５　行き着くところまで

「すみません、ここ、次のお客さまが、お入りになるんですけど…」
　お店の人から声がかかってしまった。
　僕は、困った。彼女はまだ気分がわるそうで。
　が、決心した。
「タクシー、一台、お願いできますか？」
　お店の人に頼む。
「はい、いいですよ」

　僕たちは、タクシーの中に居た。
「どこへ行きます？」
　運転手さんに聞かれるが、そばの彼女は、まだ正体がなかった。
　彼女のマンションがわからない。
　ましてや、父や母のいる僕のうちに連れて帰るわけにはいかない。

「新町あたりに」
　僕は、思わず運転手さんに言ってしまっていた…。が、そこは、ラブホテル街のあるところなのだ。

　タクシーは、新町に入る。
「お客さん、どこにします？」
　運転手さんは心得たものだ。
　しかたがない。
　彼女は酔っ払っていて、僕の肩に寄りかかって寝ているのだもの…。
「ああ、そこ、そこのホテルの前で降ろしてください」

　僕たちは、ラブホの部屋に入っていた。
　僕は、彼女を洋服のまま、ベッドの上に寝かせつけた。
　暖かくしておいた方がいいと思うので、布団を掛けてあげた。

　実は、僕も、お酒を飲みすぎて、気分が悪くなったことがある。それに、なぜか、夜中、悪寒（おかん）がしたことも覚えている…。
　
　が、ともかく、そういうときは、布団をかぶって、じっと寝ているにかぎる。
　それに、そういう時に誰かにくっつかれたりしたら、よけいに気分がわるくなる。

　それで、僕は、彼女から離れて、ソファに腰掛けた。そして、目を瞑った。
　僕も、けっこう、焼酎のお湯割りを飲んでいた。だから、眠気がやってきた。

　と、僕は、目覚めた。
　何か、ちょっと、寒かったのだ。

　僕は、ベッドの方を見る。彼女に布団がかかっていることを確かめた。
　そして、僕は、部屋のエアコンのスイッチを入れ、暖房にした。室温を何度にしたらいいのか、迷っている。

「ねぇ、こちらに来て、休んだら？」
　見ると、彼女が目を開けていて、僕の方を見ているのだ。

　僕は、２２度に設定していた。

「いいよ」
「どうして？」
「明日は、僕、休みだから、そんなに寝なくてもいいよ」
「でも、椅子に座ったままじゃ、眠れないでしょ？」
「大丈夫だよ。さっきまで、ここで、眠っていたもの。ちょっと、寒くなって、目が覚めただけなんだから」

（『そんな、君のそばに行ったら、よけい、眠れなくなるさ』）

「風邪を引いたら、わたし、申し訳ないわ。さぁ、ここに来て…」

　何と言うことだ。彼女は、壁際に身をずらし、ベッドを大きく空けてくれているのだ。
　しかも、布団を上にめくって、この中に入れ、とまで、合図しているようなのだ。

　それでは、布団をめくって、それを上へと抱えている彼女の手がだるくなる。で、僕はそんなことは止めさせようと、ベッドの上に乗りかかる。が、彼女は、さらに身をよじって、壁の方に身を寄せ、隙間を空けてくれるのだ。

「いいのに、そんなことまでしなくても…」
　僕は、そんなことを言いながら、しかし、もう、ベッドの上に乗り上がっていた。
　僕は、ベッドの上のライトのボリュームを落とした。
　が、彼女の顔は、よく見えた。彼女は目を開けていて、眠ろうとしないのだ。デジタル時計をちらりと見る。時刻は、夜中の１時を過ぎていた。

「さぁ、僕は、ここにいるから、君は、眠って…」
「……」
「気分はどう？」
「……」
「少しは、いいかい？」
「……」
「早く休んだ方がいいよ」
「……」
　
　彼女ときたら、目を瞑らないのだ。そして、僕の方をじっと見ているのだ。これでは、彼女を眠らせることはできない。僕は、ついに、ベッドの上のライトを消し、そして、ベッドの下のフットライトも消し、部屋の中を真っ暗にしてやった。これなら、彼女だって、あきらめて、寝るだろう。

　が、どうしたことだろうか。
　真っ暗になって、僕は、遠慮もなく、ベッドの上に、身を横たえてしまっていた。そして、横たわりながらも、彼女の方を向いていたから、よけいに、彼女のからだの匂いを集中的に嗅ぐことになってしまったのだ。
　お酒の匂いではない。お化粧の匂いでもない。あえて言えば、彼女自身の体臭なのだ。そして、それは、僕の官能を刺激するものだ。なぜなら、僕の頭から、理性という頑ななものが溶け、それが液状となって、股間のあるモノに、集中的に流れ込んでいくような錯覚に陥るからだった。

