５　摩耶の可憐な一面

　わたしは、性欲の解消は、もっぱらマスターベーション（自慰行為）に頼っていました。
　女の子とのセックスは、摩耶とが、はじめてのことだったのです。
　摩耶との、はじめてのセックス。
　わたしは、とても気持ちのいい挿入感を感じ取ることができ、心臓の音が高鳴り、激しく打ち込むような射精もできました。でも、わたしだけ先にイってしまったようなのです。摩耶は、イクことができなかったようです。
　情けなくて、情けなくて。男として、失格です。

「摩耶、ごめんね」
　わたしは、摩耶の首筋のところに、顔をくっつけて、それでも、くちびるを動かしながら、摩耶にあやまっていました。
「いいよ」
　摩耶の声が頭の方から聞こえてきます。
　わたしは、摩耶に頭を抱えられているようでした。
「でも…」
　そう言いながらも、わたしは、また、裸の体を、摩耶の裸身にくっつけていきます。
　わたしは、摩耶が自分の母親のように思えました。そして、わたしは、摩耶の赤ん坊のような錯覚に陥ったようでもあります。
　わたしは、甘えていたようです。
「摩耶、僕は、はじめてだったんだ。だから、がまんできなくて…」
「そうなの？」
「うん」
「そうだったの…。でも、そうだったら、あたしは、感激しちゃうな」
「うん？」
　わたしは、摩耶の腕のあいだから、首を上げ、摩耶の顔を見ます。
　摩耶の目がキラキラ光っていました。
「うれしいよ。信也にとって、わたしは、はじめての女になったんだから…」
「そんなものかな？」
「だって、信也は、女は、わたしがはじめてだったんでしょ。だったら、一生、信也の頭の中に、わたしのこと、残るわよね」
「じゃ、摩耶も、はじめての男というのは、忘れられないの？」
「うーん、それは、ひ・み・つ……」
「そんな、ひどいよ！」

　わたしは、摩耶をやっつけるために、再び、摩耶のからだの上にのしかかっていきました。
　そして、摩耶の首を下から抱くようにして、キスをしました。
　摩耶の、おんなの匂いが鼻腔を刺激します。
　それに、摩耶のくちびるが、わたしの口の中で蠢いているのです。
（摩耶は、僕が先にイッてしまったのに、僕のことを許してくれている）
　わたしは、そう思いました。
　すると、摩耶の股間にくっつけていた、股間のペニスが、何やら、元気を取り戻したようなのです。

　顔を起こし、くちびるを離します。
「摩耶、好きなんだ。こんな僕だけど、付き合ってくれるよね」
　わたしは、やや上体を起こし、摩耶の目を覗き込みます。
　摩耶は、笑っています。
　機嫌はわるくないようです。
　で、摩耶のおっぱいに手を置いて…。
　ムニュ、ムニュっと、揉んでみます。
「キャーッ、くすぐったいよ」
　摩耶が笑っています。
　でも、わたしは、興奮しはじめていました。
　何しろ、まだ裸で、しかも、はだかの摩耶の上に、のしかかっているのですから。
　また、摩耶とヤリたくなったのです。
　でも、妊娠が気になりました。
　確かに、一度、僕は摩耶の中に出しています。でも、摩耶はトイレに行って、ビデを使った様子はないのです。
　この上、また、わたしが、摩耶の中に出してしまったとしたら、妊娠の可能性ははるかに高くなるでしょう。
「摩耶、また、ヤリたくなったんだけど…」
「いいわよ」
「で、僕は、避妊しなくても大丈夫なの？」
「大丈夫よ。今は、安全日だから…」

　わたしは、安心しました。で、摩耶の乳房を揉みしだきながら、乳首に唇をくっつけていました。

　摩耶の乳首が硬くなったような気がします。摩耶は、また、感じはじめたようなのです。
　おなかを、手で撫でていきます。
　お臍（へそ）が見えました。
　そのお臍のかわいいこと。

　陰毛が見えます。
　あのシティホテルの撮影会のときには、ひどく猥褻な感じがしたのに。
　今は、それが、とても薄く、可憐な感じさえしました。それはとても不思議なことでした。

　わたしは、陰毛をやさしく掻き分け、クリトリスを捜します。
　わたしには、知識しかありません。
　中学、高校と、わたしには大学受験の勉強しかなく。女の子とは付き合ったことがなかったのです。
　生活のすべてが、センター試験や本試験のために費やされていましたから。

