８　また摩耶を抱くはめに

　カラオケルームで抱き合ってから、わたしと新川貴美子は、また一段と仲良くなっていったような気がします。
　学院の昼食時間になると、自然な形で、ふたりしてラーメン屋に出かけました。
　と、そのラーメン屋に、摩耶と高村修一郎が入ってきたのです。
　でも、互いに知らん顔をしていました。

　図書館で、僕は、情報処理の勉強をしていました。
　むろん、わたしの場合は、システム開発やプログラミングを行う、二種や一種の情報処理技術者の試験を受けるための勉強ではありません。ＣＡＤ利用技術者試験とか第二種パソコン財務会計主任者試験の勉強なのです。
　と、誰かが、そばにやってきました。
　見ると、高村修一郎でした。
「おまえ、中務というんやろぉ」
「……」
「おまえ、摩耶と付き合ってるそうじゃないか。が、あいつには、手を出すな、いいな。あいつは、わしが高校の頃から付き合っている女なんだ。だから、横から手を出すんじゃねぇ。いいな」
　それだけ言うと、高村修一郎は立ち去っていきました。
　わたしには腑に落ちませんでした。
　確か、摩耶は、高村修一郎は単なる食事仲間でしかないと言っていたはずでしたから。それに、むしろ付きまとわれて、いやだ、みたいなことを、摩耶は言っていたのです。それなのに、今、高村修一郎は、摩耶とは高校時代からの知り合いだと言ったのです。
　摩耶と高村修一郎のふたりの言っていることが、どうも食い違っているのです。

　ある夜、野崎さんから、パソコンにメールがありました。
　いつもの焼き鳥屋で会わないか、という誘いのメールです。
　会う気はありませんでした。
　野崎さんも野崎さんだと思うのです。
　４０歳も越した、いい年をしておられて…。
　家庭もある人です。
　そういう人がなんで、１９歳の女の子と、結婚とかを前提もしない、遊びのセックスに夢中になり、そして、その女の子のボーイフレンドとの仲を取り持とうとするのか？。
　多少、摩耶のわがままを聞いてやって、そして、摩耶の肉体を貪ろうとしているのか…。もし、そうであるなら、とても人間的には尊敬できない人だと思うのでした。

　野崎さんと、摩耶と、わたしと３人で会うことを、わたしは拒否したのでした。
　でも、結局、摩耶とふたりで会うことにしました。
　野崎さんを仲介役にして会うなんて、わたしは嫌だったのです。

　わたしは、土曜日の夕方、摩耶のマンションに行きました。
　玄関のチャイムを鳴らします。
　なかなか返事がありません。
　摩耶は留守なのでしょうか。でも、ケータイのメールは打っていたのです。そして、そのメールは開かれていました。
　どうしたのでしょうか。

　もう、あきらめて帰ろうと思いました。
　そのとき、ドアが開かれました。
　ところが顔を出して来たのは、摩耶ではなく、高村修一郎という男でした。
　わたしは、心臓がドクドクと、鳴っているのがわかりました。
　そして、腋の下に、冷たい汗を掻いているのでした。
　摩耶のやつ、ただの食事仲間と言っていたのに…。
　立っているのが、やっとの状態でした。

「摩耶は、どうしているんですか？」
「おまえ、なぁ、摩耶の尻を追っかけるんじゃねぇ、と言っただろぉが！」
「しかし、僕は、摩耶と…」
「摩耶？。そんな、俺の女を呼び捨てにするな。摩耶は、俺の恋人なんだ。それに、専門学校を出て、職が決まったら、俺たち、結婚するって、もう約束をしてるんだぜ」

　わたしは、高村修一郎の前で、足をブルブル震わせながら、頭を巡らせていました。
　こいつ、摩耶の、はだかを乗せているＨＰのことを知っているのだろうか。
　オフ会のことを知っているのだろうか。
　そういうことを全部知っての上のことなのだろうか。
　そうであるなら、なんとすごい奴なんだと思っていました。

「もう、あいつには、手を出すな。あいつは、俺のフィアンセなんだからな」
　なぜなのでしょうか。
　わたしは黙って、踝を返し、摩耶のマンションを後にしていたのでした。
　高村修一郎の剣幕に恐れをなしたのかもしれません。
　それに、よく見れば、高村修一郎は、パンツに半そでの肌着しかつけていませんでした。
　その姿を見る限り、わたしには、高村修一郎が、摩耶の言うような単なるボーイフレンドには、とても見えなかったのです。

　明くる日、摩耶からケータイにメールが入っていました。
　しかし、開く気にもなりません。
　なぜなのだろうか、摩耶に会いたくないと思いました。
　そして、摩耶を抱きたくないとも思いました。

