５　お葉が帰って来た

　女と男との間のことは　どうしてもわからない
　　どこまでいっても　わからないだろう
　　　男と女は永久に交わらない　平行線である
　
　　しかし　互いに理解できる程度で
　　　性の愛情を　持つことができるだろう
　　　　それはそれぞれの世界を　知るということであるから

　　　　　　　　　　　………　竹　久　夢　二

　わたしは、彼女のからだの上に、のしかかっている…。
　わたしは、腰をゆっくりと上下動させていた。
　顔が赤くなっていくのがわかる。
　目も充血しているみたいだ。
　でも、なかなかイキそうにない。

　接触がわるいのだ。
　わたしはズボンを穿いている。
　彼女も、袴（はかま）を穿いたままだった。
　わたしのジュニアが、とても我慢できないらしい、もっともっと彼女の股間を、彼女の割れ目の部分を感じたいらしいのだ。
　ほんのちょっとでも、ペニスの先が、彼女の外陰部を感じれば、あるいはイジェクト（射精）にまで至ることができるかもしれない。

　わたしは、恥ずかしかった。
　しかし、羞恥心より欲望の方がまさっていた。
「ねぇ、ちょっとお願いが・・」
「・・・」
「もっと、密着したいんだ、いいよね」
「・・・」
　彼女は目を瞑ったままだった。そして、何も答えてくれない。

「ねぇ、ちょっと、この袴が邪魔だから、上にあげさせてくれないか…」
　声が上ずっている。
「・・・」
　彼女は口を開かない。しかも、目もしっかりと瞑ったままだった。
　わたしは彼女が目を瞑っているということを幸いに、ゆっくりと袴をめくり上げていた。
　白い足袋。脱がせたいと思った。
　白い下肢。すね毛なんて全然ない。
　白い内腿。しみひとつない、すべすべの膚をしていた。
　パンツの中のペニスがビックンと飛び跳ねる。

　真っ白なズロースが目に入る…。
　わたしはごくりと生唾を飲んだ。
　頭がボーッとしてくる。
　しかし、わたしは一気に立ち上がっていた。
　足が震えている。
　彼女は目を瞑ったままだ。
　わたしは急いでズボンをぬいだ。
　パンツ姿…。不恰好極まりない…。でも、ペニスが勢いよく立ち上がるのがわかる。
　パンツが、テントを張ったみたいに盛り上がっていて、顔が赤らむ。

　パンツの中に手を突っ込んで。ちり紙の乱れを直す。
　ちり紙がペニスの先から、ずれないよう、しっかりと亀頭部に宛がった。

　わたしは、腰を降ろし、膝を突く。
　彼女の股間を広げ、その間に両膝を入れていく。
　ペニスの先がズロースのちょうど真ん中のところに当たるように、腰をくっつけていく。

　ペニスの先端部が、彼女のズロースの股間に接触していく…。
　別に、ペニスを彼女の膣の中に挿入したわけでもないのに、わたしは若い男のようにひどく興奮していた。わたしの頭の中の血が、みんな、ペニスの海綿体に集まってきたような気がした。
　わたしは、パンツを穿いたままなのだが、腕立て伏せみたいに両腕は突っ張っている。
　そして、上半身を弓のように反らし、下半身はしっかりと彼女の股間に密着させていった…。
　腕を突っぱねたまま、腰を左右に振らし、彼女の柔らかな股間で、ペニスを刺激した。とても気持ちがいい。
　けれども、わたしの下にいる彼女は、苦しそうに顔をゆがめている。
　わたしは、かわいそうになり、彼女の上半身に、わたしのからだをあずけていく。
「ごめんね、もう少しだからね。がまんしてね」
　わたしは、上半身を彼女の胸に合わせながら、耳元でそっと囁いていた。
　
　彼女は仰向けになって寝ている。わたしは彼女の耳元に顔をくっつけている。
　けれども、彼女の気配で、わたしは彼女がこっくりと頷いたような気がした。

　彼女の芳しい匂いが、わたしの脳の神経を刺激する。
　とても、じっとはしておれない。
　わたしは、また、腰をぐりぐりと回転させるように動かした。
　ペニスが彼女の股間のやわらかな肉で刺激を受ける。とても気持ちがいい。
　でも、彼女は…。

　わたしは、射精を急いだ。
　動く。乱暴に。
　彼女のことは、どうでもよくなってきた。
　ともかく射精をして、気持ちのいい放出感を味わいたかった。

　わたしは、決して彼女を犯しているわけではない。
　しかし、ズロースの上からであろうと、気持ち的には、完全に彼女を犯そうとしていた。
「うっ、うっ、うううっ・・・」
　わたしが腰を打ちつけるたびに、そして、グリグリッと腰を回転させるたびに、彼女は呻いた。
　ズロースがあるのだ。それに、間には、わたしのパンツの布地だってある。
　膣が痛いはずはないのだ。
　でも、彼女は、ずりあがり、上に逃げようとしていた。
　しかし、わたしは彼女の肩口を押さえつけていく。
　逃がさない。そして、彼女の股間を固いペニスで苛めた。
　彼女が、声にならない声を漏らす。
「ぅぅ、ぁっ、ぁぁぁ…、」
　しかし、わたしはその呻きにかえって欲情し、腰を押しつけつつ、彼女を犯し続けていた。

