６　セックスだけではないのに

　人はセックスのみで生きているのではありません。
　確かに、セックスは生きていく上で、重要な要素ではありますが。ともかく、朝から晩までセックスをし続けるなんて、これは異常だと思うのです。
　人は働き、そしてお金をもうけて、それで食料を買い、食事をつくり、それを食べて、からだを保っていかなくてはならないのですから。

　わたしは、大学の学生課に行きました。
　家庭教師のアルバイトを見つけたのです。
　月・水は中学２年生、火・木は高校１年生の家庭教師の口が見つかりました。このアルバイトで、土・日、摩耶と、どこかにデイトに行こうと思ったのです。

　摩耶と、コンピューター学院で会いました。
　授業のあと、待ち合わせて、学生食堂で一緒に食事をすることにしました。
「ねぇ、信也、あなた、野崎さんに、何か、変なこと、言ったでしょ！」
「ううん？、別に、何も言っていないよ」
「でも…」
「いや、そう言えば、あの日の翌日だったかな、野崎さんからメールが入っていて。野崎さんから、『摩耶とは、どうだった、うまく行ったかい？』みたいなことが書いてあって。だから、僕は、『ありがとうございました。おかげさまで、うまく行きました』と返信したんだけど」
「あなた、馬鹿じゃないの！」
「どうして？」
「そんな、わたしたち、ふたりだけのこと、べらべらと、他人にしゃべって…」
「そんなわるいことをしたとは思っていないけど」
「わたし、野崎さんに会って…。野崎さんったら、『おまえら、あれから、何発、やったんだ？』とか聞くのよ。あんた、野崎さんに、ヤッたとか、ヤらなかったとか、そんなこと、報告したの？。あんた、そういう報告する義務でもあるわけ、あの野崎さんに」
「そんな義務なんか、あるわけないだろう」

　わたしは、正直、ムッとしていました。
　あんな全裸の写真をインターネットに公開し、公開の掲示板に書き込みしてきた連中に誘いをかけて淫らな撮影会を企画している摩耶が、そんなことでわたしを責めるなんて、理不尽だと思ったのです。

「ただ、僕は、僕と君の間を取り持ってくれた野崎さんに、敬意を表わしたかっただけなんだ。君とのことをとやかく野崎さんに告げ口するわけがないじゃないか…」
「でも、野崎さんったら、『信也のやつ、えらく、喜んでいたよ。きっと、おまえのことだ、何回も抱かせてやったんだろう？』とか言うのよ。ったく、あたしは、恥ずかしくって」
「……」
「あんたと付き合ったら、何か、みんな、野崎さんに通じてしまいそうで、ったく、やだよなぁー」
　わたしは、カァーッと来てしまいました。頭に血がのぼって。
「何だよ、おまえだって、色んな男に抱かれて。それをネットに公開して。そんなおまえが、プライバシーがどうのこうの、と言えるのかよ」
「だって、セックスのプライバシーは大事だよ。あたしとのセックスのことは、ベラベラ、誰にでも、しゃべらないで欲しいのよ」
「ああ、わかった。だったら、おまえも、あんなネット、止めてしまえよ」
「あんたに、そんなこと、指示されたくないっ！」

　わたしたちは、喧嘩別れをしてしまいました。
　わたしは、夕方から、中２のバイトに行きます。
　その日は数学でした。
　合同な図形の性質と三角形の合同条件を、教科書にそって、その生徒に説明してやりました。
　合同な図形では、対応する線分の長さ、そして、対応する角の大きさは等しい。だから、図形の問題で、線分の長さや角の大きさの等しいことを証明しようとするなら、三角形の合同条件を根拠にして証明してやればいいのだ、と。
　でも、摩耶とのことが気にかかっていました…。

　バイト先から、（学生用の）マンションに帰ってからも、摩耶のことが気がかりでした。彼女のケータイの番号も、メルアド（メールアドレス）も、聞いてはいたのですが。
　我慢しました。
　こっちから弱味を見せて、あやまりたくなかったものですから。
　寝ころがりながらも、摩耶のことを考えていました。
　男にはだらしがない。部屋は片付けもせず乱雑にしている。自分のやっていることは棚に上げて他人のわるいところは徹底的に非難する。
　摩耶は、そんな女ではないかと、思いました。