　匂いがついているのです、摩耶のからだには…。
　わたしのきらいな野崎さんの匂いが。
　そして、さらに、もっともきらいな高村修一郎の匂いが。

　わたしは、それでもコンピューター学院には、通っていました。
　いつまでも、中途半端ではいけないと思っていましたから。
　何とか、ひとつでも、検定試験に受かり、資格を得たいと思っていたからでした。

　そして、新川貴美子がときどき、わたしの机のそばにやってきてくれましたから。貴美子は、摩耶に比べ、さわやかな感じがしました。
　もっとも、貴美子がそばに来ると、貴美子にキッスをしたくなるときがありました。
　でも、貴美子をセックスフレンドにするつもりはありませんでした。
　貴美子は、大切なガールフレンドにしたかったのかもしれません。

　学院で、クリスマス・パーティが開かれることになりました。
　各クラスが何かを持ち寄って、そのパーティを盛り上げることになりました。
　わたしの属するクラスは、たこ焼きの店を出すことになりました。
　そして、わたしは、役割分担のじゃんけんで、クリスマス・パーティのパンフレット作りをする班になってしまいました。パンフレットを発行するには、協賛の広告料を取って来なくてはなりません。スナックだとか、茶店だとか、そういう学生のクリスマス・パーティに協賛金を出してくれそうな、なじみの店がまったくなくて、わたしは困っていました。
　昼休み、貴美子の前で、わたしは愚痴ってしまったのです。

「なかなか、広告が取れなくて、ね」
「ああ、だったら、うちの会社に行ってみたら。そうしたら、３万円くらいなら、広告料を出してくれるかも？」
　どうやら、貴美子の父親は、この学院の近くで、製造業の会社を経営しているみたいでした。
「ちっちゃいの。事務、技術の人を全部合わせても、３０人ぐらいしかいないの」
「でも、大したものだよ。ひとつの会社を切り盛りしておられるのだから」

　わたしはやむにやまれず、結局、パーティのパンフレットやパーティ券に広告を出してもらうスポンサーが欲しくて、貴美子の父親の会社に行くことにしたのでした。
　事務所を訪ねて行くと、貴美子の父親が出てきました。
　名刺をもらいました。
　新川隆行とありました。

「ごめんなさいね。貴美子は、今、おばあちゃんの見舞いに出かけていてね」
「いえ、それは。ともかく、このたびはご迷惑をおかけしまして」
「いやいや。ともかく、ちょっと工場の方を案内しましょう」
「えっ？」
「そのうち、貴美子も帰ってくるでしょうから」

　やはり、従業員３０人くらいの小さな工場でした。
　工場では、なべ、やかんなどを作っているのです。
　もう、型なんかは、コンピューターにプログラミングされているようでした。
　と、この工場では、まな板、包丁まで作っていたのです。

　入る時は気がつかなかったのですが、工場の出口には、製品の陳列コーナーがありました。
　立ち止まって、陳列された製品を見ていました。
　わたしは、一本の包丁を手に取っていたのです。
「いいものでしょう？」
「はい」
「で、なぜ、包丁なんかに興味があるの？」
「こんなもので、料理ができるといいなと思いまして…」
「今、自炊はしていないの？」
「はい。例えば、魚を三枚に下ろすことなど、とてもできなくて」
「まぁ、そりゃ、男だからねぇ」
「いつも、母がうらやましくて。母は、冬になると、鰤（ぶり）を三枚に下ろして。片面の身は刺身にするんです。そして、もうひとつの片面の身は、醤油だれに漬け込んで、焼き魚にしてくれて。真ん中の骨付きのところは、ぶち切りにして、みりんと醤油の汁にしてくれました」
　母の手料理がなつかしかった。
　貴美子は、料理ができるんだろうかと考えていました。
　少なくとも摩耶には、魚を三枚に下ろすなんてことはできないだろうと思いました。

「どう、その包丁、気に入った？」
　社長さんが聞いてくれているのです。
「いえ、別に」
「そうだよね。今時の男の子だと、自炊なんか、やらないだろうからね」
「えっ、社長さんの頃は、どうだったのですか？」
「ああ、わたしの場合は、親からの仕送りが限られていて。とにかく、お茶もコンビニでペットボテルのものを買ってきて飲むなんてことはせずにね。自分でやかんに湯を沸かして、そして、茶の葉をね。むろん、毎日ではないけど、朝夕は、自分のアパートで自炊をしていたものだよ」
「すごいですね」
「今は、何でも、簡便になって、いや、なりすぎて。だから、たまには、やかんでお茶を沸かしてくれたり…。そして、たまには、カップ麺でなく、なべで、インスタント・ラーメンを作ってもらいたいんだがね、学生さんたちに」
「そうですよね」
「やってみる？、たまには、君も自炊ってやつを」
「はい」
「じゃ、そこの、包丁とまな板、紙に包んであげよう、うちに持って帰りなさい」
「いいんですか？」
「ああ、そのくらいサービスしておかなくてはね」

