６（最終回）　涼子のアノ声に嘔吐しそうに

　わたしたちは、いつのまにかチークダンスになっていた。美津子さんの豊満なからだを胸に、太腿に感じ、わたしは股間のジュニアを硬くしている。
「ごめんなさいね」
「……」
「桜庭も、今夜はとっても楽しそうで。わたしもうれしいわ」
「……」
「秋山さんは？」
「ええ、それは、僕も…」
　わたしは、そんなことを言いながらも、後悔していた。なにしろ、わたしは欲望に負けて、すでに美津子さんを抱いてしまっていたのだから。今さら、桜庭に、『俺の女房に手を出すなよ』なんて言えるはずがないではないか。

　わたしは、背中に回した手によって、美津子さんに部屋の隅に引き寄せられていた。
　わたしは、美津子さんに抱きしめられていながら、視線は前に。部屋のドアが見えた。桜庭と涼子の姿は見えない。たぶん、テーブルを挟んで、わたしと美津子さんの右側の奥の方で踊っているのだろう。
　と、照明が落ちた。部屋が暗くなる。
（桜庭のやつ、何かたくらんでいる、涼子に対して…）

　涼子が気になる。
　首を右後ろの方によじって、もう一方の部屋の隅を見ようとするのだが、ままならない。美津子さんに抱きつかれ、頬と頬をくっつけ合う、チークダンスになっているからだ。
　わたしは、右を向いて、涼子たちの様子を探りたかった。
「気になるの、涼子さんのこと？」
　わたしはチークダンスしながら、右頬に力を入れたらしい。それに、左手を押して、右方向にターンをしたかったのかもしれない。が、その動きが美津子さんによって拒絶されていた。
「いいえ」
　わたしは、照れ隠しなのか、また、顔を正面に戻してしまっていた。
（しかたがない。わたしはすでに美津子さんとヤッてしまったのだ。それに、今だって俺は美津子さんと抱き合っているのだ。今さら、桜庭に、『涼子とそんなにくっつくなよ』と抗議したって、それは野暮としか言いようがない…）

「キスして…」
　美津子さんの顔を見る。
　部屋のライトは落とされているが、美津子さんの顔は見える。目は光っていた。
　美津子さんは、冗談でそんなことを言っているわけではないのだ。
　胸がドキドキする。
　前に美津子さんとキスしたのだ。とても気持ちが良かった。わたしはそのときの唇の感触や痺れるような頭のことを思い出していた。下半身のジュニアが硬くなる。
「早く…」
　わたしは、美津子さんのくちびるに、自分の唇を合わせていった。
　踊りがおろそかになる。
　スロー、スロー、クウィック、クウィックどころではない。
　すでにステップが止まっている。
　美津子さんが舌を入れてくる。わたしはそれに自分の舌をからめていく。ズボンの下のジュニアが痛いほどに膨張している。
　わたしは、美津子さんの腰に手を回しながら、美津子さんのくちびるを吸っていた。
　と、わたしは美津子さんによってベルトをゆるめられているらしいのだ。そして、ズボンを下にずらされていく。とうとう、わたしは、自分でもズボンを脱ぐように足踏みまでして、足首からズボンをはずしていた。
　下半身はトランクスだけになる。
　わたしは、股間のジュニアが、天を仰いでいることをはっきりと自覚していた。そして、キッスを続けているうちに、ジュニアの先が美津子さんのアレを求めているような気がした。
　つい、先ごろのことだ。ジュニアの先は、美津子さんのアレの入り口で、油のようにどろどろした、しかも熱湯のように熱い淫汁を吹きかけられていたのだ。それだけではない。ジュニアの先は、しっぽりと厚くて熱い肉襞に包まれた上に、ギュッとばかり四方から膣圧で締め付けられもしているのだ。肉壷による、先端部の締めつけを、ジュニアが最も良く記憶をしていて、わたしの頭脳にある淫欲の火が、さらに大きくなっていく…。
　わたしの頭脳に流れる淫蕩の血がたぎり、自らの手を、美津子さんのスカートのホックへと向かわせていた。
　音もなく、スカートが絨毯の上に落ちたようだ。
　わたしは、あせったように、美津子さんのパンティに手を掛ける。パンティを上から下へとなぞる。と、股座に当たる部分には湿り気がある…。
　こする、湿ったところを、中指の腹で、しっかりと。と、美津子さんの上半身がピクビクと痙攣したような気がした。
　わたしは、股から手を引き上げ、パンティの上から中に手を突っ込む。
　陰毛の先が濡れている。わたしは喜び勇むように、手を進める。蜜壷の入り口はすでに、高温の蜜で溢れていて。指で蜜壷の中をいじくる。
「ああ、もうだめだわ…」
　美津子さんが絨毯の上に、しゃがみ込む。

