８．妻からの電話

　正之はパソコンデスクチェアの寝心地の悪さと、下半身の肌寒さで目が覚めた。
　窓からは燦燦と朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。

（そうか・・・亜紀を見ながらオナニーをして・・・寝てしまったのか・・・）

　床には付着した正之の精液が固まり、ごわごわと硬くなった亜紀のブラジャーとパンティが転がっていた。それを見ながら正之は寝起きの頭で昨日の夜のことをゆっくりと思い出していた。
　亜紀の姿を映し出していたページは公開が終了したのだろう。すでに真っ黒な画面に切り替わっていた。思い出すだけで寝起きにもかかわらず、正之のペニスはぐんぐんと硬さを増し、あっという間に完全な勃起状態になってしまった。

（亜紀の姿をもう一度みたい・・・）

　正之は「人妻調教クラブ」のサイトを更新した。亜紀の裸体の脇に「調教報告書1日目」というリンクが張られている。

　開いてみると日記のようなスタイルで亜紀自身が調教に対する感想や思いなどを書き連ねている。

「今日から調教をしていただくことになりました、亜紀と申します。29歳で結婚5年目になります。子供はまだいません。夫と離れ離れになり、ここへ連れてこられ、裸で椅子に縛り付けられ、今までに感じたことのないような刺激を与えていただきました。加えて皆様に見られているということで異常なほどの恥ずかしさを感じました。最初はかなりの抵抗がありましたが、手足を固定され、体を隠すものは何一つない状態。しかもご覧頂きましたように、乳首や、クリトリス、おま○こへ断続的な強烈な刺激が続き、途中からは頭の中がしびれたような感覚になり、もうどうなってしまってもかまわないとさえ思ってしまいました。これから一週間、毎日のようにこのような行為が行われるとなると、正直、自分の体がどうなってしまうのか不安ですが、調教が始まった以上、ご主人様に身を任せ、従っていきたいと思います。会員の皆様、これからも亜紀をよろしくお願いいたします。」

　正之は文章を何度も何度も読み返した。今まで亜紀の口からは聴いたこともない”クリトリス””おま○こ””ご主人様”という言葉をためらいもなく使っている。はじめは本当に亜紀が書いた文章だろうかと疑った。しかし文章の構成などは亜紀のものに間違いない。結婚して以来、年賀状や暑中見舞いなどの家族としての書状の作成は亜紀に任せていた。この見慣れた文章の構成は亜紀本人が書いたものとしか思えなかった。正之は意外なところで愛妻と自分のつながりの強さを再確認した。
　文章の構成もそうだったが、その文章が、命令によって書かされたものであるか、亜紀自身が本意で書いたものかというのは文章から読み取ることができた。読み取った結果は圧倒的に後者だった。それと同時にたった一日の調教で決して性に対しては貪欲でなかった亜紀の意識をこれだけのものにしてしまう調教師・大田の存在の大きさを改めて感じることとなった。公開されていた映像以外の時間、亜紀はいったいどんなことをされていたのか・・・あの行為を受け入れるまで・・・亜紀が服を脱ぎ、椅子に固定され、器具を体に固定されていくときの亜紀の心情や表情を想像し、正之はさらに興奮を高めた。

　調教報告にはたくさんの会員から返信が来ている。

「とてもいい体をしていますね。しっかりと調教してもらい、素敵なM人妻として生まれ変わってください」

「何度も抜きました。亜紀さんは何回くらいイッたのでしょうか？映像を最初から最後まで見ていましたが、10回や20回ではなかったように見えました。何度も体をヒクヒクさせて・・・かわいかったですよ」

「大田さん。もう構わないです！思い切り亜紀さんを犯してください」

「とにかく亜紀とやりたい。全裸での貸し出し希望」

　書き込みはさまざまな内容で延々と続いている。しかし亜紀に対する調教を非難するものはひとつもない。どの返信からも己の欲望を愛妻の亜紀にぶつけたい、そういう気持ちが正之にひしひしと伝わってきた。

