１１　ホテルに行くお金もない

　僕は、実際のところ不謹慎な男かもしれない…。

　彼女は、もう結婚が間近いのだ。
　それなのに、僕ときたら、彼女を抱き締めていて、『こんなことは、成り行きに任せるしかないじゃないか』と、半ばあきらめ、かつ、投げやりな気分に襲われ、『キッスくらいならいいじゃないか』と、アルコールで朦朧としている頭の中で考えている…。

　僕は、彼女のからだを引き寄せている。
　その方が、くちびるを吸いやすいからだ。
　でも、僕の頭の中には、まだ、冷え冷えとしてものが残っていた…。

　彼女をもっと楽しくさせる場所も知らないし、そういうところへ連れて行くお金もないことを痛感していて、そのようなみじめな感情が、頭の中をめぐっている状態では、彼女のやわらかなくちびるの感触に没頭できるはずもなかったのだ…。

　しかし、抱いているうちに、彼女のからだは、さらに柔らかくなり、そして、下へ下へとそのからだの重心が落ちていくように感じられた。僕は、キッスよりも、その彼女の不安定なからだを支えるということに、集中しなくてはならなかった。

　僕は、キッスをしながらも、とうとう僕の手を彼女のお尻の下に回していた。その方が、沈み込みそうな彼女のからだを、上の方に引き上げるのに、都合がよかったからだ。

　でも、スポーツ・ジムに通って筋トレをやっているわけでもない。次第に、彼女の体重を支えている腕が、だるくなってきた。

　僕は、卑怯だ。
　くちびるをはずし、彼女の耳元でささやく。
「ねぇ、ソファに腰掛けないか？」
　
　僕たちは、並んで、ソファに腰掛けた。
　時間延長になったとしても、このカラオケ・ルームの代金ぐらいは払えそうだった。だから、僕は、あえて、自分の性的な欲望を引き出そうとしていた。

「ごめんね、彼氏がいるというのに、君のくちびるを奪ってしまって…」
「……」
　彼女の目は濡れていた。
　彼女も、ひょっとしたら、欲情しているのかもしれない…。
　結婚しても、彼女は外に働きに出ると言った。家事とパートの仕事で、彼女は、今まで以上に忙しくなるのかもしれない。今をおいて、もう自由な時間は、当分、彼女にはやって来ないのかもしれない。彼女にとって、相手は誰であってもいいのかもしれない。ただ、今この一瞬は、自分の欲情を抑えてくれる、男の誰かが欲しいだけなのかもしれない…。
　
　僕は、悪者になることにした。

　腕のだるさもなくなった。
　僕は、彼女の肩を抱き、そして、体をねじるようにして、くちびるを重ねて行った。
　僕が、しっかりと抱き締めると、それに合わせて、彼女もぴったりと上体を僕の方に密着させて来る。
　アルコールのせいではない。僕は、自分の性欲を満たすために、彼女の欲情をさらに高めようとし、右手で、彼女の背中を撫ではじめていたのだった。

　僕は、自分の心の中にも、小説の『ジギル博士とハイド氏』のように、紳士と悪魔という二重人格が存在しているような気がした。

『彼女は結婚前なのだ。早くうちに送ってあげなくては…』
　僕は、確かに、そういう自分の、良心の声を頭の中で聞くことができた。

　しかし、その一方では、
『彼女の方から誘ったのだ。所詮、彼女だって、バージンではない。実際、ヤッタって、別に、減るもんじゃないし…』
　という悪魔の囁きが、耳元で聞こえるのだった。

　僕は、彼女の背中の肉が柔らかくなり、熱を帯びるようになり、彼女の吐息が熱く、やるせないような響きを帯びるようになると、悪魔の声に忠実にならざるを得ないような状況に追い込まれて行った…。

　僕は、背中を撫でるのに飽きてしまっていて、彼女の上半身との間に隙間をつくると、彼女の上着を取り始めていたのだ。
　
　やや透き通った感じのキャミソールを取り上げると、彼女は、ブラジャーだけの姿になった。
　そして、そのブラジャーさえ、僕は、取っていた。
　部屋は薄暗かった。しかし、きれいな乳房だった。
「きれいだね。しかも、思ったより大きいね」
　僕は、そう言いながら、大胆にも、彼女の乳房にさわった。そして、指先で、少し五合目のふっくらとしたところを揉んでみた。彼女が、上目使いに僕の方を見る。
「彼氏にも、こんなこと、してもらうの？」
　彼女が、恥ずかしそうに、頷く。
　
　理不尽にも、僕は、嫉妬する。
　それで、この乳首は、誰にもやらない、という風に、すばやく、大胆に、それに口をつけていた。そして、僕は、赤子のように、それを吸う。