　わたしは、美津子さんの上体を倒しつつ、絨毯の上に寝かせつけていく。
　わたしは、ちらりと、横を見る。桜庭たちの姿は見えない。テーブルや、ソファのせいなのだろうか。部屋が暗いせいなのだろうか。わたしの、美津子さんのからだに対する欲望のために、視野が狭くなっているのだろうか。
　わたしは、おおいかぶさるようにして、美津子さんにキッスをする。美津子さんが舌をからめてきて…。わたしはトランクスが濡れていくのを感じている。
　美津子さんの乳房に手を。
　おっぱいを揉む。
　もどかしい、ブラウスの上からでは。
　引きちぎるように、ブラウスのボタンをはずしていく。
　前側のホックをはずして、ブラジャーを剥ぎ取る。
　乳房に手をやる。上からしっかり揉む。乳房は汗ばんでいくようだ。
　乳首はすでに硬くなっていて。それがわたしの股間のジュニアに、ますます力を与えていく。
　ジュニアの先っぽは、すでに、美津子さんの蜜壷を欲していた…。
　わたしは、顔を上げ、トランクスを手で、下にずらし、自分の足指で、トランクスを剥いで行く。
　ちらりと、横を見る。
　桜庭や涼子のことが気になるのだ。
　しかし、見えない。
　いや、彼らに見られていない、ということを幸いに、わたしは、美津子さんのパンティに手をかけ。そして、ゆっくりと腰の後ろ側から剥いで行った。

　ブルースの音楽が、まだステレオから流れているような気がする。
　まだ、桜庭と涼子はブルースを踊っているのだろうか？。
　わたしは、桜庭に悪い気がした。それなのに、その良心を打ち消すようにして、性の欲望に突き動かされて、美津子さんの股間に顔を近づけていく。
　美津子さんの陰毛が唇にあたる。
　深い茂みの先の何本かが、鼻の中に入り込む。
　が、もうそんなことには構っていられないほどに、わたしは興奮している。
　手で、丁寧に左右に掻き分ける余裕もなく、舌先で舐めるように草叢を掻き分け、泉のほとりへ。
　美津子さんのクレバァス（割れ目）に、やっと唇をつける。
「ハァ――っ」
　美津子さんの口から、ため息が漏れたような…。
　と、わたしは、ミュージックが、突然止んだような気がした。

「あああっ、ぁぁぁぁ……」
　何かが崩れ落ちていくような、声が…。
　しかし、その声は、決して美津子さんのものではない。
　涼子の声なのだ。
　涼子の身に何かが、起こったのだ…。
　わたしは、部屋のもう一方の隅にいるだろう、涼子のところに駆けつけたかった。
　しかし、怖かった。
（涼子が犯されているのかもしれない…）
　その恐怖心を打ち払うように、わたしは、美津子さんのクレバァスを唇で、舌で嘗め回す。そして、舌先を丸めて、それをクレバァスの奥深くに侵入させる。そして、舌をねじ込みながら、膣内の肉襞からあふれ出る蜜を吸う。
「あああ、いいわ…」
　美津子さんの声だ。
　わたしは、股間のジュニアがギンギンに硬くなっているのを感じる。いや、先っぽから欲望の涎が漏れ出ているのさえ感じるのだ。
　わたしは、涼子のことをわすれようと、懸命に唇を動かす。
　唇はもう、美津子さんの淫液で、濡れに濡れている。
　わたしは、夢中で、美津子さんのラブ・ジュースを吸う。
　そして、それに飽き足らないように、今度は、狂ったように、美津子さんのクリトリスを舌で責めていた。
「ああっ、早くっ、ハヤクッ、欲しいわっ、欲しいわぁっ」
　わたしは、股間から顔を挙げる。半身を起こし、本能的に、美津子さんの足を左右に大きく広げていた。そして、美津子さんの足首に手をやり、Ｍ字型に股を広げてもらうようにする。
　美津子さんの股がパックリと開いた。
　わたしは下半身を前に進め、かつ、上半身を、美津子さんの上半身に重ねていこうとした。
　すると、美津子さんの手が下に伸びてきて…。
　美津子さんの指が、わたしのジュニアにかかる。
　と、ジュニアは、美津子さんの指に導かれて、熱い油が滾る蜜壷の中へ挿し込まれていく…。

