| ５ 先生にも三つの穴が 僕は、何年ぶりかで、おねしょをしてしまった…。 股のところが、ヌルヌルして、気持ちが悪い。 僕は、下着を穿き替えた。 濡れたブリーフが、しかし、何か、匂う。 臭い。 僕は、急いで、洗面台に行き、お湯をためて、ブリーフを洗った。 しかし、ヌルヌルが、なかなか落ちない。 石鹸をつけた。 ごしごしと手もみをする。 そして、お湯ですすぎ、それを絞ってから、洗濯機の中に入れた。 僕は、気になった。 あのヌルヌル感は、タダモノではない。 おしっこなら、もっと、サラッとしているはずだ…。 僕は、その時、急に、 保健体育の時間に、『男女の二次性徴のちがい』ということについて習ったのを思い出していた。 確か、思春期になると、男子は、せいつう（精通）があり、女子では、しょちょう（初潮）がある、とかなんとか、保健体育の増田先生が言っていたような気がする…。 増田先生は、背が高く、バスケットが得意で、高校のときは、国体にも出場されたことがあるという。 そのとき、クラスの誰かが、手を挙げて、増田先生に質問をしたような気がする。 『先生、せいつう、って、何ですか？』 すると、増田先生は、笑って、答えられた。 『そんなことは、僕がわざわざ教えなくてもいいんだよ。君たちにも、だんだんに、わかってくるものだから。こういうものは、個人差というものがあってね…。なかなか、一概には、言えないものなんだ…』 僕は、急いで、書棚に積んである本の中から、『中学保健体育』の教科書を取り出した。 開く。 すると、その教科書には、 『第二次の性徴期を迎えると、男子の場合は、精巣のなかで、精子が作られるようになります。そして、その結果、男子の場合、射精という生理現象がはじまります。なお、はじめての射精のことを、精通（せいつう）と言います。』 と書いてあった。 僕は、自分にも、精巣があるんだろうか、と思った。 もし、そんなものがあるなら、僕は、動物だと思った。 僕は、人間だとばかり思っていたのに。 単なる、動物だ、なんて！。 とすれば、僕なんかも、メスの鮭に、精子を振りかけるオスのサケと、何にも変わらないじゃないか！。 そうか、射精とは、精子を発射すること、なんだ。 つまり、女子の卵子に向けて、男子は、精子を放射するのではないのか。 僕は、あわてて、教科書で、女子のところを読む。 『第二次の性徴期を迎えると、女子の場合は、卵巣のなかで、卵子が作られるようになります。そして、その結果、女子の場合には、月経（げっけい）という生理現象がはじまります。なお、はじめての月経のことを、初経（しょけい）または、初潮（しょちょう）と言います。』 僕は、なぜか、顔を赤くしていた。 胸がドキドキする。 教科書には、まだ、何か書いてある。 『二次性徴の発見の意味と、新しい生命の誕生』とかなんとか。 でも、もう、心臓がパクパクして、その先を読み進むことができない…。 僕は、教科書を閉じてしまっていた。 ひょっとして、大越先生にも、中学生の頃があり、そのとき、月経という生理現象を経験されたことがあるのではないだろうか。 とすれば、先生にも、雌の鮭のように、からだの中に、卵巣というものを持っておられ、そこで、卵子を作っておられるのかもしれない。 （先生も、ひょっとしたら、「メス」なのかもしれない？） 僕は、涙が出るほど、悲しかった。 （先生が、動物だなんて！） 僕は、英語が上手な大越先生を尊敬している。 なのに、その先生が、動物だなんて！。 僕は、悲しくて。 英語や保健体育の教科書を机の上に投げ出したまま、パジャマに着替えることもなく、ベッドにもぐり込んでいた…。 月曜日になっていた。 土・日は、集中して勉強するつもりだったのに。 色んなことを考えているうちに、あっという間に、時間が経ってしまっていた…。 月曜の２時間目は、英語の時間だった。 僕は、教科書で、自分の顔を隠していた。 どうしても、まともには、大越先生の顔を見ることができないのだ。 “ぐっど、もーにんぐ、みすたー、のむら！” 何か、言葉が聞こえる。 