| ６ 興味津々の彼女 眞司は、彼女を食事に誘うことを決意した。 実際、以前、飲み会のあと、彼女に、コーヒーとか、オンザロックとか、ごちそうになったのだ。お返しをするべきだろう。ことわられてもいい。ここは、勇気を出して誘ってみるべきだ。 「あのさ、夕ご飯、一緒に食べに行かない？」 眞司は、腋の下に冷や汗を掻いている。 「どうして？」 彼女がまじまじとした顔で答える。 「……」 眞司は、固まってしまった。 （やはり、ダメか！） 眞司は一瞬、目を伏せる。 （誘うにも、ちゃんとした理由が要るかもな…） で、眞司は答える。 「そのぉ、このあいだのお礼というか…」 彼女は、ちょっと口を尖らせながら言っている。 「別に、わたし、お礼なんか言われるようなこと、していないよ」 眞司は困ってしまう。 （どう言えばいいのだろう…？。でも、彼女と食事がしたいのは、本当の俺の気持ちなんだが…） 「わたしと一緒に食べたいのかな？」 彼女の声が、耳に届いている。 （そうだ、そうなんだ。彼女と一緒したいんだ） 眞司は、黙ってはいたが、まっすぐに彼女の顔の方を見て、頷いている。 眞司には、彼女の目がなぜか、笑っているように見えた。 （ひょっとして、この女、オレの心を、読み取っている？） 眞司は、顔を赤らめていた。 （しようがない。ここは、きっぱりと、自分の気持ちを正直に言葉に出して伝えよう、『好きだから、今日、食事に付き合ってください』と…） すると、目の前の彼女が、背中を椅子の背に持たせかけながら、口を開いている。 「久しぶりに、焼き肉なんか、食べたいな」 「ああ…」 眞司は、内心、がっくり来ている。 （せっかくの初デイトなのだ、フルコースのフランス料理の方がカッコいいのに…） 「どうしたの？」 「いや、何でもないよ。普通のお焼肉屋さんがいいのか、韓国風のお焼肉屋さんがいいのかな、と考えていて…」 「わたしは、凝り性だから、コリアンがいいな」 「あっ、ああ…」 眞司は、そう答えながら、 （こいつは、骨付きカルビなんかが好きなんだろうか？）などと考えていた。 ｢とりあえず、生ビール｣ コリアン・レストランで、彼女は、明るい顔で、そう言った。 眞司は、それを止める権利はないように思えた。 国民投票法ができ、選挙権が１８歳から与えられるようになれば、飲酒だって１８歳から許されるようになるだろうし。 「では、僕も付き合うかな」 眞司は、苦い思いを抱きながらも、そう言った。 すぐに生ビールが来て、ふたりで乾杯する。 間近で見る彼女も、素敵だった。 彼女のくちびるに、生ビールの泡がついている。 眞司は、そのくちびるにキッスしたくなって、目を伏せる。が、メニューを手に取っていた。 ボーッとメニューを眺めながら、眞司は言う。 「上カルビ、それとも、骨付きカルビにする？」 「ううん、とりあえず、ミノ。それから、牛タン」 彼女は言った。 眞司は、今度は詳しく、メニューを見る。確かに、韓国風とはいえ、そんなに普通の焼肉屋と変わらないものが用意されている。 「あなたは？」 「とりあえず、野菜。キャベツとか、かぼちゃとか、たまねぎとか…」 「うん？」 「いや、鶏肉も…」 真衣は、内心、動揺していた。 目の前の彼の指を、こんなに身近に見たのは、はじめてだった。 爪はピンク色をしていて、その先はきちんと切ってある。けっこう、清潔にはしているようだ。 しかし、ともかく、高校の時の彼氏の指の形に、よく似ているのだ。 中指が非常に長くて。そして、人差し指に比べ、薬指が長い。 真衣は、なぜそんなに彼は薬指が長いのか、自分の手でその薬指に触って確かめたいぐらいだった。 真衣は、女の子から手をにぎるぐらいならいいだろうと思う。いや、こちらからキッスしたってかまわない、と思いはじめていた。 アルコールのせいで、理性のタガがゆるみはじめたのかもしれない。 それにしても、目の前の彼ときたら、中ジョッキの生ビールを飲んでからは、ノンアルコール・ビールに切り替えている。 （この子は、制限速度５０Ｋｍの道路なら、５０Ｋｍでしか走らない人間かもしれない…） と、真衣は考えていた。 （面白味には欠けているかも…） 真衣が、そう思った時、突然、このあいだのことが思い出された。 彼がキスをした時のことだ。 