6・引き裂かれた二人

　リビングにはカーテン越しに朝の気持ちのよい朝日が差し込んでいる。
　亜紀はいつもの朝と同じように正之の前にハムエッグとサラダ、トーストの乗った皿を置いた。いつもならリビングのテレビを見ながら、何気ない会話を交わし、淡々と過ぎていく時間であったが、正之には今日の妻のすべてがとてつもなく気になって仕方がない。いつもは妻の服装など記憶にも残っていない程度だったが、白の膝上丈のスカートから伸びる足、黒のカーディガンの下に身につけたブラウスを持ち上げる胸のふくらみ、皿を置く細い指・・・すべてが気になってしまう。調教を受けに行くことを意識してか、いつもよりわずかにではあるが濃いメイクをしているため亜紀の美しさをよりいっそう引き立たせている。

「ありがとう・・・いただきます・・・」

　夫が朝食をとり始めたのを見ると自分も夫の向かいに座り、朝食をとり始める亜紀。夫が自分を見つめる視線が熱い。それでなくても、自分のパンティでオナニーをしている夫の姿を目の当たりにしてしまったばかりなので、亜紀のほうも夫の視線を強く意識してしまっていた。

「そ、そんなに見つめないでよ…なんか恥ずかしくなっちゃうじゃない･･･」

　恥じらいを見せる妻のその一言で正之の欲望に火がついた。
　朝食をとるフォークを置くと、立ち上がり、亜紀のいすの背後に回るとブラウスの上から両乳房を揉み始める。

「ちょ、ちょっと・・・ご飯食べてるんだから・・・」

　正之は亜紀の言葉に耳を貸さず、もう我慢できないというような雰囲気で慌てた手つきでブラウスをたくし上げ、美乳を包み込むブラジャーをずり上げ、欲望のままに露になった亜紀の乳房を揉み、乳首を指先で転がした。
　わずかな抵抗を見せていた亜紀も激しく欲情した夫の前に抵抗をあきらめ、食べかけの皿の上にフォークを置いた。正之はそれを見ると乳房を露出したままの妻を床にひざまずかせ、妻の顔の前ではいているズボンとパンツを一まとめにして足首まで引き下ろし、先程亜紀のパンティに出したばかりとは思えないほど勃起したペニスを無言のまま口元に近づけた。抵抗をやめた亜紀は目前の夫のペニスからいったん顔をそらし、朝食の跡が口元に残っているのを気にしてナプキンで口元を拭ってから、正之のペニスを口に含んでいった。

「あぁ・・・ふぅ・・・ぁぁ・・・」

　朝食のお礼を言ってから無言のまま亜紀に欲望をぶつけていた正之が快感のあまり思わず吐息を漏らした。亜紀も昨日久しぶりに夫に対して行ったフェラチオであったが、夫の熱く硬いペニスを口に含み、舌を這わせているうちに体の底から血液が湧き出てくるような火照りを感じていた。鼻息を荒くしながら正之は感触を愉しむようにゆっくりと亜紀の唇に向かって腰を使い始める。しかしそれは興奮し、欲望をぶつけながらも愛妻をいたわりながら行っている本来の夫婦として、あるべき姿であったといってもよかった。妻の口の感触を長く味わっていたかったが、正之へ押し寄せる快感と興奮がそれを許してくれないと悟ると、正之は亜紀の唇からペニスを引き抜き、亜紀を抱き起こし、朝食が残ったままになっているテーブルに手をつかせて、スカートを捲り上げると、水色のナイロンパンティを亜紀の足首まで一気に引き下ろした。パンティが引き下ろされてから正之のペニスが亜紀のおま○この中に姿を消すまで3秒もかからなかったであろう。欲望のままに正之は一気に愛妻を貫いた。

「ああぁ！・・・・んんっ！・・・ぁぁ・・・！・・・」

　フェラチオをしているうちに亜紀の体も自然とペニスを欲していたため、二人の結合は深く濃密なものだった。それに反比例するように時間はきわめて短いものになった。
　正之は振っていた腰の動きを止め、低く呻くとドクドクと亜紀の膣内に射精していった。

　無言で後処理をしながら時折キスを交わす二人･･･二人とも同じような不思議な思いだった。一昨日まではお互いを強く求めることもなかったのに、なぜ急にこうまで強く求め合うことができるのだろうか。答えは二人とも当然わかっていた。亜紀が今日から見知らぬ男性に性的調教を受けるのだ。その“新たな刺激”が二人の情熱を掻き立てるスパイスとなっているのは考えるまでもなかった。

　取り直す朝食･･･同じようにいつもより会話は少ないが、二人の間には普通に愛し合う幸せな夫婦の間にはないような、男と女の間にある本能的な情熱を帯びた空気が流れていた。

