８（最終話）　女にそっぽを向かれた男

　わたしは、とうとう、卑劣な手段に訴え、「浮舟」をＡ市のＳグランドホテルの喫茶室に呼び出すことにしたのだった。
　わたしは、約束の日、Ａ市のＳグランドホテルに向かっていた。
　来るか、来ないか、それはわからなかった。しかし、ともかく、わたしは車で高速道路を走っていた。
　約束は午後２時。しかし、１５分前には、わたしはホテルの喫茶室に座っていた。
　あの日、ロマンス・グレーの紳士が、浮舟と向かい合って座っていたところである。

　２時が過ぎた。
　そして、それから約３０分も待ったであろうか。「浮舟」がやって来た。しかし、隣りには男がいるではないか。赤ら顔だ。何か、歩きっぷりが、やくざっぽい。
　明らかに、この前、浮舟が会っていたロマンス・グレーの紳士とはちがう。
　浮舟の連れ合い（夫）なのだろうか？。
　でも、何かふたりの間には違和感がある。その男は、決して浮舟の配偶者（夫）ではないと思われた。

　浮舟が固い表情で、わたしの目の前に立っていた。
　わたしは、何やら胸騒ぎのようなものを感じていた。
　でも、その不安や怖れの気持ちを必死で押し殺していた。
「どうぞ、おかけください」
　と、わたしが言う。
「なんだと、貴様！」
　と、浮舟の隣りにいる男が大きな声を上げた。
　周りを見る。お客さんは少ない。

　その男をよく見るに、さほど目に怖さがない。
（この男と浮舟とはどういう関係にあるのだろうか？）
　と、わたしはその男の目を見据えていた。

「この男ねぇ、わたしに付き合え、って言うのよ」
　浮舟が、そばの男に話しかけている。何という品のない声だ。今まで上品な女とばかり思っていたのに。とても下卑た声なのだ。
　見ると、浮舟は、赤ら顔の、大していい男でもない男の膝に自分の手を置いている。馴れ馴れしいにも程があると、わたしは考えていた。
　しかし、わたしは、自分の頭の中が半分、真っ白になっているのに気付いている。
（あんな上品そうなロマンス・グレーの男とは肉体関係がないのに、こんな男と…。でも、本当に、こんな下品な男と、浮舟は寝ているんだろうか？）

　わたしは、ふところに、かなりの額のお金を持っていた。
　しかし、とても、そのお金をその下衆（げす）野郎に渡す気はなかった。
　わたしは、度胸を据えていた。
　そこで、わたしはおなかに力を込め、浮舟の横で、椅子にふんぞりかえって座っている男に向かって言った。
「なに、わたしの妹は中野君子といいましてね、その妹が今日、こちらの方と会う約束をしていただけなんですよ。妹のやつ、急に風邪を引いてしまったもので。それで、わたしが代わりに来ただけのことでね。うそか、ホントか、何なら、警察にでも、ご一緒しましょうか？」
　足を組み、ふんぞりかえっていた男は、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をして、椅子の背もたれから身を起こしている。
　浮舟は、ポカーンと口を開け、半ば呆れたような顔をしている。
　わたしは、自分のレシートを取って、席を立った。
「では、この近くに派出所がありますから、そちらにまいりましょう」
　わたしは、後ろも振り返らずに、レジの方に向かった。
　実際、あんな下品な男とセックスをしている浮舟を抱きたいとは思わなくなっていた。あの男のことだ、色んな女とヤッているにちがいない。性病に罹っている女とも。別に、それで、浮舟さえもが性病に罹っているとは言わないが。性病が怖ければ、せめてコンドームをしてやればいいかもしれない。しかし、それにしても、クンニは勘弁して欲しい。

　わたしは、レジで、支払いを済ます。
　後を振り返る。
　あのふたり、付いてきていない。
　警察まで同行する気まではないらしい。
　わたしは、しかし、内心、ほっとした。
　浮舟とは、自由恋愛。売春なんかではない。それに、ペニスを膣内に入れた、というわけでもないではないか…。
　しかし、ともかく、ラブホに行ったことだけは確かなのだ。警察で色々聞かれるのも面倒臭いことは確かなのだ。

