７　摩耶を変えられない

　わたしは、セックスのあと、摩耶のからだを抱きながら、つぶやいていました。
「摩耶、君が裸のからだをさらすのは、僕の前だけにしてくれないか？」
「……」
　摩耶は、いやなようです。
　自分のきれいな裸身を多くの男性に見てもらいたいようなのです。

「じゃ、せめて、オフ会（＝オフライン・ミィーティング）だけでも、やめてくれないか？」
「……」
　摩耶は、返事をしません。
　これ以上言い続けると、摩耶は機嫌を損ねてしまうでしょう。
　わたしは、口をつむぎました。
　少しずつ、少しずつ、摩耶を変えていけばいいのだと、言い聞かせながら…。

　朝、摩耶の部屋で目覚めます。
　わたしは、起き出していました。ベッドの上に腰掛けながら、部屋の中を見渡しています。
　部屋は乱雑でした。
　摩耶の脱いだ洋服や下着が散らかっています。
　立ち上がり、冷蔵庫の方に行って、ドアを開けました。でも中には、何もありませんでした、牛乳すらも。
　何か、虚脱感に襲われました。
　服を着て、摩耶のマンションを出ます。
　太陽は、頭の上の方にありました。
　もし、あそこに居続けたなら、また、摩耶のからだを貪ることになるのでしょう。わたしは、足早に、自分のマンションへと向かっていたのでした。

　食事を済ませ、マンションに帰ると、摩耶からケータイにメールが入っていました。
「どうしたの？」
　と、メールがありました。
　一応、返信をしました。
「急に、家庭教師のバイトが入って。ごめん」

　それから、何度も、摩耶からはメールが入ってきました。
　でも、わたしは、なぜか面倒くさくて、それらを無視してしまいました。
　束縛されるのが、いやだったのでしょうか？。
　勉強にも身が入りません。
　そして、とうとうわたしは、頭痛がして、ベッドの上に寝ころがってしまったのでした。

　月曜日のことです。
　朝から、わたしはコンピューター学院で授業を受けていました。
　昼になりました。摩耶に会おうとすれば、学食に行けばいいのです。でも、わたしは会いたくなくて、学院の外に出ました。そして、茶店で昼食を済ませていたのでした。

　ある日、わたしが図書館にいて、ふと、外を見たときでした。摩耶が、学院内の敷地を歩いているのです。
　そばには、男の子がいました。高村修一郎です。摩耶とよく学食で一緒にいる情報処理科の男の子でした。
　わたしは、なぜか、あわてていました。
　机の上に広げていたテキストやノート、筆入れをリュックに詰め込むと、急いで図書館を出たのです。
　なんと、わたしは、摩耶と、高村修一郎の後を気付かれないように、尾行していたのです。
　摩耶たちがコンピューター学院の校門を出て、ふたりは、手を振って、左右に分かれていくではありませんか。
　わたしは、ほっとしました。
　それで、わたしは、摩耶に声を掛けようと思いました。
　今日は、バイトを休んでもいいので、茶店でゆっくりと話をしようと思ったのです。

　しかし、摩耶は、大きな通りに出ると、手を挙げて、タクシーを拾い、そのタクシーに乗り込んでしまったのです。

　わたしもタクシーを拾いました。
　そして、運転手さんに、摩耶の乗っているタクシーを追ってもらったのです。

　車が止まり、摩耶が降りていきます。
　茶店に入っていきました。
　摩耶の後をそっと追って、茶店の玄関手前のところから、中を覗きます。
　なんと、摩耶は、野崎さんと会っていたのです。

　わたしは、すぐに、その茶店を離れて行きました。
　通りで、ふたりが出てくるのを待とうとしていたのです。

　野崎さんと、摩耶がふたりそろってお店から出てきました。わたしは急いでビルの壁際に身を隠します。
　そして、そっと物陰から顔だけを出してうかがうと、ふたりはそろってタクシーに乗り込むところでした。

　わたしは、もうそのタクシーの後を追う気がしませんでした。
　タクシー代がもったいない、ということだけではなかったのです。
　実は、その日は、１５日でした。すなわち、毎月、１５日と３０日というのは、摩耶が主催するオフ会の日なのでした。
　たぶん、ふたりの行き先は、シティホテルなのでしょう。
　摩耶は、野崎さんに、からだをいじくられるのでしょう。そして、他の、多くの男たちの手で、からだを汚されていくのでしょう。
　野崎さんが、摩耶のからだを開きます。そして、ペニスを摩耶のアソコに挿入するのです。摩耶のからだに覆いかぶさり、腰を振ります。
　わたしは、立っておられなくなりました。
　それに、吐き気を催してきたのです。
　急いで、さっきまで野崎さんと摩耶がいた喫茶店に入って行ったのです。そして、トイレを借り、トイレの中で、吐いてしまったのでした。