「う、うーん？」 僕は、首を伸ばす。 前をよく見ると、大越先生が、こちらを向いておられる。 僕は、ボケーッと見ている、先生の顔を…。 が、よく目を開けてみると、先生は、『野村君、何か、言いなさい』みたいな顔をしているようなのだ。 （何か、答えなくては。でも、とてもじゃないけれど、今の僕には、『はい、良い朝ですね、先生』（＝Ｙｅｓ，ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｎｇ，Ｓｉｒ！）なんて、とても言えやしない。むしろ、“Ｂａｄ ｍｏｒｎｉｎｇ”と言いたいくらいだ） 僕は、心の中で、葛藤していた。 （“Ｂａｄ ｍｏｒｎｉｎｇ”と言ったら、おかしいよな。中くらいの、まあまあの、おはよう、って、何と言うんだろう？。前島先生は、たしか、「まあまあ（良くもなく、悪くもなく、まぁまぁ、ほどほどのところ）」という日本語は、英語では、“ｓｏ ｓｏ”と言うんだ、と、言っておられたよなぁ…） 「どうしたの？、野村君」 大越先生に催促されている。 僕は、やけくそになっていた。 「あい、あむ、そう、そう（Ｉ ａｍ ｓｏ ｓｏ．）」 「まぁっ！」 僕は、先生に怒られていた。 泣きたいくらいだった。 僕の頭の上を、先生の言葉が、飛び交っていた…。 「なんていうことでしょう！。“Ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｎｇ”というのは、単に、“Ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｇ”ということではありません。“Ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｎｇ”というのには、“Ｉ ｗｉｓｈ ｙｏｕ ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｇ”という意味合いが込められているんです。ただ、“Ｉ ｗｉｓｈ ｙｏｕ”という前置きのところが、省略されているだけなんです。『今日も、あなたにとって、いい日でありますように』という、願いを込めた、あいさつをしているのに。野村君ったら、そんなこと、おかまいもせずに、『ちっとも、いい朝じゃ、ありません』と答えるなんて。マナー違反です。それじゃ、決して、よい国際人にはなれません！」 僕は、先生の説教をくらいながら、身を縮め、なおも、反省していた。 僕は、夢の中ではあるが、ゆうべ、あこがれの大越先生に抱きついてしまっていた…。 英語を教えてくださる先生に、あんな失礼なことをしてしまって…。 僕は、完全に、先生の生徒として、失格なのだ。 僕は、心の中で、とうとう、ふて腐れていた。 （僕は、人間じゃない。どうせ、僕は、アニマルなんだから…） 先生の授業は進んでいた…。 「ｃａｌｌという動詞は、呼ぶ、とか、鳴る、という場合に使われますが、また、他方では、ナニナニを何々と呼ぶ、という風にも使われます。こういう、ナニナニを、何々と呼ぶ、という使い方の方が、大事なんですよ」 と、先生の声が、耳元でした。 「野村君、『僕のことを、ジョンと呼んでください』って、英語で言ってみて！」 僕は、何とか、答えようとした。 （ともかく、ｃａｌｌという動詞の後に、ふたつ、単語を並べるんだ！） 僕は、立ち上がり、黒板の方を見て、声を発した。 「ぷりーず こうる みぃ あん あにまる。（Ｐｌｅａｓｅ，ｃａｌｌ ｍｅ ａｎ ａｎｉｍａｌ．）」 教室が、ドッとわいた…。 （何で？） まわりを見渡す。 そして、顔を正面に戻す。 と、目の前に、先生の、『ふざけないで』と、怒った顔があった…。 僕は、授業のあとは、懸命に、投球練習に打ち込んでいた。 あの英語の授業での失敗を忘れるために。 「おお、いいね、いいね」 そばに、監督がいた。 「後は、そうだな。おまえの場合、カーブを投げる時と、スライダーを投げる時と、極端にフォームがちがうからさ。