あの時、彼はからだ全体を震わせていた。よほど興奮していたのだろう。 そして、彼は震える声で訴えて来た。 『真衣、だめだよ。そんなことされたら、ボクハ、ボクハ…』 実際、その時の彼の声は、とても情けなさそうなものだった。でも、その声がまだ耳元に残っている。そうだ、その時の声は、男らしくなかった。でも、すごく甘い声で、こちらの胸をキュンとさせた…。 がもっとも、真衣は、彼の匂いとか、彼の指とか、彼の声とか、何となく、彼に関心を持っているのは、彼のエロチックな部分のみであって、そんなことが彼にはまともに言えないのがつらかった…。 眞司は不安になりはじめている。 彼女が、チュウハイのお代わりをどんどんするのだ。酔っ払ってしまったら、どうしようと思う。タクシーで玄関先まで送るのはいい。でも、それで済みそうにないのだ。酔っ払った彼女の姿に、きっと俺は、欲情を刺激されるだろう…。 （俺はエッチで、抑制がきかない…） 眞司は、彼女を目の前にしながら、頭を両手で抱えたいぐらいだった。 眞司は、気を取り直して、真衣に言った。 「少し、お肉とか野菜とかを食べたら？」 「どうして？」 真衣が上目づかいに言う。 眞司はドキッとする。すごくセクシーな眼差しだからだ。 「だって…」 眞司は言葉に詰まる。 眞司は、うつむいたまま、勝手に想像している。彼女をマンションまで送り、そして、部屋に上がりこんで…。たぶん、キスまではイッちゃうだろう。いや、おっぱいを揉むことまで行ってしまうかもしれない…。 「大丈夫よ、介抱してくれなんて、言わないから…」 眞司は、真衣が言った言葉をちゃんと耳に入れていた。眞司にすれば、彼女にエッチな心を読み取られたようで、恥ずかしくなる。 「ああ、そうなんだ。じゃ、安心した」 眞司は、わざと平気な顔をし、胸を反らすようにして言った。 が、内心は、ちょっと、がっかりした。 やはり、今夜は、この店を出たら、『さようなら』と言って、別れなくてはならない…。 「もう一杯、いいかな？」 真衣が聞いて来る。 「いいんじゃない？。君は、お酒に強いんだから」 眞司は、ちょっと、むくれたように言う。 （どうせ、今夜はマンションまで送っていけないんだから…） 真衣は、眞司が黙ってしまうと、なぜか不安になる。 ひょっとしたら、目の前の彼から、『そんなに飲みたかったら、ひとりで飲みなよ。俺はもう帰るからね』と、捨て台詞を吐かれ、この場を立って行かれそうな気になるからだ。 （彼がそばに居てくれるからこそ、こうして飲めるのに…） と、真衣は思う。 帰ることになった。 帰りたくはなかったが、眞司は、席を立つ。 が、真衣はなかなか立たない。 「大丈夫？」 眞司は心配そうに聞く。 手を差し出す。 と、真衣はその手を取ってくれた。そして、真衣が立ち上がる。 が、足元がふらついている。 眞司は、思い切って言った。きらわれてもいいから。 「送っていこうか？」 「……」 真衣は黙っていた。 （どうしたらいいんだろう？） 眞司は、迷ったが、彼女をもう一度、席に座らせた。 「ちょっと、ここで、待っていて。俺は、お勘定を済ませてくるから」 眞司は、真衣を残したまま、レジに急ぐ。 レジを済ませ、眞司は店の人に聞いた。 「ここ、タクシー、呼んでもらえますか？」 「ええ、いいですよ」 眞司は、席に戻った。 真衣に言う。 「タクシーで帰ろうよ。ちゃんと、マンションの前で降ろしてあげるから」 眞司はなぜか緊張している。タクシーの中で。真衣のからだからいい匂いがし、今にも、股間のものが硬くなりそうだった。 と、車が右へ大きくカーブした。からだが彼女の方へ倒れ掛かる。 まっすぐに戻す。しかし、なんと自分の腿が、彼女の腿に触れているのだ。 （どうしたらいいんだろう？） 早く離れるべきなのに。でも、彼女の太ももはあたたかくて、気持ちがいいのだ。 （紳士なら、こんなことしないだろうな） 実際、情けなかった。ちょっと後部座席に座っている腰を横にずらせば済むことなのに。 （いや、今夜は離れたくないと、真衣に言いたいのかもしれない…） 彼女のマンションの前に着いた。 眞司は、運転手さんに告げる。 「すみません、ちょっと待っていてください。この人を降ろしたら、僕は、この車で帰りますから」 眞司は、先に車から降りて、彼女を出るように導いた。 