| ８ 会えない寂しさ 「先生、明日の夜、空いていませんか？」 見ると、看護師の佐田川由香だった。 「いいけど、何か？」 「先生、前に、中華料理でもどう？、って、おっしゃまいせんでした？」 「えっ、そうだったっけぇ？」 そんな約束なんか、したんだろうか？。 黒木舞と、そんな約束をしたなら、忘れることはないと思うが。 が、もう、これから、黒木舞には会えないことになる。 高村婦長が、ミーティングの時、言ったのだ。 「看護師の黒木は、これから、産前・産後休暇に入ります。そのあとは、子どもが満１歳になるまで、育児休暇を取る、ということです」 俺は、そのとき、ひどいショックを受けた。 これから、約１年も、黒木舞には会えないことになる。 「先生、覚えていないんですか？」 看護師の由香はしつこい。 「……」 俺は、思い出そうとしている。 「わたし、黒木舞さんが切迫流産で入院されたとき、彼女の病室に、お花を持って行ってあげたんですよ、先生の代わりに…」 「ああ…」 何となく、思い出している。 「じゃ、明日の夕方、空けるよ」 「それで、先生、彼女も連れてきていいですか？」 「彼女？」 「いやですねえ〜。もう、忘れたんですか、わたしの女友達のこと…」 「えっ？」 俺は、忙しいんだ。 看護師と話したことなど、いちいち、覚えてはいない。 しかも、仕事以外のことなんか…。 「まぁ、いいよ。その彼女とかも一緒に。時間と場所は、また、後で連絡するからね」 俺は、そう言いながら、佐田川由香と別れた。 別れて、廊下を歩きながら、俺は、ふと、突然、思い出した。 （そうだ、フランス料理を食べながら、佐田川由香が、『友達で、アノ時、イケないやつがいる』とか何とか、言っていたんだ…） 由香が、中華料理店にやって来た。 彼女１人だった。 イケないという女友達はいなかった。 「ごめんなさい。彼女、急に来られなくなって…」 「いいよ、気にしなくても」 実際、事前に由香からケータイに連絡があって。 俺も、中華料理店に電話を入れたのだ。 当日になって、３人予約が２人予約になったのだ。 しかし、キャンセル料は取られなかった。 余程、この店は繁盛しているらしい。 前菜は、めずらしく、バンバンジーの板春雨添えだった。 前菜としては、ちょっと重過ぎるが…。 ひょっとしたら、前菜は、もう出たのかもしれない。 俺は、考えごとをしていた。 （まったく、俺は、何と言うことをやっているんだろう。こんな若い子と二人で食事なんかに来て…） 「残念だったでしょ？」 由香が、ワインを飲んでいた。 俺も、本当は、ビールか、ラオチュー（老酒）か、アルコール類を口にしたかった。 しかし、自制している。 三番手にしてもらったとはいえ、急患が多ければ、やはり、病院から呼び出しがあるだろうから。 「何が？」 「彼女が、来なくて」 「いや、そんなことはないさ」 マグロとアボガドのグリーンサラダ添えが出た。 マグロは一級品を使っている。 「彼女が来れば、先生、彼女が抱けたかもしれないのに…」 「いや、反って、彼女にきらわれて、ショックを受けるはめになったかも？」 「そんなことはないです」 ふかひれスープが出た。 熱い。 少し、冷まして食べることにした。 「先生、最近、元気がないですよ」 「ああ、そうかな？」 「そうですよ。何か、いつも、ため息をついておられます」 いかシュウマイ、海老蒸し餃子が出た。 ふたつとも、なかなか、イケる。 このイカは、何と言う烏賊なんだろう。 アオリイカなんだろうか？。 「黒木さんが休んで。それでじゃないですか？」 「まさか…」 和牛の頬肉の柔らか醤油煮込みが出た。 どこの和牛なんだろうか？ 三田牛なんだろうか。それとも松阪牛なんだろうか？。 「でも、彼女、１年しか、休み、取らないんですよ」 「えっ？」 「一応、うちの病院、子どもが満３歳になるまで、育児休業が取れるんですよ」 「ああ、そうなの？」 