　それから、工場を出て、再び事務所に案内されました。
　社長室に入りました。
　そして、女の人がコーヒーを持ってきてくださって。
　貴美子さんのお父さんが、わたしに尋ねました。
「どうなの、君は？。大学には、もう戻らないつもりなのかね？」
「えっ？」
「ああ、貴美子から、ちょっと君のこと、聞いていてね」
「はい…」
「君のお父さんもお母さんも、きっと心配なさっておられると思うよ。確かに、世の中は、学歴じゃないよ、実力主義ですよ。でもね、やはり、２０代、３０代のところでは、他人は、その人がどこの大学を出たかを見ているんだね。学歴の問題を超越するのは、４０代かねぇ。大学を出て２０年、男も４０歳になれば、もう学歴なんかどうでもよくなる。まさしく、社会に出て２０年間、どういう修羅場を乗り越え、どういう勉強してきたか、ということが問われるからね」
「……」
「ともかく、大学は卒業した方がいいですよ、何年かかってもいいから…」
「そのようなものでしょうか？」
「そうだね、大きく大成しようと思ったら、１年や２年の回り道のことなんか、こだわらない方がいいと思うけどね」

　結局、なかなか貴美子は帰って来なくて。家は、事務所や工場のすぐ横でしたから、帰れば、きっとこの事務所に顔を出してくれるでしょう。
　わたしは、その鋳物製造の工場を後にしていました。
　家庭教師のバイトがあったものですから。

　摩耶からメールが入っていました。
　何か、心の余裕がありました。
　どんなことが書かれていても、耐えられそうな予感がしていて。
　メールを開きました。

「土曜日、会わない？」
　わたしは、「忙しいから、いいよ」と言って、ことわりました。
　でも、摩耶はしつこくて。
「高村君と、婚約したんだろぉ。もう、僕とはいいよ」
　すると、また、メールがやってきました。
「別に、あいつと、そんな約束していないよ」

　ともかく、摩耶は、わたしに話が聞いてもらいたいらしくて。とうとうわたしは根負けして、土曜日の夕方、摩耶のマンションに行き、摩耶の話を聞くことになったのです。

　摩耶の部屋に上がります。
「どうして、付き合ってくれないの？」
　摩耶がわたしに聞いてきます。
　本当は、家庭的な女の子が好きなのです。
　でも、面と向かって、そんなことは言えません。
「君には、高村修一郎がいるじゃないか」
「わたしは、別に、あいつと付き合っているつもりはなくて…。あいつは、勝手に付き合っているつもりになっているかもしれないけど…」
「でも、あいつ、このマンションに泊まった、と言っていたよ」
「だって、それは、あなたが、あの日、『はい、さようなら』って、帰ってしまったから…」
「しかたがないだろう、君はあの時、姿を見せなかったし。あいつはあいつで、『卒業したら摩耶と結婚するんだ』と言っていたんだよ」
「そんな約束していないよ、あんなやつと…」
「だったら、どうして、あいつと寝るんだ！」
「……」
「おまえは、誰とでも…」
「あいつは、ねぇ、わたしが嫌がっているのに、無理矢理、ヤッたんだよ。あんたがわるいのよ、あいつをそのままにして、帰ってしまったんだから、わたしを見捨てて…」
「そもそも、そういう男を部屋に入れる、ってことが、いけないんだよ」
「あいつったら、わたしの頬を、にぎりこぶしでなぐって。意識が朦朧としているときに、無理矢理入れてきたんだよ。あいつは人間じゃない、動物だよ」
「でも、それは、君が無警戒だった、ということではないのか？」
「あなたは、あんな卑劣なやつの肩を持つ気なの？」
「……」
　わたしは黙ってしまいました。
　ああまで摩耶が言い張るのなら、本当に、高村修一郎のやつ、無理矢理、摩耶を犯したのかもしれないと思ったのです。
　正直、摩耶のことがかわいそうに思えたのです。
「なんで、そんなにわたしのこと、いじめるのよ。あんただって、貴美子とかいう４大生の女の子と付き合っているじゃない」
「いや、ちがう。あれは、たまたま、昼ごはんを付き合っただけで。それに、あいつは、一応、社長さんのお嬢さんなんだ。僕なんかとまともに付き合うはずがないじゃないか」
「何がお嬢さんよ。何が４大生よ」
「あの子のこと、わるく言うのは、よしてくれよ」
「どうして？」
「僕たちのことと、あの子のことは、全く関係がないんだから」
「あの子のこと、抱いたの？」
「馬鹿なことを！」
「妬けるわ」
「そんな…」

