| １０（＝最終話） 明けない夜はない 金曜日だった。 冬は部活が終わるのも早い。 とうさんは、まだ会社から帰っていなかったが。 ７時、僕は、かあさんと、夕飯を食べていた。 かあさんが、話しかけて来る。 担任の先生と面談があったらしい。 （そういえば、昨日、進路のことで、家族面談があると、言ってたな） 「教室で待っている時、たまたま、田村加奈さんのおかあさんと、一緒になってね」 「……」 「田村さん、よくできるでしょ、勉強が？」 「ああ」 「塾のない日だって、うちで、４時間くらい勉強をしているそうよ」 「えっ、うそだろう！。そんなに？…」 「おかあさんが言っておられたわよ。田村さんは、夕食を済ませ、お風呂に入って、８時頃から、１２時くらいまで、勉強しているんだって…」 「……」 僕は、驚いていた。 （あいつは、そんなにやっているのか！？） 実際、僕には、想像もつかないのだ、１日、４時間も勉強するなんて…。 僕は、１時間もやっていないのだから…。 いや、平日は、３０分とて、やっていない。 「でも、田村さんのおかあさんが言っておられたわ。心配もあるんですって」 「なに？」 「このあいだ、野球の試合を、わざわざ見に行ったんだって、加奈さん」 「そうなの？」 「おかあさんとしたら、野球が好きなのか、それとも、野球部の中に、誰か、好きな男の子でもいるんじゃないかと、心配していらっしゃったわ」 「そりゃ、野球でしょ」 「ふーん、そんなこともあるのかしらね。だいたい、女の子だから、野球なんか、興味はないと思うけど…」 「そんなことはないよ。女の子だって、野球が好きで、野球部のマネージャーを希望する子だっているわけだし…」 「そう？」 「それに、最近のことだけど、女の子で、プロの野球選手になった子もいるんだ」 「そうなの？」 「そうだよ。その人はピッチャーでね、すごい変化球を投げるんだぜ」 「野球もいいけど、ちゃんと、君も、高校の普通科に行けるよう、がんばってね」 「で、先生は、どう言ってた？」 「今の成績じゃ、普通高校は無理かも、って。専門高校を志願せざるを得なくなるかもしれない、って…」 「……」 「田村さんは、私立の進学校を受けるらしいわよ。君も、田村さんに負けないよう、がんばらなくてはだめよ」 「……」 僕は、風呂に入っていた。 実際、田村加奈が、俺のこと、好きなはずがない、と思っていた。 勉強はできない。そして、野球だって中途半端だ。 ピッチャーをやりたいのに。 正式の試合で投げたことがない。 バッティングだって良くない。 紅白戦での、僕の平均アベレージは、２割８分ぐらいで、３割は打っていないのだ。 （あの日、田村は、俺のプレーを見に来たわけじゃない…） 僕は、勉強もせず、クラスメイトの釜山良一にもらった週刊誌を広げていた。 僕は、グラビア写真を広げていた。 女の子のおっぱいが大きいのに、興奮して、顔が赤くなってしまう。 そして、股間に、ものすごくオケケが生えているので、びっくりしてしまっていた。 それに、女の子が、男の人に、アソコに、オ○ン○ンを嵌められて、苦しそうに顔をゆがめているのが、何とも奇怪な感じがした。 嵌められている女の子が、かわいそうに思えてくる。 そして、嵌めている男の人は、ニヤニヤと、いやらしい顔つきをしているように見え、僕には、その男が、にくらしく思えた。 （女の子は、いやがっていそうなのに、なんで、この男の人は、嵌めて喜んでいるんだろう？） でも、そういう批判をしながらも、僕のオ○ン○ンは、硬くなっていた。 ひょっとしたら、僕だって、この写真の中の、いやらしい男の人と同じで、本当は、女の子に、こんなエッチなことをしたいのかもしれない…。 僕は、田村加奈が、男の人にこんなことをされるのかと思うと、本当に、いやだった。 むろん、先生も。 （でも、先生は、こんなことをされることはないだろう。だって、婚約者の男の人がおられるのだから。その男の人なら、やさしいから、こんな無茶なことはされないだろう） 先生には、優しいフィアンセがいて、よかったと僕は思う。 僕なんか、エッチだから、もし、先生と一緒に暮らしたとしたなら、いつも、アノことしか考えていないような気がする。 先生は、痛がって、嵌められたくないのに、僕は、そういうことがしたいから、いつも、『ハメさせて、嵌めさせて』と、懇願しているような気がする…。 やはり、男は、仕事をしてお金を稼いで、そして、家庭にあっては優しいのが一番だという気がする。 その点、僕は失格だ。 先生は、僕なんかと結婚しなくて、よかったと思う…。 日曜日の午後だった。 ケータイが鳴った。 開けてみる。 メールだ。 釜山からだった。 「アノ本、よかったか？」 僕は、さっそく、返信をした。 「刺激的だった」 と、釜山から、また。 「で、セル・プレ（自慰）、できたか？」 僕は、返信した、 「できなかった」 と。 実際、大きなおっぱいや、黒々として恥毛を見て、僕の股間のチ○ポは大きくなった。 しかし、それでもって、チ○ポをさわり、射精をしたい、という気にはなれなかった。 すると、また、釜山からメールが。 「じゃ、また、今度は、スゴイやつを、見せてやるよ」 僕は、思っていた、早くグラビア写真の女の子たちに慣れなくては、と。 （先生を汚すことだけは、止めなくては…） 月曜日の２時限目、僕は、英語の授業を受けていた。 僕のすぐ右横隣りのクラスメイトが、休んでいた。 どうも、風邪を引いたみたいだ。 で、その次の列に、田村加奈がいた。 今までは、今日休んでいたクラスメイトの陰で、田村のことは気がつかなかったらしい。 彼女が、こんな近い場所にいたなんて…。 そして、横目で見ると…。 彼女の、胸のところが、ふくらんでいた…。 （ああ、田村は、女の子だったんだ…） 僕は、横目を使うのを止め、正面をきちんと向いて、黒板を見た。 黒板には、２つの英文が書いてあった。 ああ、そうだった、今日は、もう、比較級の最上級の話になっていたんだ。 先週は、確か、「ａｓ〜ａｓ…」の「原級」とか、「形容詞-ｅｒ＋ｔｈａｎ〜」の「比較級」とかのことを習ったはずだった…。 “Ｔｏｍ ｉｓ ｔｈｅ ｔａｌｌｅｓｔ ｉｎ ｈｉｓ ｃｌａｓｓ．” （トムは、彼のクラスのなかでは、最も背が高いです。） “Ｔｈｉｓ ｔｒｅｅ ｉｓ ｔｈｅ ｔａｌｌｅｓｔ ｏｆ ｔｈｅ ｔｈｒｅｅ．” （この木は、その３本の木の中では、最も高い木です。） 「上と下の、このふたつの文章で、何か、特徴的な違いがあると思うんだけど、それは何だと思いますか？」 大越先生が、何か、僕らに質問をしているみたいだった。 僕は、思わず、下を向いた。 当てられないように、願っていた。 「田村さん、２つの文で、違いがあるけど、それは何でしょう？」 「たぶん、何々の中で、という前置詞句の場合に、上の文章では“ｉｎ”という前置詞が使われ、下の文章では、“ｏｆ”が使われている、ということだと思います」 「そうよね。よくわかりましたね」 大越先生の説明が続いていた。 「最上級では、“ｔｈｅ＋形容詞-ｅｓｔ”の後に、“ｉｎ”とか、 “ｏｆ”がよく使われるので、よく覚えておきましょうね。 さっき、田村さんが言ったように、後に場所や範囲を表わす言葉が続く時は、“ｉｎ ｈｉｓ ｃｌａｓｓ”とか、“ｉｎ ｈｉｓ ｓｃｈｏｏｌ”のように、“ｉｎ”という前置詞が使われます。 また、後に仲間とか同類などを表わす言葉が続く時は、“ｏｆ ｔｈｅ ｔｈｒｅｅ”とか、“ｏｆ ｔｈｅｓｅ ｔｒｅｅｓ”のように、“ｏｆ”という前置詞が使われます。 