　わたしは、車で、自分の住むＦ県Ｕ市に向かっていた。
　運転をしながらも、やはり、浮舟のことが気になった。
　わたしは、インターチェンジでバックし、駐車スペースに、クルマを入れていた。
　わたしはため息をついた。そして、あんな下品で、女誑し（たらし）のような男に体を開いた浮舟を、わたしは心の底からにくんでいた。
　が、なぜだろう、胸が痛んだ。
　胸が濡れてくるのだ。
　あんな、気の多い、浮気な女なのに…。

　わたしは、浮舟と一緒に、グランドホテルに現れた、あの赤ら顔の男に嫉妬したわけではない。ただ、浮舟が許せなかった。
　浮舟をもう一度Ｓグランドホテルに呼び出し、『あんな男のどこがいいんだ！』と怒鳴ってやりたかった。
　浮舟の私書箱に、中野君子として、メールを打ち、『あなたって、最低の女ね。女同士の話し合いの場に、やくざな男を連れて来るなんて！』と非難の矢を打ち放したい…。
　しかし、そんなことをすれば、事がこじれるばかりだ。今は、じっと耐えるしかない。そのうち、浮舟もわたしのことを忘れるし、わたしも浮舟のことを忘れていくだろう。
　しかし、わたしは、頭を冷やし、気持ちを落ち着かせるには、やはり、女、それも人妻を抱くしかなかった…。

　Ｆ県Ｕ市というのは、政令指定都市にあと一歩というところで、人口５０万人未満の、一地方都市にしか過ぎない。それなのに、出会い系サイトで申し込みをするとすぐに管理室から何人かの人妻が紹介される。
　『現代社会においては、性のモラルが著しく低下している』と言われても反駁のしようがない。そして、お金に任せて人妻を買うという最低の男たちのグループの中に、わたし自身もいる…。

　出会い系サイトの管理室で、わたしは、３４歳の人妻を紹介してもらっていた。
　市内の喫茶店で会う。
　小柄な女性だった。
　身長は１５０センチくらい。体重も、あるいは４５キロを切っているかもしれない。
　しかし、とても可愛い顔をしていた。
　彼女は、「美香」と名乗った。

「お先にいただけるかしら」
　わたしは、彼女の可愛い顔に見とれていたので、一瞬、返事が遅れた。
「ええっ、なに？」
「あの、先立つもの…」
「ああっ」
　わたしは、やっと気がつき、財布を取り出した。
「で、いくらにしましょうか？」
「３万５千円でどうかしら？」
　どうして、５千円という半端な金額がくっつくのか、わたしにはわからない。しかし、そんな詮索は無駄なことである。わたしは内心苦笑しつつも、それは顔には表わさないようにして、
「ああ、いいですよ」
　と言った。
　お金の金額の多寡のことでもめてもしようがない。互いに気持ちよくセックスしたいのだ。

　彼女は、働いていると言った。
「今日は、勤め、お休みしたの」
「えっ、わざわざ、わたしのために？」
「……」

　彼女は、２２歳のとき、結婚をしたという。
「新婚時代は、毎晩だっただろうね」
「ええ」
　彼女はちょっと顔を赤らめた。
「で、今は？」
「月に２回くらい」
「ふーん」
　わたしは、多いとも少ないとも言わなかった。

　タクシーで、シティホテルに向かう。
　わたしは、紙切れに、「１５２６の部屋へ」と書いて、彼女に渡した。
　最上階の１５階にある、ルームナンバー「１５２６」の部屋は、デラックス・ツイン・ルームで、わたしは、すでに、さっきの喫茶店のトイレの中から予約を入れていたのだ。
　タクシーを降り、わたしはチェックインのためフロントに寄る。彼女はエレベーターに向かっていた。

