４　摩耶のからだを抱く

　わたしたちは、摩耶のマンションに着きました。
「摩耶、カギは？」
　摩耶が、バッグから鍵を取り出して。
　それをわたしに貸してくれたので、わたしがドアを開けました。
　肩を抱えるようにして、部屋に入ります。
　ライトを点けます。ベッドが目に入りました。
　やっと、摩耶をベッドの上に寝かせつけました。

　わたしは、ベッドの下の板の間に膝をつき。
　立ち膝のまま、寝ている摩耶に尋ねます。
「摩耶、おなかはどう？」
「……」
「薬箱はないの？」
「……」
　わたしは部屋の中を見渡していました。
　部屋は乱雑でした。
　女の子なら、もっときれいに片付けられていると思ったのに。
　摩耶は、マスクはかわいくて、服装もしゃれていましたから、部屋の中もきちんと掃除をしていると思っていたのに…。
　そして、クローゼットはあるようですが、家具はあまりなくて。机とか、書棚とか、そういうものは見当たらなくて。
　それに、薬箱なんか、とても置いてはなさそうでした。
　摩耶はお金持ちの子のように思っていました。
　ちょっと失望していました、わたしは。

　でも、そんなことで、摩耶を非難できるでしょうか。
　わたしは、親から仕送りを受けていました。それで、バイトをする必要もなくて。それなのに、大学の勉強に興味をなくし。大学を休学し、大学の授業料を払いながら、コンピューター学院に入学し。コンピューター学院でも入学金と授業料が。それもこれも、全部、親がお金を出してくれたのです。

　わたしは、ベッドからずり落ちていた毛布を摩耶に掛けてやりました。
　摩耶は寝ているようでした。
　でも、こっそり帰るわけにもいかず。
　摩耶の耳元に、顔を近づけ、そっと言いました。
「摩耶、僕は、これで帰るからね」

　と、摩耶が目を開けて。
「まだ、わたし、おなかが痛いのに…」
「でも、少しはよくなったんじゃないの？」
　わたしは、どうしたことなのでしょう。医者でもないのです。おなかの痛みを抑える飲み薬もなくて。
　でも、何とかしてやろうと。毛布の中に手を差し入れて。摩耶のおなかに、自分の手を置いてやっていたのです。
「摩耶、僕がこうして、手を置いていてあげるから、さぁ、眠りなさい」
「うん…」
　摩耶は、安心したように、目を瞑りました。

　ふと、わたしは目覚めました。
　うたた寝していたのでしょうか。
　わたしは、自分の部屋以外の部屋にいるのに気がつきました。
　ベッドの下の、板の間に下肢をつき、胸をベッドにつけ、うつぶせになりながら、眠っていたようなのです。
　
　顔を上げると、ベッドの上で、摩耶が眠っていました。
　とても穏やかな顔で。
　わたしは、思わず、手を伸ばし、摩耶の頭を撫でていました。
　たぶん、摩耶が愛おしかったのだと思います。
　摩耶は、それでも眠っていました、目を覚まさないのです。
　わたしは、摩耶が眠っているなら、ちょっとぐらいキスをしても構わないだろうと思いました。
　さようならのキスをして、この部屋を出ていこうと思ったのです。
　
　わたしは、顔をそっと近づけ、摩耶の乾いたくちびるの上に、自分の唇をそっと重ねました。
　摩耶の鼻からの息が、わたしの鼻にかかり、そして、摩耶の口紅の匂いがして。
　そして、摩耶のくちびるの感触が、とてもよくて…。少し、摩耶のくちびるが湿ってきたような。
　わたしは、重ねた唇を離すことができなくて。

　重ねたままにしておけばよかったのに。
　わたしは、ついに。
　自分の唇で、摩耶のくちびるを押し開けていったのです。
　自分の唇が、摩耶の前歯に当たります。
　それでも、わたしは、摩耶の口を開けようとしているのです。
　摩耶の上の歯と下の歯とのあいだには、隙間がありました。
　その隙間に、わたしは自分の舌を差し入れていったのです。

　摩耶のくちびるが大きく開かれ。上の歯と下の歯が離れていき。そして、わたしは、唇で、摩耶の舌を捕らえはじめていました。わたしは、摩耶のくちびるを吸い、舌を吸いました。
　摩耶の、おんなの匂いが湧き上がってくるような気がしました。
　その匂いがわたしの鼻腔を刺激し…。
　摩耶の発する雌（メス）の匂いは、やがて、わたしの脳みそを刺激し、わたしは、雄（オス）としての欲望を掻き立てられたような気がします。