そして、ちなみに、“ｉｎ”の場合は、そのすぐ後には、単数扱いの単語が、また一方、“ｏｆ”の場合は、“ｔｒｅｅｓ”とか“ｍｅｎ”というような複数扱いの単語が続きますから、そういうことも、この際、まとめて覚えておきましょうね」 僕は、名詞や動詞ばかりに気を取られていた。 しかし、前置詞の使い方というのも、けっこう大変だなぁ、と思っていた。 そして、その前置詞のことだって、わかるのだから、田村加奈は、やっぱり、すごく勉強しているんだな、と思った。 授業が終わった。 僕は、当てられなかった。 ほっと、胸を撫で下ろす。 が、先生の姿が見えなくなると…。 僕は、本当に、ドッと悲しくなる。 そして、先生の後を追って、廊下に飛び出したくなる…。 でも、僕は、じっと我慢した。 いや、がまんできた。 だって、僕には、先生を追っかけていく資格なんて、まったくないのだから…。 部活。 冬場は、ロードに出て、４〜５キロのマラソンをする。 そして、時には、体育館で、バスケットや筋トレ、柔軟体操などをやった。 それでも、夏場に比べれば、大した練習量や練習時間ではなかった…。 練習が終わっても、エネルギーが、余っているように感じられた。 僕は、部活からの帰り道では、その余った分を、勉強の方に、振り向けられると思った。 しかし、それが、そのようにはいかなかった。 机に向かうのだが、それが、１分とは続かない。 すぐに、ベッドに横になる。 そして、捨てればいいのに、捨てられない、釜山良一からもらった、机の一番下に隠してある、エッチな週刊誌を取り出す。 グラビア写真を見る。 興奮はするのだ、女の子の裸を見て。 つまり、股間のものは、勃起するのだから…。 でも、何となく、手が伸びない。 そして、指による摩擦というか、模擬ピストン運動まではしないから、射精までには、行かないのだ。 教室では、一列を越えて、すぐ向こうに、田村加奈がいた。 その田村加奈の、ふくらんだ胸を思い出すたびに、僕は、股間のモノを、ビックンビックンと飛び跳ねさせる。 だが、僕は、必死に、その田村の胸元の映像を掻き消そうと努力する。 田村加奈に、迷惑をかけてはいけない。 田村は、外大の英米学科をめざしているらしい。 だとしたら、まず、ちゃんと、有名私学の高校に入ってもらわねば…。 僕は、グラビア写真の、はだかの女の子の股間に集中しようとする。 黒々とした草叢。 その草叢の奥底には、何があるのだろう。 その草叢を掻き分けて、確かめたい。 が、写真では、確かめようがないのだ。 急に、僕は、冷めてしまう。 僕は、目を瞑っていた。 と、僕の目の前に、大越先生の姿が現われる。 どうしてなんだろう？ でも、大越先生の姿が見たくて、見たくて…。 先生が、ブラウスを取り、スカートを脱がれている。 （ああ、ここは、先生の部屋なんだ！） おそらく、これから、お風呂に入られるのだろう。 （しかし、どうして僕は、先生の部屋にいるんだろう？） 僕は、小首をかしげながらも、突っ立っているのだ。 が、どうしたことなのだ、先生は、居間で、下着まで、脱がれていく。僕が、いるというのに。 （なぜ、先生は、僕のことに気がつかれないんだろう？） 世の中には、実に不思議なことがあるものだ。 ひょっとしたら、僕は、今、透明人間になっているのかもしれない。 僕は、姿が見えなければ、せめて、声でも掛けようと思った。 『先生、せんせい、僕がここに居るんですよ』 しかし、声が出ないのだ。 （どうしたらいいのだろう。こんなところで、脱がれたら、風邪を引いてしまわれるのに！） それなのに、僕の思いは通じず、先生は、パンティ・ストッキングまで脱がれてしまっていた。 僕は、目を背けていた。 先生には、あのグラビア写真の裸の女の子たちみたいに、あんなに黒々と、恥毛は生えていないはずだ。 そう思うと、僕は、安心した。 僕は、そのまま、先生に背を向けたまま、部屋を退散しようと思った。 今、僕は、特殊な薬を飲んで、透明になっているだけなのだ。 