４　暗いクローゼットの中で

　僕は、急いで駆けつけた。
　ヘルパーの三宅さんは、横向きで、床に倒れていた。

　頭を打ってはいないだろうか？
　僕は、抱き寄せていた。

　目を瞑っている。
　が、彼女の顔色はそんなに悪くない。
　頬には、うっすらと赤味さえ差してきたようだ。
　
　でも、念のためと思い、少し彼女の頭を持ち上げ、後頭部を覗く。
　血が出ているわけでもない。
　ましてや、瘤ができているようにも見えない。

　と、彼女の口元から、スースーと寝息のようなものが漏れてきたような気がした。
　
（うん？）
　僕は、彼女をさらに引き寄せながら、顔色をうかがっていた…。
　と、くちびるが、半分開く。
　で、そこから、白っぽい液状のものが流れて…。
　よだれ、みたいだ…。
　そして、胸のところが、盛り上がったり、沈み込んだり…。彼女はちゃんと、息はしているみたいなのだ。

　僕は、ほっとした。

　しかし、このままではいけないと思った。

　僕は、彼女を抱きかかえるようにして運び、居間のソファの上に寝かせてあげた。

　そして、クローゼットを開いた。
　なかは狭い。が、縦の間仕切りとか、中段の横板は張ってない。
　奥行きは０．９ｍ。幅は１．８ｍ。
　高さは、１．８ｍあり、１７５センチの僕が頭をぶつけることはなかった。

　もっとも、クローゼットの中には、ほとんど空っぽといっていい。
　あるのは、座布団３枚と夏用の羽毛布団１枚。
　毛布すらもない。
　僕には、さほどの洋服もなければ、来客用の寝具も持たなかったからだ。

　しかたがないので、薄い羽毛布団を取り出した。
　それを、ソファで眠っている彼女に掛けてあげた。

　僕は、廊下に出て、母親の部屋の前に行った。
　そっと、ドアを開く。
　母は、ベッドで眠っていた。
　僕は、安心して居間に戻った。

　三宅さんを見る。
　と、せっかく、からだの上に掛けてあげていたのに、羽毛布団が軽いせいか、絨毯の上にすべり落ちていた。

　今は冬。
　寒いことは寒い。
　僕は、エアコンの暖房の温度を２６度から２８度に上げた。
　これなら、掛け毛布がなくても、風邪を引くことはないだろう。

　ちらりと、三宅さんを見た。
　羽毛布団をもう一度、掛けてあげるべきかどうか、僕は迷っていた。

（どうせ、また掛けてあげても、軽いから、ずり落ちてしまうだろうな）

　僕は、コーヒーを飲んでも、まだ眠気が完全には去っていっていなかった。
　早く、自分の部屋に入り、横になりたかった。
　これが最後だ、とばかり、僕は、急いで、絨毯の上から羽毛布団を拾い上げた。そして、それを、ひざまずきながら三宅さんに掛けてあげた。

（やれやれ、これで、やっと安心して眠れる）
　僕は、立ち上がろうとした。
　
　が、三宅さんが、寝返りを打って。
　また、その羽毛布団が、からだから落ちてしまったのだ。

　三宅さんは、向こう向きになり、こちらに背中を見せていた。
（もう、いいや）
　僕は、立ち上がった。

　が、僕の目の中に、三宅さんの太腿が飛び込んできた。

　三宅さんは、向こうを向いていて、こちらは見えない。
　それをいいことに、僕は、むっちりとした三宅さんの太腿をじっと看ていた。
　そして、いつのまにか、僕は、また、絨毯の上にひざまずいていた…。
　
　三宅さんは、たいてい、ジーパンで訪問介護に、やって来るのに。
　今日は、何と、スカートだったのだ、しかも、丈（たけ）の短い…。

　僕は、三宅さんの視線がないのをいいことに、お尻までながめていた。
　ふっくらとした、しかし、きちっと引き締まったお尻だった。

　実際、こんなに女の人のお尻をまともに眺められたのは、はじめてのことだった。
　たぶん、今いるところが自分のうちであり、相手は寝込んでいて、しかも、向こう向きなので、僕は安心して、エッチな心に従っていることができるのだろう。

　僕は、胸がドキドキしてきた。

　教え子の女の子が研究室にやってきて、仮に、その子にエッチなことをしたら、セクハラで訴えられ、停職処分になるだろう。
　いや、今は処分が厳しい。きっと懲戒免職になるだろう。

