだ。
　わたしは、起き出し、パンツのまま、食堂に向かっていた。

「どうしたの？」
　雪江が布団の上で上半身を起こしていた。
「いや、なに。雪江を妊娠させたらいけないと思って。これを…」
　わたしは雪江の目の前に、ゴム（コンドーム）をひらひらさせて見せびらかした。
「何、それ？」
「これを僕のペニスに嵌めるとね、仮りに射精しても、スペルマ（精液）が膣内に漏れないんだよ」
「・・・」
「そんなに心配しないでよ。これを嵌めたって、君の中に入れたりしないから。もし、ペニスを入れたりしたら、君の処女膜が破れてしまうじゃないか。ただ、これを被せてくとね、たとえ射精しても、君の内腿を濡らすようなことがないからいいんだよ」
「・・・」
「ねぇ、将来の勉強と思って、嵌めてみる？」
　雪江が恥ずかしそうにうなずく。
　わたしはパンツを脱いだ。
　そして、足を組んで座る。が、できるだけ股間を広げるようにした。
　ペニスは天井を向いている。
　彼女は、ちょっと不器用だった。
「早くしてよ。そんなにもたもたしていると、出てしまうよ」
「・・・」
　見ると、ようやく、嵌まったようだ。
「さぁ、ゴムの表面に、このゼリーを塗って…」
「どうして？」
「ゴムの表面は乾いているだろ。それじゃ、これがゴツゴツして、君の内腿に当たったとき、君の皮膚が赤くなってしまうよ。ゼリーを塗っておくと、なめらかになって、君の皮膚を痛めることがないんだ」
　彼女は腑に落ちない顔をしていた。
　しかし、彼女は、チューブを絞って。ゼリーを、指先に。そして、ゴムの嵌まった陰茎にそれを広げるようにして塗っている。
　丁寧だ、実に。
　いや、とろいというべきかもしれない。
「早くして」
「どうして？」
「あまりに気持ちよくて、出てしまいそうなんだ。だから、もっと手早く…」
　しかし、彼女は手早く、というどころではない。
　なんか、余計にゆっくりと…。
　でもわたしは、がまんした。
　彼女がよかれと思って、していることなんだから。
　やっと塗り終えた。
　でも、わたしのペニスは、興奮のあまり、ビックンビックンと脈打っていた。

　わたしは、もうがまんができなかった。
　彼女を布団の上に押し倒していた。
　彼女の顔が目の下にある。
　わたしは彼女の首の下に手を回し、彼女のくちびるに唇を重ねていく。
　わたしは、夢中になって彼女の口を吸っていた。
　と、わたしの股間のモノを誰かが…。
　誰かが、掴んでいるのだ。
　腰を浮かす。
　下を見る。
　何ということだ。わたしのアレをにぎっているのは、彼女の指なのだ。
「いけないよ、そんなことしたら・・」
「どうして・・・」
「そんなににぎられたら、出てしまうじゃないか」
「出していいよ」
「いいのか？」
「いいよ」

　わたしは、再び、キスをしようとしていた。
「ねぇ、これ、中に入れてもいいよ」
　彼女の声だ、確かに。
「えっ？！」
「・・・」
「そんなことしたら、君の処女膜が破れてしまうよ」
「破れてもいいよ」
「どうして？」
「先生なら、いいよ」
　わたしはびっくりした。
　動転していた。
　どうしていいかわからなかった。
　頭の中が真っ白になる。
　わたしは考え込んでいた。

「あっ、ぁぁぁ」
　雪江のしぼんだような声が。
　わたしは股間を見る。
　わたしの股間のモノが、なんと、萎えているのだ。
「雪江、大切なものは、ちゃんと、大切な人のために、取っておきなさい」

　彼女は泣いていた。
　わたしは弱っていた。
　でも、彼女が愛おしくなって。
　わたしは彼女の長い髪を撫でつけながら、彼女の涙を啜っている…。
　彼女をなだめているうちに、わたしは、また、股間のモノを硬くしているのだった。

