３　感じてくれない女

　彼女にキッスをする。頭の中が痺れてくる。
　気持ちのいい痺れである。
　なかなか会えなかったのだ、それがわたしの心に火をつけたらしい。
　今、わたしは予想外に興奮し、足をガクガク震わせているみたいだった。

　と、抱いている彼女の体が重い。
　彼女が床の上に膝から崩れそうになったらしいのだ。
　体調が悪く、貧血でも起こしたのか。
　あわてて、右手をお尻の下に置き、彼女のからだを下から支えた。そして、彼女の背中に置いていた左手も、彼女のお尻の下に置く。そして、彼女の下半身をしっかりと抱き寄せた。

　気がつくと、完全に、わたしは、股間のモノを勃起させていた。
　彼女はどうであれ、わたしは彼女のことが気に入っているらしい。

　恥ずかしかった。
　下半身を密着させているのだ。股間のモノが大きくなったことは彼女も感じたことだろう。
　照れ隠しに言う。
「あなたをこうして抱いているだけで、年甲斐もなく興奮してしまって。入れてしまったら、何分、持つんでしょうか？。とても、３分とは持たないかもしれない…」
「……」
　彼女がちょっと笑っている。
　でも、緊張感が漂っている笑いであった。
　しかし、わたしにとって、それでも、それは魅力的な笑いだ。
「好きなんです、あなたのことが。だから、３分で射精したとしても、かんべんしてくださいね。でも、きっと約束します。１５分、待っていただけたら、また、すぐに回復してみせますから…」
「……」

　時計を見ると、午後２時だった。
　本当は、冷蔵庫からビールを出して飲みたいところだ。しかし、夕方には、クルマで再びＵ市に戻らなくてはならないだろう。
「お風呂にお湯を入れてきます」
　そう言って、バスルームへ行く。
（どうしたらいいのだろう）
　わたしはちょっと悩んでいる。
　彼女は美人だ。男たちから、ちやほやされてきたにちがいない。
　へりくだって、彼女の顔を立て、ご機嫌を取り結ぶにはどんな風に振る舞えばいいのだろう…。

「湯が入りました。お先にどうぞ」
「……」
「一緒に入らせていただけませんか。あなたの背中を流してあげたいのです」
「……」
　わたしは度胸を据えていた。
　ここまで来たのだ。彼女だって覚悟しているだろう。
　ラブホに入って、男女のカップルがすることといえば、ひとつだ。
　男は、固い肉棒を女の亀裂の中に差し込む。
　女は、濡れた亀裂の中に、男の肉棒を受け入れる。

「では、待っていますから、すぐに来てくださいね」
　わたしは、バスルームに向かう。
　脱衣スペースも広かった。
　バスルームのドアを押す。内側の、洗い場になる床はとても広い。
　数歩もかかって、バスタブ（浴槽）のところまで行く。
　プラスチック製の風呂桶（おけ）で湯をすくい、からだにかける。
　バスタブのトップの位置は、床と同じ平面になる。まるで、バスタブ（浴槽）は掘りごたつのようである。しかも、そのバスタブは大きく、大人がふたりで同時に入ったとしても、じゅうぶんゆったりできるだけの広さがあった。
　見渡すと、床は、ベージュ色をした表面がとてもやわらかなタイル張りであり、ユニバーサル・デザインというのか、バスタブのトップと床との間には、段差というものが全くなかった。

　横を見遣ると、バスタブのそばに、マットレスがある。
　なるほど、このマットレスを使えば、バスルームの中で、男女が正常位でつながることができる…。

「ねぇ、恥ずかしいわ。ライトを落としてくださらない」
　彼女が、バスルームの入り口のドアから顔だけ覗かせている。
「はい」
　わたしは、床に座り込み、まるで、足湯でもするかのようにバスタブに足をつけていたが、立ち上がり、ライトを消した。
　もっとも、小さな窓があり、外からの陽の光があって、真っ暗にはならない。小窓のブラインドを下ろそうかと思ったが止めた。真っ暗では、彼女の裸身をまったく観賞することができないのだから。
「恥ずかしいわ」
「そんなこと」
「だって…」
「あなたのプロポーション、僕は気に入っているんです」
「……」
「こんなことを言えば、セクハラになるんでしょうね。でも、僕は、あなたのルックスやプロポーションに惹かれ、こうして交際を申し込んだのです」
「でも、わたし、もう若く、ありませんわ」
「そんなことはないです。あなたなら、２０歳代後半で十分通用しますよ」
「まぁっ、お口の上手なこと」
　浴槽は２層になっていた。浅いところと深いところと。
　浅いところというのは、深いところに足を置いて、イスのように腰をかけることができる。湯は胸の辺りまでしか来ない。
　わたしは、浴槽の中に入り、浅いところに腰を掛けた。そして、彼女にも入るよう、手招きをした。
　彼女が入ってくる。
　わたしのすぐそばに腰掛ける。
　胸を手で隠している。
　わたしは視線を下に置く。
　草叢の茂みは、そんなに濃くない。