「ああっ、いやよ」
　涼子の声だ。
「いいじゃないか」
「だめよ」
「欲しいんだ」
「だめだめ」
「そんなこと、今さら言っても…」
「ああっ、あああっ、ああ―――っ！」
　涼子の声が。
（入れられた！）
　わたしは直感した。
「あーっ、ああっ、あああああっ、イヤーッ！」
　まちがいない。
『ドッ、ドドドっ』
　音がするわけではない。
　しかし、わたしには、涼子が腰を振って、逃げようとしているように思えた。
　じっと耳を澄ます。
　何か、静かになったような。
　涼子には、もう逃げようがないのかもしれない…。
　涼子は、桜庭のやつに、完全にペニスを嵌められてしまったのだろう…。

　わたしは頬が熱くなったのを感じた。
　頬が紅潮しているのだ、興奮しているらしい…。
　が、おかしい。美津子さんの中で、急に、ペニスが萎えていくのだ。
　わたしはあわてている。
　美津子さんにわるいではないか。
　わたしは、腕立て伏せのかっこうになっていたが、ソファの上に突いて、伸ばしている両腕の肉が震えてくるのだ。
　腕の震えに耐えている。
　しかし、なぜかその震えを止めようとしても止まらないのだ。
　顔の頬の肉すら、震えて来るのだ。
　腋の下からは冷たい汗が流れ出してきたようだ。
　ジーンと冷たい神経の波が、背中から後ろの首筋を通って頭に走り、やがて、頭の中が真っ白になる。
　さらに、腕から、上半身の胸の肉に、震えが伝わって…。

　わたしは、腕立て伏せを止めていた。美津子さんの胸に顔をうずめ、美津子さんの上半身にしがみついている。
　ペニスは縮みあがり、完全に、美津子さんのクレバァスからは、はみ出ていた。

「ごめんなさい」
「気になるのね」
「ええ」
「……」

　美津子さんにすまないと思った。
　わたしは、美津子さんにしがみつき、涼子があえぐ声を聞かないように、聞かないようにしていた。
　体が震える。

　何かが伝わってくる。
　別に、『クチュ、クチュ』というような抜き差しの音がしているわけでもない。
　暗闇で、しかも視界はテーブルやソファでさえぎられている。
　桜庭の動きが見えるわけではない。
　それでも、桜庭が腰を使っているのが、空気を通して伝わってくるようなのだ。
（涼子は、涼子はどうしているんだろう…）

　桜庭の腰の動きが速くなったような。
　涼子を失う…。
（でも、でも、俺が先に、美津子さんを抱いてしまったのだ…）
　わたしは目を瞑った。
（早く、早く終わってくれ・・）
　わたしは心の中で叫んでいる。

「あっ、ああああ、ぁぁぁぁ……」
　涼子の声が、わたしの脳みそを刺激する。
　両手で、わが耳をふさぎたいのに、ふさげない。
　わたしは、よけいに美津子さんのからだにしがみついていく…。
「あっ、ああっ、あーん、ア―――ンッ！」