　２月２５日が近づいていました。
　わたしは、商工会議所で、簿記３級の検定試験を受けようと思っていました。
　１００点満点で、７０点を取れば合格なのです。
　でも、９０点をねらっていました。

　わたしは、コンピューター学園の図書室で簿記の問題集を開いていました。
「受験勉強ですか？」
「えっ！？」
　見ると、簿記講座の時間に、よく隣にやってくる女の子でした。
「日商簿記の試験、受けるんでしょ」
「ああ」
「２月２５日ですよね。わたしも受けるのよ」
「……」

　実は、彼女はしょっちゅう、わたしの隣の席に座るようになっていたのです。
　それに、ちらりと、彼女のテキストの裏側を見ると、新川貴美子と名前が書いてありました。
　時々、言葉を交わすようになりました。
　彼女は私大の国際文化学科の２年生でした。英検の資格だけでは就職に不利だということで、このコンピューター学院に科目履修生みたいな形で入り、パソコンや簿記の資格を取ろうとしていたのです。
　わたしも、休学しているとはいえ、一応は４年制の学生です。そういうこともあって、彼女とは話がはずむようになっていたのです。
　彼女は、音楽も好きみたいで、休み時間になると、ＯＲＡＮ○Ｅ−ＲＡＮ○ＥのＣＤを聞いていました。
　摩耶のことを考える憂鬱でした。しかし、彼女と話をしていると、気持ちがまぎれます。

　ともかく、彼女は、わたしが図書館で自習していることを知っていたようです。
　そして、わたしの許しも得ずに、勝手に横に座ってきて、テキストを広げはじめたのです。
　わたしも、勉強をしました。彼女だけ簿記の検定試験に合格して、わたしが不合格になるわけにはいきませんから。

　と、チャイムが鳴りました。
　お昼になったようです。
　学食には行きたくなかったのです。
　学食には、摩耶と高村修一郎という男が居そうな気がしたからです。
　わたしは、テキストを閉じて、席を立ちました。
「どこへ行くの？」
　彼女が聞いてきます。
「外に、ラーメンでも食べに行こうかと思って…」
「わたしも一緒に行っていいですか？」
「ああ」
　わたしは、ことわれなかったのです、気が小さいのでしょう。

　ラーメン屋に入り、向かい合って座ります。
　彼女が聞いてきました。
「午後は？」
「キャドの演習に行くよ」
「それからは？」
「……」
「一緒に、勉強しません？」
「簿記のかい？」
「ええ」
「図書館で？」
「いいえ、わたしのうちで…」
「いや、それは、いいですよ」
「うち、今日は、みんなで出払っていて、誰もいないんです」
「そんなところなら、よけいにいやですよ」
「だめですか？」
「だめに決まっているでしょ」
「どうして？」
「君は、男というものがわかっていない」
「……」
「男は、女の子とふたりっきりになったら、オオカミになるんだから」
「……」
「ああっ、冗談、じょうだん。僕は、今日は、家庭教師のバイトがあるんだ」

　バイトから帰って、パソコンを開きます。
　と、変なメールが入っていました。
　どうやら、添付ファイルに、メルマガが付いているようでした。
　本文を開き、読みます。
　差出人は摩耶のようです。そして、あて先は、どうやら、摩耶のＨＰの特別会員のようです。
　摩耶のやつ、間違えて、わたしのメルアドに、メルマガを送りつけてきたようなのです。
　今のわたしは、決して、摩耶のＨＰの特別会員ではないのですから。

　わたしは、胸がドキドキしました。
　また、摩耶が何か変なことをしているのではないかと思ったからなのです。
　添付ファイルを開きました。
　やはり、摩耶が書いたメルマガでした。
　そして、そのメルマガの巻末には、オフ会（＝オフライン・ミーティング）のお知らせが載せてありました。場所は、〇〇シティ・ホテルでした。
　わたしは、がっくり来ていました。
　目に涙がにじんできました。
　摩耶は、何も変わっていなかったのです。
　わたしと付き合うことで、少しは、いい方向に変わってくれると思っていたのに…。