　と、摩耶が目を覚ましたような。
　わたしは、びっくりして、顔を挙げました。
「あっ、あなただったの？」
「ごめん、つい」
「……」

　わたしは、恥ずかしくて。
　いや、相手が眠っていることを幸いに、エッチなことをした自分が何か罪深く思われて。つい、言い訳をしてしまい…。

「ごめん、君があんまりかわいかったもので。眠っているのを、これ幸いに、大人げのないことをしてしまって…、わるかった…」
「……」
「さようならのキスだけを、と思っていたのに」
「帰るの？、もう…」
「ああ。何か、君もぐっすり眠っていて。だから、おなかが痛いのも、もう大丈夫かな、って思って…」
「泊まっていってもいいのに」
「でも…」
「何かあるの？」
「いや、別に帰らなくてはならない用事なんてないけど」
「だったら…」
「でも、君と、こうして、ふたりっきりでいると」
「……」
「僕だって、男だよ。変な気になってしまうよ」
「で、どうだった？」
「何が？」
「わたしとのキッスの味…」
「ああ、とってもおいしかったよ」
「……｣

　摩耶が微笑んでいる。
　わたしは、その時、あの野崎さんの言葉を思い出したのです。
『うまく、やりなよ』
　野崎さんは、確かに、摩耶が僕に気があるということを、あの焼き鳥屋で、言ってくれていたのです。
　わたしは、摩耶の心を確かめたくなりました。
　そのためには、まず、わたしの方から切り出さなくてはなりません。

　わたしは、摩耶に囁いたのです。
「摩耶、僕は、君が好きなんだ」
「……」
　摩耶は返事をしません。
　わたしを見詰めたまま…。
　わたしは、もう一歩踏み出す必要があったのです。
「君が好きなんだ。だから、これから僕と付き合って欲しいんだ。むろん、最初は恋人としてじゃなくてもいい。ボーイフレンドの一人としてで、いいから…」
「どうして？」
「君のことが、好きだから」
「どこが？」
「うーん、よくわからない。でも、君は魅力的で、話していて、胸がドキドキするから」
「それから…」
「わからない」
「それだけ？」
「でも、しようがないじゃないか、まだ、オフ会（オフラインミィーティング）で会っているのは、数少ないし…」
「……」
「でも、君の持っている全体的な雰囲気って、とても好きだよ」
「どんな雰囲気？」
「とてもセクシーで…」
「そぉ…」
　摩耶はなぜか悲しそうに、睫毛を伏せました。

　わたしは、女性と実際にセックスをするのは、はじめてなのです。
　でも、清水の舞台から飛び降りることにしました。
　摩耶にきらわれてもいい。
　ともかく、摩耶とセックスをしてみようと思ったのです。

　わたしは、摩耶に掛けてやっていた毛布を取りました。
　わたしは、ベッドの上に上がったのです。

　上着を脱がせました。
　薄いピンクのスリップが現れます。
　肩からはずさせました。
　ピンクのブラジャーが。
　前に、ホックが見えました。そのホックをはずしました。
　そして、スカートを脱がせます。
　真っ白なパンティでした。
　それは、摩耶の淫乱な性格に似合わず。
　でも、その純白の白は、わたしの心を慰めます。

　摩耶を見ました。
　摩耶は、目を瞑っています。
　わたしは、摩耶のパンティに手を掛け、そして、パンティを下へ下へとずり下げていきました。
　摩耶は、素っ裸になりました。

　わたしは、それまで、女性の、本物のからだをこんなにしげしげと見たことは一度もありませんでした。むろん、実際のセックスも未経験です。
　それまでに、マスターベーション（＝自慰行為もしくは手淫）というのは、高校生の頃からやってはいましたが。
　もっとも、手淫専門のくせに、男性が求める、女性器については特別な関心がありました。
　でも、あの撮影会のときには、まともには見ていなかったようです、摩耶の股間を。
　そんなに、あつかましく覗くなんて、そのときには、そんな度胸がなかったのです。

　でも、今は、摩耶とふたりっきりなのです。
　わたしは、そのとき、摩耶の女性器を見たいと思ったようです。

　実は、わたしは、インターネットなどで、女性の性器は、その画面を拡大しながら、その構造を学習していました。
　つまり、女性の性器の中に、膣というのがあって。それは、月ごとに訪れる月経のときの血液や、お産のときの赤ちゃんの通る道であるという知識です。
　むろん、さらに、そこが、硬く、大きくなった男性器を受け入れるところであるということも。
　そんなことはあたりまえのことなのかもしれませんが。でも、それを頭の中で、学習するたびに、わたしのペニスは躍動し、そして、その先端部から淫液を漏らすのでした。