　だが、三宅さんは、教え子ではない。
　それにやさしい人だ。
　ちょっとお尻を触ったぐらいで、裁判所に訴えたりはしないだろう。
　母に対しても、本当に親身になってお世話をしてくれている。

　僕は、羽毛布団を背中に掛けた。
　そして、それが、再び落ちないよう、しっかりと、深めに掛けてあげようと思った。
　そのとき、僕の右手が、三宅さんの腰の辺りに触れてしまった。あわてて、手を引っ込める。
　しかし、とても、柔らかい感触が手に残った、しかも、あたたかな体のぬくもりさえも…。

　僕は、手が震えはじめていた…。
　羽毛布団が、もう、絨毯の上には落ちないよう、その端を、彼女の腰の下とソファの上とのあいだに差し込もうとしていた…。
　が、また、僕の右手が、三宅さんの、お尻の下の方の肉にさわってしまった…。

「うーん…」
　三宅さんが寝返りを打って…。
　こちら向きに。

　僕は、狼狽し、顔を赤らめてしまった。
　が、よく見ると、三宅さんは目を閉じたままだった。
　ちょっと、ほっとする。

　しかし、僕の目は、三宅さんの胸元に、くぎづけになってしまっていた…。
　平素はあまり気がつかなかったのに。
　何と、三宅さんったら、すごく大きな胸をしていたのだ…。
　僕は、ゴクリッと唾を飲んだ…。

　僕は、逃げようと思った。
　これ以上ここにいたら、セクハラをしてしまいそうだった。

「うーん、行かないで…」
　僕は、自分の耳を疑った。
　誰もいない。
　部屋には、僕と、三宅さんだけなのだ。
　三宅さんは眠っている。
　実際、目を瞑っているではないか。

　僕は、立ち上がり、自分の部屋に逃げ込もうと思った。

「もっと、ここにいて…」
　僕は、振り返った。
　
　三宅さんが、目を開けていた。
　頬が赤い。
　目が濡れていた。
　そして、その目が大きく見開かれていた…。
　僕は、その目に引き寄せられるように、元の場所に戻っていた。
　そして、僕は、彼女の目を見つめながら、おそるおそる手を伸ばし、その手を彼女の肩に置いた。

　僕は、キスぐらいならセクハラにはならないだろうと思った。
　僕は、彼女の方に顔を近づけて行った。
　彼女が、僕の方に手を伸ばしてきた。
　
　僕は、彼女の手を取った。そして、膝をついたまま、彼女の肩に置いた手に力を込めた。彼女が目を瞑った。彼女の化粧の匂いと、彼女の体臭の匂いがした。
　そして、それらが僕の理性をやわらかく包んだ。
　
　僕は、彼女の口臭を嗅ぎたくなった。
　僕は、目を瞑った。
　そして、彼女のくちびるの近くに、唇を寄せていった。

　口紅の匂いがした、そして、歯の匂いがした。
　
　僕は、彼女の唾液の匂いを嗅ぎたいと思った。

　それで、彼女のくちびるに唇で触れ、そして、彼女が逃げようとしないので、そのくちびるをゆっくりと吸った。

　頭の中が痺れてきた。
　理性が溶ける。
　このままだと、彼女の舌まで吸ってしまいそうだ。

　それで、僕は、唇を彼女のくちびるから離して行った。

「どうしたの？」
　彼女の甘ったるい声が耳元でした。

「このままでは、僕の自制心がこわれてしまう…」
「どうしたの？」

「ああ、甘い。君のくちびるが…。たくさんシュガーの入ったチョコレートみたいに…」
「食べたい、もっと？」
「いや、いいよ。毒だから、僕にとっては…」
「どうして？」
「心が溶けて、道徳心さえ、なくしてしまうから…」
「わたしのこと、好きだったら、いいよ」
「えっ？」

　僕は、彼女の目を見た。
　彼女は真剣だった。
　
　僕は、うつむいた。
　そして、つぶやいた。
「君の彼氏にわるいよ」
「大丈夫よ！」
　見上げると、彼女がちょっと笑っていた。
「カレも、泊まりのときは、同僚の女の子たちと、楽しんでいるみたいだから…」
「えっ！」
　僕は、驚いていた。

「そして、ね」
　彼女が続ける。
「えっ？」

「カレったら、わたしにヤキモチをヤかせたいのかしら？。そのときのことを、わたしに話すの」
「あっ、そうなの」
　僕は内心、うろたえていた。
　
　彼女と、彼氏との寝物語を想像してしまい、それならそれで引いてしまえばいいものを、僕は、反って、ひどく興奮してしまっていたのだ…。