　金曜日になっていました。
　わたしは、また授業の合間に、図書館にいて自習をしていました。
　と、私大の２年生の彼女が隣りに座ってきました。
　彼女はあいさつもせずに、何か、怒っているように思えました。
「新川さん、こんにちは」
　わたしは、彼女に声を掛けます。
「……」
　彼女は、テキストから目を離しません。
　面倒くさいので、わたしは放っておきました。

　家庭教師のバイトへ行く時間になりました。
「じゃ、お先に」
　わたしは、それでも、隣に座っている彼女にあいさつをして立ち上がりました。
「今日も、バイトなんですか？」
「ああ、そうですよ」
「毎日？」
「ああ、ウィークデイは、いつも、ね」
「じぁ、明日は空いているのね」
「ああ、土曜日だけは、ね」
「カラオケ、行きません？」
「でも・・」
「何ですか？」
「僕は、へただから」
「でも、よく、コブ○ロのＣＤを聞いているって、言ってたじゃない？」
「聴くのと、歌うのとは、ちがうよ」
「でも、何か歌っているでしょ、何を歌っています？」
「ポ○ノとか、コブ○ロとか」
「それなら、大丈夫よ」
　何が、大丈夫なのか、わかりません。
　ただ、今週末、摩耶とは会いたくないと思いました。
　土曜日は、ケータイの電源も切って、映画でも見に行こうと思っていたのです。
「で、君は、何を？」
「Ａ○Ｕの歌が好きなの」
「じゃ、行ってみようか」
　わたしは、新川貴美子と、夕方の５時に待ち合わせることにしたのでした。

　わたしたちは、カラオケルームに入って行きました。
　それぞれ、変わりばんこに、選曲して歌いました。
　それに飽きると、デュエット曲を選曲して、ふたりで歌いました。
　時間延長をしています。
　でも、何か、おなかが空いてきたようでした。
「もう、そろそろ、いいんじゃない？」
「まだ、歌いたいな」
「僕は、もういいよ」
「わたしは…」
「だったら、君は、もうちょっと延長して、ひとりで歌っていたら…」
「いじわるぅ！」
　彼女がふて腐れたような顔をしています。
　それで、わたしは、いたずらをするようなつもりで、彼女の顔に顔をくっつけていきます。
　彼女は逃げません。
　とうとう、わたしは、彼女のくちびるにキッスをしてやったのです。
　なぜなのでしょう、彼女のくちびるはとても柔らかく感じられました。わたしは、夢中で、彼女のくちびるを吸っていました。
　彼女が、手で、ちょっと私の前の肩を押しました。
　くちびるを離します。
「苦しいわ」
　彼女が肩で息をしていました。
「おまえがわるいんだぞ」
「……」
「こんな風に、ふたりっきりになると、僕は、オオカミになるんだ」

　彼女が目を見張ります。
「君がわるいんだ。僕みたいなわるい子をカラオケなんかに誘うんだから…」
「……」
　彼女がわたしの目を見つめています。でも、さほど、咎めているような目でもなくて…。
　わたしは、摩耶のことを忘れようと思ったのかもしれません。
　わたしは、また、顔をそっと近づけていきます。
　彼女が目を瞑ります。
　彼女ときたら、口から涎を垂らすオオカミの前で、観念してしまった少女のように思えました。
　でも、わたしは凶暴なオオカミにならないようにと、少し、セーブしていました…。
　やさしく、くちびるに、唇を重ねます。
　もう、摩耶を抱いたことで、わたしは、男として、いっぱしの余裕ができたように思えました。
　彼女を抱き寄せ、彼女の上のくちびるを、そして、下のくちびるを、余裕をもって吸っていたのです。それはもう、彼女に甘美な刺激を与えようとする、アダルトビデオの男優になったような気分でした。
　ブラウスのボタンをはずし、ブラの上からおっぱいを揉みました。
　彼女の舌を吸い上げます。
　スカートのジッパーを下ろして行きました。
　股間に手をやり、パンティの上からですが、股間の窪みをなぞります。
　クリトリスの位置がよくわかりました。
　濃厚なキッスを繰り返しながら、クリトリスと膣口のあたりを指の腹のところで、優しく、そして時に強く擦ります。
　と、彼女はわたしの腕の中で、ピクピクッと全身を痙攣させてしまったのでした。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）