「終わったようよ…」
　美津子さんの声が耳元でした。
「……」
（ふーーっ）
　わたしは、心の中でためいきをつく。
　わたしは、冬でもないのに、からだが寒くて、寒くて…。
　立ち上がって、トランクスを穿いている。ズボンをつけていた。
　なぜなのだろう、胸がむかつくのだ。
　吐いてしまうかもしれない。
　吐けば、この部屋の絨毯を汚してしまう。
　早く、トイレに行かなくては。
　ワイシャツのボタンをはめるいとまもない。上着が見えた。それを取って、部屋ドアに向かう。
　廊下に出て、トイレに向かおうとする。
　しかし、部屋を出てから、ムカムカとする嘔吐は少し小康状態になり、しばらくは我慢できそうに思えた。
　わたしはトイレに入るのを、急に止めていた。
　廊下の先に玄関が見える。
　わたしは、涼子の顔が見たくもなかった。
　今、涼子を見れば、張り倒しそうだった。
　わたしは、玄関の戸を押し、すばやく、マンションを出ていた。

　駆け足で大通りに出る。
　手を挙げる。
　タクシーに乗り込む。
「東京駅まで」
　わたしは、怒ったようにそれだけを運転手に告げていた。

　わたしは、タクシーの中で、ぐったりとなって、背を椅子にもたせかけ、目を瞑っていた。
（涼子のやつ、許さん）
（入れさせてもいいだろうが、イクことはないんじゃないか！）
　わたしは、新幹線に乗って、早く自分のうちに帰りたかった。
　明日の朝、涼子のやつがうちに帰って来ても、絶対に、家の中には入れてやらないから、とわたしは心の中でしっかりと呟いていた。
　東京駅に着く。
　新幹線の切符を買う。
　下りの、のぞみの発車時刻２１：１８まで、少し時間があった。
　中央口の地下に降りる。待合室を見ると、空いていた。椅子に腰を降ろす。
　わたしは、涼子のことが心配になる。
（あいつ、現金を持っていたかな、キャッシュカード、持って来ていたかな？）

　発車時刻が近い。
　わたしは、改札口に向かう。
　エスカレーターに乗って、上のホームへ…。

「あなた、あなた」
　下から声がする。
　誰だろう？
「あなた、あなた」
（まさか！）
　わたしは、下の方を振り向く。
　なんと、涼子のやつだ。
（どうして？）
　が、遠くからだが、涼子の顔が真剣そうに見えるのだ。わたしのことを心配してくれているのだろうか？。
　エスカレーターの頂上が近い。
　わたしは顔を正面に戻している。
　エスカレーターを降りた。
　再び、振り向く。
　涼子が駆け上がってくる。
　涼子の顔が…。涼子の顔が、泣き出しそうなのだ。
（いい年をして、何だ、その顔は！）

「あなた…」
　エスカレーターを降りた涼子が飛び込んでくる。
　わたしは、それを受け止めていた、周りには人がいるというのに。
　わたしは、涼子を抱きしめていた。
「あなた、どうして…」
「ごめん。どうしても君を許せなくて…」
「……」
「おまえひとりを、マンションに置いて、出てきてしまって…」
「……」
「ゆるしてほしい」
「……」
　
　わたしは、涼子が何も言わないので、不安になり。
　からだをちょっと離して、涼子の顔を覗く。
　涼子の目には、涙が…。
「あなた、怒っているの？」
「あたりまえだろう」
「ごめんなさい」
「許さない、許さない。もう、絶対、おまえなんか、抱いてやるもんか！」
「うーん、いやいや」
「イっちゃうんだもんな」
「……」
「当分は、お仕置きだ」
「いや、いやっ」
「だめだ、だめだ、絶対許さん！」
「…　…　…　…」
　なんと、見ると、涼子のやつ、涙を流しているのだ。
（何と言う、馬鹿なおんな、なんだ…、こいつは…）
　でも、わたしは、涼子がいじらしくなってくる。
　桜庭のマンションにひとり置き去りにしたというのに…。この馬鹿な女は、わたしを追って来たのだ…。

　わたしは、また、ギュッと涼子を抱きしめていた。
「愛しているんだ、愛しているんだ、わかって欲しい。もう離さない、もう誰にも君をやらない。君は、俺ひとりのものだから…」
「ああっ、あなた…」
　わたしは、人目も気にせず、新幹線のホームの上で、涼子を抱きしめ、キッスをしていた…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（終り）