1.マンネリ打破へ・・・

　深夜の夫婦の寝室、木内正之は妻の亜紀の裸体に覆いかぶさり、腰を振っていた。
　傍から見れば仲睦まじい夫婦の情熱的な行為に見えるが、当の本人たちにはお互いに夫婦である以上、しなければならないというような思いの上の義務的な行為に過ぎなかった。
　夫の正之は快感に身を任せながら目を閉じて、会社の同僚の20代前半の女性や、近所でよく見かける美人の人妻と交わっていることを想像すれば、一方、妻の亜紀もただひたすらに夫の早期の射精を願って目を閉じたまま体を任せていた。
　だからといって亜紀に女性としての魅力がなくなっているわけではない。
　形のいい乳房、くびれた腰、思わず眺めていたくなるような魅力的な美尻、下腹部には恥ずかしさをわずかに覆うかのように陰毛がきれいに生えそろっている。
　色白で、美しい表情・・・どれをとっても他の男性からしてみたらうらやましくなるような女性だ。
　ただ、結婚して5年・・・会社の同僚から仲が発展して付き合い始め、一緒に住み始めた期間まで入れると8年になる。
　年齢も正之が32、亜紀も今年で30になった。
　時が二人の関係をそうさせてしまったのだった。
「今日ね、冷蔵庫開けたらせっかくこの前買ってきたイチゴ・・・カビはえちゃってて・・・あーもったいない・・・」
　正之が亜紀の腹部に射精し、後処理を終え、全裸のまま二人でベッドに入ると、亜紀はすぐに普段リビングで二人で交わしているのと同じような会話を始めた。
　全裸で肌を寄せ合っているとはいえ、余韻を楽しもうという雰囲気すらない。
　正之は妻の普段通りの会話に生返事をしながら、いつの間にか眠りについていた。
　これもいつも通りである。これが二人の最近のセックスのお決まりの流れだった。

　明朝、通勤電車の中で正之は先日インターネットで見つけたとあるサイトのことを思い出していた。
「人妻調教クラブ〜あなたの奥さん調教します〜」
　大々的に歌われたこの見出しに正之は引き込まれるように入っていった。
　中には左手に薬指をした美女が、毛深い太った中年男性に羞恥的な行為をされている写真が数多く掲載されていた。
　正之は知らぬ間にその女性たちの裸体を見慣れた妻・亜紀の体と想像の中で入れ替えていた。正之の想像はどんどんエスカレートし、妄想の中で亜紀はその中年男性に羞恥調教を受け、最後には膣内にたっぷりとその男性の精液を受け止めていた。
　通勤電車の中、正之はそのサイトを閲覧し、妄想していたときのことを思い出し、激しく勃起したまま電車に揺られるのだった。

　仕事を終え、いつものように自宅に戻った正之。
　一度思い出してしまった思いは時間がたつにつれて膨れ上がり、一日中上の空、勤務中ほとんど正之のペニスは勃起したままだった。
　玄関のドアを開け、リビングにいる亜紀に自分が帰ってきたことを知らせる。
　正之がスーツのポケットの中で握りしめたメモには「人妻調教クラブ」の連絡先がしっかりと控えられていたのだった。