「先生、そのくらい、覚えていてください」 「ああ、ごめん、ごめん」 海老のチリソースが出た。 甘い、おいしい。 プリッとした食感がある。 「黒木さんの代役、わたしじゃ、勤まりませんか？」 由香が何か、言っている。 ワインの飲み過ぎではないだろうか。 杏仁豆腐が出た。 そして、続いて、マンゴープリンが。 どうも、これが最後のデザートらしい。 「先生、だめですか？」 「何が？」 「代役…」 「代役と言われても、黒木舞さんとは、そういう関係ではないわけで…」 「うそでしょ？」 「どう言ったらいいのかな。ともかく、黒木さんとは何でもありません。職場の同僚ということです」 「うそです」 「うそではありません」 由香と、ちょっと、言い争いになった。 が、俺は、席を立った。 そして、支払いに向かった。 どうしたことなんだろう。 俺は、由香と、シティホテルの一室にいた。 頬をつねる。 痛かった。 どうやら、夢ではないみたいだ。 シティホテルに入る前、由香が、 『わたし、彼女に先に先生を取られるの、いやなんです』 と言ったことを、思い出していた。 俺は、先にバスを使い、ベッドで、由香を待っていた。 （世の中、って、こんなもんかもな。好きな女とはうまく行かなくて。どうでもいい女とは、すんなりと事が運んでいく…） 俺は、はだかの由香を抱いていた。 「避妊しようか？」 「大丈夫です」 「ああ、そうなの」 由香のおっぱいを吸っているうちに、俺は、股間のモノを、おっ立てはじめていた。 俺は、早く彼女の中に入れたかった。 やはり、中に入れて、抜き差ししていた方が、気持ちがいい。 それに、いつ病院から緊急の呼び出しがあるかもしれない。 それには、早くやってしまわなければならない。 性急にも、俺は、由香の股間に手を入れていた。 彼女の股間は、乾いていた。 俺は、萎えていた。 実際、これでは、挿入不可能なのだ。 俺は、由香のからだから離れて、仰向けになった。 と、彼女が、俺の胸に手を。 そして、身を寄せてきた。 かわいい、と感じた。 実際、今、俺は、俺自身の欲望を達成することだけしか、考えていないのかもしれない。 実際、彼女の心に沿う、などということは、面倒くさいのだ。 が、彼女の心のさまを、大切に考える必要があるのかもしれない…。 しかし、歯車の毀れた俺なんかには、所詮、彼女の気持ちを忖度できるはずもない。 結局は、おのれの欲望を達成するために、エッチな行為を繰り返すしかない。 そうだ、もう居直るしかない。 病院から連絡が入れば、そのときは、そのときだ。 同じ医療仲間として、由香だって、途中でやめたって、理解してくれるだろう。 （時間をかけ、ゆっくりと、愛撫していこう。濡れさえしたら、何とか、挿入できるはずだ…） 俺は、ベッドの上方にあるライトの光を弱めになるよう、絞っていく。 真っ暗にはしたくない。 彼女の、若い、きめの細かい肌が、全く見えなくなるというのは、いかにも惜しい気がする。 が、ともかく部屋の中は、かなり薄暗くなった。 俺は、横向きになり、彼女の上のくちびるを、おのれの両の唇で挟み、そして、吸った。 それから、唇でもって、彼女の口を大きく開けさせ、彼女のくちびるを捉えて、それを吸った。 さらに、彼女の口の中に、舌を入れこみ、彼女の舌をからみ取り、彼女の舌先をおのれの唇でとらえ、吸った。 彼女の舌先を俺の唇で吸い、そして、彼女の舌の裏側に俺の舌先を当てて、愛撫する。 と、彼女が悶え始めた。 互いに、舌を絡めあう。 彼女の唾液と、俺の唾液とが、交じり合っていく。 俺は、キッスをしながら、彼女の乳房を手で愛撫した。 そして、それから、脇腹を手で撫でた。 彼女を完全に横向きにする。 ウエストからヒップにかけて、盛り上がっている横腰に手を置く。 彼女のからだが震えている。 （おかしい。彼女は、もっと、セックスに慣れているはずだが…） 横腰を手で撫でる。 その盛り上がりの最も高いところに、骨盤の一部である腰骨があった。 その腰骨の内側を、上から下へ、指先でなぞっていく。 