　わたしの受ける大学の場合、教科は、英・数・国・理・社の５教科でした。毎年１月中旬頃に行われていたセンター試験では、この５教科で、英語２００点、数学２００点、国語１００点、理科は文系なので１科目１００点、そして社会は２科目で２００点。合計で８００点満点でした。そして、わたしの志望校の場合、そのうち最低でも、６８０点（正解率８５％）を取る必要がありました。それをクリアしないと、大学主催の本試験を受けることができないのです。

　大学に入ってからも、司法試験のために、１，２回生の頃は、授業も熱心に受けていて。女の子と付き合うということはなかったのです。

　今、ようやく、摩耶という、カッコいい女と付き合うことができるかもしれないというチャンスに恵まれて…。
　摩耶に気に入られなければ、付き合うことができないのです。
　そしてまずは、摩耶に、わたしは性的な能力をためされているんだ、と思い込んでいたようなのです。

　わたしには、こと、セックスに関しては、インターネット上で検索して得た知識しかありませんでしたが。その知識を十分に生かし、摩耶に性的に満足してもらわなくてはと思っていました。

　わたしの得た知識によれば、クリトリスは、女性がセックスのとき、もっとも感じやすい場所らしいのです。男性のペニスと、もともと、発生源としては同じものであった、と。
　ですから、男性のペニスと同じように、感じやすいところなのだと。
　男と女、いわゆる性の分化の過程で、性器の細胞が、ペニスとクリトリスとに分かれ、それぞれに細胞分裂を繰り返して発達していったようなのです。そして、しかも、クリトリスには、ペニスの３倍もの、快感を感じ取る神経細胞が集まっているらしいのです。

　先ほどは、勝手に、イッてしまいました。
　今度はそうあってはならないのです。
　なので、クリトリスをゆっくり、愛撫してあげることにしました。

　クリトリスを唇で愛撫していきます。
　そのうち、なぜか、唇が濡れてくるのです。
　自分の唾（唾液）のせいなのだろうか？、と思いました。
　いや、どうも、わたし自身の唾液ではないようなのです。
　唾とはちがった、ねばりです。
　たしかに、ねっとりとした感じはありますが。ネバネバとした唾液とはちがって、さらっとした感じがあるのです。

　それに唾液は、口から出てしまうと、すぐに冷たくなって。
　でも、それは、わたしの唇にくっついてからも、暖かくって。
　たぶん、これが、バルトリン腺液なのでしょう。粘り気（ねばりけ）のある液で、唾液なんかより透明感があって。たぶん、この淫液のおかげで、膣へのペニスの挿入がスムーズになるのでしょう。

　摩耶の膣の中が、潤っているのかもしれません。
　わたしは、確かめたくなって。
　人差し指を摩耶の膣の中に入れてみました。
　指先が濡れました。
「ああっ・・・」
　わたしは、ためいきまじりに呟いていました。

「どうしたの？」
　上の方から摩耶の声がします。
「うーん、摩耶の中が濡れているから、なんか、感激しちゃって」
「ばか！」

　でも、わたしは、いたずらっ気を出して。
　また、人差し指を突っ込んで、クチュクチュしてしまいました。

　わたしは、摩耶の中の淫液の熱さを感じて、ペニスをさらに硬くしていました。
　ペニスを、この濡れそぼった蜜壷の中に、入れたくなりました。
　でも、今度は摩耶の手を借りず、自分ひとりの手で、挿入したいと思いました。
　枕を、摩耶のお尻の下に敷きます。
　そして、大きく股を広げさせました。
　前回のところで、挿入口はかなり下のところにあると学習しています。その学習の成果を生かさなくてはなりません。
　股を広げさせただけでは、入りづらいのです。

　わたしは、摩耶に足を折らせました。
　Ｍ字型になって、摩耶の股座がパックリと開きます。
　わたしは、上半身を立てて、摩耶の股座に腰を入れます。
　もう、わたしの股間のペニスは、ギンギンになり、血液を凝結させて、先端部は紫色になっています。

　天を仰いでいるペニスを下の方向に抑え付けます。
　そして、挿入します。
「うっ、ううううっ、ウッ――ッ！」
　摩耶が呻きながら、胸を反らせます。
　胸の谷間には、汗が噴き出していました。

　中は、とても熱くて。
　輪ゴムが、束ねた書類をギュギュと締め付けるように、摩耶の膣壁が、わたしの陰茎をグニュグニュと絞り立てます。
　気持ちがよくて。
　このままでは、射精の時がすぐにやって来そうです。
　気を逸らしたくて。
　上体を押し曲げます、背中を丸めるように。
　窮屈な格好です。
　でも、わたしはさらに体を丸めて。やっと、口が摩耶の乳首に当たります。
　上唇と下唇で、摩耶の乳首を挟み、そして、唇で、ゆっくりと乳首を愛撫してあげることにしました。