　わたしは、コンピューター学院で勉強しなくてはなりません。父親に、休学中の大学の授業料も払わせ、そのうえ、今、通っているコンピューター学院の授業料も出ささせているのですから。
　情報処理技術のキャド実習が終り、簿記講座の教室へ移りました。
　先生の講義を聞きます。
「当座預金の残高を超えて当座預金を引き出した場合には、だ。その超過額は、当座借越勘定のどこに記入するんだったけな？。そうだ、それは、貸方だな。そして、再び、今度は、当座預金に預け入れをしたとしよう。すると、今度は、当座借越勘定のどこに記入するんだ？。そうだ、今度は、借方だな。そして、当座借越を減少させるんだぞ、いいな」

　簿記講座の休憩時間でした。
　わたしの隣に座っていた女の子が、声をかけてくれました。
「これ、飲みません？」
　見ると、缶コーヒーです。
「でも…」
「自販機で買ったんです。そうしたら、おまけで、もう一本当たっちゃって。よかったら、どうぞ…」
「ありがとう」
「今度、商工会議所の検定試験、２月２５日でしょ。受けるんですか？」
「ええ、そのつもりで…」
「わたしも」

　わたしは、あれから、摩耶と連絡を取っていません。
　ある日、食堂で摩耶の姿を見かけました。
　男の子と、仲良さそうに、ランチを食べていました。
　わたしは、食堂の入り口で、踝を返していました。
　結局、摩耶は、ネットの自分のホームページを閉じる意思はないようでした。
　そして、わたしのことを、ボーイフレンドとしても見てくれていないんだと思いました。

　その日の夕方だったでしょうか。野崎さんから、パソコンにメールが入っていました。
「たまには、一杯、やろうぜ。近いうちに、いつもの焼き鳥屋で会わないか…」
　わたしは、実は、野崎さんに、メールで、野崎さんの口座番号を聞いていたのです。野崎さんには、３万円のお金を借りていました。それを返さなくてはならなかったのです。会うことはなかなかできません。口座振替で送金したかったのです。でも、野崎さんは、銀行の口座番号をなかなか教えてくれなかったのです。
　しかたがありません。
　直接会って、現金でお返ししようと思いました。
　土曜日になりました。バイトのない日です。
　わたしは、焼き鳥屋で、野崎さんと待ち合わせることにしました。
　その店に行くと、何と、摩耶も来ているではありませんか。
　わたしは、ばつ（きまり）が悪くて、突っ立っていました。
　でも、お金を返さなくてはならないので、逃げるわけにはいきません。

　座りました、摩耶の方は見ずに…。
　でも、不思議と、野崎さんの前だと、落ち着けて。野崎さんにビールを勧められ、わたしはそれを受けていたのです。
　たぶん、野崎さんの顔を見ると、野崎さんの、『摩耶は、君のことが好きなんだから』という言葉が思い出され、摩耶に対する自信のようなものが湧いてくるのです。
　それに、摩耶は、そばに野崎さんがいると神妙でした。
　わたしは、ビールが入るにつれて、何か、穏やかな気持ちになっていきました。
　わたしは、トイレに行きました。
　戻ってみると、また、野崎さんの姿が見えなくなっていました。
「どうされたの、野崎さんは？」
「用があるって」
「そうか…」
「どうしたの？」
「だって、野崎さんの話は、おもしろいじゃないか」
「わたしとふたりじゃ、つまらない？」
「そんなことはないよ」
「ねぇ、わたしのマンションに来ない？」
「……」
「ねぇ、いいでしょ」
「君は、あの高村とは、どうなの？」
「えっ、だれ？、その人」
「しらばっくれるなよ」
「た・か・は・ら、ねぇ…？」
「いや、高村だよ」
「知らないなぁ」
「だって、この間だって、学食で、君は高村とランチを食べていたじゃないか」
「えっ、あいつ、高村という名前だったの」
「そうだろ？」
「わたしは知らないよ。でも、信也はよく知っているんだね」
「あいつと同じクラスのやつが、簿記の講座に来ていてさ、そいつに聞いたんだ」
「……」
「あいつ、遊び人らしいぜ。気をつけないと」
「それって、なに？。信也、妬いているの？」
「……」
　わたしは、けっこうお酒には強くて。
　まだ、しらっとしていたのに、急に、顔が赤くなってしまいました。