　それから、わたしは、浅瀬の位置から腰を降ろしていき、浴槽の深いところにからだを沈める。そして、彼女の手を取り、彼女も肩までお湯に浸からせた。
　彼女は、お湯の中なのに、まだ、おっぱいに手をやっている。で、その手を、取らせた。
　おっぱいを、お湯を通して見る。
　大きくはない。しかし、形は崩れていなかった。
　目は、だんだん薄暗さに慣れてきた。
「きれいなからだをしておられるんですね」
「そんなに見てはいやよ」
「いいじゃないですか。ここには、他に誰もいるわけじゃないんですから」
「でも、あなたが…」
「わたしなんか、あなたに仕えるサーバント（召使い）にしか過ぎません」
「まぁ、そんなこと、おっしゃって…」

「ねえ、本当ですよ。あなたのからだをボディ・ソープで流してあげる、ってこと」
「いやよ」
「もう、ここまで来たら、清水の舞台から飛び降りるような気持ちになってくださいよ」
「でも、恥ずかしいわ」
「ですから、バスルームのライトを落としました」
「でも、うっすらとは見えるもの…」
「どうしたって、真っ暗闇にはなりませんよ。でも、真っ暗闇にはしたくありませんね、絶対に」
「どうして？」
「もったいないですよ。あなたの美しい裸を見られないなんて…」
「……」
　彼女は視線を落とした。
　それを良いことに、わたしは、お湯の中で少し彼女に近づき、彼女のからだを抱き寄せ、そして、彼女のくちびるにキッスをした。
「いやっ」
　彼女がちょっと抵抗した。
　彼女のくちびるから離れる。
　わたしは、お湯の底の方で、彼女の手を取った。
　そして、彼女の手をわたしの股間のモノに導く。
　わたしのペニスはすでに天に聳えていた。
「あなたが嫌がっても、わたしは、あなたが好きだ。だから、もうわたしはこんなに興奮している」
「でも…」
「やさしくしますから。さぁ、わたしを信じて…」
　わたしは、彼女の手を取った。そして、お湯の中で、彼女をわたしの横に来させた。そして、彼女の心を安心させるように、わたしの肩に彼女の頭を乗せさせ、背中から手を回し、腋の下から彼女のからだを抱えるようにした。
　彼女の腰がわたしの腰に当たる、それがとても心地良かった。

「ずっと、こうしていたい」
　わたしは、彼女の肩に、軽くお湯を掛けてあげながら言った。
「だめよ、そんなこと言って。どうせあなたはお見合いをして、結婚をしてしまうんでしょ」
「それはわかりませんよ。お見合いしたって、相手の女性に、断られるかもしれない…」
「そんなことはないでしょ。あなたは優しいし、お金持ちだし…」
「例え、お見合いの相手の人と結婚できたとしても、あなたのことは忘れない…」
「そんな口ばっかり」
「でも好きなんです、あなたのことが…」
　わたしは、横向きになって、彼女にキッスをした。
　そして、右手で彼女のおっぱいを揉んでいた。
　彼女が悶える。
「もう、お湯から上がりたいわ」
「そうですね、随分お湯につかっていたような。では上がって、体を洗ってあげましょう」
「いやいや」
「そんなわがままを言わないでください」
　わたしはお湯からすばやく上がっていた。
　そして、ピンクのマットレスをタイルの上に敷いた。
「さぁ、ここにうつ伏せになって。背中を流してあげますから」
「あらっ、そんなこと、いいわ」
「結婚したら、もうあなたとは会えなくなるんです。どうか、わたしの最後の願いを聞いてください」
「でも…」