「あっ、うっ、うううっ・・」
　わたしは構わず、腰を上下動させて、彼女の股間を硬いペニスで突き立てた。
　そして、少し腰を浮かせて、パンツの中に手を入れ、ペニスの先を持って、彼女の股間の奥深くに突き当てるようにした。そしてそのまま腰をくっつけ、ぐるぐるとグラインドさせた。
「ぅぅぅ、ううう、ぅぅぅ」
　彼女が頭を左右に振る。

「あっ・・あああ、あああ」
　あまりに気持ちよくて、今度はわたしが呻いた。
　プクーッとペニスが膨張する。
　爆発しそうだった。
　わたしは、彼女の肩にしっかりとしがみつく。
「ウッ」
　思わず、わたしは呻いた、股間から腰の後ろへ鈍い痺れが・・。
　が、その痺れは鋭さを増して、腰の後ろ側から背骨を伝わり、そして、それは電流となって、脳天を突き抜けた…。頭の中が真っ白になっていく。
　気がつくと、わたしは、ドクドクドク――ッと、激しく気を遣っていた。

　湧出した精液が、ちり紙の内側から垂れ流れ、内腿の皮膚を濡らしていた。
　でも、わたしは、まだ、彼女の上にいた。
　わたしは、のしかかったまま、彼女にキッスをした。
「重かったかい？」
「う、ううん・・・」
　彼女が言葉を発した。
　その言葉の中に、わたしを蔑むような感じはなかった。
　わたしはうれしくて、彼女ににっこりと微笑んだ。
　わたしは、また、腰をくっつけた。
　股間のペニスがまた、もっこりと頭をもたげてくる。
　わたしはあわてた。
　そして、彼女のからだの上から降りた。
　わたしは横になり、彼女を仰向けから横向きにさせて、彼女のからだを抱き寄せた。
「君には、また、わるいことをしてしまった…。でもね、君が我慢をしてくれたおかげで、僕はとってもいい気持ちになったよ。君のからだの上で白い液を吐いた時、僕はもうこのまま死んでもいいと思うくらい、とてもいい気持ちになった…。ありがとう…」
「・・・」
「僕を軽蔑するかい？」
「・・・」
「軽蔑されてもいい。でも、僕は君が好きなのだ。君に軽蔑をされても、ともかく僕は、君の股間に僕のペニスをくっつけて、気持ちよくなりたかった・・・」
　彼女の顔を見た。
　彼女は顔を赤らめていた。

　わたしは、彼女がわたしの乱暴なエッチを許してくれたような気がした。
　彼女は、まったくの年下なのに。
　わたしの娘といってもいいくらいなのに。
　でも、わたしは彼女に甘えたかった。
　わたしは、わたしの額を彼女の肩先にくっつけて、目を瞑った。そして、子どもみたいに、額を彼女の肩先にぐりぐりと、くっつけて行った。

　最終電車にまだ間に合う。
　わたしは、下高井戸の停留所まで、彼女を送っていった。
　電車がやってくる。
　わたしは突然、彼女を抱き寄せていた。
　そして、わたしは何も考えず、顔をかがめながら、彼女にキッスをしていた。
　電車が出そうだ。
　わたしはやっと彼女を離した。
　わたしは、唾液を漏らしていた。
　口を手でぬぐう。
　そして、彼女を電車に乗せた。
　ドアが閉まり、わたしは彼女に手を振る。
　と、彼女が恥ずかしそうに笑い、そして、手を振っていた、わたしに向かって…。

　お葉が帰ってきた。
　家出をして、４カ月になる。
「どうしていたんだ？」
「お願い、何も聞かないで…」
　お葉は何事もなかったように家のことをしはじめた。
　わたしは、お葉を抱くことができなかった。
　家出の原因は、男だと思っていたからだ。
　たぶん、相手の男というのは、以前住んでいたうちの隣家で書生をしていた男だろう。
　隣家の主人は西出朝風と言ったが…。書生していた男の名は確か、尾形と言っていた…。

　わたしは、お葉のことより、彼女（雪江）のことが気になっていた。
　だから、わたしは、お葉を寝室には入れなかった。
　そして、わたしが彼女を犯した日本間にも。
　お葉には、粗末な三畳の日本間を使わせていた…。
　わたしは、この４カ月間、お葉が男なしに過ごしていたとは思えなかったからだ。

