| ２ 胸のときめき 僕は、体育館の周りの掃除をやっていた。 ここは、比較的、先生が見回りに来ない場所だ。 それで、多少、手抜きした。 僕は、クラスメイトの釜山良一と、体育館の裏側のコンクリートのところに座って、てわるさで、草をむしっていた。 「このあいだの、理科の授業、ひどかったよな」 「何か、あったか？」 僕は、釜山に聞いた。 「あいつは、知っていて、あんなこと聞くんだから。性格、ワルいよな」 「誰のことだ？」 「決まってるじゃん、北条麻衣だよ」 「そうか？」 （あいつとは、しかし、俺は、幼稚園から一緒なんだが…） 「だってな、あいつ、ネコやイヌで、ためしているんだ」 「うん？」 僕は、釜山良一の言っていることが、よくわからなかった…。 釜山の顔を見つめていた。 「北条のやつ、ネコを抱いて、オスのだ。それでもって、足を広げて、ネコの「ちん◯」をさすって、大きくして、遊んでいるんだぜ」 「……」 （あいつがそんなこと、するはずがない） 「ああいう、残酷なこと、よくできるよな」 「……」 （あいつは、ピアノを習ったり、学習塾に行ったりしている。そんな、猫と遊ぶひまがあるんだろうか…） 僕は、釜山に、反論はしなかった。 しかし、ネコの「ちん◯」が、大きくなるなんて、どういうことなんだろうか？。 もっとも、僕の「ちん◯」も、大きくなる時があった、たまに。 朝、おしっこがたくさん貯まると、そうなるのだ。むろん、トイレに行き、放尿すると、すぐ元通りになる。 しかし、それにしても、ネコの「ちん◯」をさすって、大きくして、何がおもしろいのだろうか？。 「こうた（公太）、おまえ、知ってるか。このあいだ、一中の女の子が警察に補導された、って。しかし、えんこう（援交）というのも、アブナイもんだぜ」 確かに、アブナイと思う。 見知らぬ中年の男性と、ホテルに行くんだから。 そして、キスされたり、おっぱいを触られたりするんだろう。 それをいやがると、男の人が、怒って、殴られることだって、あるかもしれない…。 「だいたいさ、えんこうの相手が、素直に、ゴムでもしてくれりゃ、いいよ。だけど、ナマ（生）でやりたがる、オッサンたちが多いだろう？。変な病気なんか移された日にゃ、かなわんよな…」 「ウん？」 （変な病気って、何だ？） （何で、（輪）ゴムがいるんだ？） 僕は、釜山良一に、もっと聞いてみたかった。 しかし、何だか、僕のプライドにかかわるような気がして、肩をいからせながら、釜山良一に言った。 「いくらお金のためとはいえ、からだを触らせるなんて、僕には、よくわからない」 そのとき、 「キン、コン、カーン、コーン・・・」 と、チャイムが鳴った。 掃除の時間が終わった。 午後、もう１時間、授業がある。 英語だった。 山越先生が入って来られた。 なぜか、胸がどきどきする。 きっと、先生に当てられても、僕が答えられないからだろう。 連立方程式や三角形の合同条件など、数学はできるのだが、英語となると…。 僕は、山越先生の顔がまともに見れなくて、顔をうつむけていた。 が、僕は、先生の言葉だけは、耳でしっかり、聞いていた。 「きょうは、Ｈｅｒｅ ｉｓ構文のことを、話しておくわね。Ｈｅｒｅ ｉｓ構文も、Ｔｈｅｒｅ ｉｓ構文と同じように、Ｈｅｒｅのあとに、存在を表わす動詞が来て、それから主語が来るのよ。例えば、『ここに本があります』、という場合には、“Ｈｅｒｅ ｉｓ ａ ｂｏｏｋ．”となるのよ。語順は、Ｔｈｅｒｅ ｉｓ構文の時と同じよね。Ｈｅｒｅのあとに、Ｂｅ動詞が来て、それから主語のａ ｂｏｏｋが来るわけね。ただ、Ｈｅｒｅ ｉｓ構文の場合は、『ここに、何々があります』というほかに、『ほら、何々が、する・した』というような場合にも使われることがあります。