　彼氏といっても、正式に結婚しているわけじゃない。
　ならば、むしろ、その彼氏と張り合い、彼氏とやる時以上に、彼女を喜ばしてやりたい、みたいな感情も湧いてきたのだ。

　そして、そんなエッチな話を持ち出してきた彼女なら、ひょっとして、遊びでセックスをやらせてもらえるかもしれないなどと、勝手に考え、僕はスケベェ心を掻き立てられてしまったのだ…。

　僕は、彼女を愛しているわけではない。
　ただ、むっちりした内腿、そして、ふっくらとした胸のふくらみに、エッチな心を刺激されただけなのだ。
　もっとも、そのエッチ心を満たしたいという欲望は強くある。

　でも、僕は、彼女の心を傷つけたくなかった。
「いつも、君は僕の母に対して親切だし…。とても君には感謝しているんだ…」
「そんな…」

「僕は勝手だ。母親の話し相手にもなっていない。面倒くさいんだ。だが、君は、本当にがまんづよく、母親の話し相手になってくれている」
「それで…」

「そのぉ、女性としてどう映るか、というようなことより、親切な介護福祉士さん、みたいな感じで…」
「それだけ？」
　彼女は、まだ真顔なのだ。

　僕は、真っ直ぐな視線を僕に向けている彼女に、付き合うことにした。
「年の離れた妹みたいで、とても可愛い女の子だなぁ、と思っていたよ…」
「それだけ…」
「うん、まぁ、そうかな？」
「妹みたいだなんて、それだけじゃ、いやよ！」
「しかし…」
「しかし、も、なにも。妹みたいな、って言われても、つまんないですよ」
「ああ、そうなの？」

　僕は、どうしたらいいか、わからなくなっていた。
　が、突然、僕は、股間のモノをつままれていた。

「あっ、立ってる、立ってる」
　彼女がおおげさに、喜んでいるではないか。

（あたりまえだろぉ、男なんだから。ただ、男はスケベェなだけなんだ！）

「こんなになっちゃって。わたしのこと、抱きたい？、タカシさん」
「ああ……（早く、離して欲しい）」
「どうなの？」

（『どうなの？』と言われたって、困るよな。第一、君には彼氏がいるじゃないか。そして、僕は君のことを愛しているというわけじゃない。ただ、魅力的な肉体に性的な刺激を受けているだけなんだ）

「好きなのかどうか、わからない。それに、仮に好きだとしても、それが精神的なものか、肉体的なものか…」
「そんなこと言ってるから、タカシさんには彼女ができないんですよ」
　やっと、彼女は、僕の股間から手を離してくれた…。

「おかあさんが言っておられましたよ、『タカシは甲斐性がないんだから』って…」
　彼女が、ふてくされたように言う。
「そんな！」

「男は、はっきりしたがいいですよ。抱きたいなら、抱きたいと。そして、抱きたくないなら、抱きたくない、と」
「ああ…」

　僕は、体の中から、力が抜けてしまっていた。

　が、そのとき、僕は、彼女のくちびるが、僕の唇に当てられるのを感じていた。
　
　彼女の舌が、僕の口の中に差し入れられてきた。
　彼女の甘い体臭が、僕の鼻腔の中に飛び込んでくる。
　
　彼女の手が、僕の首の後ろに掛けられてきた。そのとき、僕は、頭の中で、何かがキレたような気がした。そして、夢中で差し入れられた舌を吸っていた…。

「抱きたい？、わたしのこと？」
「ああ、抱きたい」
「うれしい！」

　居間と母が寝ている部屋との間には、トイレ、バスルーム、押入れなどがある。
　しかし、ここと母親のいるところとは、距離としては１０メートルもない。
　いつ、母親が起き出して、ここにやって来るかわからない。

「ねぇ、ここだと、いつ、母がやって来るかもしれないし…」
「この部屋、カギはないんですか？」
「うん。だから、ここじゃなくて、クローゼットの中に入らない？」
「えっ？……、　まぁ、いいわ」
　
「それで、さぁ…」
「なに？」

「スキンした方がいいよね」
「えっ！、独身なのに、そんなの、持ってるんですか？」
　
「その、つまり、オナニー用に」
「えっ、えっー？」
「射精のとき、うまく、ティッシュをかぶせないと、飛び散るじゃないですか」
「ふーん」
「だから、シーツを汚さないよう、あらかじめスキンをかぶせておいて、しごくんですよ…」
「ふーん、そうなんだ…」