　僕は、何も考えなかった。
　むろん、罪の意識も。
　むしろ、彼氏がうらやましかった。彼氏は、これから、ずっと、この、やわやわとした柔らかな乳房を独占し、コリコリとしておいしい乳首を、おのがくちびるに含み続けることになるだろうから…。

　と、僕は、股間をまさぐる、他者の手を感じていた。
　口から乳首をはずす。そして、下を見る。
　彼女の手が蠢いている。

　僕は、ちょっと身を起こして、彼女との間に隙間をつくり、彼女が手を動かしやすいようにした。
　すると、彼女は、僕のズボンのホックを下に降ろしはじめていた。
　ズボンのベルトのあたりが、僕の膝のあたりまで達したとき、僕は、自分からも、そのズボンを足首の辺りまで押し下げ、そして、くしゃくしゃに折りたたまれたスボンを足首から抜き去っていた。
　
　やがて、彼女は、おそるおそる、僕のトランクスの横合いから、手を入れてきて…。
　僕の硬くなったジュニアに、その指を置いていた。
　その手は熱かった。そして、少し、ふるえているようにも思えた。

　僕は、彼女を励ますつもりで言った。
「こんな僕のモノに触れてくれるなんて、感激だよ、うれしいよ」
　彼女は、こっくりと、しかし、恥ずかしそうに、うなずいた。

　僕は、彼女に大胆な提案をする。
「僕ばっかりしてもらうのは、気が引けるから、お互いに、触れ合うことにしない？」

　彼女はうつむいてしまった。
　が、僕は、勝手に、『彼女は拒否したわけではない』と自分に言い聞かせていた。

　実際、僕にしてみれば、一方的に、この硬くなったペニスをモミモミされれば、すぐに射精してしまいそうな気がした。つまり、何か、他のことをして気を紛らわせなければ、早漏になって、恥をかいてしまうと思ったのだ。

　僕は、彼女の手を、僕のトランクスの横開きのところから、抜き去った。そして、その代わり、僕が、自分の手を伸ばし、彼女のタイト・スカートのホックをはずしにかかった。

　彼女から、拒絶反応は看て取れない。
　手をお尻の方に回し、右手をスカートの中に入れる。そしてお尻を抱え上げるようにして、左手で、すばやく手前に引き、スカートを脱がしてしまっていた。
　
　僕は、パンティ・ストッキングにも手をかける。パンティ・ストッキングの下には、白いパンティが透けて見えている。
「これも、脱いでしまおうね」
　彼女は顔を伏せて身動きしない。
　顔を挙げて、拒絶のサインをするわけでもないのだ。
　で、僕は、ストッキングを引き降ろし、かつ、それを足首から抜き放った。

　僕は、彼女の右手を取った。
　そして、僕は、自分でトランクスを引き下げながら、彼女の手を、トランクスの中のジュニアへと導いた。

　僕は、彼女の肩をちょっと抱き寄せ、耳元にささやく。

「僕も、君の大事なところ、触るからね。お互いに、これから、触りっこをしようね」

　僕は、パンティの上から、彼女の恥骨のあたりを、中指の腹のところで撫でた。
　そして、それを下に降ろし、クリトリスを捜す。
　見つかった。
　が、それは、意外にも、柔らかかった。
　ここは、興奮すれば、硬くなるはずだった。
　でも、柔らかい。

（彼女は、興奮していないんだろうか？）
　僕は、不安になる。
　彼女が性的に欲情していないのに、クリトリスを触ったりするのは、痴漢と同じような行為をしていることになるのではないか？。

　が、僕は、彼女の、思った以上に、ふくよかな太腿に、性的な感情を動かされつつあった。もはや、僕のエッチな指先の動きを、理性で止めることはできなかった。つまり、中指をさらに股間の方へと下げ、窪みに差し入れたのだ。そして、中指を上下に動かしつつ、窪みに圧迫感を与えていく。と、中指に、やや湿り気を感じるのだ。僕は、頭を下げ、顔を胸に近づけ、彼女の乳首に口をつける。乳首を舐め、そして、啜る。そして、同時進行で、中指で、強く窪みを摩擦していった。布切れを通しつつも、窪みに泉の水が滲み出ているのがわかる。