　わたしは、彼女の手を取り、そして、彼女の肩を押し、後ろの腰の辺りを押すようにして、彼女をマットレスの上に腹ばいにさせていた。
　わたしは、ボディ・ソープのリキッド（液）を手の平に伸ばす。
　首筋に柔らかく、そして、肩にもボディ・ソープを当てる。
　そして、日焼け止めのオイルでも塗るかのように、彼女の背中に、透明なリキッドをあてがって行く。
　泡が立たない。
　しかし、マッサージのように、皮膚にソープを塗りこんでいくと、やがて、泡が立ちはじめる。
　なめらかな感触。
　優しい手の感触。
　彼女の柔肌に直接手を触れているのだ。
　わたしは、もうそれだけで、股間のペニスをピクピクと躍動させていた…。

　背中を撫でる。
　肌はなめらかであった。
　腋の下に手をやる。
　腋の毛はきれいに剃られていた。
　わき腹を撫でる
　お尻に触る。とても格好のいいお尻だ。
　真ん中のくびれもきれいだ。
　お尻の割れ目に指を突っ込み、菊の花（肛門）をなぞりたいところだ。
　そして、指先を肛門から下にくぐらせ、膣口に挿入してみたい。それで、彼女の興奮度を探ってみたい。
　しかし、それは自制した。彼女を仰向けにし、じっくりと乳房を揉み、乳首を吸い、クリトリスを十分愛撫してから、そのようなことはすべきだからだ。

　内腿を、リキッドソープとともに、マッサージする。
　凹（へこ）んだ膝の後ろ、そして、ふくろはぎ。
　くるぶし、足の裏。
　足の裏にはたくさんのツボがある。そこをマッサージする。
　足の指と指の間にも指を入れる。そして、まるで垢でも取るように、私の中指で、彼女の指と指の間を擦る。

　彼女のからだは、泡にまみれている。
　しかし、形のよいお尻がわたしの脳を刺激する。
　わたしは、このままうつ伏せになった彼女の上にのしかかり、バックから彼女の膣の中に、コチンコチンになったペニスを嵌めたいと思った。
　しかし、今、後ろの背中をソープで洗ったばかりなのだ。わたしが覆いかぶされば、また彼女の肌が汚されてしまう。
　それに、何といっても、前側を洗わせてもらわなくてはならない。
　彼女の形のよいおっぱいを堪能したいのだ。そして彼女の茂みをソープをつけて、きれいに洗ってあげなくては。

　わたしは、バスの中から、お湯桶で湯を汲み、泡の立っている彼女の背中をきれいに洗い流した。
　背中から泡やリキッドソープが消え、とても艶やかな肌が現れた。
　ペニスが、ビックンビックンと脈動している。
　しかし、わたしは、落ち着き払うようにして言った。
「さぁ、今度は仰向けになってください」
「……」
「背中は終わったのですよ」
「……」
「しようがないなぁ」
　わたしは、彼女の肩に手をやって、彼女を仰向けにしようとする。
　しかし、彼女は力を入れているみたいで、なかなかひっくり返ろうとしない。
　さらに、わたしは力を入れる。
　これではまるで、レスリング試合みたいだ。
　俯いた相手は、決してひっくり返されまいとする。そうなのだ、仰向けになって、両肩がマットにつけば、フォール負けになるのだから。
「ねぇ、お願いですから、仰向けになってください」
「いやよ。前は、自分で洗うわ」
「洗わせてください」
「いやよ」
　彼女は強引に拒絶している。
　わたしは、あきらめた。
「では、いいです」
　わたしは怒ったように、そう言った。
　
　わたしは、ふて腐れながら、シャワーのところに行った。
　わたしはからだに、ボディ・ソープを塗りたくる。
　そして、体をシャワーの湯で流した。
（ひょっとしたら、彼女、もったいぶって、抱かせてくれないかもしれない。だったら、いいかげんに洗っておいて構うものか…）
　
　わたしは、おもしろくなかった。
　この世は舞台。せっかく色男ぶって、彼女を楽しませてあげようと思ったのに、彼女は付いて来られないみたいなのだ。あるいは、ああ見えて、彼女は遊び慣れていないのかもしれない。
　わたしはひとりでバスルームを後にした。
　洗面台のところにあったバスタオルでからだを拭き、バスローブを着て、ベッドルームに戻る。
　
　わたしは、冷蔵庫のドアに手を掛けていた。
　クルマで来たのだ。駐車場にはクルマが置いてある。
　それなのに、手は缶ビールに伸びている。
（ラブホから、代行を頼むなんて、あんまりカッコいいもんじゃないな…）
　わたしは、ソファに腰掛け、ビールを一気に飲んだ。