　彼女は一緒にお風呂に入りたがらなかった。
　で、わたしが先にバスルームを使う。
　そして次に彼女が入って行った。
　わたしは、冷蔵庫からビールを取り出していた。
　ビデオのスイッチを入れる。
　なぜか、エッチビデオでなく、一般映画の『オペラ座の怪人』を見ていた。この映画はすでに、映画館で見ていたが…。
　映画の中のオペラ座の怪人は、顔にやけどを負っていた。そして、そのみにくい顔を隠すためにマスクをしていた。が、そのような醜い顔をしているにもかかわらず、彼は、ひとりの女に恋をしてしまったのだ。むろん、彼女を恋するライバルが出現した。彼は、そのライバルの男と激しく戦う。そして、彼はその男との戦いに破れ、恋を成就させることはできなかった…。がしかし、彼は、その片想いの恋を一生守り続けた。何十年か後、恋する彼女が亡くなってお墓に埋葬される。その時、彼は、彼女のお墓に、そっと、赤いバラの花を一輪たむけていた…。
　わたしは、映画『オペラ座の怪人』を見、男でも、一生、一人の女に対する純粋な気持ちを持ち続けられるということに、内心、とても感動していたのだった。

「お待たせ」
　背の低い、しかし、とても可愛らしい顔をした女が、そばにやって来た。
　確かさっき、喫茶店で名前を聞いたはずだが。
　今、名前が思い出せない。
「ああ、長いお風呂だったね」
「だって…」
「あそこ、きれいにしてきたの？」
「ええ」
「じゃ、クンニをしてもいいよね」
「……」
　彼女が恥ずかしそうに、顔をうつむけた。
　それは、クンニをしてもいいという、オッケーのサインだった。
「それでさ、今日は、純ナマでいいの、それとも、コンドームを付けるの？」
「ピルを飲んでいるから、大丈夫よ」
「ああ、そうなんだ。ラッキー！」

　わたしは、彼女をベッドに寝かせつけた。バスローブを剥がす。
　大きなおっぱい、小さな可愛い顔に似ず。
　で、わたしは、そのおっぱいの裾野に手をやり、乳首のところをチュウチュウと吸っていた。
　おっぱいの中腹のところをモミモミする。
「あっ、あああ」
　彼女の悩ましげな声に、わたしは、彼女の顔を見上げた。
　そうだ、この女の名前は「美香」と言ったはずだ。
　お乳を揉み、乳首をいたぶる。
　と、美香という女がお尻を振りながら身悶えする。
　やはり人妻はいい。ご主人によって官能が開発されているから、感度がいい。
　腰をクネクネさせ、胸の肉がプリンプリンと躍動するのだから。

　下を見る。両の乳首を指で挟みながら。
　彼女の股間にあるのは、パンティというより、レース重ねのホワイト・ショーツだった。
　そのショーツに手を掛ける。アクセ付きだ。彼女はまだ若い気なのだろう。
　が、そのショーツをむしり取る。
　恥毛はそんなに多くない。

　女性器全体に手を掛け、まるく回すようにして愛撫する。
「うーん、ううう」
　美香は気持ちよさそうだった。
　くちびるをそっと重ねてみる。
　嫌がらない。
　で、美香のくちびるを吸い込むようなキッスをした。
　土手（恥丘）に手の平を置きつつ、大陰唇、小陰唇と、指でのまさぐりを続ける。
　わたしは、手の平が熱くなっていくのを感じた。たぶん、美香の女性器が熱を帯びてきたのだろう。

　割れ目に沿って、指の腹で擦っていく。
　ちょっとだが、すでに、指先が濡れている。
　感じてくれているのだろう。
　指をしっかりと上下に動かす。
　と、草叢の上の方で、コリッとしたものが指先に当たった。
「アッ、アアアッ、アッーッ！」
　やはり、美香もクリトリスが弱いらしい。

　わたしは、からだを下にずらした。
　そして、美香のクリトリスにくちびるをつけて行った。
　舌先で包皮をめくり、剥き出しになったオサネを啜る。
「あっ、ああああっ・・・」
　美香が腰を捻る。それでは十分なクンニができない。
　しっかりと腰を上から押さえつける。

