７　たとえ愛のない行為でも

　僕は、トランクスを取り、裸になっていた。
　彼女だけ、はだかにするわけにはいかなかったので。
　僕たちは、シーツの下で、足をからみ合わせていた。

　僕は、すでに勃起していた。それが、ときどき、彼女の内腿のあたりを叩いていることがわかるのだ。しかし、それが僕には、恥ずかしいようには思えなかった。たぶん、それは、僕には捨てるものがなく、そのようなことをして彼女にきらわれたとしても、大して僕には問題がないように思えたからだろう。

（所詮、これは遊びなのだ。セックスと恋愛は直接、むすびつかない。『一期一会』とかいう、ことわざもあるではないか。もう、二度とこの人と会うことはないかもしれない。だから、今、せめても、この時を大切にするしかない…）

　が、そうはいっても、僕は、性急だった。自分が勃起しているので、相手も濡れているかどうか、知りたかった。だから、彼女の股間に、指をそっと、置いてみた。恥毛は乾いている。そして、指先を、その恥毛の茂みの中を這わせて、泉のほとりを探らせてみるが、彼女は濡れていなかった。
　それで、僕は、彼女に聞いてみた。
「僕は、早く、つながりたいんだ。だけど、君は濡れていない。少し、クンニをしてもいいですか？」
　意外にも彼女は頬を赤らめていた。
　が、僕は、彼女の、そのような羞恥心は無視した。
　実際のところ、僕は、まだ、イっていなくて、早く、挿入したかった。

　僕は、もぐった、シーツの中に。
　そして、彼女の股間に、顔をくっつけた。シーツの中ということなのか、さっきまでは感じなかった、ムーッとしたような雌の匂いがした。しかし、その匂いは決して気持ちのわるいものではなかった。その匂いの中には、まるで、メスのフェロモンでも混ざっているかのようであり、それが僕の鼻腔を通して、脳みそまでをも刺激し、頭脳の命令なのか、僕のペニスの海綿体には、ますます多くの血が流れ込んだみたいで、ペニスはさらにその勃起度を高めていた。

　僕は、カチンカチンになったペニスをなだめるすべを知らなかった。ただ、彼女のクレバァスの中に入れないうちに爆発するという事態だけは避けたかった。それには、気分を逸らすしかなかった。僕は、自分の意識の中から、ペニスの硬さのことを捨て去らなくてはいけないと思った。だから、わざと、唇や舌先の動きをゆっくり目にした。そして、時に、それらを内腿にし、草叢にし、草叢の中の泉のほとりにと、場所を変えた。ひたすら、神経を舌先に集中させて…。その集中力こそが、かえって、枝葉末節のことを忘れさせるものだと信じて…。

　僕は、舌全体ではなく、まるで、調理のときに、舌先でちょっと塩を舐めるみたいに、舌先のみで、両側の外陰部を舐めていた。すると、唇の辺りに、彼女の恥毛がふわふわと当たり、気持ちよかった。しかも外陰部に匂いはなく、その湿り気はちょうどいい感じではあったので、ゆっくりと、そのぬめりを舌先で味わうことができた。
　彼女の、左側の外陰部の湿り気を味わっていると、僕の、左側の口辺が濡れた。それは、ひょっとしたら、彼女の泉から湧き出した淫液であるかもしれず、僕は、顔を上げ、右の人差し指に、僕の唾液をつけ、ゆっくりと、彼女のヴァギナの中に挿し込んでいった。中は暖かかった。そして、深く入れ込むにつれて、人差し指は、その濡れ具合を深めていった。
　そして、その指を抜き差しする。すると、クチュクチュという音がした。

（彼女は感じてくれている…）
　僕は、うれしかった。
　この際、もはや、躊躇は要らない。僕は、右の人指し指はそのまま抜き差しさせつつ、左手を彼女の股間に伸ばしていく。左手の親指を草叢にあてがい、草叢の中に潜む突起物を探す。あった。しかし、それは、ひどく、頼りないほど小さいもので、さほど硬くもなかった。親指の腹で、こするには、あまりにも、かわいそうなぐらい…。