彼女がタクシーから出て、地面に降り立つ。 が、足元がふらついていた。 「大丈夫？」 眞司は聞く。 「大丈夫じゃないよ」 眞司は、真衣が怒ったように言ったと思った。 （玄関まで送れば、きっと機嫌もよくなるにちがいない） 眞司は、運転手さんにどう思われようと構わないと思った。空（から）元気を出して、運転手さんに言う。 「やはり、ここで僕も降ります。いくらですか？」 眞司は、タクシー代を払った。 真衣は立ったまま、待っていた。 眞司は、真衣の手を取った。 そして、ふたりで真衣のマンションに入っていく。 真衣の足取りは、思ったほど、ひどくはなかった。 真衣の部屋のドアの前までやって来た。 眞司は黙ったまま、ドアの前に立っていた。情けないことだが、内心、真衣の言葉を待っているのだった。 『コーヒーでも飲んでいく？』という誘いの言葉を。 真衣は、鍵を開け、そして、中に入って行った、何も言わずに。 ドアが自然とバターンと閉まり、眞司は外に残される。 眞司は、からだがフリーズしたようにドアの前に突っ立っていた。 （ああ、やっぱり、俺はきらわれている） 眞司は泣きたいような気分だった。 眞司は踝を返そうとした。 と、ドアが押し開かれていた。 「何してんのよ」 真衣が、ドアの間から半身を乗り出すようにして、顔を覗かせている。 「えっ！？」 眞司は、面食らっている。真衣の顔を見る。そんなに機嫌が悪そうではない。むしろ、笑みが漂っているように思える。 「いいのかな？」 眞司は、足を半歩前に進める。 と、真衣が、からだを横にどけて、中に入る隙間を作ってくれていた。 眞司は、うれしさを押し殺しながら、靴を脱いでいた。 部屋に入ると、真衣は、絨毯の上に、足を組んで座っていた。 「何か、飲む？」 真衣が聞く。 「いや、お構いなく。僕は、何も欲しくないから」 眞司は、恐る恐る、真衣の前に腰を降ろし、そして、真衣のように絨毯の上で、足を組んだ。 「わたしは、オンザロックをいただくわ」 「でも、もう、やめたら？」 「どうして？」 「僕が、そばにいるんだから」 真衣の瞳が大きくなったような気がした。 「何か、楽しいことをしてくれる？」 「ううん。でも、僕は、ここで、じっとしているだけで、十分、気持ちいいよ」 「わたしは、そうじゃないよ」 「……」 眞司は、真衣の言うことなんか、聞いていなかった。 ただ、真衣の顔を、真衣の目を見ていた。 真衣が欲しかった。 真衣にキスしたかった。 （別に、『入れさせてくれよ』と言うわけじゃなし。キスぐらいなら構わないだろう） 眞司は、真衣の肩に手を置いた。肩を引き寄せつつ、顔を傾けながら、真衣のくちびるを奪う。真衣から抵抗はなかった。だから、一生懸命、吸った。真衣が苦しがった。で、しかたなく、眞司はくちびるを離す。「自分だけ、いいことをしないで」と、真衣が抗議して来る。「ごめん」と眞司はあやまる。つい夢中になってしまうのだ。「わたしもしたいこと、あるのに」と真衣が言う。「いいよ。君がしたいこと、しても」と眞司は優しく言った。（実際、もう、あれだけキスをさせてくれたんだもの、今日は、ラッキーだった）と眞司は思う。 （あの時、もう、ドアに鍵がかけられた、とばかり思っていたのに…） 眞司は、部屋に入れてくれたということで、彼女は俺のことをきらいじゃないと思っていた。それが心に余裕を持たせてくれている。 彼女が、もじもじしている。 で、眞司は、彼女の肩に手をやって、囁くように言った。 「いいよ、何でも…」 と、彼女は、 「触れたいの、あなたのものに」 と言いながら、眞司のスボンのジッパーに手を掛けて引き降ろした。それから、ベルトにも手をやった…。 眞司は、スボンが引き下げられるのを見ていた。そして、少し腰を上げて、真衣の作業に協力している自分にも気がついている。 眞司は、前に、トランクスの中に爆発させ、失敗したところを見られているし、今さら気取ってもしようがないと思っていた。 彼女は、トランクスの布地の上から眞司のペニスを指で触っている。 「硬くなってるね。しかも、熱を帯びているよ」 真衣が見あげながら言った。 眞司には、真衣の、まなこを包んでいる、白い目のところが、ほのかに朱色に染まっているように感じられた。 「どうしてかな？」 