「そんなことで、焼き餅を焼くなんて、おかしいよ」
「おかしくてもいいんだ」
「どうして？」
「僕は、デイトをしたくて、バイトも一生懸命、やっているというのに。誰かさんは、ボーイフレンドと仲良くデイト。ったく、やってられねぇーよ」
「あいつは、わたしのボーイフレンドじゃないよ」
「でも…」
「あいつが、勝手にわたしの後を追っかけているだけで」
「それに、君は、また、野崎さんと会ったりして」
「いいのよ、あの人は。あの人はね、あなたとはちがうんだから」
「どこがさ」
「あなたは、世間知らずのぼんぼん(お坊ちゃん)よ。でも、野崎さんはちがう。あの人は大人よ。気持ちが大きくって。とても、話がしやすいよ、あの人には、ね」
「じゃ、僕は、だめな人間だ、ってことだね」
「そんなこと、言ってないよ！」

　わたしは、焼酎を注文していました。
　自分で、湯割りを作っていました。
「もう、帰ろうよ。そんなに飲まなくっても…」
「どうしていいか、わからないんだ、僕は」
「どうして？」
「夜、眠る時は、いつも君のことを考えている。でも、本当に君のことが好きなのかどうか、わからなくなってきたんだよ」
「……」
「君が、高村という男と仲良くしいているところを見ると、カアーッと頭に血が上って来るんだ。そして、君がにくくなって。そして、次には悲しくなる。君のことをどう考えていいのか、時々、わからなくなるんだ」
「わたしにそんなこと、言われても…」
「僕たちって、友だち同士になれないんだろうか。そうすれば、お互いに、お互いの生活のことを干渉し合うこともないし…」
「……」

「じゃあ、帰ろうか」
「ええ、でも、あたしのマンションに来てよ。お茶でも飲んでいって」
「いいの？」
「いいよ。いいお友達になるんでしょ、わたしたち…」
「ああ、まぁね」
「だったら、わたしの部屋で、お茶しようよ」

　ことわればよかったのに。
　でも、わたしは付いていきました、摩耶の後を。
　摩耶と離れたくなかったのです。
　いや、口では友だちになりたいと言いながら、心の中では、もう一度摩耶のからだを抱きたいと思っていたような気がします。

　摩耶のマンションに着きました。
　なるほど、部屋には、コーヒーメーカーがありました。
　摩耶が、コーヒーを入れてくれます。
　摩耶のそんなところは好きなのです。
　摩耶がコーヒーを持って来てくれて。膝を崩して、絨毯の上に座ります。
　ミニスカートでした。
　太ももが目に入って、目のやり場に困ります。
　もう、わたしは、股間のモノが、大きく頭を持ち上げてくるのがわかるのです。
　胸がドキドキしてきました。
　目の前に摩耶がいるのです。手を伸ばせば、すぐにでも摩耶が抱けそうなのです。思わず、目を瞑りました。興奮のため、目の前がクラクラしそうでしたから、目を瞑って気持ちを落ち着かせようと思ったらしいのです。

「信也、どうしたの？」
「どうもしないよ」
「あなた、このあいだ、女の子と、楽しそうに、缶コーヒー、飲んでいたでしょ」
「……」
「簿記講座の休憩時間の時よ」
「あれは。あれは、彼女が、缶コーヒーをくれて…」
「へぇーっ、何もないのに、缶コーヒーをくれるんだ」
「うん、待てよ。そういえば、前に、彼女に、ノートを見せてあげたことがあるよ。『この前の授業、休んでしまって。どこの辺まで、進みましたか？』と聞いてきたもんだから」
「ったく、信也は、女の子には優しいんだから」
「そんなこと、ない」
「そんなこと、ある！」
「あいつは、妹みたいな……」
　と、突然、わたしは、口を塞がれていました、摩耶のくちびるによって。
　摩耶が、舌をわたしの舌にからめてきます。
　きらいな男に、自らキスをしてくるでしょうか。
　わたしの情欲に、火が点いたようなのです。