　寒い日だった。
　しかし、何やら、わたしはじっとしておれなかった。
　抗うつ剤が効いて、わたしはかえって、躁（そう）状態（＝気分が高揚した状態）になったのかもしれない。
　それに、わたしはひょっとしたら、彼女に恋をしたのかもしれない。
　年甲斐もなく…。
　だが、アトリエに入って、デッサンの筆が執れるようになったことは事実であった。
　鬱（うつ）状態（＝気分が落ち込んだ状態）の時には考えられなかったことだ。鬱（うつ）のときは、何をする気も起こらなかったのだから。
　
　外は寒い。
　わたしは、厚着をして、庭に出た。
　庭の手入れをしはじめたのだ。
　お葉も出てきた。
　お葉も手伝ってくれた。

　と、誰かが。
　彼女だった。
　わたしは立ち上がっていた。
　しかし、お葉と庭の手入れをしているところを彼女に見られ、動揺していたのだ。
　彼女に何を言っていいのか、わからずに。
　頭の中は真っ白になっていた。

　彼女が立ち去っていく。
　せっかく、この山荘に、わたしを訪ねてくれたのに。

「彦乃さんに似ているわね」
　耳元で、お葉の声がした。
「えっ？・・・」
　わたしは、そばにお葉がいるのに気がついていた。
　それなのに、わたしは、一歩足を前に踏み出していた。
　いつか、わたしは、早足で、彼女の後を追っかけていたのだ。

　わたしは、やっと、下りの山道で彼女に追いついた。
　彼女と並んで歩いていた。
「あれは、ね、お葉という女で。近々、尾形という男と結婚する予定なんだよ」
　わたしの声は、上ずっていた。
　そうだろう。わたしは、嘘をついているのだ。
　でも、わたしは、彼女を失いたくなかったのだ。
　せっかく、彼女のおかげで、絵を描くという気力が生まれたのだから。

　彼女とのことは片想いでいい。
　プラトニック（精神的）なものでいい。
　彼女がいるというだけで、わたしは、絵を描くというエネルギーが芽生えるのだから…。

　わたしは、嘘をつき続けていた…。
「あのお葉というのは、今、わたしの家にいるんだがね。このあいだまでは、尾形という書生と、旅に出ていてね。そこで、ふたりは結婚の約束をしたらしいのだよ。今、尾形という書生は、両親に結婚の許しを乞いに故郷（さと）に帰っているんだ。だから、そのあいだ、ほんの少し、わたしの山荘で預かっているんだよ」
「・・・」

　いつのまにか、下高井戸の停留所に着いていた。
　電車はいつやってくるかもしれない。
　わたしはあせっていた。
「あの女とは何でもない。わたしが好きなのは君なのだ」
「・・・」
　わたしは、額に汗を掻いていた。嘘を並び立てているのだから。
　お葉と何でもないはずがない。
　お葉は、確かに正式には、わたしの妻ではない。しかし、わたしの内縁の妻にまちがいはないのだ…。

　でも、お葉は、やがて、尾形の許に嫁いでいくだろう。
　わたしはひとりになる…。

　わたしは目を瞑って言った。
「ねぇ、君の住所を教えてくれないか」
　わたしの声を震えていた。

　わたしはおそるおそる目を開けた。
　と、彼女は手提げから、紙と鉛筆を取り出していた。
　彼女が、住所を紙に書いている。
　彼女が、その紙をわたしにくれた。
「僕にも、それを貸してくれないか？」
　わたしは、紙と鉛筆を借りた。
　そして、銀座の駅から、フランスケーキ店「コロンバン」へ行く道筋を描いた。
「明日の午後３時、ここで会おうね」
「・・・」
「僕は、待っているから。いつまでも、君を・・」

　彼女は俯いたまま黙っていた。
　わたしの目の端に、上りの電車が入ってくる姿が…。
　わたしは、彼女の真正面に行き、そして、彼女の肩に手を置いた。そして、その手を引き寄せた。彼女は、素直にわたしの胸に寄ってくる。
　愛おしかった。
　わたしは彼女を引き寄せる。
　股間のモノが硬く大きくなっていく。
　でも、わたしは恥ずかしげもなく、その固くなったモノを彼女の下半身に押しつけていた。
　わたしは彼女の肩を抱きしめながら、顔の横を彼女の耳元にくっつける。
「好きだよ。だからあしたはきっとあの店に来てね」
　わたしは人目も構わず、背中に手をやり、しっかりと彼女を抱きしめていた。
（つづく）

（注）この小説を書くにあたって、下記の図書を参考としましたので、あらかじめおことわりしておきます。
「〈評伝〉竹久夢二」　三田英彬（ひであき）　著　　芸術新聞社　刊
「竹久夢二　　恋の言葉　　」　　石川桂子　編　　　河出書房新社　刊
「竹久夢二　−美と愛への憧憬に生きた漂泊の画人−」　石川桂子・谷口朋子　著　　六耀社　刊
「竹久夢二　−大正モダン・デザインブック−」　石川桂子・谷口朋子　著　　河出書房新社　刊
「明治・大正　家庭史年表　下川耿史　家庭総合研究会　編　河出書房新社　刊
「夢二抄　山の巻　◎絵と画論」　　　品川洋子　　編　　グラフィック社　刊