| １２ からだが欲しいだけ… 「本当にだいじょうぶ？」 僕は聞いた、なにしろ彼女の顔色が青白いのだから…。 先ほどまでは、ワインのせいで、赤い健康的な色をしていたのに。 「明日は、早いんだろ？」 「ええ、まぁ…。引越しセンターの人が、向こうのマンションに１０時に来るの。だから、明日の朝は、８時頃の電車に乗るわ」 「ああ、そうしたらいい」 僕たちは立ち上がっていた。 僕は、フレンチ・レストランの支払いを済ませた。 「送っていこうか？」 僕は、彼女に聞いていた、大して遅くもない時間なのに…。 「……」 もう今のマンションは引き払っていて、今夜、彼女は、駅前にホテルを予約しているらしい。 送っていくほどのことでもない。駅前なんて賑やかなところだから。 しかし、僕としては、彼女のからだのことが心配だったのだ。 僕は、タクシーを拾った。 彼女を先に乗せた。 そして、そのタクシーに、僕も乗り込んでいた。 もっとも、彼女をシティホテルまで送ったら、そこで別れを告げ、僕はそのタクシーでそのまま自分のマンションに帰るつもりだった。 一人にしている母親のことも心配だったし…。 なぜなんだろう？ タクシーの中で、運転手さんにわからないように、僕は彼女の手をにぎっていたのである。 たぶん、手をにぎりしめたのは、彼女が急に気分がわるくなったので、早く元気になってもらいたくて、励ましの意味を込めたつもりなのだろう…。 事実、僕は、彼女の手をにぎりながら、『早く良くなりますように』と神さまに、念じていた。 明日の朝、ホテルで寝過ごしでもしたら、向こうで、引越しセンターの人も困るにちがいない…。 僕は、彼女の手を自分の手で包み込みながら、彼女の手の柔らかさ、そのぬくもりを感じ、そして、ずっと前に研究室で彼女を抱き締めたことを思い出していた。 そして、そのコトを思い出したとたん、僕は、股間のモノは急に頭をもたげ始めていた…。 その勃起した物体は、脳の細胞にも影響を与え、僕は、熱っぽく、彼女の手を愛撫しはじめていたのだ。 そのとき、僕は、母親のことも、彼女のご主人のことすらも、一瞬ながら、忘れていた、と思う…。 「ここだわ」 彼女の声に、僕はわれに返った。 「さぁ、降りしましょう。払っておいて」 意外に元気のいい声だった。 僕は、右横にいる彼女に、手で車の外へ押し出されそうになっていた。 僕は、急いで財布を取り出し、１０００円札１枚と５００円玉を1個、運転手さんに手渡した。 そして、僕は先にタクシーを降りた。 彼女も続いて、タクシーを降りて来た。 彼女は、さっさと、ホテルに入り、そしてフロントに向かって行った。 僕は、それでも、後を追い、そして、ロビーのソファに腰掛けた。 彼女がこちらにやって来る。 僕は、立ち上がった。 そして、彼女に手を差し伸べた。 握手して、分かれるつもりだった。 彼女が、僕の手をにぎった。 そして、にっこりと笑った。 顔色はそんなにわるくない。 僕は、少し、ほっとした。 僕は、思わず、手を握り返していた。 「さぁ、行きましょ」 「えっ？」 「シングルを、ツインに替えてもらったから…」 「えっ！」 僕は、しかし、彼女の手をにぎったままだった。 離せば、離すこともできたろうに。 それなのに、僕は反って、強く握り締めていた。 エレベーターに乗った。 すぐそばに、彼女の肩口が見えた。 彼女の匂いもした。 胸がドキドキして、体が宙に浮いたような感じがした。 エレベーターが開く。 恥ずかしげもなく、僕は、彼女の後についていく。 とうとう、部屋に入ってしまった。 中を見る。ベッドが２つあった。 （別々に寝てもいいじゃないか。それでも、きっと、いい思い出にはなる…） 僕は、彼女と同じ部屋で泊まることを決めていた…。 彼女は、いつの間にか、バスルームに消えてしまっていた。 僕は、ベッドに腰を降ろした。 母のことを想った。 しかし、その母が、マンションのドアを開け、外に出て徘徊し、近所のおまわりさんにつかまったところで、しようがないと思いはじめていた…。 僕は、ベッドに腰掛け、頭を抱えていた。 病院のベッドで横になっている彼女のご主人のことが想われた…。 どうしようか、迷っていた。 いくらなんでも、同じ部屋に泊まったのでは、ご主人とて、怒りが治まらないのではなかろうか…。 と、彼女が現れた。 バスタオルで身を包み、とても、セクシーな格好だった。 足がスンナリと伸びていて、それはとても白かった…。 顔を上げる。 髪が濡れたらしく、彼女はタオルで頭を拭いている。 手持ち無沙汰だった。 『僕も、バスを使っていいかな？』 と言いたかった。 しかし、そんなことを言えば、『ヤラせてくれ』と言っているようなものではないか…。 「どうしたの？」 彼女は、鏡の前の椅子に腰掛け、ドライヤーで髪を乾かしていた。 「いや、その、どうしたものか、と」 「何が？」 「いや、風呂に入ってもいいかどうか、と」 「入ればいいんじゃない、お風呂」 「しかし…」 「わたし、体の臭い人、いやだから…」 「ああ…、そうなの…」 僕は、立ち上がった。 そして、バスルームに向かった。 ひょっとしたら、抱かせてもらえるかもしれない、僕は、うれしくてしようがなかった。 僕は、バスタブを、お湯で一杯にした。 バスに入る。 湯があふれる。 が、肩までしっかりお湯に浸かることができた。 股間を見た。 