（顔も見たこともない男たちが、亜紀で興奮している・・・いったいどのくらいの精液が亜紀に向かって放たれたのだろうか・・・）

　返信を読みながら知らず知らずのうちに正之の手は自らの勃起を慰め始めていた。
　精液が付着し、乾いてカピカピになった亜紀のパンティを拾い上げ、もう何度目かわからないほどの精液を亜紀のパンティに浴びせる。
　調教2日目に当たる今日は日曜日、仕事もない。射精を終えた正之は椅子で眠っていたせいか、眠気がさし、今度はベッドの上で深い眠りに入っていった。

　眠りについてどのくらい時間がたったときであろうか、正之の携帯電話が鳴った。

「はい、もしもし？」

　眠い目をこすりながら、正之は着信の相手さえも確認しないまま電話に出た。

「あ、あなた・・・？私です・・・亜紀です・・・」

　1週間は話しさえできないと思っていた妻からの突然の電話に正之は驚いた。電話口からこちらの様子が見えるわけではないが、正之は下半身を露出した自分の姿と、部屋に散乱した精液のついた亜紀の下着に慌てふためいたように対応した。

「で、電話なんかして・・・大丈夫なのか？」

「電話は調教の時間以外なら・・・したいときにしても構わないといわれたわ・・・」

　妻の声は当然弾んではいなかったが、地の底まで暗く落ち込んだ様子もない。

「・・・大丈夫か・・・？」

　昨日の調教はどんなことをされたのか、映像で見た行為をされてどうだったのか・・・妻に聞いてみたくてたまらない。しかしまだ調教初日、しかもいきなりあんな姿を公開され、妻の気持ちも大きく変化していることだろう・・・正之は気持ちをぐっとこらえると、もうそれ以上言葉は出てこなかった。


「え、ええ・・・太田さん、思ったより・・・紳士的な人だから・・・大丈夫・・・」

「そ、そうか・・・それなら安心だな・・・も、もう・・・切るよ・・・」

たいした言葉も交わさないまま、沈黙状態が続き、正之は電話を切ろうとした。

「ま、待って・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・・・・き、昨日・・・・・・私のこと・・・・・・・・・見た？・・・」

　聞きたかったことの核心に迫る言葉が妻のほうから切り出された。正之の抑えていた気持ちもそれによって雪崩のように崩れ去った。

「み、見たよ・・・すごかった・・・」

「は、恥ずかしいわ・・・とても・・・あんな姿を・・・大勢の人に・・・」

「あ、亜紀はどうだった・・・？・・・その・・・あんなことをされて・・・いやだった？・・・・それとも・・・」

「・・・・か、体が・・・おかしくなってしまいそうだったわ・・・だ、だって・・・あのまま・・・12時間以上もよ・・・今も・・・体がしびれているような・・・ムズムズするような感じがするの・・・器具を・・・取ってもらってから・・・ずっとよ・・・」

「じ、12時間・・・！！？？・・・」

　想像を絶するような長時間、あのままの刺激が亜紀に加えられていたことを知り、驚くと同時に持続する性的快感が亜紀の体を支配しているのも手に取るようにわかった。

「い、今は何してるんだ・・・？」

「今は、お昼をご馳走になって・・・休憩時間よ・・・わ、私専用の・・・檻があるの・・・裸のまま・・・そこに・・・」

「お、檻！？・・・は、裸のまま・・・！？」

「今日は・・・は、初めて・・・太田さんと・・・セックスをするの・・・あなた・・・また・・・見ててくれるわよね・・・」

　愛妻が始めて他人の男性と交わる・・・興奮と動揺を隠せず、言葉が発せられない正之・・・。
　沈黙が続き・・・電話はそのまま切れた・・・


　その日以降、亜紀から電話がかかってくることはなかった・・・。

続く