　そして、そういう膣であるとか、おしっこの出口である尿道口というのは、普段は、ふっくらとやわらかく盛り上がった皮膚のひだ（＝大陰唇）によって、左右からしっかりと守られている、ということも知っていました。
　さらに、大陰唇を左右に押し開くと、その内側には、大陰唇よりさらに薄い、粘膜のひだ（＝小陰唇）があるということも。
　その粘膜のひだ（＝小陰唇）も、やはり左右に広がっていて、その内側に存在する膣前庭を守っていると。それが、上の方で、交わり、その交点には、クリトリス（陰核）という、突起物があるということを、医学部の学生でもないのに、興味深々で学んでいたのです。

　それに、インターネットで、セックスのやり方を教える「性技講座」などの記事も読んでいました。
　それによれば、ともかく、女性にはクリトリスというのがあって、そこがもっとも感じるところだということでした。そして、セックスをするとき、女性器に、男性が自分の性器を挿入するときは、女性器が十分潤ってからにすべきだと、その記事には書いてありました。
　男性器というのは、確かに、興奮すると、石のように硬くなります。そういうものが、挿入されるのですから、女性はたぶん痛いのではないでしょうか。とすれば、女性が十分濡れてから、男性は、自分の性器を挿入すべきではないかと自分なりに考えを進めていたように思います。

　不思議なことです。
　なぜなのか？、なぜ、そういう行動を取ったのか？。
　今でも、わかりません。
　たぶん、わたしは、摩耶にセックスを求めても、それを許してくれるということを、その場の雰囲気で感じ取っていたのかもしれません。
　摩耶は、パンティを取られても、何も言わなかったのですから。
　ですから、わたしは、ズボンを脱ぎ、シャツを取り、そして、トランクスを脱いで、丸裸になりました。

　わたしは、はだかの体を、摩耶のからだに重ねていきました。
　摩耶にキスをしました。
　もう、下半身のペニスは痛いほど硬くなっています。
　わたしは、摩耶の耳元で囁きました。
「摩耶、好きなんだ、君のことが。これから、この僕と付き合ってくれ」
「……」

　摩耶は何も言いません。
　しかし、わたしは、野崎さんが言った、『摩耶は君の気があるようだ』という言葉を信じようとしました。
　そして、こうして互いに体を重ねあっているのです。それを摩耶はいやがっていないのです。
　わたしは、摩耶とセックスし、そして、これから、摩耶と付き合っていこうと思いました。
　摩耶も、わたしと付き合うようになれば、わたしの言うように、変わってくれるだろうと思いました。

　わたしは、からだを重ねたまま、繰り返し、キスをしていました。
　そのくせ、どんどん、股間のペニスはいきり立ち、入れたくて、入れたくてたまりませんでした。
　でも、摩耶のヴァギナの位置を確かめなくてはなりません。
　それに、摩耶が濡れているかどうかも確かめなくてはなりません。

　わたしはからだを、下の方へずらしました。
　摩耶の股間に、顔をつけます。
　摩耶の太ももに、手を掛けます。
　その手に力を込め、摩耶に、股間を広げさせました。
　わたしは、摩耶も感じてくれるだろうと思い、クリトリスを刺激しようと思いました。
　草叢に手を這わせます。
　指先をゆっくりと草叢の中に這わせながら、突起物を探します。
　何か、クリッとしたものが、指先に感じられました。
　そこだ。
　わたしは、そこに、口を持っていきました。
　摩耶の陰毛の何本かが、鼻の中に入ったのでしょうか。
　くしゃみをしそうになりました、わたしは。
　でも、がまんをしました。
　クリトリスと思われるものを、くちびるで探し当てます。
　舌先で、そこを舐めます。

　舐めていると、その突起物が、心なしか、硬くなったような気がしました。
　そして、わたしは、女性器を自分の唇で探そうとします。
　でも、どこが、どこなのか、さっぱりわかりません。
　部屋のライトが明るくないようです。
　懐中電灯でもあればよいのにとさえ、思いました。
　男性を受け入れる道の入り口というのは、どこなのでしょうか？。
　そこは、男性器を受け入れるため、もう粘液で濡れているはずなのですが。