（痛いかもしれない、指では…）
　僕は、左手を後ろに引いた。その代わりに、再び、顔を股間に近づける。そして、そのか弱い突起物に、そっと、くちびるで、さわった。

「はぁ、あ〜ん…」
　彼女が腰をくねらせた。やはり、彼女にとっても、クリトリスは感じやすいところらしい。
　
　彼女の反応、それは、まさしく、今の僕にとっては、射精への抑止力となった。
　ペニスの先端部の切れ口からは、カウパー氏液というエッチ汁は滲み出していたけれども、彼女をこのまま順調にアクメへと導いていくには、少し我慢をしなくてはいけないと自分に言い聞かす…。

　僕は、射精を我慢できた。
　相手は無機質のグラビア・アイドルではないのだ、僕は、がんばらねば…。

　僕は、くちびるにそっとクリトリスを含みつつも、人差し指を彼女のヴァギナの中に挿入していた。その人差し指の根元までが、彼女の淫液でびっしょりと濡れるのだ。僕は、その濡れた指で、膣の底部を掻いた。それから、左右の横の壁を。そして、上っ面を掻いていた…。

「ハァウ、ハァウ・・・」
　彼女が、小さな腰を揺らしつつ、あえぎ声を発する。膣内でも、クリトリスの裏側に当たる、入ってすぐの上っ面のところが感じるらしい。とすれば、ペニスを挿入しても、その挿入後のピストン運動の際には、ペニスの上側で、膣口から入ってすぐ上っ面のところをこすってあげるのがいいかもしれない。僕は、彼女の濡れ具合の良さもあって、すぐさま、身を起こしつつ、挿入体勢に入りたいと思った。しかし、迷いがあった。それは、避妊のことだった。なぜだろう？。たぶん、最近、裸婦画の先生が入院されていて、なかなか面会もままならないことが気になり、マスを掻いていないから、かなり多量の精液が噴射されそうな気がするのだ。やはり、それはまずかった、彼女を妊娠させたりしたら、それこそ大変だ。

　ビックン、ビックンと脈打ちながら、自分の行き場所を求めているペニスをなだめすかしながら、僕は、股間から離れる。そして、上半身をずりあがらせて、彼女の顔のあたりに、顔を近づけていく。

「あのぉ、スキンしなくて、いいのでしょうか？」
「できれば、して欲しいけど」
「じゃ、ドラッグストアまで、行ってきましょうか？」
「ううん、わたしのバッグの中に入っているわ」
「……」

　僕は、ちょっと、ショックを受けていた。オフ会と称し、こんなホテルに入って、旦那以外の、あまり素性も知らぬ男性とセックスするのは、やはり、彼女にとって、今回がはじめてではないみたいだ。僕は、ひょっとしたら、生理前のイラ（苛）つきの中で買われる、着られることもない、衝動買いの洋服みたいなものかもしれない…。

「どうしたの？」
「いえ、別に」
「あなた、わたしのカバンから取っていいわよ」
「いいんですか？」
「いいわよ」

　僕は、ともかく、机の上に置いてあるカバンを手許に持ってきた。そして、中を見る。が、なかなか、目当てのものがわからない。僕が困惑していると、彼女が、そのカバンを手に取り、そして、「ここにあるじゃない」と、恥ずかしそうに言った。で、僕は、何と言っていいかわからなかったので、「（捜してくれて）ありがとう」と言った。

　僕は、封を切った。
　が、見ると、股間のモノが萎んでいた。
　どうやら、彼女が、こんなホテルで、他の男とのセックスに慣れていると思って、ヤバくなったらしい。それはそうだろう。男なんて、みんなヤルことは同じなのだ。でも、テニスでも、うまいやつと下手なやつがいる。料理でも上手なやつと下手なやつがいる。カラオケでもそうだ。だとしたら、セックスだって、上手・下手があるだろう。セックスの上手なやつに慣らされているとしたら、俺なんかは、屁みたいなものだろう。

