| ６ いとしの先生を汚してしまう 「おいおい、こうた、だいじょうぶ、かよ」 永岡監督の声がした。 僕たちの乗った車は、道路わきに、止まっていた。 「おお、気がついたか」 「……」 「びっくりさせるなよ」 「……」 「おまえ、気を失っていたんだぜ」 「はぁ…」 自分ではわからない。 しかし、歯医者さんで、虫歯を抜いてもらった時、歯茎に麻酔注射を打たれ、気を失ったことはあった。 また、小学校の低学年の時、夏休み明け、体育館で、校長先生の話が長くて、立っているのがやっと。それで、急に気分がわるくなり、ぶっ倒れたことがあるが、その時も、ちょっと気を失ったような気がする。 家の前に着いた。 「じゃぁ、な」 永岡監督の車が去って行った。 僕は、夕飯を食べ、風呂に入った。 いつもなら、風呂から上がると、圧倒的な睡魔に襲われるのに…。 しかし、今日は、変だ。 奇妙に頭が冴えたようで…。眠気というものを感じない。 こういう時こそ、勉強するべきなのだ。 僕は、机に向かっていた。 しかし、なかなか、勉強をする気にならなかった。 なぜ、男の人は、ちん○が大きくなるんだろう。 なぜ、女の人は、おしっこの穴の以外に、それよりもっと大きな、別の穴を持っているのだろう。 僕は、書棚から、『中学保健体育』の教科書を取り出していた。 教科書を開いて、読む。 教科書によれば、『わたしたちの生命は、父親の精子と母親の卵子が受精することによって生まれる』ということらしい。 卵子と精子が結合すれば、受精卵になる。 だが、どのようにして、結合するんだろう。 永岡監督に見せてもらった動画では、男の人が、女の人のおっぱいの上に、ちん○から噴き出した、乳白色の液体をふりまいていた。 あの液体は、精子を含んだ精液というものだろう。 精液の中の精子は、女の人の胸の皮膚の中に沁み込んで行って、卵管の中にある卵子と、遭遇していくのだろうか。 教科書には、『わたしたちの生命は、受精卵という形で、母親の胎内に、約９か月間とどまり、そして、出産という形で、この世の中に生れて来ます』というようなことが書いてある。 妊婦さんの大きなおなか。 かつて、僕は、母の口から、帝王切開という、おなかを切り裂く手術によって、「オギャーッ」と赤ちゃんが生れる、というようなことを聞いたことがある。 とすれば、女の人のまたぐらのところに、大きな穴があって、そこから、赤ちゃんが出て来るなんて、ありえないことではなかろうか。 あの動画の女の人の場合は、特殊な、からだつきをしているのではなかろうか。 しかし、それにしても、男として、真っ裸になり、ちん○を丸出しにして、女の人のおっぱいの上に、精液をふりまくなんて、なんという恥ずかしい行動を取っているんだろう。 だが、教科書には、 『男性や女性が、二次性徴期に入りますと、射精や月経を迎えることになります。それは、新しい生命を生み出すための精子や卵子が育ちつつあるということであり、言い換えれば、おとなのからだに成長しつつあるということですから、それは健全な肉体的成長を遂げている証拠なのです』 と書いてある。 僕は、今まで、ちん○が大きくなって悩んでいたし、このあいだは、ブリーフを乳白色の液汁で汚して驚いたけれども、そういうことは、あまり悩んだり、心配したりすることではなさそうだ、と思われてきた。 僕は、少し安心した。 それで、ベッドに仰向けに寝た。 僕は、目を瞑っていた。 そして、僕は、念じていたように思う、 （どうか、大越先生には、あんな大きな穴がありませんように） と。 先生に、もし、あの動画に出てきた女の人みたいに、またぐらに大きな穴があって、そして、動画の男の人が持っていたようなデカいちん○で、男の人に、その穴をふさがれるなんて、絶対に、いやだった…。 僕は、いつのまにか、眠気に襲われたみたいだった…。 河原だった。 ここは、いつか、大越先生と来たことがある…。 