ほら、『バスがやって来た』の場合は、“Ｈｅｒｅ ｃｏｍｅｓ ｔｈｅ ｂｕｓ．”となるの。また、『そら、ジョンが来た』という場合なら、“Ｈｅｒｅ ｃｏｍｅｓ Ｊｏｈｎ．”となるの。ただし、ここで注意しておくことがあるわ。主語が代名詞の場合は、Ｈｅｒｅが文頭に来て、次は、主語、動詞という順番になるの。わかった？」 先生に『わかった？』と言われても、僕には、わからなかった。 「では、『ほら、彼がやって来た』というのは、どう言ったら、いいかしら？」 僕は、目を瞑っていた。 当てられないことを願って。 「野村君、下ばっかり見ていないの。こっちを向きなさい。で、英語で、どう言うのかしら？」 「えっと、えっと…」 僕は、どぎまぎした。 でも、何とか、答えなくては…。 「えっと、えっと…。“Ｈｅｒｅ ｉｓ ｃｏｍｅ ｈｅ．”ですか？」 「だめよ。だめ、だめ。動詞がふたつ、あるじゃない。Ｂｅ動詞と、一般動詞と。ふたつも動詞を並べてはだめよ｡どちらかひとつにしなさい」 「えっと、では、“Ｈｅｒｅ ｃｏｍｅ ｈｅ．”」 「うん？、それでいいかな？」 「えっ？」 「一般動詞の場合、主語が三人称単数で、現在を表わす文なら、何か、付くんじゃなかったかしら？」 「あっ、あっ、三単現の“Ｓ”がつきます」 「じゃ、もう一度、言ってみて」 「“Ｈｅｒｅ ｃｏｍｅｓ ｈｅ．”」 「だめよ、まだ、まだ。だめよ、さっき、言ったでしょ？。主語が普通名詞の場合は、“Ｈｅｒｅ＋動詞＋主語”でいいんだけど。主語が代名詞の場合は、どうなるのだったかしら？」 「ああっ、“主語＋動詞”の順番になると、先生が言われました…」 「そうよ、そうなの。では、もう一度、言ってみて、『ほら、彼がやって来た』って」 「“Ｈｅｒｅ ｈｅ ｃｏｍｅｓ．”」 「はい、よくできました」 僕は、顔が真っ赤になった。 実際、そうだろう。 僕は、小学生じゃない、もう、ちゃんとした、中学生なんだ。 それなのに、『はい、よくできました』なんて、まるで、僕を、子どもあつかいにしている！。 放課後のことだ。 僕は、１年生の子をキャッチーにして、ピッチングの練習をしていた。 なぜか、今日は、右腕が良く振れる。 上体も、かなり、かぶせていける…。 右手の指が、投げ終わったあと、地面にくっつくくらいだ。 「おお、野村、今日は、なかなか、いいじゃないか」 見ると、監督が、そばに立っていた。 「気合いが入っているな。いつも、そういう、気合いの入った投球をするといいんだがなぁー」 （ときどき、僕は、気が抜けるんだろうか？） 僕は、悩んでいる。 （今日は、たまたま、英語の山越先生に子供扱いされて、怒っている、だけなのに…） 「あとは、何だな、もう少し、軸になる右足に重心を残して、タメをつくることだな。そうすると、振る腕が、肩より遅く出て来るから、バッターも球の出処（でどころ）が見えにくくて、打ちにくい…」 「…？…？」 僕には、よくわからない、『タメをつくる』ということが。 でも、たぶん、右足に重心をかけて、ひと呼吸置き、ゆったりとした、大きなフォームで投げた方が、球にスピードが出て来るのかもしれない…。 練習が終わった。 僕は、「トンボ」で、デコボコになったグランドを平らに均（なら）していた…。 「おい、野村、まっすぐ、まっすぐ」 「はぁ…？」 「何、考え事、してるんだ。まっすぐに引けよ。こんなに、ぐにゃぐにゃになってるじゃないか？」 振り返ると、確かに、トンボを押した跡の線が、くにゃくにゃと曲がっていた。 「あのぉ、監督…」 「なんだ？」 周りを見ると、近くに部員はいなかった。 「えんこう（援交）、って、知ってます？」 「あたりまえだ。しかし、わしゃ、そんなことはしとらんぞ。