　わたしは、摩耶がわたしを求めていると思いました。だから、今度は、わたしが、逆襲して行きました。
　摩耶のくちびるを思い切って吸いました。
「ねえ、あなた、苦しいわ」
「わるかった。でも、君が欲しいんだ」
「……」
「いいよね」
「……」
「コンドームをしようか」
「そんなこと、心配しなくていいよ、信也は」

　摩耶は、自分から、はだかになりました。
　そして、ベッドに入ります。
　わたしも、下着を取り、はだかになって、摩耶のからだの上にのしかかっていきます。

　摩耶とは、もう二度目。キスをしながらも、自然と、右の手で、マシュマロのような、やわらかい、おっぱいを揉んでいました。
　そして、体をずらして、摩耶の股間に顔をくっつけていきます。
　指でクリトリスを探ります。そして、舌先でクリトリスを愛撫していきます。
　と、わたしの唇が濡れてくるではありませんか。わたしは、唇をクリトリスからさらにヴァギナの入り口へと移動させます。もう、摩耶の蜜壷からは、愛液があふれんばかりに湧き出していました。わたしは、もう我慢できません。
　上半身を起こし、摩耶の股間を大きく開いて、腰を摩耶の股間に進めていき、いきり立ったペニスを、一気に摩耶のヴァギナの中に突っ込みます。
　中は、熱く、油が煮えたぎっているようでした。
　わたしは、からだを重ねたかったのですが、それは、最後に取っておきたいと思いました。
　腕立てふせのまま、胸を反らせ、腰をグッと摩耶の股間に押し付けていきます。
　と、ペニスの先端が、何やらコリッとしたしたものに、触れたようです。
　ひょっとしたら、それが摩耶の子宮口なのかもしれません。
　ゆっくりと動きました。
　とても、すべりが良くて。
　摩耶が、よく濡れているからなのでしょう。
　大きく動くと、摩耶の膣口のところで、ペニスの雁首のところが擦れるので、とても気持ちがいいのです。
　普通であれば、もう、とても射精が、がまんできなかったでしょう。
　でも、お酒のせいか、かなり長く持っているような気がしました。
「あああ、信也、来て、来て……」
　摩耶がわたしを呼んでいるのです。
　立てていた腕を止めにして、腕を摩耶の首に回し、そして、摩耶の上半身に、わたしは体を重ねていきました。
　裸とはだかです。
　わたしの胸で、摩耶のおっぱいが、おしつぶされていきます。
　密着感がとても気持ちよくて…。
　摩耶にキッスをしました。
　舌と舌をからめて、もう、誰の舌かわからなくなるほどに、互いに舌を吸い合います。
　腰のあたりが、痺れてきました。どうやら、わたしの射精が近くなってきたようなのです。
「摩耶、もう、僕は、がまんできないよ」
「いいよ、いいわ、来て、来て、摩耶も、いいわ、いいわ……」
　いよいよ、ラスト・スパートです。わたしは、互いに上半身を密着させているので、動きにくいのですが、それでも、一生懸命、腰を上下動させています。摩耶の膣の奥をしっかりとペニスで突いていました。
　膣がキューッとばかりに締まったような気がします。
　もう、ペニスの先で、子宮口を突きながら、腰をグラインド（回転）させるしかありません。
「摩耶、摩耶」
「信也、イクイク、イクゥ――ッ」
　摩耶は、弓なりに上半身を反り返して。そして、ピクピクと全身を痙攣させています。そして、ぐったりと背中をベッドに落としていきました。

　わたしは、摩耶の上で、動きを止めていました。
　そして、摩耶を見つめています。
　摩耶の目が、さっきまでは釣りあがっているようでしたが、それも今は、治まってきました。
　摩耶の目が、ちょっと開いたようです。でも、その目は、何かトローンとしているようでした。
「信也・・・」
　摩耶が、目を開けて、わたしを呼びかけています。
　摩耶の顔は紅潮していて、とてもやさしい表情に変わりました。
「信也、わたしのこと、好き？」
「ああ、とっても好きだよ」
「うれしいよ」
　摩耶の、その声を聞いたとき、わたしの、摩耶の中で締め付けられているペニスが、一段と大きく膨らみ、硬くなっていきました。
「ウッ！」
　鋭く、股間からの津波が、下腹部を突き上げます。わたしは思わず呻いていました。そして、呻き声を発するとともに、ドクドクッと、射精していたのです…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）