２.妻との合意

「あ、お帰りなさい。おなかすいたからご飯先食べちゃったよ」
「ん・・・ああ、いいよ・・・」
　亜紀はチラッとこっちを見てからはすぐにテレビの画面に視線を戻した。
　電子レンジで暖かさを取り戻した妻の手料理を食べながら、亜紀に自分のスーツのポケットのメモについてのことをどう切り出すか、考えていた。食事を終えて、使った食器をキッチンへ持っていきながら正之はおもむろに口を開いた。
「なあ・・・亜紀・・・」
「ん？なに？」
　亜紀はテレビから目を離さずに返事をする。
「昨日・・・すごいよかったよ・・・」
「え？昨日？何が・・・？」
　亜紀は何のことだか分かっていない。
「ほら・・・夜・・・やっただろ・・・昨日・・・寝る前・・・」
「・・・・・・」
　ようやくテレビの画面から視線をはずし、怪しいものを見ような視線で正之を見る亜紀。普段はそんなことを言ったこともない夫に明らかに不信感を抱いている。
「・・・気持ちよかったよ・・・すごく・・・」
「・・・なんなの急に・・・なんかいやらしい・・・」
　夫に一瞥を送ってから再び亜紀はテレビに視線を戻した。
「・・・亜紀も・・・気持ちよかったか？・・・」
　夫の執拗な質問についに亜紀は持っていたリモコンでテレビを消した。
「何で急にそんなこと聞くのよ！・・・いやらしい・・・変態！」
「い、いや・・・亜紀は・・・どうだったのかなって・・・気になってさ・・・」
　正之はあわてて怒り出した亜紀を取り繕った。
「どうって？・・・いつもどおりじゃない・・・なんでそんなこと・・・」
「そうだよ・・・いつもどおりなんだよ・・・亜紀もそう思うだろ？・・・」
　話はいつの間にか正之が望む方向へ進もうとしていた。
　夫とのセックスがパターン化し、お互いに義務化しつつあることは亜紀にも否定できなかった。亜紀の心の中にもこのままパターン化したセックスが行われ続ければ、いずれはセックスレスの夫婦になってしまうだろうという心配は同じように持っていたのだった。
　いつの間にか二人は真剣にセックスについて話し合っていた。
「で・・・？・・・あなたはどうしたらいいと思うの？」
「お互いどっちが悪いというのではないということはもう分かっているんだから、あとはなにか環境を変えればいいと思うんだ。なにか新しい刺激を取り入れるとか」
「新しい・・・刺激？」
　正之はこのタイミングを見計らっていたかのようにスーツのポケットからメモを取り出した。
「俺もいろいろ悩んでてさ・・・いろいろ探してみたんだけど・・・こういうのはどうかなって・・・」
「？・・・人妻・・・調教クラブ？・・・なにこれ・・・怪しい・・・」
「1週間自分の奥さんをこのサイトを運営している男性に預けるんだ・・・うちの場合、俺が依頼して・・・亜紀を・・・この男性に預けることになる・・・」
　亜紀は夫の顔とメモを交互に見つめながら状況がつかみきれていないような顔をしている。
　自分の夫から出たとんでもない提案・・・普段なら一蹴するところだが、決してふざけた話し合いではなかったので、亜紀も真剣に夫の話に耳を傾けた。
「預けるって・・・よく分からない・・・しかも調教って・・・いったい何を・・・」
「亜紀を・・・辱めて・・・俺とのセックスでは感じることのできなかったような刺激を・・・亜紀の体に与えるんだ・・・そうすることによって俺と亜紀のセックスにも・・・新しい刺激が生まれる」
　ようやくそこで亜紀も状況を把握する。
「そんな！・・・見たこともあったこともない人と・・・何言ってるの！？・・・信じられない・・・あなた私がその人とそんなことして・・・それでもいいの？」
「俺は今の俺たち夫婦の関係から一歩抜け出すためなら・・・それも仕方ないと思っている。亜紀だってさっき言ってただろ？マンネリ化して・・・刺激的じゃないって・・・」
「言ったけど！・・・でも・・・他の人とだなんて・・・」
「それともこのままの関係を続けて・・・いずれはセックスレス、離婚とか・・・それでもいいって言うなら仕方ないけど・・・」
　二人の間に沈黙が続いた。正之は亜紀が首を縦に振るのを今か今かと待っていた。
　ここで余計なことを言って少しづつ傾きかけている亜紀の気持ちを翻すことになっては元も子もない。
　亜紀は葛藤していた。突然、夫より提案された見知らぬ人との見知らぬ行為・・・
　もちろん亜紀は正之と結婚して以来、他の男性とセックスをしたことなどなかった。
　会社の同僚たちは彼氏がいながらも既婚者である会社の上司や同僚と不倫や浮気をしたり、合コンに参加したりしている女性もたくさんいた。
　気の許せる学生時代の友人からストレス解消方法にテレクラなどに電話をしたりする話も聞いたことがある。
　そういうことを聞いたり、実際に誘われたりして、まったく興味がないといえば嘘になったが、自分も同じことをしてみようという気にはならなかった。
　無言のまま、立ち上がり、正之が食べ終えた食器を洗いながら考えた・・・冷静に考えればまったくもってとんでもない提案である。
　夫が妻である自分を他人に貸し出し、淫らな行為をさせる・・・
　しかしその裏には夫の考えや不安・・・そして同じように今後の二人の夫婦関係に不安を持っている自分もいる。
　このままいったらお互いがお互いを男女として見れなくなるのは目に見えていた。
　その現実が亜紀の気持ちを固まらせた。
「ど、どうすればいいの・・・？・・・」
　亜紀の言葉を聞いて、正之はおもむろにリビングにおいてある電話の子機をとり、メモに書いてある番号を押した。