| ７ ｓｅｌｆ−ｐｌｅａｓｕｒｅ 土曜日の午後だった。 僕は、クラスメイトの釜山良一と、ハンバーガー・ショップにいた。 「おまえ、最近、英語の授業、よく当てられるよな」 釜山君が聞いてくる。 「ああ、そうなんだ。どうも、俺のかあさんが、先生に、息子のこと、よろしくお願いします、みたいなこと、言ったようなんだ…」 「ああ、そうだったのか、どうりで…」 「まったく、かあさんのやつ、要らぬことを先生に言ったもんだ…」 「しかし、うらやましいな。オレのところのおふくろなんか、まったくの無関心だからな、勉強のことなんか」 「そうか。でも、干渉しすぎる、ってのも、考えもんだよ」 「で、なんだ、こうた、聞きたいこと、って」 「ああ、そのことなんだけど…」 実は、釜山君を呼び出したのは、僕の方だったのだ。 どうしても、確かめたかったのだ。 つまり、人間の、男女の交尾（＝性交）とは、どのようにして、行われるのか、ということについて。 「いや、実は、俺、その、このあいだ、エッチなビデオを見てしまって…」 「えっ？。それ、って、はじめてじゃないよな」 「いや、それが、はじめて、で…」 「本当かよ？。オレなんか、小５で、見てたよ、そんなもの」 「ああ、そうなんだ」 「おまえのうちは、きっと、上品な家庭なんだろうな」 「はぁ？」 「おまえのところは、夜中、やかましくないのか？。オレのうちなんか、やかましくて。おふくろのやつ、夜中に、盛りのついたメス猫みたいに、『うっうっ、はぁはぁ、ああ、アンアン、アアア』、って、やかましいこと、やかましいこと…」 「……」 確かに、僕のうちでは、そんな、夜中に、かあさんが、『うんうん』とか、『はぁはぁ』とか、そんなうめき声を発するなんてことはない…。いや、そんな声を聞いたことはない…。 （アノ時、やはり、女の人は、あんな声を出すんだろうか？。あのビデオの女の人みたいに） 僕は、勇気をふりしぼって、釜山君に聞いた。 「エッチ・ビデオでさ、男の人が、女の人の胸の上に、精液を振りかけていたんだ。しかし、その時、俺は、納得がいかなくてさ。だって、そうだろう、理科の奈良井先生は、『精子を運ぶ精管というものが伸びて行って、メスの体内で、受精することになる』って…」 見ると、釜山君は笑っていた。 「何か、俺、おかしいこと、言ったか？」 釜山君は、笑いを押しころしながら、答えている。 「あんなもん、牛乳に決まってるじゃん。やっぱり、本物の精液は、ちゃんと、女の膣の中に出すべきなんだ」 「ちつ（膣）？」 「ああ、そぉ」 「その、それって、赤ちゃんが世の中に出て来るときの、トンネル（産道）になるところか？」 「そうだよ」 僕には、まだ腑に落ちない。 で、しつこく、聞く。 「そんなところに精液を出しても、受精しないんじゃないの？」 「いや、精子には、しっぽがついていて、泳いでいくんだ」 「……」 「膣から子宮の中に入り、子宮を通り抜けて、卵管にまで、上がっていく。そして、卵管にいる卵子にまで、たどりつくんだよ」 僕は、感心してしまっていた。 頭の中に、精子が、クラゲのように、大海を泳いでいく姿が思い描かれていて…。 「じゃ、精子は、女性の産道の中に発射される、ということなの？」 「そうだよ」 釜山君は、とても自信ありげに、そう答えてくれた。 僕は、心の中で思った。 （やはり、男は、性器が硬くなり、それが、女性の性器の中に入り込み、そして、男性の性器の先っぽから、女性の性器内に向けて、精子が発射される、ということになるんじゃないだろうか？） そして、僕は、あきらかに、興奮していた。 （人間の交尾とは、男性の性器が、女性の性器の中に突入する、ということなんだ！） 確かに、恥ずかしいことだ、破廉恥なことだ、男と女が裸になり、お互いの性器をくっつけ合う、なんてことは…。 