9.苦悶の日々

　翌朝、正之は目の下に大きなクマを作ったまま、満員電車に揺られていた。一睡もしていない。一晩中「人妻調教クラブ」のホームページを更新し続けた。
　現在調教中の女性の調教2日目からのリアルタイム映像は3ヶ月以上有料会員を継続した「VIP会員」と呼ばれる会員しか見ることができない事に気がついたのはまもなく出勤の準備をしなければならない早朝のことだった。

（亜紀の姿が見たい・・・声を聞きたい・・・どんな風に、どんな表情であの中年の調教師と交わっているのか・・・）

　睡眠不足と悶々とした気持ちが収まらず、仕事中もずっと上の空で、目を充血させ、手につかない様子は周りの社員や上司たちにも手に取るようにわかった。

　その次の日も、そしてまた次の日も・・・閲覧できるのは過去に調教された女性の映像や写真だけ・・・亜紀のことに関しては初日に閲覧できた亜紀自身による調教報告ですら、閲覧できない状態になってしまっている。亜紀からの電話もない・・・。なんとももどかしく、異常なほど短い時間しか睡眠をとっていないにもかかわらず、悶々として寝付けない日々が続いた。

「いったいどうしたというんだね！君らしくもない！」

　調教５日目を迎える木曜日にはついに正之は仕事で大きなミスを犯し、直属の上司である営業部長の森信夫の部屋に呼ばれていた。連日のように２、３時間しか睡眠をとっていない状態では、集中力を維持できないのも当然の結果だった。

　目の前で森部長が眼鏡の奥の目を吊り上げて叱責しても、張りのない声で謝罪することしかできなかった。

「このところ仕事中もすっと上の空だということは気づいていた。何か悩み事でもあるのかね？」

「い、いえ・・・大丈夫です。本当に申し訳ございません」

　森部長は正之が新入社員の頃から指導し、仕事のノウハウを教わるだけでなく、亜紀との結婚のときもスピーチをお願いしたりと、公私にわたってお世話になっている上司だった。自宅にも何度か来たことがあり、当然亜紀とも何度も顔を合わせている。しかし今回の件に関しては、たとえ森部長であろうとも、事実を打ち明け、正之がこのような状態になっている原因を理解してもらうわけにはいかなかった。

「奥さんとうまくいっていないのか・・・？」

「！・・・い、いえ！そ、そんなことはないです・・・うまくいっています」

　森部長の核心に触れるような質問に正之は一瞬たじろぎ、先程よりもはっきりとした強い口調で否定した。

「何かあるなら、なんでも力になるから。言いたまえ。君には入社したときからずっと期待しておるんだ。しっかり頼むよ。あの綺麗な奥さんを悲しませたらいかんぞ」

　場を和ませるように最後は冗談を交えながら正之への喚起を終える森。正之は深々とお辞儀をし、部長室を出て行った。

　部長室の扉が閉まると、森はニヤリと笑い、目の前のパソコンから伸びるイヤホンを耳に刺した。なまめかしいあえぎ声にも似た、苦悶の声がイヤホンからは聞こえる。手元にはプリントアウトした亜紀の全裸写真・・・パソコンには四つんばいになった全裸の亜紀が300CCのガラス浣腸器で薬液を注入されている映像が流れていた。
　森は「人妻調教クラブ」のVIP会員だった。
　数日前に新たに調教を受ける人妻の写真が、何度も顔を合わせている部下の美人妻だった時は目を疑った。舐めるように裸体を見つめて、毎日のように長時間にわたり調教の様子を見ていたため、森も若干の睡眠不足を感じていた。
　正之の異変にもいち早く気づいていた。　
　傍から見ても明らかな睡眠不足の割には、ソワソワ落ち着かない様子をみて、システムを理解している森には正之が亜紀の映像を見れていないことは一目瞭然だった。
　森の頭の中には亜紀を自分のものにする青写真がはっきりと広がっていた・・・。


10，狙われた下着

「吹っ切れたようだな。悩みは解決したのか？」

　週末の金曜日、一日の仕事のまとめをしているところへ、営業部長の森が声を掛けてきた。

「ええ、おかげさまで。ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」

「そうか。奥さんも安心しているだろう」

　森には正之の様子が手に取るようにわかっていた。明日は調教を終了した妻が自宅に戻ってくる、仕事にも力がみなぎり、前日とは打って変わったように正之は働き、周囲を安心させた。森は自分の確信を確かめるように妻の話題を正之に振った。