「どうしたの？」
「いや、その」
「あらっ！？」
　僕は、ベッドから半身を起こした彼女に、情けない姿のペニスを見られてしまったのだ。

「どうしたの？」
「いえ、別に。ただ、何かが、気になったみたいで」
「さっきまで、元気だったのにね」
「えっ？」
　僕は、驚いた。彼女は目を瞑って寝ていただけなのに。でも、どこかの時点では、僕の股間の様子をしっかり観察はしていたらしい…。

　彼女は、僕の方に擦り寄ってきた。
　そして、見ていると、手を僕の股間に伸ばし、そして、両手で、僕のペニスを揉みはじめた。
「あっ！」
　と僕は、声を上げたが、彼女のなすがままにしておいた。やはり、萎れたままではカッコウがつかなかったからだ。
　
　と、彼女の指先が、亀頭部と陰茎との境目のところで張っているエラ（鰓）の部分に触れたとき、僕のペニスは、芯が通りはじめていた。そして、彼女が、親指と人差し指とで挟みながら、上下に移動させ、上手にしごいてくれたので、ペニスは、硬さといい大きさといい、前のように復活していく。
「すみません」
「どう？」
「いえ、その、自分でヤルより、気持ちイイです」
「あら、そぉ」

　僕は、硬くなったところで、彼女の手によって、コンドームを装着させられた。

　彼女が再び、仰向けになる。
　僕は、彼女の内腿に手をやり、足を左右に大きく開かせた。僕は、その足の間に、自分の下肢を入れ込んでいく。右の中指を彼女のクレバァスの中に差し入れ、彼女の濡れ具合を確かめる。濡れていた、確かに。それを確かめたところで、僕のペニスは、まるでスタート前の競走馬が、いななきながらやるように、ビックンと頭をもたげた。
　
　僕は、ゆっくりと彼女の中に入って行った。
　
　上半身を重ねていく。

　僕は、彼女に聞いた。
「痛くはないですか？」
「大丈夫よ。でも、硬いのね」
「えっ？」
「でも、気持ちいいわ」
「ああ、そうですか、それはよかった」
「あなたは、どう？」
「中はあたたかくて、とても、気持ちいいです。それに、締め付けられているという感じがあって…」
「ふーん、やっぱり、男の人って、締め付けがある方がいいのね」
「ああ、そうかもしれませんね」

　僕は、持っているのが、不思議に思えた。
　この部屋に入って、缶ビールを飲んだが、そのアルコール分が、興奮度を麻痺させているのか。
　いや、そうでもないようだ。彼女との会話がいいのだ。グラビア写真相手だと、そればっかりで突っ走ってしまうが、今は、彼女がどんな気持ちでいるのかが気になり、その気遣いによって射精感が引き伸ばされているようなのだ。が、しかし、ちょっとでも動けば、すぐに射精してしまいそうな恐怖感はある。やはり、動くという能動的な行動は、脳味噌をより以上に刺激して、早急な射精を促すかもしれない。だとすれば、今は、こうやって、彼女を抱き締めながら、じっといるのに越したことはない。で、僕は、じっとしていた、腰を固定して。でも、彼女にキッスはした。僕の胸に彼女の乳首が当たっていて、気持ちいい。それに、僕が舌を差し入れると、彼女はそれを吸ってくれて、彼女の膣内で眠っているペニスが、ビクンビックンと脈打って、反応を示している。

「ねぇ、動いてよ」
「動いたら、爆発してしまいますよ」
「いいじゃない」
「だめですよ」
「どうして？」
「それは、その、僕のプラ…」
「プラ？」
「いえ、何でもないです」

　僕は、『早く出してしまったら、僕の男としてのプライドが許さない』とでも言うつもりだったらしいのだが。でも、よく考えてみると、今のままで気持ちがいいから、それを維持したいだけかもしれない。実際、射精は気持ちいいけれど、いったん射精してしまえば、気持ち良さは急速に消えうせていくのだ。できるだけいい気持ちを持続させたいと思うのは、男のわがままなんだろうか。