しかも、男は、自分の性器を女の性器の中に、突っ込むということなんだから。 何て、それは、すごいことなんだろう。何て、興奮することなんだろう。 僕は、“ちん○”を、“メンチ○”の中に入れ込む、と考えるだけで、自分の顔が赤くなり、そして、股間の“ちん○”が大きく、硬く、熱くなっていくのを覚えた。 僕は、また、土曜日も日曜日も、勉強できないでいた。 そして、ともかく、掛け布団は、きちんと、胸に掛けて寝るようにした。 でも、何かしら、心配で。 僕は、台所に行き、白いビニールテープのひもを取ってきた。 それは、古紙回収の日、かあさんが、古新聞紙をくるむ紐だった。 僕は、布団を抱き締めないように、両足のくるぶしのところを、ビニールのひもで、縛る。そして、両手の手首をくっつけ、そこにビニールテープを巻きつけ、苦労しながら、口も使って、しばっておいた…。 何度も、寝返りを打つ。 でも、やっと、僕は、眠りにつくことができた。 いつものことだ、大越先生の顔を見ると、胸がドキドキする。 僕は、授業中、先生が、僕が座っている机のそばに、近づいて来られないことを願っていた。 つまり、僕の心臓の音を聞かれたくないためだった…。 が、それは空しかった。 大越先生は、僕の机のそばに、やって来られたのだ…。 「今日は、“じぇらんど”、動名詞に行きます。でも、その前に、不定詞の復習をしておきましょうね。不定詞には、名詞的用法、形容詞的用法、副詞的用法と、３つの使い方がありましたよね。 名詞的用法では、例えば、“わたしの仕事は、英語を教えることです。”という場合には、“Ｍｙ ｗｏｒｋ ｉｓ ｔｏ ｔｅａｃｈ Ｅｎｇｌｉｓｈ．”と言います。 つまり、“ｔｏ ｔｅａｃｈ”という不定詞は、この場合、文型的には、ｂｅ動詞の補語になっていて、名詞的な働きをしています。 では、野村君、“僕の趣味は、野球をすることです。”を、不定詞を使って、言ってみて」 僕は、目を瞑った。 そして、立ち上がった。 （そうなんだ、僕の趣味は、ベースボールをすることなんだ。趣味イコール野球、趣味イコール、野球をすること。“すること”は、“ｔｏ 不定詞”） 「“Ｍｙ ｈｏｂｂｙ ｉｓ ｔｏ ｐｌａｙ ｂａｓｅｂａｌｌ．”」 「はい、そうですね。では、野村君、“野球をすることは、僕の趣味です。”を、不定詞を使って、もう一度、言ってみて」 （うん？） なぜ、もう一度、同じことを言わなくてはいけないのか？ でも、先生が同じ質問をするはずがない。 僕は、頭の中が混乱していた。 「あら、どうしたの？。そんなに、固まっちゃって…」 （だって、固まりますよ。さっきの答え、まちがっていたんでしょ？） 先生が、同じことを聞くわけがない。 “野球をすることは、僕の趣味です。”という質問に、僕は、さっき、確かに答えたはずなんだから。 でも、どこが、まちがっていたんだろう？。 僕は、しかし、何を、どう言ったらいいのか、わからなくなっていた…。 「いいですか、野村君。今は、不定詞の名詞的用法の話をしているんですよ。つまり、名詞なんだから、第２文型（ＳＶＣ）の補語（Ｃ）にもなれるし、主語（Ｓ）にもなれるのですよ。だから、さっきは、補語として使ったから、今度は、その不定詞を主語にして、言い換えてみてくれない？」 僕は、ますます混乱していた。 だって、今休んでおられる英語の前島先生は、ｗａｎｔやｌｉｋｅなどの動詞のすぐ後に置かれる不定詞というのは、その動詞の目的語みたいになって名詞的な働きをする。 そ して、名詞の後に来る不定詞は、その名詞を後ろから修飾する形容詞的な働きをする。 そして、さらに、動詞の後に来る不定詞は、その動詞を後ろから修飾する副詞的な働きをすることもある、と言われたんだ。 “ｔｏ不定詞”が、文章の一番最初に来て、主語になるなんて、そんなことは、おっしゃっておられなかった…。 