14.妻の帰宅

　いつの間にか車の外には見慣れた風景が流れ始めていた。

　わずか1週間で何の変化があるわけではなかったが、亜紀の心と体の変化が見慣れた町並みさえも新鮮さを感じさせる。
　ここまでくれば、知り合いが車の脇を通りかかり、亜紀に気づいて車内を覗いてくる可能性もある。亜紀は恥ずかしげに顔を赤らめて周囲をうかがいながら、信号待ちのたびにまさぐられた股間をティッシュで拭い、足元に落とされたスカートを履きなおした。
　運転中の調教師・太田のペニスをしゃぶらされ、口内に射精もされた。出された精液を飲み下す途中で口元からこぼれたわずかな精液をルームミラーで確認し、口元も同じようにティッシュで拭った。

　二つ先の交差点の先に1週間ぶりの我が家が見えた。焦らすように交差点の信号は赤になる。

「私に調教されたこと･･･後悔していませんか？」

「･･･後悔など･･･していません･･･」

　自宅からわずか100メートルほどの場所･･･信号を待ちながら二人は車内で見つめあい、キスをした。
　名残惜しそうに調教師の手が太ももをなでる。
　信号が青に変わり、再び車が走り出すとものの1分もたたないうちに車は自宅前に停車した。無言のまま車を降りる二人。自宅を見ると亜紀はどんな顔をして夫の正之に会えばいいのか、どんなことを話せばいいのか急に不安になり始めた。

「奥さん？さぁ･･･ご主人のところに行きますよ」

「えっ！？･･･あ、は、はい･･･すみません」

　すでにインターホンの前まで歩を進めている太田に対し、自宅を見上げたまま立っている亜紀･･･はっと我に返って、遠慮気味に太田の陰に隠れるようにインターホンの前に立った。
　太田がインターホンに向かって呼びかけると、インターホンの奥で聞きなれた声が慌てた様子で対応していた。やがて玄関のドアが開き、1週間ぶりに夫婦が顔を合わせた。

「お、お待ちしていました･･･どうぞおあがりください」

「どうも。奥さんをお連れしました」

　二人の挨拶にあわせるように亜紀は夫に向かって恥ずかしげに頭を下げて会釈をした。
　薄く化粧をし、見た目こそ元通りの清楚な美しさと雰囲気を保ったままだったが、正之は亜紀から放たれる今までには感じ取れなかった、体の中から湧き上がる色気のオーラのようなものを確かに感じ取ることができた。

「あ、亜紀･･･おかえり･･･」

「･･･あ、･･･か、帰りました･･･」

　正之はまるで腫れ物に触れるかのように亜紀に声を掛けた。返ってきた一言から亜紀の気持ちが伝わってくる･･･これからの自分との関係に対する不安や、二人で話し合って決めたこととはいえ、人妻でありながら他人の男性に性的な調教を受け、性交をし、気持ちの高ぶりや興奮、快感を覚えてしまったことへの罪悪感･･･うつむいて恥じらいや戸惑いの様子を見せる様子がそれを物語っていた。

「自分の家じゃないか。遠慮することはないんだ。さぁ、上がって」

　正之は亜紀の不安を取り除こうとやさしい笑みを浮かべながら声を掛けたが、亜紀が靴を脱ぎ始めたのは正之の声によってというよりも、調教師の太田の後について･･･といったほうがよいように見えた。その姿を見ただけで、正之は亜紀がどのように変わったのか、気になって仕方がない。何しろ初日に全裸で椅子に縛られ、器具で責められているのを見て以来、動きのある亜紀を見たのは6日ぶりだった。


「ど、どうでしたか？妻は･･･？」

「最初はどうなることかと思いましたがね･･･よい調教ができたと自負しておりますよ･･･はじめは裸になることすらためらっておられましたので時間がかかると思いましたが･･･程なく奥さんも気持ちを開いてくださいましたので･･･」

　正之はリビングへの到着を待たずに廊下を歩きながら待ちきれない様子で太田へ質問を投げかけた。
　二人はリビングの席に座ったが、亜紀は自分の調教の様子を夫に赤裸々に報告されるのだろうと予測し、その場にいることをためらい、リビング奥のキッチンにコーヒーを入れに向かった。

「奥さんは今までノーマルな経験しかないとおっしゃっていましたが･･･？」

「ええ、はい･･･今まではまったく･･･」

　亜紀がキッチンに向かったのを確認すると、太田は正之に確認するように話し始めた。

「では･･･下着を身につけずに外出するようなことは？」

「そ、そんなことは一度もありません･･･」

　正之が言い終わると太田はおもむろにポケットに入っていた、朝、玄関に脱ぎ捨てられていた亜紀のブラジャーとパンティをテーブルの上においた。

「！･･･こ、これは･･･あ、亜紀の･･･ですか･･･？」

「ご自分の奥さんじゃないですか。ご自分で確認されたらどうです？」

　正之は手に取ったパンティを裏返し、普通にはいているだけではつかないと思われる、亜紀の興奮を表すシミ汚れの跡とキッチンに立つ亜紀の後姿を交互に見つめた。

　亜紀は二人分のコーヒーをリビングに運んできた。正之は慌てて手に持った下着をテーブルの下に隠し、やや上体をかがめて自分と太田の前にコーヒーを置く亜紀の体を、まるで透視をするかのように服の上から見つめた。
　前かがみになっているせいで、ブラウスの前がたるみ、乳首こそ浮いているのが見えないが、背中にはブラジャーのラインが確認できない。下半身を覆っている黒のスカートにもパンティラインは確認できなかった。

「あ、亜紀？・・・」

「･･･？･･･は、はい･･･」

「い、いや･･･なんでもないんだ･･･」

　夫の呼びかけに亜紀は戸惑うように振り返る。正之は妻の従順な返事やしぐさに戸惑ってしまい、聞こうとしていたことが言葉にならない。もどかしさを感じた太田はやや強い口調で二人のやり取りの間に割り込んできた。

「ご主人、何を遠慮しているんですか。ご自分の奥さんでしょう？」

「え、ええ･･･はい･･･」

　自分の弱さを指摘され、正之は亜紀へ思い切って指示を出す。

「あ、亜紀･･･スカートをまくってみてくれないか･･･」

「え･･･あ、えっと･･･あの･･･」

　亜紀は戸惑い、許可をもらうかのような視線を太田のほうに投げかけたが、太田は出されたコーヒーにミルクをいれ、丁寧にかき混ぜていて、亜紀とは視線が合わなかった。

　夫に抱くものとは思えない、激しい羞恥を感じながら、亜紀はゆっくりとスカートを捲り上げて、何も身につけない下半身を夫の視線にさらしていくのだった･･･

続く