　しかし、彼女は動いた。下から。僕の方からすれば、時計回りに。動かれると、やはり、上で腰を回される僕も、気持ちがいい。もっとも、自分でピストン運動するよりは、射精感が切迫しない。が、このまま、彼女の腰の動きに合わせて、自分も腰を回していくと、ついには、発射してしまうような気がするのだ。それで、僕は、時計とは逆回りに腰を動かしはじめる。と、彼女の腰の動きが止まった。

「いじわる！」
「しかたないですよ。このままだと、イッちゃうから」
「イってもいいでしょ」
「よくないです。まだ、このままつながっていたいから」
「どうして？」
「一度、射精してしまったら、スッポリ抜けてしまいますよ。そうしたら、もう、こんないい気持ちには、なれない」
「でも、また、回復するでしょ」
「それは、そうだけど。でも、二十歳（はたち）の頃などと比べれば、時間がかかりますよ」
「むかしは、どれくらいで回復したの？」
「うーん、高校２年の頃なら、１５分もあれば回復したかな？」
「で、今は？」
「それは内緒ですよ」
「まぁ！」
「だから、もう少し、こうしていさせて…」

　実際、彼女は僕よりかなり背が低くて。こうして、つながっていると、僕の顔のすぐ下に彼女の顔があって。部屋はカーテンが閉まっていても、多少の明るさはあり、彼女の顔の表情を見ることができるのだ。
　僕は、彼女の顔が官能的になるのを望んだ。だから、僕は、彼女の顔を観察しながら、動くことにした。
　僕は、腕をベットについて、少し上半身を彼女のからだから離した。その方が、密着しているより動きやすかったからだ。
　腰を上下動させる、ゆっくりと。激しく動くと、やばくなるから。

　僕が腰を押し進める。すると、彼女が唇を半開きにして、とても気持ち良さそうな表情をする。
　僕が、腰を引き上げる。すると、彼女は、さも、何か物欲しそうな顔をする。
　入り口のあたりで、ペニスを止める。
　彼女が、腰をもじもじさせている。ペニスの進入を待ち望んでいるみたいなのだ。
　それで、僕は、また、ゆっくりと、腰を深く沈めていく。

「はぁー、はぁー、はぁー・・」
　彼女の呼吸は、多少苦しそうであったが、顔の表情はとてもいい。彼女は深く差し込まれる方が感じるみたいだった。
　僕は、満足している。

　僕は、彼女の切なそうな、やるせなさそうな表情に、だんだん心を奪われていく。もはや、ブレーキがきかなくなりはじめていた。
　ストロークを短く、小刻みに腰を動かす。僕は、もうイってしまいそうなほど気持ちよくなっていて、それゆえに、彼女の方も早くイカせたいのかもしれない。

　彼女の顔に、切なさが広がり、その切なさに中にも、うれしそうな表情を垣間見ることができる。彼女もオルガスムスが近いのかもしれない。
　僕は、突っ張っていた腕をたたみ込み、ふたたび上半身を彼女の胸に密着させていった。そして、彼女のくちびるに僕の唇を合わせようとした時、彼女がしがみついてきた。僕は愛おしくなって、彼女の肩先を抱き締め、激しく彼女の唇を吸う。その時、突然、僕は、後ろの腰の当たりに、痺れを感じた。もはや、がまんならない状況がやってきたのだ。いつまでも、ぬるま湯的な心地よさに浸ってはおれなくなっていた。

　僕は、彼女のくちびるから唇を離し、彼女の耳元にささやいた。
「ごめん、もう、出そうなんだ」
「ああ……」
「イクイク、ごめん、ごめん」
「あああ、ああああ…」
　僕は、彼女の上半身にしがみつきながら、発射してしまっていた。ドックン、ドックンと、彼女の体の奥に、精液を打ち込んでいる。快い。目の奥から涙がにじんでくるようだ。
　と、彼女も、一瞬遅れて、僕の背中に回していた手に力を込め、「うーん」と唸ったかと思うと、腰を僕の方へ突き上げてきた。そして、両足を突っ張り、それを激しく痙攣させていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）