　ちょうど朝食をとり終えたころ、インターホンの音がそんな二人の空気の間に割って入った。亜紀の身が固まる･･･正之がごくりとつばを飲み込み、立ち上がり、インターホンの受話器を上げると、目の前の画面に見知らぬ中年男性の顔が現れた。無精ひげで髪は薄く、小太りのその男はニヤつきながら言った。

「あ、大田と申します。奥さんをお迎えにあがりました」

　正之と亜紀は顔を見合わせた。先程まで情熱的に交わっていた二人・・・まるで突然の訪問者に仲を引き裂かれるような思いとともに、ついにやってきた調教師への不安が押し寄せる。

「お、お待ちしていました・・・。どうぞ・・・。」

　正之は画面の男性に向かって伝えるとオートロックの鍵を解除した。
　すぐにその男は玄関先までやってきた。正之が出迎えると、インターホン越しの画面で見るよりも何か汚らしい印象を受ける。醜く太った腹、暑さのせいで汗をかいたのだろうか汗臭と加齢臭が混ざったような匂いが玄関に漂う。羽織っているジャケットにもしわがより、とても3000名以上が有料会員として登録しているサイトの運営者だとは思えない。男は正之に向かって名刺を差し出した。

「はじめまして。人妻調教クラブの管理人をしております大田と申します。このたびは奥様の調教依頼、まことにありがとうございます」

　大田は丁寧な口調で正之に挨拶をした。差し出された名刺は上質な和紙のような素材の紙にしっかりと「人妻調教クラブ　調教師・太田信夫」とかかれている。

「よ、よろしくお願いいたします･･･どうぞおあがりください･･･」

　この男に･･･亜紀が･･･。嫉妬とは違った感覚だった･･･太田を家の中へと上がるように促しながらも正之はすでに大田に亜紀が調教される姿を想像し、どきどきと胸が高鳴り、興奮と不安が入り混じった、かつて経験をしたことのないような気分に襲われていた。

　リビングに入っていった大田は真っ先にソファに座っている亜紀と目が合った。

「こんにちは奥さん。今日から一週間、よろしくお願いいたします」

「・・・は、はい・・・。よろしく・・・お願いいたします・・・」

　亜紀も立ち上がり、大田に向かって頭を下げた。
　正之がコーヒーを入れ、大田の前におく。

「ああ、お構いなく。すぐに奥さんをつれて行きますので・・・」

「そ、そうですか・・・」

　正之は亜紀がこの調教師に連れて行かれるその瞬間が刻々と近づいているのを実感させられた。亜紀も不安を隠せず、どうしていいかわからないような表情を浮かべ、うつむいている。

「ところでどうでしたか？･･･昨日の夜は・・・？」

　大田がにやりと笑いながら正之にたずねてきた。一瞬何のことかわからなかったが、正之はすぐに理解した。

「え、ええ・・・その・・・久しぶりに・・・妻と・・・すごく興奮をしました・・・」

「そうですか・・・奥さんのほうも？」

　亜紀も恥ずかしそうにコクリとうなずく。

「それはよかったですよ。そうでなくては私が奥さんの調教を承った意味がないですからね。ご主人は奥さんが他人の男性に調教される姿を想像し、興奮を覚え、奥さんの美しさ、女性としての魅力を再認識し、そして奥さんに対して強く性的な欲望を感じる。奥さんも見知らぬ男性に“調教”などという言葉を使われて性的な行為を受け入れる不安を覚えながらも、激しく自分を求めて来る夫に“男”というものを強く感じたのではないでしょうか？」

　昨日の電話と同じように大田は理路整然と二人の心の中を見透かしたように分析してきた。

「お、おっしゃるとおりです・・・」

　正之は心の確信をついたような大田の発言に、大田の目を見つめてうなずき、亜紀も恥ずかしそうにうつむきながら、夫に呼応するように首を縦に振った。

「中には調教前夜でさえ、セックスもしない夫婦もいるんですよ。そういう場合というのはもう本当に夫婦間が冷め切ってしまっている、もしくは奥さんが調教を受けることを心から納得していないということが考えられます。そういう時は私は調教当日であろうとも、いくら奥さんが美人な方であろうとも、調教をお断りする場合もあります。私はお二人の仲を今後より刺激的な深いものにすることを望んでいるんです。そのようなケースだと調教を断行すれば離婚につながってくるケースのほうが多いですからね・・・」