　僕は、股間に力が漲っていくのを覚え、「はぁ…」とばかり、ため息をついてしまった。

「どうしたの？」
　彼女の声がした。
　近かった。
　暗闇だが、わかるのだ。
　僕は、横向きのまま、からだを緊張させた。
「大丈夫だよ、僕は」
「そう？…。あなたも、飲みすぎたのかな、と思って」
「大丈夫だよ。あれぐらいのアルコールの量なら…」
「そうなの？」
「それより、僕は、君のことが心配だよ。ゆっくり寝た方がいいよ。そうしたら、明け方には、楽になるから…」
「わたしは、だいじょうぶよ」

　僕は、なぜか、怒っていた。
「そんなら、こんなところへ連れて来るんじゃなかった。まっすぐ、君のマンションに連れて帰ってあげるべきだった…」
「……」
「僕は、僕は、少しでも早く、君を横にならせて、楽にしてあげようと思って、ここに連れて来たのに…」
「ごめんなさい」

　僕は、自分の手が、彼女の手によって、にぎられるのを感じた。
　そして、ほんの近くに、彼女の吐息を感じた。
　僕は、急に、手を上げ、彼女の肩先を抱いていた。
「僕は、こんなところになんか、君を連れてきたくはなかったのに…」
「ごめんなさい」

　彼女が謝っていた。

　そりゃ、そうだろう、彼女がわるいのだ。
　そして、彼女がわるいのだ、こんなにいい匂いを発散して、僕を窮地に陥れるんだから…。

　僕は、やけくそになり、彼女をギュと抱き寄せていた。
　彼女は、しかし、抵抗しなかった。
　僕は、暗闇でも、彼女の顔がどこらへんにあるか、見当がついていた。僕は、少しずり下がるようにしながら、彼女のくちびるに、僕の唇をくっつけていた。すごく、いい匂いがした。僕は夢中で彼女のくちびるを吸っていた。

「むむむ、ムムっ…」
　彼女が苦しそうだった、僕にくちびるを奪われて。でも、僕は、口ざわりも良くて、とても、キッスをするのを止められなかった。それに、股間のモノも大きくなるのだ。その大きくなったものを、彼女の股間に押しつける。すると、その股間のモノがとっても気持ちいいのだ。彼女が、腰を引く。でも、僕は、抑制が効かず、腰を彼女の股間の方へ押しつけるのだった…。

「君がいけないんだ。君が、無防備だから、僕の理性を奪うんだ」
「……」
「好きなんだ、愛しているよ」
　僕は、そう言わざるを得なかった。
　だって、くちびるを吸っても、股間をくっつけても、とても気持ちよくて、それが止められず、この快感を維持していくためには、彼女に逃げてもらっては困るのだ…。

　僕は、彼女の腰の後ろに手を回していた。そして、彼女の下半身をさらに僕の方へと引き寄せる。そして、グイグイ、僕の股間のモノを、彼女の股ぐらの奥に押しつけているのだ。彼女は確かに美人でかわいい。僕は不細工だ。しかし、まわりは真っ暗闇だから、恥ずかしくない。いや、もう僕は、エロ・モード全開で、羞恥心など、どこかへ吹き飛んでしまったようだ。

「入れたいの？」
「うん。でも…」
「……」
「こういうところに、コンドームなんて、ないだろうから」
「あるわよ」
「えっ？！」

　彼女が、身を乗り出したような。そして、何か、ごそごそやっている。
「ほら、ここに、こうして」
　が、回りが暗くて、よく見えない。
「そうなの？」
　僕は半信半疑だ。

「さぁ、脱いで。わたしが嵌めてあげるから」
　僕は、暗くて、彼女に見られない、ということをいいことに、上のシャツまで脱いでいた。そして、スボンをぬぎ、トランクスを脱ぐ。
「もう、いいよ」
　僕は、あぐらをかき、彼女の方へ、フリチンになった腰を突き出した。
「ふふふ…」
　彼女が笑っているようだ。
「どうして？」
　僕は聞く。
「とっても、元気がいいから…」