「で、どうなの？、君、今日は？」
「大丈夫よ、心配しないでいいわ」
「そうか、いいんだね」

「わたし、ってね、終わってから、トイレに行くの。そしてね、アレがね、あそこを流れ落ちるのを感じると、また、とっても気持ちよくなれるの…」
「ふーん、そんなものなの…」

　僕たちは、着ているものを脱いだ。
　僕は、クローゼットのとびらを開く。
　脱いだものをクローゼットの中に投げ入れる。
　そして、内側の床の上に、座布団を３枚、敷いた。

　僕たちは、ふたりで内に入り、クローゼットの戸を閉めた。
　そこは、暗闇になった…。

「やさしく、してね」
　彼女の声がした。
　それなのに…。
　暗闇が、僕を大胆にした。

　僕は、興奮したのか、乱暴に彼女を抱き寄せた。そして、くちびるを奪う。
「いや、いや」
「逃げないで、乱暴にはしないから…」

「でも…」
「ごめん、年甲斐もなく、あせってしまって…」

　暗闇なので、彼女の顔は見えない。
　彼女は、こわがっているように思えた。
　しかし、僕には自制心が効かなくなっていた。
　もう、ジュニアが、おなかにくっつきそうなぐらい硬く、おっ立っている。　
　
　僕は、彼女を座布団の上に寝かせつけ、覆いかぶさるようにして、なおも強く、彼女のくちびるを吸い続けた。

　彼女が、僕を上に突き上げようとする。
　僕は、身を起こし、くちびるをはずした。
「ああ、苦しいわ」
「わるかったね」
　
　僕は、自分の欲望を満たすためにのみ突っ走るのはよくないと思い直した。

　彼女も悦ばせてあげないといけない。
　
　僕は、背伸びをした。
　そして、深呼吸をした。

　僕は、やさしく、彼女の首筋に、唇を這わせていく。

　手を胸元にやる。
　とてもすべすべとしていた。
　手のひらに包み込むようにして乳房を揉みこんだ。
　と、乳首がおっ立ってきた。
　その硬くなった乳首が、手の平に、コツコツと当たり、気持ちがいい。
　そして、僕のジュニアがビックンとなった。

　僕は、今すぐにでも、入れたくなった。
　しかし、それでは、彼女が感じる前に、僕だけが先に、イッてしまいそうな気がした。
　それで、少しは我慢することにした。

　僕は、彼女のおっぱいを吸いながら、太腿を撫でる。
　乳首を啜ると、彼女がうめいた。
　太腿も、すべすべとしていて、気持ちがいい。

「はぁ、はぁ、ハァ、ハァッ……」
　彼女も、気持ちがいいのか、しきりに身をよじる。

　僕は、彼女の股間に、顔を持っていく。
　顔に、彼女の恥毛がかかる。
　しかし、その草叢の中からは、彼女の雌の匂いがして、僕のジュニアをカチカチにした。

　で、僕は、その膨張し、武者震いするジュニアに触発されるように凶暴になり、彼女のクリトリスを唇で吸い、そして、舌先で舐め上げていた…。

　彼女の裂け目が、僕の口から出た唾液でベトベトになる。

　が、僕は、唇が、彼女の股間から滲み出る淫液によっても濡れていることがわかった。
　で、僕は、唇を、割れ目にくっつけ、彼女の淫液を啜った。
　ちょっとすっぱくて、チーズのような匂いがした。

「あああ、あー、あ〜〜ン！、あーン、ああっ！」
　彼女が、下肢を突っぱね、お尻を持ち上げる。
　そして、僕の頭を股で締め上げて来た。

　頭の両脇が痛い。
　僕は、彼女のまたぐらから、頭を抜き去った。
　それと同時に、僕は、彼女の肉襞の中に、中指を突っ込み、膣内の上っ面の辺りをこねるように掻き回していた…。

「ああっ、いい、いいわ、いいわ、いっちゃう、イッちゃうわ、うっ、ううううっ…」
　彼女が、下半身を跳ね上げたようだ。
　抱きしめていると、ピクピクと胸の下の肉が震えているのがわかる…。

　見えない、しかし、床板が揺れ動いているようだ…。
　彼女は、ガクガクッと腰を上下させているようにも感じられる…。
　彼女は、僕が挿入をする前に、完全に、イってしまったようだった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）