　わたしは、今度は、くちびるを直接、膣口に当てた。そして、膣口から愛液を吸った。
　そして、美香の愛液で濡れたくちびるをクリトリスに向かわせた。
　クリトリスをくちびるに咥えつつ、舌先で尖った部分を舐める。
　腰の動きが激しい。
「あーん、いやいや」
　腰をしっかり押さえつける。
　そして、クリトリスを激しく啜る。
「いいっ、いいっ、ああああっ」
　わたしは、美香を一回、イかせようと思った。
　それで、唇でクリトリスを責めつつ、中指を膣口に入れ込んだ。
　顔を上げ、濡れた中指でクリトリスを擦る。
　顔をつけ、クリトリスを啜る。
　唇をクリトリスにくっつけたまま、中指で膣内を掻き混ぜる。膣内右側の括約筋を。そして、膣内上部のＧスポットを。
「イクっイクっ、イクッちゃう、あっアアッ、ウッウッ、ウ――ッ！」
　美香はそり返り、ピクッビクッとからだを震わせながら、イッてしまっていた。
　わたしは、なぜか、目に涙をにじませていた。
　浮舟とて、所詮、ごく普通の女なのだ。男に抱かれたいと思うことだってあるにちがいない。そして、あの赤ら顔の男に抱かれたのであろう。
　抱かれてもいい。だが、あの赤ら顔の男に、膣をいじくられるうちには、感じてしまったのであろう。

　わたしは、中指を、美香の膣の中に入れたままだった。
　むろん、その中指を動かしてはいない。
　でも、膣内のひだ肉がヒクヒクと、中指にからみついてくる。
　中指の感触が気持ちいい。
　わたしは、そのヒクヒクと蛭（ひる）のようにくっついてくる感触を中指でなく、ペニスで感じたくなった。
「ねぇ、入れさせてくれない？」
「……」
　わたしは、美香の返事を待ちきれなかった。美香の足を大きく広げさせた。
　その間に、身を入れる。
　ペニスを掴む。
　ねらいをつけて、一気に差し込む。
「うっ、うううう」
　美香が顔を顰める。
「痛かった？」
「ううん、大丈夫よ」
　わたしは、根元まで、しっかりとペニスを入れ込んでいた。
　そして、彼女の上半身を抱きしめる。わたしの唇の位置がちょうど彼女の額のあたりだった。額に唇を当てながら、わたしは、じっとしていた。
　じわじわと、彼女の膣の襞肉が、陰茎の表皮にからみついてくるのがわかる。

「うっ、んっ、んんんっ………」
　ペニスを入れ込んでいるだけなのに。動いてはいない。しかし、美香は、眉間に皺を寄せていた。でも、そんなに苦しそうではない。
　美香が、下から腰をグリグリ突き上げて来る。
　美香は、もっと感じたいようである。
　わたしは、動くことにした。ひらがなの「の」の字を書くように腰を使う。そして、わたしは、わたしの恥骨のところで、美香のクリトリスも刺激していた。
　
　結構、このたびは長持ちがしている。
　浮舟となら、こんなに長持ちがしないだろう。
　美香はさほど精神的に好きだというものはない。だから一定の距離が置けるのだ。
　わたしの胸の下で身悶えする彼女はそれでも可愛かった。
　抱きかかえるようにして、挿入したまま、接点部に手を入れ、クリトリスを揉んであげる。
「イクイク、イッちゃう、イッチャウ……」
　美香は、また、イッてしまった。

　わたしは、また、浮舟のことを思っていた。
　浮舟もこうして、あの赤ら顔の男に太いペニスを突っ込まれたにちがいない。そして、その男によって、油送という行為で膣をなぶられ、責められて、何度もイッたことだろう。
　男とてそうなのだが、女とて、結局は、粘膜を擦られれば、アクメに達していかざるを得ないのだ。