僕は、どうしていいか、わからず、まだ、立ち往生をしている…。 足が震え始めていた。 目が充血してくる。 僕は、泣きそうになった。 と、そのとき、先生の声がした。 「野村君、“野球をすること”というのは、英語で、何と言いますか？」 「はっ、はい。“ｔｏ ｐｌａｙ ｂａｓｅｂａｌｌ”です」 「では、“僕の趣味”、というのは、何と言いますか？」 「“ｍｙ ｈｏｂｂｙ”です」 「それでは、それらふたつのものを、ｂｅ動詞で、つないでみてください。“Ｓ（主語）＝Ｃ（補語）”という関係になるんですからね」 （そうか、Ｓ＝Ｃは、Ｃ＝Ｓとも置き換えられるんだ！） 僕は、勇気を出して、英単語を、ゆっくりと発音した。 「“Ｔｏ ｐｌａｙ ｂａｓｅｂａｌｌ ｉｓ ｍｙ ｈｏｂｂｙ．”」 「はい、そうです、そのとおりですよ。この場合、何々すること、すなわち“Ｔｏ ｐｌａｙ”という不定詞は、名詞的な働きをします。名詞なんだから、当然、主語に持って来ていいのですよ」 大越先生が、僕の机のそばを離れて、黒板の方へ、向かわれた。 僕は、やっと安心し、そして、ドカッと椅子に座り込んだ。 手に、びっしょり、汗を掻いていた…。 英語の授業が済んだ。 社会の歴史の授業になる。 江戸時代の三大改革の話だった。 享保の改革、寛政の改革、天保の改革…。 しかし、今の僕には、関係なかった…。 何だか、先生が恋しい。 あんなに、さっきは、ぶざまなことになってしまって…。 あんなことで固まってしまうなんて、大越先生も、きっと、あきれられたことだろう…。 でも、すぐ、会いたい、先生に。 教室を飛び出して、先生に会いに行きたい、職員室に…。 でも、僕は、休み時間にも、掃除の時間にも、職員室に行くことができなかった。僕には、とても、そんな勇気がなかった…。 部活が終わった。 部室には、もう誰もいなかった。 僕は、グランドの整備も、着替えも、一番ノロノロと、遅かったみたいだ…。 考え事をしていたのかもしれない…。 （どうしたら、先生にきらわれないだろうか？） 「おいおい、まだ、いたのかよ」 監督だった。 「早く、帰れよ」 「はい」 「野村、英語の山越先生、おまえの家の近くのマンションに住んでおられるんだって、な」 「はい」 「で、山越先生な、試験に通ったんだってよ」 「えっ？」 「教員採用試験だよ。まったく、めでたいことだ」 部室は暗かった。 でも、何だか、ほんとうに、うれしそうだった、永岡監督は…。 「だから、野村、今のうちに、しっかり英語、教えてもらっておけよ。山越先生とは、いつまでも、一緒じゃないんだから…」 「はぁ……？」 僕は、監督と、校門のところで別れた。 僕は、夕飯を食べていた、かあさんと。 とうさんは、今夜は仕事で遅くなるらしい。 「こうた、山越先生、試験にうかったんだってね」 「えっ、何で、知ってるの？」 僕は、かあさんに聞き返していた。 「そんな。これでも、ＰＴＡの役員、してるんだからね。あんたのためなのよ、そういう役目を引き受けたのは。で、あんたは、なぜ、そんなこと、知ってるの？」 「野球の永岡監督に聞いた」 「ああ、そうなの。監督さんは、たぶん、体育の先生から聞いたのね」 「やはり、そうなんだ」 「ええ、そうよ。良かったわね、本当に」 かあさんも、やはり、監督と同じように、喜んでいた…。 「どうして？」 「どうして、って、そりゃ、あたりまえでしょ。臨時雇用の教員と、正規雇用の教員とじゃ、全然ちがうもの、身分の安定というのが……」 「へぇー、そういうもんなんだ…」 僕も、喜んであげなくっちゃ、と思った。 でも、何だか、素直に喜べないのだ…。 なぜなんだろう？。 風呂に入った。 湯に浸かる。 でも、何だか、永岡監督の言われたことが、気になるのだ。 