「ああっ、ああああ」
　摩耶が、呻きます。と、摩耶の膣の入り口近くで、わたしのペニスがキュッと締め付けられます。
　動けないのです。
　これでは、ピストン運動ができません。
　しかたがありません。
　腕立てふついてせのかっこうで、両手をベッドの上に突いて、突っ張り、上体を反らします。腰をローリングさせながら、ペニスの根元付近で、摩耶の膣口を掻き回し、刺激するしかありません。
　グッと、さらに上体を反らし、恥骨の部分で、クリトリスを刺激します。

　撮影会で、摩耶は、色々な男たちに、からだを触られているのです。
　野崎さんという、４０がらみの人は、『あの女は、ひとりの男だけじゃ、満足できないからだをしているんだ』と、わたしに囁いたことがあるのです。
　そんな女なのです、摩耶は。
　きっと、少々のことでは、オルガスムスを感じないからだになっているのだと、わたしは、思っていました。
　だから、本当に一生懸命、がんばったのです、わたしは、摩耶を肉体的に満足させようと。

「うっ、うううっ、きつい、きついわ！」
　摩耶が額に皺を寄せています。
「大丈夫？」
　わたしは、いったん、ペニスを抜きました。
　そして、濡れ具合を調べようと、指を膣に挿入してみます。
　
　膣内を、指で掻き混ぜます。
　そして、背中を丸めて、クリトリスを舌先で舐めてあげます。
　膣内がかなり、潤ってきたような気がします。

　わたしは、急いで、摩耶の足を広げ、そして、体を起こして、ペニスを挿入します。
「どう？」
「大丈夫よ、続けて…」

　腕立て伏せをし、両の腕を突っ張ります。
　その方が動きやすいので。
　ゆっくりと、腰を動かし、輸送をしてみます。
　摩耶の顔を見ながら…。
　痛そうであったら、ピストン運動は中止しなくてはなりませんから。
　内部が濡れて来たような気がしました。
　少し、すべりがよくなったようです。
　膣壁が、硬いペニスで擦られて、熱を帯びて来たのでしょうか。
　まるで、皮膚の発汗現象のように、膣壁から愛液が吹き出してきたように思われました。
　
　動きやすいのです。
　大きく、腰を使います。
　ジュブ、ジュブというような音が、ペニスとヴァギナの接点から、聞こえてくるようです。
「あっ、だめ、ダメ、ダメェ―――ッ、あっ、ああああ、アッアッ――ッ！」
　わたしは、摩耶のあえぎに釣られていました。
　もうだめです。我慢できませんでした。
　この放出感を我慢するのが、本当の男なのに…。
　でも、だめなのです、目の前を光線が交錯していて…。
　しっかりと目を瞑って耐えています。
　摩耶が、打ち震えています。
（摩耶、イッてくれ、たのむ！）
　わたしは、歯を食いしばりつつ、打ち込みます。
　額には、汗が。
　しかし、下半身が痺れたと思うと、もうだめです、気がついたときには、すでに、したたかに、精液を摩耶のからだの中に打ち込んでいました…。

　目の前に、まだ、火花が散っています。
　でも、とても気持ちがよくて。
　わたしは、摩耶の上半身にしがみついていきます。
　そして、摩耶の首筋のところに、顔をくっつけて、射精のあとの快感の余韻を味わっていました。

　死んでもいいと思いました。
　カマキリのオスは、交尾のあと、メスのカマキリによって、頭から食べられてしまうということでした。
　わたしは、このまま、摩耶に、首を掻き切られ、殺されてもいいと思いました。
　わたしは、気を失ったように、深い闇の谷底に落ちていったのです。

　ふと、目が覚めました。
　わたしは、摩耶の部屋にいたのです。
　何か、夢を見たような気さえしました。

「どうしたの？」
　摩耶が着替えをしています。
　摩耶は脱いだ服は畳まないでした。
「何でもないよ…」

　部屋が明るくて。すでに、朝を迎えていたようなのです。
　わたしたちは、部屋を出て、朝ごはんを食べに行くことにしました。
　どうやら、摩耶の部屋の冷蔵庫には、何も入っていないようです。
　喫茶店に行って、モーニングを食べることにしたのです。

