９　順子と肉の喜びを

　　「何を考え込んでいらっしゃるの
　　　　もう後悔していらっしゃるんじゃないこと？」
「いいえ　おくさん
　　実はもっと嬉しくてもよいはずだがと
　　　思っているところなんです」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　竹　久　夢　二　　作

　わたしは、彼女（山田順子）に見つめられてどきどきしてしまった。
　照れかくしにビールを飲む。

「先生は、わたしみたいな女、おきらい？…」
　なんと答えればいいのだろう。
「いや、その。あなたは魅力的な人だから…。男たちがみんな群がってくるでしょう。だから僕が…」
「あらっ、そんなこと、ありませんわ」

　わたしは彼女を見つめていた。
　彼女は、秋田市の高等女学校を出て事業家の許に嫁いだという。
　彼女には、３人の子があった。
　それなのに、彼女は、３人の子と夫を捨てて、秋田から東京に出てきたのだ。
　最初に、作家徳田秋声のところに自伝小説を持ち込んだらしい。
　彼女と徳田秋声との間はどうだったのだろう？。男と女の仲はなかったのだろうか。
　彼女の小説の出版を請け負った出版会社の社長とは一体、どういう関係であったのだろうか。

「ねぇ、何を考えていらっしゃるの？」
「……」
「ひょっとして、お葉さんのこと？」
「……」
「でも、お葉さんは籍にはお入れになっていないんでしょう？」
「しかし、それは。ともかく、僕は、そんな世間的なことに興味はありません」

　実際、わたしは、お葉のことを持ち出されても、心の動揺はなかったような気がする。
　むしろ、宇佐美雪江のことがばれていなくて、ほっとしていた。
　実際、宇佐美雪江との淫行は、罪深いことであった。

　わたしは宇佐美雪江の、ヴァギナからにじみ出る淫液を啜っていた。そして、コリッと硬くなった彼女のクリトリスを唇や舌でこよなく愛していた。そういうみだらな自分がまだ山田順子に、ばれていないことが救いだった。

「先生って、お葉さんのこと、今でも愛していらっしゃるのね」
　わたしは驚いた。
　彼女は、まるで、尾形とお葉のことすらわかったような口ぶりであったからだ。
「もう、彼女のことは言わないでください。彼女は今、尾形という青年と所帯を持とうと懸命になっているのですから…」
「先生って、お優しいこと…」
「そんなことはありませんよ。僕だって、お葉が尾形と家出をしたことがわかった時、頭の中が真っ白になって…」
「えっ、それから…」
「それから、彼女の首を、この手で締めてやろうと思ったくらいなんです」
「まぁっ、そんなに・・・」

　わたしは、お葉のことから、話題を逸らそうと思った。
「ところで、あなたはどうなのです？」
「どうって？」
「つまり、その、あなたの本を出版された会社の社長さんとのことですよ」
「別れましたわ、あの人とは…」

　わたしは内心、驚いていた。
　あまりにもあっけらかんとしている。
　『別れた』ということは、裏を返せば、最近までは、その出版社の社長と肉体的関係があった、ということではないのか。
（しかし、なぜ、別れたのだろう？）

「あの人ったら、わたしのこと、なかなか籍に入れてくれなくて」
「……」
「やはり、あの人も、奥さんとは別れることができなかったみたい…」
「……」
　わたしは返す言葉がなかった。
　この人は、イプセンの「人形の家」の女主人公のノラのように、自立した女をめざしているのではなかったのか。
　そんな人でさえ、やはり、「籍を入れる」とか「結婚式を挙げる」とか、そういう社会的な「しきたり」にこだわるのか。
（やはり、お葉にとっても、わたしが籍に入れないということが不満だったのかもしれない。わたしがちゃんと籍に入れてやったら、尾形と、あんな間違いは起こさなかったかもしれない…）