アルコールが入っているにも拘わらず、ソレはまったく元気で、上を向いていた。 罪の意識はあった。 しかし、股間のソレは一向に元気を失っていないのだ…。 罪深いというより、“ノー天気”と言った方がいいかもしれない…。 僕は、彼女の言葉を気にしていた。 だから、ボディ・ソープをしっかり使っていた…。 バスルームを出た。 部屋は、何だか、さっきよりも暗くなっているような気がした。 彼女は、もう寝てしまったのだろうか？。 僕は、下半身にバスタオルを巻いていた。 むろん、バスタオルの下には、ブリーフをつけていなかった。 僕は、やる気満々であったのかもしれない…。 ベッドを見る。 彼女は、横になっていた。 向こう向きになって。 下半身は、シーツに覆われていて。 胸には、バスタオルを巻いているようだった。 （さて、どうしたものだろう？） どうやって、彼女をこっちに向かせたらいいのだろう？。 どうやったら、彼女は、からだを開いてくれるのだろう？。 実際のところ、ここまで来たら、挿入しかないだろう。 がしかし、挿入するにしても、彼女に濡れてもらわなければどうしようもない…。 （大丈夫だろうか？。彼女にきらわれはしないだろうか？） 僕は不安だった、ここまで来ても…。 （大丈夫、だいじょうぶ。彼女は、わざわざツインの部屋を取ってくれたのだ…。しかし、同じ部屋に寝るとはいえ、それは必ずしも同衾を意味しないのではあるまいか？） しかし、股間のモノは疼きはじめていた。 きらわれてもいい、ともかく、このジュニアの怒りを鎮めなくては…。 僕は、勇気を振り絞って、彼女のベッドに、膝を乗っけて行く…。 腰に巻いている僕のバスタオルは邪魔だった。 僕は、剥ぐようにしてバスタオルを取り除いた。 僕は、彼女の背中に、僕の上体をくっつけるようにして、抱きついて行った。 しばらく、その姿勢のままで耐えた。 彼女は、逃げなかった。 僕は、下半身を、間にシーツはあるとはいえ、彼女のお尻の辺りにくっつけていく。 僕の、下腹部のモノがどんな状態になっているのか、彼女にも、もう、わかるような気がした。 僕は、熱い息吹を、彼女のうなじに吹きかけていた。 そして、彼女の白いうなじに、そっとくちびるをつけていった。 彼女は、微動だにしなかった。 僕は、彼女の右の腋に手を入れていく。 そして、僕は入れた左手をさらに伸ばし、彼女の胸元にその手をやった。 そこには、彼女のやわらかな乳房があった。 僕は、その乳房を揉みたくてたまらなかった。 そのために、僕は、勇気を奮って言った。 「君が欲しいんだ。愛しているから…」 僕は、『愛している』という言葉を発して、本当に恥ずかしくなった。 薄闇の中で、頬を朱に染めていた。 しかし、その羞恥心に襲われている中にあっても、僕の股間のモノは、決してその勢いを衰えさせるということはなかった…。 僕の股間のモノは、僕を盛んに、せっつく（＝しきりにさいそくする）のだ、 『愛している、と囁くのだ、そうすれば、彼女も、その気になってくれるから』 と。 僕は、その声に従うことにした。 股間のモノが、あたたかく湿って小気味よく収縮する蜜壷を欲するように、僕も、身も心も蕩けるような肉体の快楽を望んでいた。 「愛しているよ」 僕は、彼女の耳元にくちびるをくっつけながら囁いた。 「……」 彼女は向こうを向いたままで何も言わなかった。 僕は、ひとり芝居でもいいと思った。 彼女の心を開かせるためなら、たとえ道化師になろうとも、片想いの演技を続けられる…。 「愛してはいけない、と思った。でも、あきらめることができなかった。わるいことだ、と何度も僕は自分に言い聞かせた。でも、だめだった。やはり、君を忘れることはできなかった…」 僕は、彼女の乳房の上に、そっと、手の平を当ててはいた。 しかし、揉みしだく、なんてことはしなかった…。 「愛しているんだ。君がいつか、大学の校門の前で、山之上と一緒に歩いているのを見たとき、僕は、嫉妬で頭が狂いそうになった」 僕は、あのときのシーンを思い浮かべていた。 山之上がにくかった。 そして、山之上に優しく微笑みかける山岸夏希がにくらしかった。 僕は、思わず、左手にあった彼女の乳房をギュッと握ってしまっていた…。 「ああ、痛いわ」 彼女が振り向いた。 薄暗い。 が、僕は、しっかりと彼女の目を見た。 彼女の目は潤んでいた。 確かに、痛かったのだろう。 しかし、僕は、本当に、嫉妬による憎しみを感じていた。 そして、こうして今、僕と一緒にいる彼女が、また、将来、他の男と、ベッドで戯れるのかと思うと、胸が疼き、そして、怒りが込み上げて来た。 「我慢するんだ。痛かろうと、これが僕の君への愛の証しなんだから…」 僕は、仰向きになった彼女を組み敷くようにして、上半身をせり上げさせて行った。 彼女は、下から挑むように僕を見た。 しかし、僕はくじけなかった。 肉への欲望が、僕を強い男にしていた。 覆いかぶさるようにして、僕は、彼女のくちびるを奪って行った…。 （つづく） |
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| 2008.5.3掲載 |
| Ｓｙｕｎさんの他作品（2008.2.2現在） | |||
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