　正之と亜紀は説得力のある大田の言葉を一つ一つ自分たちの立場に置き換え、噛み締めていった。

「しかし･･･お二人の場合･･･表情から察するに相当濃密なセックスをされたように推測できる。奥さんも私の調教に不安を感じながらも、受け入れる心構えがしっかりとできている。奥さんの調教は間違いなくお二人にとってよい方向に転ぶと思いますよ。ご安心ください」

　大田は出されたコーヒーをすすりながら、いやらしくにやりと笑った。
　その後、大田は亜紀とたわいもない話を10分ほどする。最初はぎこちなく答えていた亜紀も見かけによらずきちんと話ができる人物だったためか、徐々に大田の目を見て、スムーズに会話をするようになってきた。

「それじゃあ奥さん、いきましょうか。」

　大田はコーヒーを飲み干し、おもむろに立ち上がった。

「は、はい・・・」

　亜紀は再び不安げな表情を見せ、正之を見つめながら同じように立ち上がった。
　玄関へと歩いて行く大田の後ろを、従順な妻のように7日分の着替えなどが入ったかばんを携えてついて行く亜紀。その後ろを少し離れて正之が見送りのためについて行く。

「ん？何です奥さん？その荷物は？」

　玄関先で靴を履きながら大田は初めて亜紀の持つ荷物に気づいた

「え？・・・き、着替えなどが･･･入っていますけど･･･」

　大田は有無を言わさずかばんのファスナーを開けると、強い口調で亜紀を叱責し始めた。

「奥さん、ご自分が何をしにいくかご理解いただいていないようですね。旅行に行くんじゃないんですよ！調教を受けに行くんです。奥さんは私の言うことにしたがって、新しい刺激を受け入れ、自分の体で男を興奮させることによって、自分の感情を高める。それだけ考えていればいいんです！服を着た奥さんを見て男は興奮しますか！？しないでしょう！？裸の奥さんを見て男は興奮するんですよ！いらないんです！こんなものは・・・これも！・・・これも・・・！」

　そういいながら大田はかばんの中からブラウスやスカートを次々と廊下に投げ捨てていく。洗濯ができる状況かわからなかったので日数分用意したブラジャーやパンティまで廊下に投げ捨ててしまった。かばんの中身はメイクの道具と財布、最低限必要なハンカチなどだけになり、スカスカになってしまった。続いて大田は唖然と玄関に立ち尽くす亜紀のスカートを捲り上げた。

「！！・・・・あっ！・・・」

　亜紀が慌ててスカートを押さえようとするが、それよりも先に大田が履いていたパンティに手を掛け、膝下まで一気に引き下ろしてしまった。

「これも脱ぎなさい！・・・ブラジャーも！」

　激しい口調で亜紀に叱り付けるように指示を出す大田。

「は、はいっ・・・！・・・」

　強い口調に驚き、亜紀は膝下まで引き下げられたパンティを足首から抜き取り、ブラウスのボタンをいくつかはすすとホックをはずして、ブラウスの中からブラジャーを抜き取り、大田に手渡すと大田は受け取った下着を同じように廊下に投げ捨てた。慌ててパンティを脱いだ亜紀のスカートはまくれ上がったままになっていた。むき出しの白い美尻に大田は平手打ちを与えた。

「あぁっ！！・・・」

　形のいいヒップがプルンとゆれ、すぐに手のひらの跡が赤く現れた。

「もう少し自覚を持ってもらわないと・・・奥さん・・・」

　強く亜紀の尻を叩いた大田の口調は落ち着きを取り戻し、亜紀の意識の改善を求めた。

「は・・・はい・・・申し訳ありません・・・」

　先程までリビングで他愛もない会話をしていた男性に厳しい口調で叱責され、亜紀は驚きとともにこれから先の不安を強く感じた。

「それでは1週間、奥さんをお預かりしますよ」

　大田は一部始終を唖然と見つめていた正之のほうを向き直り、先程と同じように丁寧な口調で、ぺこりと頭を下げた。

　正之は一瞬戸惑いながらも、ぺこりと頭を下げた。
　うつむき加減のまま亜紀は大田に手を引かれ、やや強引に玄関から連れ出されて行った。放り出された亜紀の下着や洋服の横に正之はしばらくの間、立ちすくんでいた。

　約1時間半ほど高速道路を走り、亜紀を乗せた大田の車は大田の自宅である郊外の一軒家に到着した。大田に促され、家の中に入り、リビングに通される。数台のパソコンにカメラが取り付けられ、テーブルの上には男性器を象った責め具などが置かれていた。驚いた様子でそれらを見つめる亜紀に遅れてリビングに入ってきた大田が亜紀の背後から声を掛けた。

「奥さん、服を脱いで裸になりなさい・・・」

　一週間に渡る亜紀の調教が始まりを告げた・・・

続く・・・