「ねぇ、ここを出ませんこと？」
「……」
「わたし、疲れたわ。どこかで休みたい…」
　わたしは小料理屋の支払いを済ませた。
　わたしは街を歩きながら、まだ迷っていた。
　お葉にわるいような気がした。お葉は気の迷いから鬱（うつ）状態に陥り、温泉療法をしているのだ。
　それに、雪江とのことだってある。もし、わたしがこの山田順子と寝たら、さぞかし雪江は軽蔑することであろう。雪江はきっとわたしから離れていくだろう。
　しかし、待てよ、それは返って、雪江にとってはよいことかもしれない。こんなわたしのような、ふしだらな男に関わっていたら、いい将来は開いていかない…。
　
「上野に行かないこと？」
「でも…」
「あそこにはとってもいい旅館があるのよ」
「大丈夫なんですか？」
「何が？」
「いや、その…」
「なぁ〜に？」
「……」
「もしかして、あかちゃんのことだったりして…」
「そんな・・」
「だって、先生ったら、あっちの方、お強そうだから…」
「まさか……。でも、心配は心配ですよ」
「あらっ、そんなこと心配していらっしゃるの？。大丈夫ですわ。ここに、ペッサリー（避妊具）が入っていますから」
　彼女が手提げ袋を顔まで差し上げている。
　彼女の顔が輝いていて、魅力的だった。

　わたしは上野まで行くことにした。
　生（なま）で彼女とコイタス（性交）ができるかもしれない…。
　わたしは、雪江とのペッティング（擬似的性行為）に欲求不満であったのかもしれない…。
　わたしは、なぜか、彼女の中に、いっぱい、自分の欲望の種を吐き出してしまいたくなっていた…。

　彼女は手馴れていた。旅館に入ると、さっさと部屋に入る。
　そして、彼女は、
「わたし、先にお湯を使わせていただきますわね」
　と言い置くと、旅館が用意している浴衣と手ぬぐいを持って、部屋の外へ出て行った。

　彼女がゆかた姿になって戻ってくる。
　色っぽい。
　彼女の姿を見ないようにして部屋を出る。

　わたしも、お湯につかり、そして浴衣に着替え、部屋に戻っていた。
　彼女が籐椅子に座っていた。
　わたしは、彼女のところに近寄る。
　と、わたしが腰を降ろしたと思う間もなく、彼女が手をわたしの首に巻いてきた。
「ねぇ、キスして！」
　わたしは、彼女にキスをした。
　からみつくようなキス。
　さすがに、わたしは股間のモノをすでに大きくしてしまっていた。
　胸の鼓動が高鳴る。
　それを悟られぬよう、唇を離し、彼女に言った。
「あなたは、ペッサリーをお使いになるんですよね」
「ええ、まだ、わたし、これでも月のものがありましてよ。だから…」
「……」
「お医者さまのところで、ちゃんとわたしの子宮頸口の大きさに合ったペッサリーをつくっていただいたのよ」
「へぇー、そうなんですか」
「見てみる？」
「えっ！？」
「嵌めるところを」
「いいですよ、そんな」
「ともかく、先生、早くお布団を引いて…」
「ええ」

　わたしは押入れから敷き布団を出す。
　彼女と、わたしのと。
　少し、離すべきかもしれない。
　しかし、面倒くさかった。ふたつの敷布団はくっつけてしまっていた…。
　そして、糊のついたシーツを敷く…。

　彼女は、敷布団の上に膝を崩して座っていて…。
　そして、手提げ袋を引き寄せている。
「ねぇ、先生、見たい？」
「……」
「これがそうなのよ」
　彼女が、輪になったゴム製品を見せてくれた。
「ああ、これがペッサリーなんですね」
「ほら、ここに、厚くなった輪っこがあるでしょ。ここに、殺精剤を塗って。そして、膣から入れ込み、子宮の入り口に蓋をしてしまうわけ…」
「なるほど」
「ほらっ、これが、殺精剤よ」
　見ると、彼女がチューブのようなものを手にしていた。
　彼女はふたを取り、指の先に絞り出している。
　殺精剤というのは、何か透明なゼリー状のようなものだった。
　それを人差し指にすくい取り、彼女は、ペッサリーの厚くなった輪のところに塗っていた。
　と、彼女は、立ち膝になり、股を大きく広げて…。
　からだをかがめ、自分の股座の中を覗きこんでいるような。
　何だか、その格好が、わたしには、ひどく色っぽく見えて…。
　股間が熱くなってくる。
　ビックンとペニスが跳ね上がり、わたしはあわてて、彼女のエロチックな格好から目をそむけた。