金はないし」 「金、あったら、するんですか、監督も…」 「うーん。もし、宝くじにでも当たったら、そんなこと、考えるかもしれんなぁ」 「いやらしい！」 「へえっ、へっへ、へっ…」 「それで、監督。もし、女子高校生なんかと、ホテルに行って、なんで、（輪）ゴムなんか、使うんですか？」 「そらまぁ、時期がわるいと、使わざるをえんじゃろぉ」 「時期がわるい？」 「そう。たとえば、な、卵巣から、卵管に、卵子が飛び出て来るんや。その、つまり、卵子が卵管を動いているときなんかは、やはり、ゴムを使わんと、まずいとちゃうかな」 「はぁ？？」 「卵管の中で、卵子と精子が遭遇してみろや。そこで、受精卵ができてしまうがな。そうなると、その受精卵は、どんどん分裂して大きくなるんやで。そして、とうとう、子宮にまで動いていくんや。そうなると、アウトや」 「どうして、アウトなんですか？」 「つまり、その、受精卵が子宮の内膜にくっつくと、そりゃ、それが妊娠のはじまり、というわけだから…」 「…？？？？」 「まぁ、要するに、ゴムは、精子と卵子がくっつくのを、シャット・アウトするもんなんや」 「他にも、あるで。シャット・アウトするもんは。ペッサリーとかな…」 「はぁ？？？？」 「まぁ、ええわ。また、わしの家に来い。パソコンで、見せたるから…」 「……」 僕は、黙っていた。 監督の家に行きたいような、行きたくないような…。 （なぜだろう？） 僕が眠ってしまってからの、父親と母親の生活が明らかにされそうで、こわいのかもしれない…。 僕は、暗くなった道を、家に向かって歩いていた。 『妊娠』という言葉が、僕の頭の中を渦巻いていた。 確かに、妊娠しなくしては、子どもは生れないのだ。 まさか、「こうのとり」が、赤ちゃんを運んで来るわけでもないだろう。 とすれば、やはり、まず、卵子と精子が出会って、受精卵ができなくてはならない。 その受精卵は、たぶん、人間の場合、女性がおなかの中に、抱え込むのだろう。だって、妊婦は、みんな、おなかが大きいもの…。 しかし、人間の場合、卵子と精子は、どうやって、出合うんだろうか？。 「お帰りなさい！」 「（あっ）！…！っ…」 僕は、びっくりした。山越先生だ。 僕は、固まって（フリーズ）してしまっていた…。 私服だ…。 なんて、キラキラした目なんだろう。 スカートが短い。 でも、すごく、きれいな足。 僕は、目を逸らした。そして、駆け出していた、家に向かって。 玄関に入って、ドアを閉めた。 胸が、どきどきしている。 深呼吸をした。 少し、落ち着く。 そして、やっと、僕は気がついた、重要なことに。 なんと、僕は、山越先生に、何のあいさつしなかったのだ！。 （何でやねん。せめて、『こんばんは』とか、『さようなら』とか、あいさつ、すべきやったのに…。何にも言わんで、帰ってきてしまった…） 僕は、夕飯を食べ、テレビを見て、風呂に入った。 部屋に入り、机に向かう。 英語のテキストとノートを広げた。 しかし、集中できない。 （やはり、まずかったよな、“Ｈｅｒｅ ｉｓ ｃｏｍｅ ｈｅ．”じゃ。ｂｅ動詞と、ｃｏｍｅと、ふたつも動詞を並べたんじゃ、いかにも、まずい。進行形なら、確かに、“ｉｓ ＋ ｃｏｍｉｎｇ”となってもいいかもしれない。だったら、ｃｏｍｅという動詞に、せめて“〜ｉｎｇ”をつけるべきだったんじゃないだろうか？…） 僕は、頭を抱えながら、ベッドに横になった。 今日は、張り切って練習したせいか、何か、眠くなってきた…。 （早く、パジャマに着替えなくては…） と、僕は、北条麻衣のうちにいた。 北条の家は、僕の家の近くだった。 北条麻衣とは、幼稚園、小学校と、一緒だったのだ。 幼稚園、小学校の低学年と、あいつとは仲が良かったのに…。 