　摩耶が迫ってきます。
　くちびるを合わせました。
　摩耶の、女の匂いが鼻腔を刺激します。
　高村修一郎や４０がらみの野崎という男に、いいようにヤられた女なのです。
　他の男の匂いの染み付いた女のからだなんか…。
　それなのに…。
　摩耶は、しっかりと抱きついてきて。
　ヌネヌネとした舌を差し入れてくるのです。そして、わたしが自分の舌を、その麻耶の舌にからませていくと、摩耶が鼻を鳴らすようにして、応えてくれるのです。
　わたしの股間のモノは、硬く大きくなっていきます。
「抱いて」
「いいのか？」
「うん」
　わたしは、思い切って、摩耶の胸を広げ、ブラジャーを引き上げて、乳房を吸っていました。
「うっ、うううう…」
　わたしは乱暴におっぱいをにぎりしめながら、乳首を吸ったらしいのです。
　やはり、高村修一郎に陵辱された、摩耶のからだが、にくかったのかもしれません。
　
　股間に手をやりました。
　なんと、摩耶のパンティは、その表面が、もう濡れているのです。
　乳房を揉みながら、パンティを剥いで行きます。
　そして、ナマの股間に手を差し入れます。
　摩耶のあそこは、びっしょりと濡れています。
　指を突っ込みます。
　そして、ぐにゅぐにゅと、いじくってやりました。

「ああ、信也、乱暴にしないで」
「……」
　野崎さんや高村修一郎にいたぶられてもだえる摩耶が許せないのです。
　でも、指をやさしく入れ。そして、ゆっくりと出し入れをします。そして、指先を、摩耶の淫液でしっかりと濡らし、その指先でやさしくクリトリスを刺激していきます。

　摩耶の顔が引きつっています。
「うっ、うううっ」
　本当は、もう、我慢ができません。
　わたしは、すぐにでも、硬くなったペニスで、摩耶のからだを刺し貫きたいのです。
　でも、挿入すれば、すぐに射精してしまいそうでした、それほど、興奮しているのです。

　摩耶の股間に、顔を埋めます。
　そして、膣口をくちびるで舐め回し、そして、舌先でクリトリスを舐め上げていきます。
「あっ、うっ！」
　摩耶が弓のように、からだを反らせます。
「うっ、ううう、あああっ、ああああ・・・」
　摩耶は、全身を痙攣させながら、イッたようです。

　摩耶が、ガクンと背中をベッドに落とします。
　摩耶がおとなしくなり、目をつむっています。

　でも、わたしの股間のペニスは、まだギンギンに大きく張っていました。
　挿入しながら、摩耶のからだの上で、少し休むことにしました。

　摩耶のヴァギナはまだ、淫液で濡れそぼっていました。ゆっくりと挿入していきます。そして、ペニスが入ってから、ゆっくりと上半身のからだを重ねていきます。
　顔を、摩耶の首筋のところにくっつけます。

　と、摩耶が蠢くのです。
　ペニスを締め付けてくるのです。
　たまらなく気持ちがよくなっていきます。

　わたしにも淫蕩の血が流れているようです。
　欲望に貪欲になり、さらなる快感を求めるように、動きます。
　ピストン運動をするたびに、わたしと摩耶の接点からは、ペチャペチャという音がしてきて…。
　今夜は、摩耶は、とっても濡れているみたいでした。

「ああっ、ああああ・・・」
　摩耶が呻き、腰をうごめかせています。
　摩耶が、陰茎の真ん中あたりを締め付けてくるのです。
　射精まで、もっと長く持たせようと、わたしは腰を浮かせます。
　でも、ペニスの茎はしっかりと膣肉で締め付けられ、なかなか抜けないのです。
　もう腰を降ろし、深く突き刺すしかありません。
　上半身を反り返しながら、グッと、腰を入れます。
　ペニスの先が、何か、摩耶の奥の、こりこりしたものに当たります。そして、そこが行き止まりでした。
　もう腰を回転させていくしかないのです。
　腰をグラインドさせながら、摩耶を責めます。

「ああっ、来て、来て…」
　摩耶も、二度目のアクメを迎えようとしているようでした。
　もうたまりません。
　腰の辺りから、快感の痺れが盛り上がってくるのです、もう、がまんできません。
「ああ、摩耶、ああああ、出る、出るぅっ！」
　わたしは、腰を突き上げながら、ドックンドックンと激しい放射を繰り返していました。
　目の前の闇夜に、たくさんの黄色い矢が飛び交っています。
　わたしは、摩耶の胸にしっかりとしがみつきました。
　と、わたしのからだは、ゆっくりと反転しながら、深い闇の底に落ちていくのでした…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）