「うまく行ったわ」
「……」
「先生、これで、大丈夫よ。いっぱい出してもいいわよ」
　情けない話だが、彼女のあっけらかんとした振る舞いに、わたしは怒るどころか、ますます股間を熱くするばかりだった。

「先生、抱いて！」
　わたしは、抵抗する間もなく、彼女の胸のところに、頭を抱え込まれていたのだ。
　彼女の乳房の谷間には、風呂上りのソープ（石鹸）の匂いがした。
　わたしはまるで、餓鬼のように手荒く、浴衣の袷（あわせ）を掻き開いていた。
　胸当ては、すでに脱いでしまったものらしい。
　おおきなおっぱい。
　わたしは、そのおっぱいに手をかけ、むしゃぼりついていた。
「アン、そんな、先生。もっと優しくして…」
　わたしは、興奮のあまり、彼女のおっぱいをギュッと手でにぎってしまっていたらしい。
　左のおっぱいを押さえていた、自分の右手の力をちょっとゆるめる。
　そして、右のおっぱいをにぎっていた左手もゆるめ、乳首にからめていた舌の力も少し抜いていく。

　わたしは、舌先で、乳首をころがすように舐めていた。
「ああっ、いいわ、とっても…」
　わたしは、手でおっぱいをやわやわと揉みしだきながら、乳首をくちびるではさむ。そして、舌を乳首にからめ、捏ねるようにして乳房全体を圧迫する。すると、乳首がおっ立ってきた…。
　おっぱいを口いっぱいに吸いながら、右手で彼女のおなかをさする。そして、彼女の内腿を愛撫する。と、右手の指先が濡れる。
　不思議に思い、右手を彼女の股間に当ててみる。指が濡れる。
　すでに彼女の股間は、淫液で濡れそぼっていたのだ。
　それに彼女は、もうズロース（パンティ）を脱いでいたのがわかった。

　わたしは、おっぱいを吸いながら、右手を彼女の股間にさ迷わせていた。
　中指が、小陰唇に触れる。
　その小陰唇のビラビラの肉は、まるでヒレ肉のような気がした。
　ペニスをヴァギナに入れ込み、出し入れをすると、亀頭部のくびれのところがこのヒレ肉にこすれ、さぞかし気持ちがいいことだろうと思う。
　中指をクレヴァス（膣）の中に挿し入れる。
　中は淫液で満ち満ちていた。
　掻き混ぜると、クチュクチュと音がする。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
　淫液で濡れた中指で、クレヴァスの上のクリトリス（陰核）を捏ねるように撫でる。
「はぁーん、はぁっ、はぁっ・・・」

　わたしは、彼女の足を広げて、彼女の股座に入り込む。
　そして、彼女の股間に顔を入れ込む。
　わたしの顔に、彼女の陰毛が当たっている。
　陰毛を唇で掻き分ける。
　そして、彼女のおサネ（クリトリス）を探し当てた。
「はぁ、うーん・・・」
　オサネをしゃぶる。
　そして、中指の腹のところを上にして、彼女のクレヴァス（膣）の上っ面を撫でこする。
「ああああっ・・・」
　そして、硬くなったクリトリスを口で含み、舌先でクリトリスの先端部をちろちろと舐める。
「アーン、アアアアッ、アアアッ・・・」
　彼女のクレヴァスの奥からは、ジクジクと淫汁が湧き出てくる。
「ハァ−ン、欲しいわ、欲しいわ」
「ねぇ、何が？」
「あなたのモノ」
「うん？」
「あれが、あれが・・」
「あれでは、わからないよ」
「うーん、バカバカ、あれよ、アレ…」
「なに？」
「あなたのオ○ん○ん」

　わたしの股間のモノは、もう、透明な先走りの露を出していた。しかし、それでも、わたしはソレを入れなかった。
　彼女のからだの上に、半身の形で、のしかかりながら、唇で乳首をいたぶり、指で彼女の膣の中を掻き混ぜていた。
「ハァ〜ン、いやっ、欲しいわ、欲しいのに」
　彼女が胸を跳ね上げ、腰をもじもじさせる。