彼女の震えは、まだ直らない。 そして、恥骨の少し上に、俺の指が到達する。 と、そのとき、彼女が、ピクッとなった。 ひょっとしたら、恥骨の周辺部が、彼女の性感帯かもしれない。 「ふっ、ふー、ふー」 彼女の息が少し、大きくなってきたようだ。 感じはじめてきたのかもしれない…。 （急いではいけない） 俺はそう自分に言い聞かせた。 本当は、もう、指を股間に突っ込み、濡れ具合をみたい。 しかし、がまんした。 指先を、恥骨の少し上辺りから、恥骨中心部へと移動させていく。 やがて、恥骨から内腿の、恥毛の生え際へと、指先でゆっくりとなぞっていく。 頃はよし。 俺は、上から、グッと指先に力を込め、クリトリスを押し揉んだ。 「うっ、はーん、あっ、あああっ」 彼女が腰をよじる。 腕の筋肉も、ブルブルと震えているようだ。 しかも、彼女は、手で、しっかりとシーツを握っている。 股間の泉のほとりに指をやる。 泉のほとりは、濡れていた。 俺は、やっと、ホッとした。 俺は、ヴァギナに、まず、一本の指を入れた。 狭い。 しかし、掻き混ぜた。 おっぱいを揉みしだきながら、二本目の指を。 乳首を啜りながら、やっと、人差し指と中指と、二本の指を、彼女の膣の中に差し入れた。 俺は、彼女の両脚をしっかりと広げさせた。 指で、しっかりと、膣口を横に大きく広げる。 やっと入った。 戸口は狭かった。 しかし、中に入ると、やや余裕があった。 腰をゆっくりと入れる。 何とか、根元まで、入ったようだ。 が、彼女の顔を見ると、やはり、苦しそうではある。 このまま動くと、彼女は痛いかもしれない…。 が、ともかく、先端部は少し動けるのだが。 根元が締まっている。 動けないのだ。 俺なんかは、腰を上下動させて、ペニスを抜き差しし、その結果、ペニスの先っぽの、エラの張ったところが、女のビラビラとした小陰唇によって、こすってもらわないことには、気持ちよくなれないのだが。 と、彼女が、下から突き上げてくる。 （大丈夫なんだろうか？。彼女、腰を痛めるんじゃないだろうか？） しかし、確か、彼女は、高校の時、バレーボールの選手をやっていた、と言っていた。 足腰を鍛えている。 彼女に任せるべきだろう。 ともかく、じっとしているより、彼女に動いてもらった方が、俺にとっては気持ちがいいのだ。 俺は、彼女にしがみつきながら、じっとしていた。 彼女の動きは、しかし、ぎこちなかった。 しかし、ときどき、ヴァギナが締まるような気がするのだ。 ヴァギナの内襞が、まるで、筋肉のゴム輪のようになって、俺のペニスの茎の部分を、キュッキュッと、締め付けてくるのだ。 気持ちがいい。 特に、横揺れがいい。 出そうなくらい、気持ちがいい。 もうがまんできなかった。 イかせてもらうしかなかった。 彼女には、後でイってもらうしかなかった。 俺は、彼女に、下から突き上げられながら、気持ちよく、イッた。 射精すると、一気に、フニャフニャになった。 そして、ペニスは、彼女のヴァギナから、すっぽりと抜け落ちた。 しかし、何やら、ヌルヌル感が強いのだ。 俺は、よほど、精液を溜め込んでいたらしい。 俺は、ティッシュでペニスを拭く。 が、何だか、まだ、ヌルヌルしている。 精液ではないヌルヌル感がある。 俺は、ベッドのライトを明るくし、もう一度拭き取ったティッシュを見た。 赤い血がついている、ティッシュに。 俺は、ペニスの皮膚が、毛切れか何かにより、切れたのではないかと思った。 が、血を拭き取ってきれいにしたペニスの茎の部分に、傷口は見当たらない。 （あっ、ひょっとして、由香は、バージンだったのかも…） 悪いことをしてしまったという、罪悪感はあった。 が、頭脳細胞の、どこか人間として生きていく上で重要な働きをする細胞の、どこかの歯車が、俺の場合、毀れているのだろう。 処女膜を破ったという、ひとつの征服感、満足感のようなものが、罪悪感より大きかったのだ…。 