　と、彼女がベッドルームに戻ってきた。
　時間がかかっている。
　洗面台のところにあったドライヤーで髪でも乾かしていたのだろうか。

　彼女は機嫌がわるそうだった。
　わたしが黙ってバスルームを出たせいだろう。
　わたしも、気分がわるい。
　あれだけおとなしく背中を流させてくれたのに、前はだめだなんて。おっぱいを揉み、乳首を吸い、陰核や膣をクンニすることが、わたしの生きがいなのに…。

　実際、普通の場合、背中を揉み、腰の辺りをマッサージするうちに、女は自ら仰向けになり、わたしのペニスをにぎり、『ねぇ、ちょっとだけでいいから、入れて』と催促してくるのに。
　彼女は催促しない。
　それに、うつ伏せになったまま、ビクリともしなかった。
　普通の場合、腰をもじもじさせ、『うっ、うううっ』と声を上げてくれるのに。
　ひょっとしたら、彼女は感じていないのかもしれない。
　いや、わたしのことを嫌っているのかもしれない。
　このまま別れることになってもやむを得ないと思った。

「ビール、飲みます？」
「ええ」
　彼女は意外に素直だった。
　彼女は、横にやってきた、そしてソファのわたしの横に座った。

　彼女がそばに座ってきたので、何か照れくさくなったのか、わたしは、立ち上がりビデオを付けた。
　アダルトビデオである。
　スイッチを入れる。
　ちょうど、ファックシーンであった。
　外国人の女性と男性のからみである。
　男性の股間に目が行く。
　長い。ため息が出そうだ。なんか、２０センチは優にありそうだ。
　が、先端部は、細い。それに包茎だった。それは水平に伸びていた。おなかにくっつくほど鋭角ではないのだ。勃起力は弱いのかもしれないと思った。
　が、なんとも、その男性の腰使いは見事である。
　ペニスが長いゆえに、腰の動きが大きいのだ。
　たくましくて、柔軟な腰。ついに、女性は、絶叫しながら、仰け反り、シーツをつかみながら、アクメに達していた…。何とも、外国の女性は、アノ時の表現力も豊かである。それに比べ、彼女ったら…。

　横にいる彼女を見る。
　彼女は、片手に缶ビールを持ち、ゆったりと飲んでいた。
　落ち着き払っている風に見える。

　で、わたしは、いたずらっぽく、彼女の太ももに手をやった。
　彼女はその手をどけない。それで、下半身のバスローブをはだけていった。
　なんと、彼女はパンティをつけていた。まったく興ざめである。

　なぜなのだろう、わたしは、急に腹が立ってきた。
　こういうところに来て、一緒に風呂にまで入ったのだ。それなのに、パンティをつけてくるなんて、まるで、わたしとのセックスを拒否しているみたいではないか。

　わたしは、怒ったように、ソファから立ち上がり、そして、彼女の正面に向かい、そして、絨毯の上に膝を付いた。
　彼女が驚いているようだった。
　しかし、構わない。
　わたしは、彼女の両方の太ももに手を掛け、一気に股を広げさせていたのだ。
　そして、すばやく、その股座（またぐら）に、顔を突っ込む。
　ソファの彼女は、股ぐらを閉じようとした。しかし、わたしは、両手でしっかりと内側に向かおうとする力を受け止めている。
　そして、股ぐらに置いた手は、外側に向かって、しっかりと力を入れた。
　腕を張り、そのまま、ぐっと我慢する。
　やっと彼女の股の力が弱まった。

　わたしは、顔を股ぐらの奥に突っ込み、唇で淫毛を掻き分けていく。
　そして、唇でクリトリスを探す。
　見つかる。
　意外に小さく、柔らかい。
　それを舌でころがす。
　耳を澄ます。
　しかし、頭上の彼女は、うんともすんとも言わないのだ。
（不感症なのだろうか？）
　手が使えない。
　内腿から手を離せば、すぐに股を閉じられてしまうだろう。
　わたしは、舌先を丸め、それを膣の中に差し入れてみた。
（ウン？、濡れている）
　彼女は感じてはいるようなのだ。
（全くの不感症ではない）
　
　わたしは努力のしがいを感じていた。
　こうなったら、時間をかけて、じっくりと、クリトリスとヴァギナを攻めていくしかない…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
（つづく）