　わたしはとうとう、彼女の両脚を開かせ、その間に、自分の下半身を押し込んでいた。
　彼女の両膝を上げさせて、股をＭ字型に開かせる。
　ムーッとしたような匂いが立ち上り…。
　それに、まるで、彼女のアソコがジクジクと音を立てているような気さえした。

　わたしは、半身を起こす。
　先っぽを宛がう。
　その先端部が濡れる。
　わたしは腰を入れ込んだ。
　スムーズだった。
　中が洪水のように淫液であふれていたせいだ。
「ウーン」
　彼女は、身を反らし、腰を持ち上げる。
　わたしのモノが、奥深く入り込んだような気がした。

　わたしは、上体を彼女の上体に重ねていく。
　彼女が抱きついてくる。
「ああっ、いいわ、いいわ」
　彼女が手を背中に。そして、足はわたしの腰に巻きつけてくる。
　わたしは十分に動けない。
　小刻みに動く。
「フーン、フンフン」
　彼女が下から腰を突き上げるようにしているのがわかる。
　と、彼女がわたしの腰にからめていた足を降ろし、その足をピーンと伸ばしたような。
「うっ、ううううっ、ううう」
「どうしたの？」
「うっ、イクイク、イクわ、イクわ」
　彼女は体を痙攣させ、顎を上げ、上体を反らしながら、イッてしまっていた…。

　彼女を見る。
　目を瞑り、ガックリと両肩を布団に落としているようだ。
　わたしはまだイっていなかった。
　まだ、彼女とつながっている。
　抜きたくなかった。嵌まったままの方が、気持ちがいいのだ。
　両肘を立てて、わたしのからだの体重を支える。
　彼女にわたしの体重をかけたくなかったのだ。
　少し、彼女を休ませて。
　そして、彼女をもう一度イカせることにした。

「アン？」
　彼女が目を開いた。
「気がついたかい？」
「まぁっ、あなただったの？」
　彼女は、わたしのことを、あの出版会社の社長と間違えているのだろうか。

　それでも、わたしの股間のモノは、彼女のヴァギナの中で萎えていかなかった。
　相変わらず、彼女のヴァギナの中は熱く、湿っていた。

　わたしは彼女にキスをした。
　舌を差し込む。
　彼女が、わたしの舌に舌をからめてくる。
　彼女のヴァギナの中で半立ち状態だったペニスがまたぞろ力を得て硬くなる。
　わたしはまた、動きはじめた。
　腰をグリグリと回す。
　でも、大腰を使って、大きく抜き差しをするのがいい。
　亀頭部のカリ首のところを、彼女のヒレ肉（小陰唇）でもって、こすられるのが気持ちいいのだ。
　もう彼女のヴァギナの中は、どろどろであった。
　とても動きやすかった。
　大腰を使って抜き差しをする。
　ペチャペチャと音がする。
　股に股をぶっつけるようにする…。

「ああっ、また、また変になりそうよ」
「………」
　わたしは、深く打ち込む。
「あああっ、いいわ、またイクわ、イク、イク、イク――ッ」
「イッて、イッて、僕もイクから・・・」
　わたしは、急ピッチで動く。
　腰に痺れが急速に広がり…。そして、脳天を突き抜けるような電流が走り抜けた…。
　目の前が真っ暗になる。
　グビィグビィと、尿道の奥のところが大きく脈打っているのがわかる。
　あまりに気持ちがよくて彼女にしがみつく。
　渦巻く快感の嵐の中で、わたしは、彼女の中に、おびただしい量のスペルマ（精液）をほとばしらせていた…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）

（注）この小説を書くにあたって、下記の図書を参考としましたので、あらかじめおことわりしておきます。
「〈評伝〉竹久夢二」　三田英彬（ひであき）　著　　芸術新聞社　刊
「竹久夢二　　恋の言葉　　」　　石川桂子　編　　　河出書房新社　刊
「竹久夢二　−美と愛への憧憬に生きた漂泊の画人−」　石川桂子・谷口朋子　著　　六耀社　刊
「竹久夢二　−大正モダン・デザインブック−」　石川桂子・谷口朋子　著　　河出書房新社　刊
「明治・大正　家庭史年表　下川耿史　家庭総合研究会　編　河出書房新社　刊
「夢二抄　山の巻　◎絵と画論」　　　品川洋子　　編　　グラフィック社　刊