　わたしは、イってしまった女の髪の毛を撫でながら、彼女の回復を待つ。
　彼女を精神的に愛しているわけではない。ただ、肉体的な欲望を得るために優しいだけなのだ。
　彼女が目を開ける。
「ちょっと動くよ」
　彼女がうなずく。
　わたしは、ゆっくりと油送に入った。
　膣の浅いところで、抜き差しを繰り返す。
　グランス（亀頭部）が、膣の左右両壁の括約筋によって擦られ、気持ちがいい。
　クチャクチャと音がする。
　女は、また、濡れてきたのだろう。
　女を組み敷きながら、九浅一深という言葉を思い出している。
　と、深く突っ込むと、ペニスの先が柔らかい壁に当たった。
　子宮口が膣内に降りてきて、その子宮口にペニスの先端部が当たっているのかもしれない。
　腕をベッドに突く。その腕を伸ばした。上半身が浮く。足指を折り、足をピーンと伸ばす。そして、大腰を使った。
「うーん、もう、いい、もういい」
　彼女が苦しそうだ。
　しかし、わたしは止められない。
　わたしにとっては、これからがいいところなのだ。

（お金にまかせ、どんどん、女をいたぶっている、俺は、最低の野郎だ）
　もう一人のわたしが、斜め上の辺りから、女をいたぶっているわたしを見詰めている。
　わたしは、自分を責めていた。しかし、肉の欲望は萎んでいかない。腰は自然と動き、ペニスはおのれの欲望を満たすために、さらに硬く、大きくなっていく…。
　大きくなったベニスが、膣内の襞肉からさらに強い刺激を受け、引くたびに、その襞肉は、陰茎の皮をしっかりと、めくり剥いで行く。
　わたしは、抜く一歩手前で止め、それから、腰を突き上げるようにして、彼女のＧスポットをペニスの先端部で擦り上げている。
　そして、彼女のおっぱいを強くにぎった。
「アーン、アアアッ、ダメダメ、イグッ、イグッ―――ッ！」
　女が、からだを弓なりに反らす。
　頭を激しく左右に振っていた。
　食いちぎられるほどに、ペニスの根元が締めつけられる。
　と、急にペニスの先端部が膨らんだような気がした。爆発が近いのだ。
「ムッ！」
　わたしは思わず呻く。
　ペニスの根元から尾てい骨へ、尾てい骨から脳天へ電流が走り抜ける。
「もう、だめだ！」
（ドクドク、ドクッ―――ッ！）
　わたしは、とうとう気をヤっていた。

　わたしは、小さな体の彼女の上から降りた。
　何度もイカされたせいだろうか、彼女は、額に汗を噴き出させ、ぐったりとなっている。
　
　わたしは、その女の姿に、また、浮舟のことを想っていた。
（浮舟も、きっと、こんなにグッタリとするほど、あの赤ら顔の男にヤられたにちがいない）

　女は、女は、大きらいだとわたしは思った。
　そして、男なんて、男なんて、まったく馬鹿だと思った。
　汗水たらして働いたお金を、社会的に有益なことに使わず、キャバクラ嬢だの、ホテトル嬢だの、デリヘル嬢などにつぎ込んで…。
　精神的に何も感じない女なのに、粘膜と粘膜をこすり合わせるうちには、肉体の一部が膨張し、感情的にも高揚して、結局は、陰茎内の細胞の蠢動により精を吐き出してしまう…。単なる肉の喜び…。

　本当は、心と肉の喜びこそが大切ではないのか。
　ひとりの女を身も心も愛する。
　そして、その女と結婚し、その女のために尽くす。
　そんな簡単なことができない自分が、わたしは情けなくて、情けなくてたまらなかった……。

　愛する夫のために、甲斐甲斐しく台所に立つ浮舟。
　愛する恋人のため、夜寝るたびに熱い涙を流す浮舟。
　出会い系サイトで知り合った男にインサートを許してよがる浮舟。
　そのいずれもが浮舟の姿であろう。
　そんな浮舟を、どう考え、どう対処していいのか、わたしにはわからなかった…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（おわり）