　彼女も、それに気がついたみたいで。
　わたしは、腹をくくらざるを得なくなっていた。
「雪江、ごめんね。もう僕も限界なんだ、がまんの。だから、入れさせてもらうね」
　わたしは、半身を起こした。
　彼女の足首を持ち上げる。
　Ｍ字型に開脚させた。
　わたしは、その彼女の股間に、口を。
　わたしは、くちびるで、クリトリスを愛撫し、そして、舌で、彼女の大陰唇を舐めた。そして大陰唇がわたしの唾液でべとべとになると、今度は、小陰唇を舌先でなぞっていた。
　彼女の深紅色の陰孔から、ヨーグルトのようないい匂いが沸き立ってくる。
　わたしは、その泉の中に、舌先を丸めて、突っ込む。
　彼女の苦痛を少しでも和らげるためにも、わたしは念入りに、舌を使って膣口を広げようと努めていた。

　わたしは、彼女のクリトリスも、しゃぶっていた。
　しゃぶるたびに、彼女はお尻を跳ね上げた。
　わたしは、半身を起こす。
　彼女の股間をさらに広げ、ゴムのついたペニスをゆっくりと彼女の膣口に挿入した。
　狭かった。
　押し返される。
　でも、ゆっくりと嵌めていった…。
　根元まで入る。
　そして、わたしは、からだをゆっくりと重ねていった。
　彼女の顔がわたしのすぐ目の下にあった。
「うっ、ううう」
　彼女は苦しそうで。
　そして、目尻から涙が染み出ていた。

　早く出して、終わってあげなくては。
　動くといいかもしれない。
　しかし、動くと、痛いかもしれない。
　でも、何だろう、ゴムを嵌めているせいか、なかなか、射精に到らないような気がするのだ。

　しかし、彼女と一体になっているという満足感がある。
　早く終わらなくてはと思いつつ、もっとこのままでいたいという欲望も強くて。
　わたしは、どうも快楽に強欲なようだ。
　嵌めて気持ちいいというのに…。
　さらに気持ちよくなろうと、嵌めたまま、彼女の両足を閉じさせたのだ。そして、さらにわたしは、彼女の両足をわたしの両足で外側からしっかり挟んだのだ。
　わたしの、彼女の股間に挟まったペニスは、さらなる圧迫を受けて、とても気持ちがよくなる。
　わたしは、彼女の上半身にしがみついていた。
　じっとしていても気持ちがいい。
　動けば、もっと気持ちがよくなるにちがいない。
　でも、両サイドから圧迫を受けているのも悪くなかった。
　わたしは、抜き差しができないままでいた。

　と、何やら、下半身が、ますます気持ちよくなっていく。
（なぜだろう？）
　なんと、彼女が腰をもじもじさせているのだ。
　と、彼女がお尻を持ち上げる。
　そして、それを横に振っている。
「あっ、あああ、そんなに動かないで」
　わたしは雪江に哀願していた。
　揺り動かされると、気持ちよくって、射精してしまいそうなのだ。
「あっ、ふっん、あああっ、ぁぁああああっ」
　彼女がのけぞる。
　それに眉間に皺を寄せていて…。
　苦しそうだ。しかしよく見ると、さほどつらそうにも見えない…。
　わたしは、さらに彼女をいたぶってみたくなっていた…。
　手を突っぱねて、上半身を後ろに反らしていく。しっかりと下半身を彼女に押しつけて。
　まるで、ペニスが、彼女の子宮口に当たらんとばかりに、奥へと押し込む。そして、行き止まりになったところで、腰をグラインドしつつ、ペニスの先をグリグリッと…。

　が、彼女が、上半身を左右に振って、あばれるのだ。おっぱいがぷりぷりと揺れている。
　わたしは、もっと上体を反らして、ペニスの亀頭部を奥に奥にと思っていたのに。
　もっと、グリグリッと腰を入れ込んで、彼女のヴァギナをいじめてみたいのに。
　しかたがない。
　振り落とされないよう、上体を戻し、しっかりと彼女の上半身にしがみついていく…。
「あっ、ああああああっ」
　彼女が、のけぞり、全身を痙攣させている。
「あっ、あああ、ぁぁぁ」
　彼女がピーンと両足を伸ばし。ピクピクと足の筋肉を振わせる。どうも、彼女はイッたみたいだった。
　彼女が、がくんと背中を布団の上に落とし、静かになる。
　わたしは、しがみついていた。まだ、わたしはイッていない。
　と、わたしのペニスが、キュっキュっと、手で絞り取られているような錯覚に陥っていた…。
　それは、少女が、乳牛の乳に、小さな手を宛がい、きゅっきゅっと手でお乳を絞っているような光景を思い起こさせる…。