「あああ、ああ、アン！」
　頭の上から彼女の、うめきにも似た喘ぎがした。
　僕は、ハッとする。ここは、シティホテルの一室ではないのだ。
　隣りの部屋の客に聞こえるのは、まずい。
　僕は、顔を上げ、一気に、彼女の唇をふさぐ。

　彼女の、股間の中の手は、完全に停止状態になっていた。
　その代わり、僕の右手の指は、活発な動きを示していた。指の背でパンティのゴムを前へと押し広げ、おなかとパンティとの間に隙間を作ると、その隙間に、もう、手を差し込んでいたのだ。手にジャリ、と、恥毛がかかる。草叢を掻き分け、中指を窪みの底奥に突っ込む。指先が、ヌルッと濡れる。

　口を塞がれた彼女が苦しそうなので、わずかに、くちびるをずらす。
　と、彼女の口から、「ぁぁぁ、ぁぁ」と、声が漏れた。
　
　僕は、中指を完全に、泉の中に、入れ込んでいた。
　そして、ヴァギナの中で、掻き混ぜる。
「フンフン、アンアン、アアア…」
　声が大きくならない程度に、膣内での指の動きを止める。

「気持ちいいの？」
　僕は、彼女に聞く。
「ああ、あん、気持ち、いいよ」
「そぉ、よかった」
　
　僕は、安心した。僕の指を突っ込まれても、彼女は決して嫌がらなかったのだから。

　僕は、さらに、彼女に気持ちよくなってもらうことを考えた。
「ねぇ、指では、中を痛めるかもしれないから、クンニに切り替えようね」
「……」
　彼女は、否定も肯定もしなかった。
　しかし、もう僕は、前に進むということだけしか考えなかった。

　ただ、指で膣壁を捏ね繰っただけで、彼女は感じてしまったのだ。クンニをすれば、さらに感じて、彼女が声を上げるだろうことが予想された。それでは困る。で、僕は、タッチパネルですばやく３曲ばかり選曲すると、音楽のみを部屋に流すことにした…。

　それから僕は、彼女の前に行き、中腰になると、彼女の上半身を抱きかかえるようにして、お尻をソファの表面から押し上げ、スルッとばかりに、パンティを剥ぎ取ってしまった。

　それから、背中をソファの背に深く持たせかける。お尻を前に突き出させて…。そして、僕は、彼女のまたぐらの間に手を入れると、下肢を大きく横に広げさせた。
　僕は、おもむろに、顔を股間に近づける。と、彼女が、僕の頭を押さえ、それ以上の、股ぐらの中への進入をはばもうとした。
　僕は、しかし、落ち着いて、「大丈夫、乱暴にはしないから、安心して」と言いつつ、僕の頭の上に掛かっていた彼女の手を振りほどいた。

　僕は、彼女の両の内腿に、下から手を通し、その手でもって、太腿をがっちりとつかみ、動かないようにした。
　僕は、股間の窪みに、顔をうずめ、くちびるを前に突き出していた。

　大陰唇を上へ押し上げるように、舌先で舐め上げる。
　そして、小陰唇は、横へ大きく押し開けるように、舌先で舐め広げた。

　唇は、彼女の淫液でベトベトになる。
　と、上の唇に、コリッとした固いものが触れたような気がした。

　僕は、ちょっと顔を上の方にずらし、その硬くなったモノを口に含む。
　そして、口の中から舌を突き出し、その舌先で、固い蕾を舐めていった。

「ああああ、ああああ」
　彼女の下肢が、強引に内側へと絞り込まれる。が、僕は、その股の力に負けまいと、腕に力を込め、股を閉じさせないようにする。
　そして、顔を大きく縦に振って、ヴァギナとクリトリスと、その両方を責め立てた。

「あああ、あぅ、あぅ、あうあう、うううううっ！」
　彼女の下肢が震える。そして、彼女は震える両手で、僕の頭をがっしりと握り占めていた…。
「あああ、イクイク、イッチャウ、イクイク、アアア、アアアア…」

　僕は、身を起こし、彼女の股間から抜け出て、彼女の横に座った。
　そして、彼女を抱き寄せ、彼女の頭をわが胸に抱き留め、彼女の髪の毛を撫でてやった。
　それは、こんな貧乏な僕の愛撫だとはいえ、ちゃんと彼女はイッテくれたのであり、その感謝の気持ちからだった。

　彼女は、肩で息をしていた。
「だいじょうぶ？」
　彼女は、『うん』とでも言いたげに、首を縦に小さく振った。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）