薬の効き目が切れたら、僕は、姿を現すことになる。 急いで、この部屋を出なければ、痴漢と間違われてしまう。 が、背後に、足音がしたような気がした。 （何か、先生の身に、危険なことでも？） 僕は、振り向いた。 と、先生の真っ白な裸身が目に飛び込んできた。 大きなおっぱい。 その突端には、ピンク色をした乳首が。 そして、股間には、何と、グラビア写真の女の子と同じように、黒々とした草叢が。 僕は、息を呑み、立ち尽くしていた。 しかし、股間のモノは、しっかりと天を仰いでいるのがわかる。 僕は、あわてて、その棒のようなモノを上から、手で押さえつけ、隠そうとした。 手の平が濡れる。 僕は、どうしていいか、わからなかった。 が、先生の草叢が、グングンと、僕の方に近づいてきて…。 いや、僕の方が、その草叢の方に近づいて行ったらしい…。 僕は、自分に催眠術をかけていたのかもしれない。 （大丈夫、先生には、僕の姿は見えていない。透明人間になる薬の効き目は、まだ、切れそうにない） 僕は、先生の前にひざまずき、そして、先生の股間に、キッスをした。 なつかしい匂いがした。 それは、まさしく先生の匂いだった。 その匂いが鼻の中に入った時、僕の頭の中は痺れ、朦朧としはじめていた…。 がしかし、股間のモノが、ビックンと、頭をもたげたことだけはわかった。 そして、股間のモノは、再び、その先を濡らし始めていた。 僕は、立ち上がり、僕の股間に屹立するモノを、先生の股間の草叢の中に埋めていこうとした。 （『あああ、ああ…』） 僕の耳に、確かに、先生のあえぐような声が聞こえた。 その声を聞きながら、僕は、頭の中に、白いもやが、かかっていくのを感じていた…。 ペニスの先が、先生の股間に接したと思った瞬間、僕は、腰に痺れを感じ、激しくハジけていた。 その射精が終わると、僕は、後ろ向きに倒れ、真っ逆さまに、真っ暗な谷底へと堕ちて行った。 （死ねばいい、死ねばいい…） 幸せにすることはできない。 しかし、せめて、不幸せにすることだけはしたくない。 ならば、この身は、この世から、なくなってしまえばいいのだ…。 僕は、目覚めた。 もう、朝になっていた。 手を股間にやる。 ブリーフの正面の布地のところが、まるで糊でも固まったように、カチンカチンに、なっていた。 きっと、冷えた精液が固まったのだろう。 僕は、生きていた。 どうやら、死ななかったようだ。 また、先生を汚してしまったというのに。 悪運が強いのか。 いや、そうではない。 勇気がないのだけの話だ。 『死ぬ』ということは、相当、勇気の要ることなのかもしれない…。 （いや、いいのだ。どうせ、先生とは、別れるのだから…） 僕は、ちょっと自嘲気味に笑っていた。 『早く、３月が来ないものだろうか。先生の離任式が、もっと早くに…』 僕は、自分でもおかしくなるくらい、そう、ふてぶてしく、つぶやいていた。 （明けない夜はない、きっと朝はやって来る） 僕は、目に涙がにじむのを感じていた…。 今まで、学校なんて、勉強をさせられるところで、苦しい場所だとばかり思っていた。 でも、今、学校は、恋する人に会えるところであり、楽しい場所だった。 もう、残り少ない…。 でも、今日も、先生に会える。 明日も、きっと。 また、あさっても。 それで十分だ。 僕は、生きていることの喜びを知った。 結末が、どうなろうと構わない。 僕は、素敵な先生に出会えたのだ。 この出会いに感謝しよう。 （先生、ごめんなさい。でも、先生、ありがとう…） （おわり） |
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| 2008.12.6掲載 |
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