だいたい同じようなフォームで投げられるように、な。家で、大きな鏡の前に立って、自分のピッチング・フォームをよく見てみろ」 「はい」 「ひょっとしたら、今度のシート・バッティングの時、おまえに投げてもらうかもしれん」 「はい」 「で、今日は、そのくらいにしておけ。あと、俺、今日、パソコンを持って来てるから、グランド整備が終わったら、体育教官室へ来いや」 「体育教官室ですか？。あの体育館の２階にある？」 「そうだ」 「入れるんですか？」 「ああ、体育主任の増田先生に鍵を借りたんだ。あそこなら、コンセントがあるし…」 僕は、監督と、体育教官室に居た。 ふたりだけだった。 「おまえは、鈍くさいところがあるからな。今日は、ちょっと、おまえにショックを与えてやろうと思ってな」 監督は、そう、にやにや笑いながら、パソコンを起動した。 そして、ケースからＣＤを取り出して。 それをパソコンのサイドから差し込んでいた。 僕は、何かが始まるのか、緊張していた。 が、しかし、画面が動いていた。 動画だった。 男の人と女の人が、抱き合って、キスをはじめた。 僕は、ドッキンとした。 女の人が、何か、積極的になって、男の人の唇を吸っている。 僕は、股のところが熱くなって。そして、ちん○が硬くなっていくのがわかった。 と、女の人は、立っている男の人の、股のところへ顔をやって、男の人のちん○を手に持ち、それをさすっているというか、揉んでいる、というか。 （えっ？！。エッチなことをするのは、男ばかりだと思っていたのに。女の人も、エッチなことをするんだ！） すると、男の人のちん○が、大きくなっていく。 その大きくなったちん○を、女の人が自分の口の中に入れようとしている。 （ああ、きったない！。あそこは、おしっこの出るところなのに！） しかし、何とも不思議だ。 ソフトクリームをしゃぶるように、女の人が、ちん○を舐めはじめているからだ。 でも、僕は、なんか、安堵したような気持ちにもなっていた。 なぜなら、この男の人も、ちん○が大きくなっているからだ。 僕だけが、奇形ということではなさそうなのだ。 この世の中には、ちん○を大きくする人が、他にもいるんだ！。 すると、今度は、男の人が、女の人をベッドの上に寝かせつけた。 そして、男の人が、女の人のおっぱいを片手で揉みはじめた。 そして、もう片方のおっぱいは、口びるをくっつけ、クチュクチュと吸っているのだ。 （ああっ、あんな風に、揉むだけでなく、口で吸うものなんだろうか？。いい大人が、これじゃ、まるで、赤ん坊と一緒ではないか！） が、驚いたことに、男の人が、おっぱいを揉み、乳首をチュパ、チュパと吸うたびに、女の人が、「あああ、ああ、ああ」とか、あえいでいるのだ。 別に、苦しそうではない。 むしろ、気持ちが良さそうな感じがする…。 （ああ、男に、おっぱいを揉まれて、そんなに気持ちがよくなるのか、女の人は？） 男の人は、しきりに、おっぱいをしゃぶっている。 女の人のおっぱいから、お乳が出ているというわけでもない。 しかし、男の人の顔を見ていると、さも、おいしそうに吸っているように見えるのだ、僕には。 （お乳も出てないのに、そんなにおいしいものなのか？） すると、男の人が、上体を起した。 そして、何やら、手というか、指を、女の人の、股ぐらの間のところに、差し入れているようなのだ。 （えっ、何で？。何で、おしっこの出る穴に、指を突っ込もうとしているの？） しかし、男の人は、確かに、指を突っ込んでいた。 それも、さっきまで、１本入れていたのに。 今は、２本も…。 そして、男の人が、指を出し入れするたびに、デスプレイの画面からは、「ぐちゅぐちゅ」というような音がして来るのだ。 （おかしい、おかしい。あんなところに、指を２本も突っ込める穴はないはずだ…） 男の人が、女の人の股ぐらを手で、大きく広げた。 （ああ、あんなに、黒々とした毛が、いっぱいに生えている…） 男の人が、女の人の股のところへ、自分の腰を近づけていく。 そして、大きくなったちん○に手を添え、それを女の人の、股ぐらの中へ差し入れようとしている。 