「あああ…」
　僕は呻いた。
　コンドームが装填されたのだ。熱く膨れ上がったペニスを、ゴムの力がギュッと締め付けるのだが、その締め付けさえもが、気持ちいいのだ。

　僕は、横になった。
　彼女もすぐそばで横になったようだ。
　僕は、彼女の股間に手を伸ばす。パンティの布地があった。僕は、そのゴムのところに手を掛け、足首の方へと、徐々に、脱がせていく。
　見えないが、彼女の足は、僕の手には、すべすべしているように感じられる。
　僕は、剥き出しになった股間を彼女のまたぐらに押しつける。気持ちがいい。彼女の恥毛を感じるが、その感触すらも、くすぐったくて、いい気持ちになれる。

　僕は、ブラジャーもはずした。そして、乳首に吸いついた。
「あっ、アン」
　彼女が、身をよじったようだ。が、僕は、股間のモノがさらに硬くなり、その硬くなったモノを、彼女の中に入れたくてたまらなくなっていた。

「ねぇ、入れてもいいかな？」
「……」

　僕は、彼女の股に手を入れ、片方の足を大きく持ち上げた。
　お互い、横向きになったままではあるが、僕としては、横臥位で、ペニスをヴァギナの中に入れ込もうというわけだ。
　
　が、どうにも、入りそうにない。
　というのも、僕のペニスの長さでは、どうやら届かないみたいなのだ。やはり、覆いかぶさっていかないと、挿入は無理のようだった。

　僕は、それでも、多少の冷静さは残っているみたいだった。つまり、このまま、硬いものを突っ込んだら、彼女は痛くてたまらないだろうと。

　彼女が、みずから濡れるなんてことはないだろう。とすれば、僕自身が、僕の唾液で、あそこを濡らす以外にはない。

　僕は、からだをかがめ、彼女の股間に、顔をくっつけていった。股間からいい匂いがする。それは、かすかに、トーストの上に乗っける、とろけるチーズのような匂いがした。でも、それは、哺乳動物の雌の匂いでもあるような気がした。僕は唇で、彼女の恥骨の下の方にあるであろう、クリトリスを捜す。舌ですくってみる。それは、僕が想像していたよりも、ずっと小さかった。が、それをすする。だんだんにそれが、硬くなる。すると、それに呼応するかのように、僕のペニスがビックンと頭をもたげ、その先っぽからエッチ汁をジクッと漏らした。

　僕の唇は、さらに下がり、股間の奥深くにもぐる。すると、ねばっこいものが彼女の股間の奥深いところから滲み出てきて、しかも、それは、何かしら、僕にはとても甘く感じられ、啜らざるを得ないのだ。僕は、彼女の内腿をかかえ込むようにして、顔を深く埋め込み、その甘い蜜を吸った。

「ああ」
　かすかに、上の方で、彼女のうめくような声がした。が、僕は、それに釣られでもするかのように、手を股間に伸ばし、中指を、ヴァギナの中に差し入れていた。

「あああ」
　指先が濡れる。
　が、構わず、掻き回す。
「ああああ…」
　彼女が、さも堪らないかのように喘ぎ、身をよじりながら、横向きになっていた身を仰向けにしていく。
　僕は、彼女が仰向けになったことをいいことに、両足を大きく左右に開かせた。そして、股間奥深くに、さらに中指を押し込む。深いところまで掻き回すと、中指の根元までもが、粘っこい液で濡れてきた。

「あああ、ああ…」
　僕は、唇でもってクリトリスに食いつきながら、中指を掻き回した。

「はぁ、はっ、ハァッ、ハァハァハァ…」
　彼女の声に誘われるように、僕は、彼女の両足の間に、下半身を差し入れ、硬くなったペニスをつまんで、彼女のヴァギナの入り口とおぼしき辺りに、その先っぽを突っ込む。すると、ペニスは、スルッと中に入り込んだ。中は熱くて、とても気持ちがいい。僕は、上体を少し、反らす。すると、ペニスはさらに奥へと進み、ペニスの根元までが気持ちいい。僕は、もうじっとしておれない。腰を動かす。引くと、何やら膣内の襞肉が、ペニスの表面の皮にまとわりついてくる。反対に、ペニスを押し込むと、ペニスの根元がギュッとばかり、膣の入り口付近で絞られるような気がした。
　
　腰の後ろの辺りが、むずがゆくなり、そして、痺れはじめる。もう、僕には、腰の上下動を止めるすべはなかった。無我夢中だった。ペニスの抜き差しを圧倒的な速さで繰り返している。

「あああ、アアアア、アン、アン」
　僕は、彼女の呻き声を聞くと、もうだめだった。
「ごめん、もう、僕は、ダメだ、出る、出る、出るぅぅぅ…」

　頭の中が痺れる。目の前で火花が飛び散る。その瞬間、僕は、ドクドクッとばかり、激しく精液を、彼女の中に打ち放っていた…。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）