「い、いえ・・・妻は・・・ちょっと出かけていまして、今いないんです」

「ほう・・・奥さん留守かね。実家にでも戻っているのか？」

「え、ええ・・・まぁ・・・」

　森は内心ほくそえみながら話を続けた。

「ならばちょうどいい。ちょっと飲みにでも行くか。そうだな・・・気兼ねしないところが・・・どうだ？たまには、何か買って君の自宅というのは？うちはカミさんがいるからいろいろうるさいだろうし・・・迷惑か？」

「い、いえ・・・迷惑だなんてそんな・・・そうですね。そうしましょう」

　森には大きなミスの尻拭いをしてもらった手前、断るわけにもいかなかった。
　森と正之は二人で正之の自宅へ向かった。前日までは精液まみれになった亜紀の下着などが散乱していたが、亜紀の帰宅を前に、自宅は綺麗に掃除され、下着は洗濯されていた。

「どうぞ、妻がいないので買ってきたもの以外は大したおもてなしもできないですけど・・・」

「いやいや、気を使わんでくれ。お邪魔するよ。君の家はなんだか落ち着くんだよな。新しいリビングに、それになんといっても優しくて気の利く、美人な奥さん・・・」

「そうおっしゃっていただけるとご招待した甲斐がありますよ。妻も、部長とはしばらくお会いしていないですからね。今度妻がいるときにも是非お待ちしていますよ」

　キッチンで買ってきた缶ビールをグラスに移しながら、正之はここ一週間ではじめて亜紀の調教のことを忘れかけながら、信頼する上司との会話を楽しんでいた。

「じゃあお疲れさん。来週からしっかり頼むよ。

「はい・・・お疲れ様です。ご迷惑掛けてすみませんでした」

　二人はグラスをあわせ、お互いに大きく一口ビールをあおった。
　もちろん森の意図は正之と酒を飲むことではない。どこから話を切り出そうかと部屋を見渡し、正之が散々精液を浴びせた下着の干してある室内用の洗濯台で視線を止めた。

「ん？・・・奥さん、しばらく留守にしているんだろう？」

「え？ええ。はい・・・」

「それならば下着など洗濯する必要はないだろう？まさか君のということはあるまい？あの下着は・・・」

　ナイロンの水色のブラジャーとパンティを指差し指摘する森。普通に考えれば言い訳などいくらでも思いつくことであったが、正之は核心に迫られているという思いから言葉が思い浮かばず、絶句してしまった。

「ははぁ・・・わかったぞ。君・・・アレだろう・・・奥さんがいない間、我慢できずに奥さんの下着で・・・」

　森はそういいながら右手を筒状にし、股間の前で前後させてニヤリと笑った。

「！・・・え、ええ・・・まぁ・・・実は・・・そうなんですよ・・・はは」

　当たらずとも遠からずというところだった。正之は部長を納得させようという一心で肯定した。

「ふふっ・・・君も好きだな。しかしこれがあの美人の奥さんのパンティか・・・君がコレを使ってオナニーをしてしまうのもわかるよ。いいな・・・やはり若い女のパンティは・・・」

　森は干してある下着を手にとってまじまじと眺め始めた。

「！・・・部長・・・困りますよ・・・つ、妻にばれたら・・・」

「何を言っているんだね。君など留守中に奥さんの下着を漁ってティッシュ代わりにしているじゃないか。そこまでやっても奥さんは気づいていないんだから・・・このくらいかまわんだろう。奥さんの残りの下着はどこだね？」

「し、しかし・・・」

「奥さんの帰りは明日だろう？なあ・・・君・・・頼む・・・私にも奥さんの下着でオナニーをさせてくれないか・・・」

　信頼していた上司からの突然の異常な要求に正之は強いショックを受けた。と同時に沸々と湧き上がる興奮・・・妻を他人に・・・今まさに調教されている妻・・・現実に行われている行為と上司からの要求が正之の頭の中でリンクする・・・。

　殺到する頭のまま・・・正之は森をタンスの前まで案内し、目の前で亜紀の下着の入っている引き出しを開けていた・・・。

続く