その股の穴は、かなり大きい。 中は、ピンク色をしている。 でも、僕の目には、それが、とても、おしっこの穴だとは思えないのだ…。 その穴の中へ、大きくなったちん○が差し込まれていく…。 （えっ、そんな馬鹿な。おしっこの穴があんなに大きいはずがない。大きくなったとしても、フニャフニャしたちん○じゃ、あの狭くて、小さな穴の中に、嵌まり込んでいくはずがない！？） しかし、男の人は、上体を起こしながら、腰を前後に動かしている。 そして、男の人のちん○が、女の人の股の穴の中を、時には深く、時には浅く、横に動いているようなのだ。 男の人のちん○と、女の人の穴とが接触しているところからは、何やら、白い泡のようなものが、吹き出している。 そして、その男の人の動きにつれて、女の人のあえぎ声が聞こえる。 「あああ、ああ、あん、あん、あああ・・・」 なぜだろう、なぜなんだ！ 女の人が、顔をゆがめ、喘いでいるというのに、なぜか、僕のちん○が硬くなっていくようだ…。 「ああ、イキそうだ」 男の人の声がした。 そして、男の人は、自分のちん○を、女の人の穴から引き抜き、それを女の人のおっぱいの上に持って行く。 すると、男のちん○の先っぽから、白い、ねばっこいような液体が飛び出て。 それは、女の人のおっぱいの上に、降りかかって行った…。 （あっ、あれは、僕が、パンツに出した白い液体に、よく似ている！） ＣＤの画像が切れた。 僕は、呆然としていた。 「これで、わかっただろう？」 耳元で、永岡監督の声がした。 「……」 僕は、何にもわからなかった。 実際、なぜ、ちん○があんなに大きくなるのか？。 それは、奇形ではないのか？。 なぜ大きくなったちん○を、女の人のおしっこの穴の中に差し入れるのか？。 女の人は、そんなことをされて、何で痛がらないのか？。 女の人は、下になって、「ああ、ああ」と、苦しそうにしているのに、何で、男の人は腰を前後に動かし、穴に向かって、ちん○を抜き差しするのか。 男の人が、抜き差しすると、何で、女の人の穴から、泡のようなものが吹き出して来るのか？。 何で、男の人は、ちん○の先っぽから出る、乳白色の液体を、女の人のおっぱいの上にふりかけるのか。 白い液体には、精子が含まれているのでは？。 とすれば、その白い液体は、卵子の上に注がれるべきではないのか？。 永岡先生が、パソコンを片付けていた。 僕は、椅子に座ったまま、何の手伝いもできないでいた…。 「じゃ、帰るか？」 「……」 「ちょっと、遅くなったし。外は暗くなったから、おまえの家の近くまで、車で送ってやるわ」 「……」 僕は、シートベルトをして、監督の車の、助手席に乗っていた。 赤信号になっていた。 僕は、監督に言っていた。 「監督、聞いてもいいですか」 「ああ、いいよ」 「何で、あんな大きくなったものが、女の人のおしっこの穴に入るんですか？」 「ハァン？。馬鹿なこと、言うな」 「でも…」 「おまえ、何か、勘違い、してないか？」 「勘違い、ですか？」 「そうだ。考えても見ろ、おしっこをする穴から、何で、赤ちゃんが生れるんだ？」 「はぁ…？」 「女の人は、な、さんどう（産道）といってな、赤ちゃんが生れる時に通る穴を、ちゃんと持っているんだ」 「はぁ……」 「赤ちゃんの頭が通るンだぜ。だから、大きくなった、あのモノだって、簡単に通るんだよ」 「えっ！」 「えっ、そんなこと、そんなに驚くことかね」 「と、ということは、女の人には、三つ、穴があるってことですか？」 「あらっ、あたりまえだろ、そんなこと」 「……」 僕は、ショックで、口もきけなかった…。 （まさか、先生にも、あんな穴が…） その時、僕は、顔から血の気が引いていくのを感じていた…。 （つづく） |
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| 2008.11.1掲載 |
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