よく見ると、大越先生と、体育の増田先生とが、並んで、草の上に、座っておられた。 ふたりの先生が楽しそうに、話をしておられた。 僕は、なぜか、胸が苦しくなっていた。 （増田先生は、結婚して、奥さんがおられるというのに。何で、また、大越先生とも仲良くされるんだろう？） 僕の耳に、ふたりの先生の会話が入って来るのだ。 『それで、どうなんですか。おとうさんの具合は？』 『あまり、芳しくないんですの。入・退院を繰り返していて…』 僕は、逃げようとしていた、その場から。 でも、なぜか、僕の足が動かないのだ。 ふたりの先生の会話が続く。 そして、いやおうなく、その会話が僕の耳の中にまで届くのだ。 『そうですか。それはご心配ですね。でも、先生には、目標がある。おとうさんの病状のことは別として、先生ご自身は、正規採用をめざして、しっかり試験のための勉強をして欲しいです』 『そんな…。わたしって、強くありませんわ』 『いや、あなたは強い。だいじょうぶだ。今から勉強すれば、来年夏の採用試験には、絶対に、うかりますよ』 『いいえ、そんなことはありません…』 『そんな弱気にならないで。僕は、僕は…』 『……』 『僕は、あなたのことを応援していますから…』 『……』 『では、帰りましょう。送っていきますよ』 『いや、もっと、ここに居たいです』 『日が落ちます。寒くなってきますから、さぁ…』 『いやです。先生は先にお帰りになってください。わたしは、もっとここにいますから』 『そんな。風邪を引いたらどうするんです』 『かまいません…』 『そんなわがままを言わないで』 『わがままじゃありません。ただ、もう少し、ここに居たいだけです…』 『そんな、僕を苦しめないで…』 『苦しめてなんか、いませんわ。先生は、早く、お帰りになってください』 『あなたを放っておくわけには、行かないのです』 『……』 僕は、ボケーッと、突っ立ったまま、大越先生と、増田先生をながめていた。 （どうして、ふたりの先生は、僕がそばにいることに気がつかないんだろう？） 僕が、首をひねっている時だった、 何と、増田先生が、大越先生の肩を抱いているではないか…。 そして、大越先生のくちびるに、自分の口びるを…。 『あっ！』 僕は、声を上げた。 ふたりの先生が、驚いて、こっちを見た。 ふたりの先生が、飛び跳ねるように、離れて行って…。 僕は、ふたりの先生に、なぜか、わるいことをしたようで。 そばに行ってあやまろうと思った。 でも、僕は、前に進めない。 まるで、金縛りにでも合ったように…。 あやまらなくては…。 僕は、右足を上げるため、『うーっ』と、唸った。 と、僕は、目覚めた。 腋の下に、びっしょりと汗を掻いていた。 （ああ、よかった！） 僕は、見てはならないものを見てしまったように思っていたのだ。 でも、夢でよかった。 僕は、ホッと、胸を撫でおろしていた…。 僕は、学校で英語の授業を受けていた。 僕は、ずっと下を向いていた。 なぜか、大越先生の顔を見ることができない。 もし、先生と目が合ったら、僕は、本当に、どうしていいかわからない。 思考がまったくストップしてしまうのだ。 すると、僕は、とても、いい匂いを嗅いでいた。 顔を上げる。 黒板が見えた。そのそばに、先生はいない。 気がつくと、大越先生は、僕の机のすぐそばに、立っておられた。 「野村君、『彼女はとてもうれしそうに見えます』って、英作文をしてみて」 僕は、先生の、やさしい声を聞いていた。 顔は見ることができない。 僕は、前の黒板を見て、無意識に立ち上がっていた。 突然、河原の草叢で、増田先生と並んで座っておられる先生の横顔が思い浮かんできた。 僕は、美しい先生の、その横顔に向かって、叫んだ。 “Ｓｈｅ ｌｏｏｋｓ ｖｅｒｙ ｈａｐｐｙ．” 「そう、そうよね。よくできました」 僕は、ちらっと、横目を使って、そばに立っている先生を見た。 