　わたしは、パニックに陥っていました、入れる場所がどこなのか、わからなくて。
　が、気持ちだけは、入れたくて、入れたくて、あせっていて。

　今、考えれば、そこらあたりに、指を突っ込み、男性器を受け入れる道の中が濡れているかどうか、確かめればよかったのでしょうに。でも、わたしは、そのとき、女性器に指を突っ込むというようなことが、恐れ多くて、できなかったのです。

　わたしは、手淫を経験していました。
　もう、わたしのペニスの先からは、透明な淫汁が滲み出ているのがわかっているのです。
　そういうものが出ると、これは、もう射精が近いという証左なのです。
　わたしは、あせります。
　摩耶の股間が、もっと上向きになれば、穴の位置がはっきりするのに、と思いました。

　上の方を見ました。
　幸い、摩耶は、枕から頭をはずしていました。枕が摩耶の顔のそばで遊んでいたのです。
　わたしは、その枕を取り、それを摩耶のお尻の下に置きました。
　摩耶のまたぐらが、浮いたような感じです。
　わたしは、自分の手で、摩耶の股ぐらを広げました。
　腰を進めます。
　そして、天を仰いでいるペニスを下の方向に押し曲げて、摩耶のヴァギナの中にインサート（挿入）しようとします。
　が、なぜか、ペニスがはじかれるのです。
　しっかりと、穴にフィット（適合）していかないのです。
　あせりました。
　ペニスがしぼんでいきそうです。

　と、わたしのペニスが、誰かの指でつままれて。
　下を見ると、摩耶の手がわたしの股間に。
　摩耶がわたしのペニスをつまんでいるのです。
　そして、導かれます。
（えっ、女の人の穴って、そんなに下の方にあるの？）

「うっ！」
　わたしは、入ったようです。
　中が熱くて。煮えたぎった油が、中であふれているように思われました。
　気持ちがいいのです、ペニスの茎のあたりが、そして先っぽが…。
　手淫のときのような、ごつごつとした、自分の指の感触ではありませんでした。
　やわらかい、でも、しっかりとした肉が、ペニスを包み込んでくれているようなのです。

　摩耶のヴァギナの中は、空洞なのでしょうが、でも、その円筒型の生き物は、まるで、まな板に載せられた、うなぎのようにくねります。
　中に嵌まったペニスが、その動きにつられて、うごめきます。
　それに、ヴァギナがペニスを咥えたまま、収縮を繰り返すので、わたしのペニスが、摩耶のヴァギナの肉によって、食いちぎられそうなのです。
　それは、まるで、イソギンチャクという、海の腔腸（こうちょう）動物が、ベラのような、中くらいの大きさの魚を捕らえ、その魚を中へ中へと取り込み、場合によっては、その魚を背中のあたりで真っ二つにへし折り、粉々にして、自分の栄養分にしようかというようにさえ思われました。

「ああっ、摩耶、そんなに、そんなに、締め付けないで！」
　わたしは叫んでいました、摩耶に。
　でも、摩耶は、からだをくねらせ、わたしの股間のモノを決して離そうとしません。
　それどころか、下からわたしの体を揺らして。
　わたしは、振り落とされないように、摩耶のからだに、しがみつきます。
　キュッキュッと間歇的に、摩耶のヴァギナが収縮しているのがわかります。
　そして、わたしも、なにやら、お尻の穴がキューンと締まるほどに、気持ちがいいまのです。
「ああっ、出る、出る、出てしまう」
　わたしは、そう言いながら、もう我慢できず、摩耶の肩にしっかりとしがみつきました。
　と、腰のあたりが痺れ、ドクドクドクッとばかり、射精をしてしまったのです。

　全身から、力が抜けたようです。
　体重が全部、摩耶にかかっていきそうな気がしました。
　でも、摩耶のからだから降りることはできませんでした。
　摩耶のからだは熱く、それに、弾力があって、のっかっていると気持ちがいいのです。
　わたし自身も、からだが熱くなって、背中に汗を掻いています。

　わたしは、摩耶の首筋のところに、顔をくっつけていました。
「摩耶、ごめん、がまんできなかったんだ、ゆるして」
　わたしは、摩耶の耳元で、そう囁いていたのです。

　わたしは、摩耶が、イッていないと思いました。わたしだけ先にイってしまったのです。
　情けなくて、情けなくて。
　わたしは、とうとう泣いてしまいました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）