射精し終えたばかりというのに、俺は、気落ちするどころか、反って、元気が出てきた。 俺は、由香に聞いた。 「どうだい？。君はまだ、イっていないだろう？」 由香は、何のことか、わからないような顔をしていた。 「その、まだ、気持ちいい、というところまで、行っていないだろ？」 彼女は、まだ、ポカーンとした表情をしている。 「俺は、射精して、とても気持ち良かった。運動をして、汗を流した後、冷たいビールを一気に飲む。そんな時のような爽快感があった。君はどうだい？。そんな爽快感はあったかい？」 彼女は、不審そうな顔をしていた。 やはり、まだ、イっていないみたいだ。 「そのつまり、一生懸命、山登りをしてさ、やっと、頂上に着いて、一気に視界が広がり、すばらしい景色を眺められたような爽快感。まだ、君は、今日、そんな気分を味わっていないだろう？」 すると、彼女は、恥ずかしそうに、ちょっとだけ、顔をコックンと縦に振った。 俺は、由香が、アクメ（絶頂感）を感じられるよう、努力することにした。 黒木舞は、産前産後の休暇から育児休業へと入っていく。 当分、舞には会えない。 果たして、がまんできるだろうか、一年も。 とうてい、がまんできない。 何かにすがりつかなくては。 そして、今、俺は、由香にオルガスムスを与えることだけに集中していきたかった。 少なくとも、例え、それが、他人様から見れば、滑稽なことであっても、そういうことに没頭していれば、会えない苦しさから免れることができる…。 俺は、彼女に添い寝をしつつ、彼女のくちびるを吸った。 手を下にやって、彼女の茂みを撫でる。 その茂みに隠れているクリトリスを、俺は、捜し当てる。 中指の腹のところで、そのコリッとした突起物を押しつぶすようにして揉み込む。 彼女のからだが横揺れしている。 と、俺は、クリトリスを揉んでいる俺の中指が、濡れていくのに気がついた。 淫液であろう。 中指を少し、下に降ろす。 そして、泉の中へ。 やはり、泉の中からは、滾々と、湧き水が湧いていた。 その湧き水で、しっかりと、中指を第二関節のところまで、濡らした。 そして、濡らした中指で、再び、クリトリスを撫でる。 先ほどより、そのクリトリスは尖ってきたような感じがする。 「由香、どう、ここ、気持ちがいいかい？」 「はぁ、はぁ、はぁ」 息づかいだけが荒く、由香は答えなかった。 後は、結局、彼女の息づかい、腰のうねり方を見ながら、こちらで愛撫の手を調整していくしかなかった。 中指を上下に動かしたり、左右に動かしたり。 そして、クリトリスの周辺を円形に回しながら、と。 色々と、揉み方を変えてみる。 俺は、人差し指も動員することにした。 クリトリスを、上からと下からと、人差し指と中指とで挟みながら揉んでみた。 彼女の吐く息が、大きく、激しくなる。 そして、腰を大きくひねりはじめた。 と、彼女の息が止まったようだ。 「あっ、ああああ、アアア」 彼女の呻く声だ。 と、彼女は、腹をグッと反らし、両足を突っぱね、弓状になった。 「あああ、アンアン、アアアア、アン、どうしたの、どうなっちゃうの」 ビクビクッ、ビックンと、彼女が、両の下肢を痙攣させていた…。 そして、彼女は突っぱねていたからだを、ガクッンと、べッドの上に落としていった。 「やっと、イってくれたようだね」 「はぁー、はぁー、はぁ、はぁっ………」 彼女は、呼吸を整えようとしている。 「うっ、うっ…」 彼女が、息を深く飲み込もうとしている。 「クッ、クッ」 彼女が、何か、咽喉を詰まらせたような…。 息を吸い込んだとき、一緒に唾を、咽喉に詰まらせたのかもしれない…。 俺は、横抱えにして、彼女の背中を、なでさすってやった。 （つづく） |
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| 2009.3.7掲載 |
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