先生は、教科書を脇に挟み、両手を、おなかの前で合わせるように、軽く叩き合わせておられた。 それは、僕の答えに対する賞賛のしるしのように思えた。 （先生が、喜んでくれている） 僕は、うれしくなった。 そして、増田先生のように、大好きな、愛しの先生に、キッスのできない自分が悲しくて、ウッとばかり、喉のあたりまで込み上げてくる、涙のような、にがっぽい液体を、胃の中にまで、僕は飲み込んだ。 「おお、いいじゃないか」 バッティング・ゲージの後ろから、監督の声がした。 僕は、フリー・バッティングで、バッターボックスに立っていて、インコースのストレートをレフト前に、ライナーで弾き返していたのだった。 「そうだ、その調子だ。今日は右腰が下らないから、腰が地面と平行に回っているぞ」 僕は、右利きで、右バッターだった。 いつもは、右の軸足が、膝のところで折れ、右腰が落ちるという悪いくせがあったのだ。 たぶん、球を迎えに行こうとしているからだろう。 からだをまっすぐに立て、腰を平行に回せば、レベルスイングを保てる。 そういうレベルスイングができれば、インコースの球だって、右腕をしっかり脇の方に畳み込み、腰をそのまま回転するだけで、バットの芯にヒットできるだろう。 僕は、プロ野球選手にはなれない気がする。 身長が、今、１６７センチしかないからだ。 高校に行ったとしても、せいぜい、あと５センチ伸びるのが精一杯だろう。 おやじとか、おやじの兄弟を見れば、何となくわかるのだ。 それに、動体視力なんかもない…。 でも、野球は好きだった。 僕は、将来、野球関係の仕事に就きたいのだ。 僕は、英語も勉強して、野球関係の仕事といっても、その幅を大きく広げることができたらいいなと思いはじめていたのかもしれない。 そんなことを考えるようになったら、野球部の部活についても、少し、余裕のようなものが感じられるようになった。 プロになれなくてもいい。 レギュラーになれなくてもいい。 野球が続けられれば、それだけでいい…。 そして、僕は、英語の授業が楽しみになってきた。 それは、大越先生に会えるからだった…。 僕は、土・日、少しは、勉強をするようになった。 英語は、特に熱心になったように思う。 例えば、英語の教科書を音読するようになった。 単語帳をつけるようになった。 例えば、“ｇｉｖｅ，ｇａｖｅ，ｇｉｖｅｎ”など、一般動詞で、現在形、過去形、過去分詞形で、不規則に変化する動詞は、口ずさむだけでなく、単語帳にも書いて、しっかり覚えるようにした。 そして、さらに、単語帳には、書式として、小さなカッコ（ ）がもうけてあり、この括弧（カッコ）内に、品詞を書くようになっていたが、ここに、名詞としての“ｎ．”とか、形容詞としての“ａ．”を書き込むようにした。 なぜなら、漠然とした感じではあるけれども、“ｎ．”とした名詞は、主語や目的語になる大事な単語となるように思えたからだ。 また、“ａ．”とした形容詞の中には、単に名詞を修飾するだけでなく、第２文型の補語や、第５文型の目的格補語となるような、重要な単語が含まれていると、思えたからだ。 しかし、勉強を終え、ベッドの中に入ると、僕は、近頃、すぐには、眠れなくなっていた…。 このところ、夜は肌寒くなってきて、僕は、掛け布団をかけるようになっていた。肩を冷やしてはいけないからだが。 あったかい。 だから、すぐ眠れるはずなのだが。 前は、横になると、すぐ、まぶたが重くなって、眠りに落ちていたのに…。 しかし、今、恥ずかしいことに、目を瞑っているというのに、先生のマンションのベランダが目の前に見えてしまう…。 いや、今の時間帯、干してあるはずもないのに、先生の小さな、ピンク色をした、何かヒラヒラの飾りがついたパンティが見えるのだ。 そのパンティが目に見えるたびに、僕は、股間にあるちん○を、硬くしてしまうのだった。 