小学校４年になると、僕は、野球に夢中になり…。 あいつは学習塾に通いはじめていた…。 その頃から、ほとんど言葉をかわさないようになっていた…。 北条麻衣が、ソファの上で、猫を、仰向けにし、下の方の足を広げていた。 猫の股間が丸出しだ。 「おまえ、何、やってんだ？」 「うん、この猫ちゃんにね、気持ちのいいこと、してあげてるの」 「ふーん」 僕は、北条麻衣の手元を覗く。 北条が、猫のおなかを、手で触っているのだ。 そして、その手が、だんだん、下の方へ。 猫が、尻尾を振っている。 尻尾が振られるので、猫の尻の穴が見え隠れする。 が、それにしても、北条の手の動きが気になる。 北条の手が、お尻の穴よりちょっと上の、おなかの下あたりを、行きつ戻りつしているのだ。 「にゃぁ・お〜ん！」 猫が鳴いた。何か、気持ち良さそうな声で。 猫が、目を細めているようにも見える。 よく見ると、北条の指先が、猫のおなかの下あたりを揉みこんでいるのだ。 北条の指先に、何か、突起物が現われ出した。 長さは、１センチか、それとも１．５センチか。 太さは、２ミリぐらいか。 しかし、その直径２ミリにも満たない筒状のものの先っぽには、小さな、小さな穴が開いていた…。 「にゃぁお〜ん、にゃぁお〜ん・・・」 北条が、下腹部の、突起物の根元のあたりを指で揉むたびに、何か、気持ち良さそうな声を、猫が発するのだ。 僕は、なぜか、生唾を飲み込んでいる。 と、猫の股間から飛び出した、芋虫みたいな筒状の先っぽから、何か汁のようなものが滲み出て来たような…。 「おっ、おっまぁえっ、ナニ、何、やってんだよ！」 僕は、猫に代わって、北条麻衣に、抗議した。 「何よ。猫ちゃんは、気持ちよがっているわよ。何なら、わたし、こうた（公太）君にも、同じようなこと、してあげてもいいわ」 「なにぃ、なに、馬鹿なこと、言ってんだ！」 僕は、大きな声を張り上げていた…。 と、僕は、気がついた、僕は、自分の部屋にいるのだ。 北条のうちではない。 どうも、夢だったらしい。 （あいつ、変なことを言ってたな。このおなかの下の、股間のものをさすると、気持ち良くなる、って） 僕は、仰向けに寝たまま、ズボンのチャックを下げてみた。 そして、ブリーフの上から、手で、「ちん◯」を撫でてみた。 （なんや、ちっとも、いい気持ちになんか、ならんやないか） 僕は、股間から手をはずした。 が、しかし、気になる。 何やら、「ちん◯」が大きくなったような気がするのだ。 気のせいかもしれない…。 僕は、また、手を股間にやり、「ちん◯」を指で、ゆっくりと撫でさすっていた…。 そして、首を上げて、股間を見る。 （ああ、なんか、硬くなっている。しかも、大きくなって…） 僕は、ブリーフを下げてみた。 なんと、「ちん◯」が大きくなり、その先っぽが、赤く腫れ上がっている！。 （おっ、おれは、きっ、奇形児かもしれない！） 僕は、情けなくなってきた。 手を顔の上にやる。 （こんな、変な体だったら、先生と泳ぎにも行けないじゃないか！） 僕は、山越先生と、山に行ったり、海に行ったりしたかった…。 と、砂浜で、山越先生が、寝そべっていた…。 何という、真っ白い、伸びやかな足なんだろう！。 そして、お椀のように盛り上がった胸。 あの水着の下には、おっぱいがあるんじゃなか…。 （あっ！） 僕は、叫び声を上げていた。 何も、さわっていないのに、股間の「ちん◯」が、大きく、硬く、立ち上がっていたのだ。 （つづく） |
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| 2008.10.11掲載 |
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