　雪江はアクメに達し、上肢や下肢はぐったりとなっているのに、膣肉のみは、わたしのペニスをキュッキュッと間歇的に絞っているらしい。
「あっ、あああ、だめだよ、だめだよ」
　わたしは誰に言うともなく、呻いた。
　しかし、雪江の膣肉は、容赦をせず、その収縮を続けるのだった…。
「ああ、もうだめだ、雪江、雪江・・・」
　わたしは、雪江の太ももをしっかりと両足で締め付けながら、激しく痙攣していた。

　わたしは、雪江のからだの上に、まだのしかかっていた。
　射精はしたような気がした。
　ゴムが嵌まっているのか、射精感が鈍かったような気がする。
　
　しかし、射精が終わったとしても、なぜか心地よい、ゆるやかな快感が持続していた。
　雪江の上から降りたくなかった。
　しかし、その一方では、確実に股間のモノが、徐々に萎んでいくような気がした。
　わたしは、それを萎ませたくなかった。
　萎ませてしまえば、ペニスからゴムがはずれ、ゴムの中から精液が漏れ出すかもしれない。
　そうしないためには、まだペニスを萎ませてはならないのだ。
　わたしは、雪江にキスをしはじめた、おおいかぶさるように…。
　舌を深く入れ込む。
　と、雪江が反応してくる。
　雪江が、気がついたようだ。わたしの舌に、自分の方から舌を絡めてくるのだ。
　わたしは、夢中で、彼女が出してきた舌を吸う。
　と、わたしのペニスに再び、芯のようなものが入ってくるのだ。

　わたしは、雪江を抱きしめつつ、思う。
（もう少ししたら、ペニスが再び硬くなるだろう。そうしたら今度こそ、じっとしていないで、雪江の子宮口を、つっ突いてやろう）
　雪江が、下から手を伸ばし、わたしの背中に手を回してくる。
　その手に、力が込められてくる。
　雪江が愛おしくてたまらない。
　わたしの股間のモノに、力がみなぎって来る。
　この硬いモノで、雪江を地獄の谷へ突き落としてやるのだ、そして、塗炭の苦しみを味わわせてやるのだ。

　わたしが、雪江の若い肉体をむさぼるのは、罪深いことに違いない。
　しかし、わたしの仕掛けた罠に近寄ってきたのは、その女の無用心さなのであって、女にだって責められる点はあるのだ。男が１００％わるいのではない。
　雪江だって、雪江だって、わたしに犯されることを望んだのではないか…。
　わたしは、わたしの罠に嵌まった女の肉を、涙を流しながら、喰らうしかないと思った。
　
　わたしは、いつもわたしが愛した女を不幸にする。
　不幸にしようと思って好きになるのではないのに…。
　でも、結果としては、不幸にしている…。

　せめて、たとえ一瞬であろうとも、精一杯、女を肉体的に愛するしか、わたしには能がないのだ……。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（終わり）

（注）この小説を書くにあたって、下記の図書を参考としましたので、あらかじめおことわりしておきます。
「〈評伝〉竹久夢二」　三田英彬（ひであき）　著　　芸術新聞社　刊
「竹久夢二　　恋の言葉　　」　　石川桂子　編　　　河出書房新社　刊
「竹久夢二　−美と愛への憧憬に生きた漂泊の画人−」　石川桂子・谷口朋子　著　　六耀社　刊
「竹久夢二　−大正モダン・デザインブック−」　石川桂子・谷口朋子　著　　河出書房新社　刊
「明治・大正　家庭史年表　下川耿史　家庭総合研究会　編　河出書房新社　刊
「夢二抄　山の巻　◎絵と画論」　　　品川洋子　　編　　グラフィック社　刊