目の前のパンティの映像を、しきりに頭を左右に振って、消そうとするのだが、どうしても消せないのだ。 （いっそのこと、あのパンティを盗んで来たら…。そうしたら、安心して眠れるのでは…） でも、今は、夜だ。 もう、洗濯物はしまってあるはずだった。 （もし今でも、それが干してあるとしたら、僕は、雨水の樋（とい）を伝わって、２階にまでよじ登り、それを盗み取って来ることができるのに…） 透明人間にでもならないかぎり、僕は、それを手に入れることはできなかった…。 僕は、悲しくなって、伏せてしまった。掛け布団を胸の下に、組み伏せながら…。 何と言うことだろう。 僕の目の前に、先生の股間が、あの時の動画と同じように、映像として現われはじめたのだ。 先生の股間には、なんと、黒い陰毛が。 僕は、もうひとりの大人びた自分と、押し問答をはじめていた。 『先生のあそこに、あんな陰毛が生えているわけがない。あれは、あのエッチな動画に現われた女の人だけの話だ』 『しかし、おまえには、チンゲが、生えているだろう』 『それはそうだけれども、先生は別だ』 『そんなことはない。大越先生だって、二次性徴の発現があって、ちゃんと、中学生くらいの時から、陰毛は生やしておられるはずだ』 悲しいことに、僕は、大人びたもうひとりの自分に反論できないでいた。 僕は、小学校の高学年の頃から、まばらながらも、きんた◯を包み込んでいる袋や、ちん○の根元あたりに、陰毛が生えているのがわかっていた…。 だから、ひょっとしたら、先生の、“おめん○ょ”のまわりにも、陰毛が生えているのかもしれない…。 そんなことを考えるだけで、僕は、もう、ちん○を大きく、硬くしてしまっていた。 何とか、元通りに、やわらかく小さなモノに、鎮（しず）めていきたい…。 下に敷いた、掛け布団を抱え込む。 そして、その布団に、下腹部を押しつける。 ちん○を押さえつけて、ちん○を、少しでもいいから、小さくしてしまいたいのだ…。 がしかし、なんということだろう、丸めた布団に、ちん○を押しつければ押しつけるほど、気持ちよく感じられてしまうのだ。 僕は、その気持ち良さに、逆らうことができなかった。 こともあろうに、僕の頭の中には、お風呂上りの、はだかになった先生の姿が思い浮かんで来てしまっていた…。 僕は、股間の大きくなったモノを見られないように、先生に近づいていく。 先生は、驚いたように、目を大きく見開いている。 でも、僕は、きれいな、真っ白い先生のからだに引き寄せられ、急に抱きついてしまっていた…。 『野村クン、だめよ、だめよ、そんなことしたら…』 『先生、せんせい、僕は、ぼくは、もう、がまんでき………』 僕は、丸めた掛け布団に、しっかりと抱きついていた。 まるで、それが、大越先生のからだでも、あるかのように…。 『先生、僕は、僕は…。先生が大好きなんです…』 『だめよ、だめよ…。ああ、野村くん…』 僕は、丸めた布団に、さらに強く、下腹部を押しつけていた。 そのとき、股間の膨張しきったモノが、爆発したような…。 目の前で、激しく火花が飛び散り、僕は、『アーッ』と、声を上げた。 そして、かすかながらも、体をくねるように回転させながら、深い闇の底へ、舞い落ちていくのだった…。 僕は、谷底に向かって落ちていきながら、 『先生、先生、ゆるしてください、許してください…』 と、しきりに、つぶやいていた…。 僕は、射精が終わり、少し、正気を取り戻せることができたようだ…。 （許されるはずもない。先生を汚してしまって…） 僕は、まだしっかりと抱き締めている布団に、顔をくっつけながら、涙を流していた…。 （つづく） |
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| 2008.11.8掲載 |
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