「このバッグ、持ってよ」
　摩耶が言います。
　わたしは、ちょっと、嫌になりました。
　セックスをすると、どうも、女も、男に甘えるようです。

　でも、わたしは、幸せな気分でした。
　マンションを出て、通りでは、わたしたちは自然に手をつないでいたのです。
　まるで、恋人同士のようです。
　いや、新婚の夫婦みたいな気がしました。

　わたしは、摩耶と喫茶店で食事をしながら、勝手な想像をしていました…。

　ふたりは、結婚して、一緒に暮らしています。
　朝、起きて、ふたりで朝食を執ります。
　わたしは、法律事務所に勤めていました。
　摩耶のために、昼間は一生懸命働きます。
　夕方になると、足早に、マンションに帰っていきます。
　妻である摩耶の手料理で、夕食を食べているのです。
　風呂に入り、ふたりでテレビを見ています。
　それから、ふたりで、ベッドに入ります。
　そうなのです、摩耶と、毎晩、セックスをしたいのです…。

「信也、お口に、ジャムがついてるよ」
「あっ、ごめん」
　わたしは、摩耶の言葉で、やっと現実の世界に引き戻されたようです。

　レジのところに、行きます。
　お金は、わたしが払いました。
　焼き鳥屋で、野崎さんから、３万円を借りていて、裕福でしたから。

　喫茶店を出てから、わたしは、摩耶に、「帰る」と言いました。
　日曜日なのです。コンピューター学院は休みです。
　でも、帰らなければと思いました。「そうだよね」
　摩耶がつぶやきました。
「いつまでも、摩耶と居たいけど。僕も、今やるべきことをやっておかなくては…」
「何を？」
「例えば、情報処理技術者の２級とか、日商簿記３級の資格を得るための勉強とか…」
「弁護士は？、その夢は止めるの？」
　わたしはびっくりしました。
　摩耶は、昔のことを覚えていたのです。
　昔、わたしは、摩耶のホームページにアクセスしていましたから。
　最初の頃、摩耶のＨＰの掲示板に、わたしは、わたしの夢を書いたことがありました。
　その頃、わたしは、「弁護士になりたい夢がある」と書き込みした記憶があるのです。

「あれは、すごくむずかしい試験だということが、わかってきたからね…」
「大学には戻らないの？」
「……」
「戻って、司法試験の勉強をしたらいいと思うよ、あたしは…」
「……」
「ごめんなさい、生意気なこと言って」
「いいさ。でも、摩耶がそう言ってくれたんだから。今は、休学中だけど、復学も考えてみるよ」
「……」
　摩耶が真剣な顔をしていました。
　で、わたしは、何か言わなくては、と思いました。
「摩耶のためにも、将来の僕のためにも、もう一度、真剣に復学のことを考えてみるよ」
「そうね。そうして…」
　摩耶は、心なしか、元気がなくて…。
　せっかく、わたしは、摩耶のために、大学に戻り、摩耶のためにも、もう一度司法試験に挑戦しようと思ったのに。もっと、摩耶には、うれしそうな顔をしてもらいたかったのです。
　でも、摩耶を元気づけたいと思いました、肩に手でも置いて…。
　しかし、そんなことで、摩耶の肩を抱いてしまうと、また、キスまでしてしまいそうな気がして、肩に手を置くのは止めました。
　それに、このまま、一緒に、摩耶の部屋に戻ったら、また、わたしは摩耶のからだを抱いてしまいそうで怖かったのでした…。

　人はセックスだけしていればいいものでもないような気がして…。
　摩耶には、確かに、セックスで満足をさせてやりたいのですが。それだけでなく、おいしいものを食べさせてやりたいし。それに、気に入った洋服も買ってやりたいし。
　クルマの免許を取り、クルマを買って、摩耶をドライブに連れていってやりたいとも思いました。
　そのためには、いつもいつも、ベッドの中で、摩耶といちゃいちゃばかりは、しておられないのですから。

　わたしは、電車に乗って、マンションに帰りました。
　休学中です。
　でも、学生証はあります。
　明日、月曜日には、大学の学生課に行って、家庭教師のバイトの申し込みをしなくてはと思いました。
　摩耶と、これから、たびたびデイトすることになるでしょう。
　そのときお金が要るのですから。

　部屋に入り、パソコンを開きました。
　と、野崎さんからメールが入っていました。
　あのとき、野崎さんとは焼き鳥屋で、分かれたきりだったのです。
　わたしたちのことが心配だったのでしょう…。
「どうだった？。摩耶とは、うまくやったかい？」
　というメールだったのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）