『今のうちに、しっかり英語、教えてもらっておけよ。あの先生、いつまでも、この学校におられるというわけじゃないんだから…』 僕は、自分が中学校を卒業するまでは、この中学に、山越先生がずっとおられるとばかり思っていたのに。途中で、変わられるなんてことが、あるんだろうか？。 僕は、勉強する気持ちが、まるでなかった。 英語なら、不定詞や動名詞の復習をしておくべきだった。 歴史なら、江戸時代、享保の改革、寛政の改革、天保の改革で、それぞれどんな改革が行われたのか、暗記しておくべきなのだ。 歴史の先生が言っていた、江戸の三大改革は、高校入試によく出題される、と。 僕は、ベッドに寝ていた。 先生と別れるのがつらかった。 でも、その先生の顔を思い浮かべると、何だか、胸が切なくなって。 その切なさを打ち消すには…。 それに、何としたことか、先生のことを考えるだけで、股間のモノが、硬くなるのだ。 股間が熱を帯びているようで、どうしようもない。 手が股間に伸びるのだ。 ブリーフの上から、さわってみる。 それは、実際、熱を帯びていた。 ずっと、手を置いていると、それは、茎のところで、まるで、ドックンドックンと、脈打っているようにも感じられた。 ちょっと、上から押さえつける。 が、そいつは、反って、ビックンと跳ね上がる。 そして、そいつは、さらに熱を帯びはじめていた…。 なんということだ！。 僕は、ズボンを脱ぎ、ブリーフを取って、下半身を丸出しにしてしまっていた。 見ると、凶暴になったそいつは、ピンク色というよりは赤紫色に変色するほどに燃え上がっており、茎の背のところを、おなかのところにくっつけ、茎の腹のところを丸出しにしていた…。 そいつの腹わたの、筋の走っているところを、ゆっくりと、指でなぞってみる。 気持ちがいい。 特に、茎の一番下、キンタ○につながるところをさすると、とても、気持ちがよかった…。 そして、人差し指と、中指で、ちん○の先っぽをはさみ、そのふたつの指でこすってやると、おしっこをちびった時に感じる、くすぐったさの混じった気持ち良さがある。 また、まるで貯まった小水を一気に放出する瞬間の、一歩手前のような、何とも言えない、また、これまであまり感じたことのないような快感がある。 と、僕が目を瞑っているにもかかわらず、目の前に、先生の裸身があらわれて来た。 先生が、ゆっくりと、僕の体の上に、おおいかぶさって来られるのだ。 （いけない、いけない） そう思いつつも、僕は、ゆっくりと腰を上に上げている。 僕は、先生の股間に、僕の股間が合うようにした…。 現実に、股間同士が合っているということはないのだ。 それなのに、なんと言う、心地良さなのだろう。 頭の中がしびれていくような感じさえする。 僕は、ちん○の茎のところを、はさんでいる人差し指と中指を上下に移動させていた。 すると、腰をよじりたくなるほど、気持ちがいいのだ。 先生と、こんなことをして、しかし、何でこんなに気持ちがいいのだろう？ 気持ち良さは、股間だけではない。 お尻のうしろも、背中も、後頭部も気持ちいい。 からだ全体が熱くなる。 もはや、ブレーキが効かなくなっていた。 『先生、先生、好きです、大好きです！』 ちん○をさする、人差し指と中指の動きが速くなっている。 と、目の前で、黄色の火花が飛び散った。 僕は、ウッとばかりに、手の平に、なまあったかい精液を吐き出していた…。 「先生、先生、ごめんなさい！。僕は、僕は、どうしたらいいのでしょう…』 （つづく） |
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| 2008.11.15掲載 |
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