「わからないよ、僕にも。ただ、興奮して、そこに血が溜まっているんじゃないの？」 「興奮してるの？」 「ああ、あのコリアン・レストランに居た時から、ずっと…」 「まさか…」 「そのまさか、なんだよね。僕にもわからないんだ。僕がエッチでそうなっているのか、君のことが好きでそうなっているのか…」 「そりゃ、決まっているわ、前者の方でしょ」 「えっ？」 眞司は、（前者？。前者、って何だ？）と考えている。 と、ペニスが、生（なま）の指先で触れられたような気がして、視線を股間に落とした。 トランクスはすでに、下へずり落とされていた。ペニスは、天井を向いていて、その幹のところを、真衣が指でつまんでいた。右の親指と人差し指で。 「弾力があるのね。しかも、何か、血管のところが、ピクピク動いているよ」 真衣は、実際、そんなことを言いながら、指で摘んだり、離したりしている。 「そんなに遊ばないでよ」 眞司は抗議した。 「どうすればいいの？」 真衣が聞いてくる。 「上下に動かしてみてよ」 「イテッ！」 眞司が大きな声を出した。 真衣が、ぐっと思い切り、指を引き下ろしたものだから、亀頭部の鰓の張ったところに被っていた薄皮がすっかり、めくれ上がっている。 「ゆっくり上下動させてよ。そこの薄い皮は、敏感なんだから」 「ごめんなさい」 真衣は、あやまっている。 が、実際、ペニスが、薄皮の包皮に包まれているなんて、知らなかったのだ。 （保健体育のとき、家族計画で、ペニスにコンドームを装填することは教えてもらったけど、薄い皮に被われているなんて、習ったのかしら？） が、真衣は、ひたすら指を上下動しながら、陰茎を刺激している。このことが、彼を肉体的にいい気持ちにさせるのだと思えるのだ。 「あああ、あっ、真衣！」 眞司が、呻く。そして、両手を後ろに突き、上体を後ろに反らしていた。 「どうしたの？」 真衣は、眉毛と眉毛の間のところに皺を寄せ、苦しげな表情を見せている彼のことを、心配しているというより、内心自分自身が楽しんでいるように思えた。自分にとっては、彼の苦悶の表情が、反ってエロチックのように思える。 「真衣、もうダメだ」 「何が、ダメなの？」 「もう、出そうなんだ」 「出したら？」 「君の指が汚れるよ」 「どうして？」 「だって、その先っぽから白い液が噴き出るからさ」 真衣は、手の動きを止め、亀頭部に顔を近づけて、じっと見る。ペニスの先から、何か、透明な液体が滲み出ているように見える。 （火山のマグマじゃあるまいし、噴き出るなんて、なんと、おおげさな！）と真衣は思い、再び、ペニスの幹に置いた指を上下に動かす。 「ああっ、もうだめだ。手が汚れる、汚れる！」 眞司は、切羽詰ったような声を発し、座ったまま、上半身をうしろへと反らした。 と、その時、ペニスの先から、白い乳液のような汁が噴き上がった。ドクッ、ドクッとばかりに。 真衣は、あわてた。 （あっ、絨毯に落ちる！） ペニスの先から、約２０センチばかりも噴き上がった乳液を、真衣は手で掬おうとした。が、全部はだめだった。手に掬ったものは、ティッシュペーパーに吸い取らせた。絨毯の上に散らばった精液をティッシュで拭き取る。が、なかなかきれいにはならない。あわてて立ち上がり、キッチンに掛けてあったタオルを濡らして、戻って来る。拭きながら、さほど精液が匂わないことに安心もしている。彼といえば、トランクスをずり下げたまま、仰向けになって寝ていた。やっと、絨毯がきれいになったみたいだ。と、彼の股座に目が行く。何ということだろう、さっきまで猛々しかったペニスは、今は、その面影もなく、だらんと、内腿のところに、しなびたようにくっ付いていた。その先っぽには、まだ白い液体が少しばかりこびりついていた。 真衣は、何だか、彼のことがかわいそうになって、その白い液体を、拭き取ってやった。そして、トランクスを上に引き上げて、だらしなくなったペニスの姿を布地の奥へと隠し去ってやった。 「ありがとう」 眞司が、手を枕にして寝ながら、礼を言っている。 彼の顔が真っ赤だ。 よほど、興奮したのだろう。 真衣は、彼がかわいそうになった。 真衣は、彼のそばに寄っていき、彼の肩に手をやった。すると、彼はからだを横向けにし、顔を、真衣の太腿のそばに近づけ、目を閉じてしまった。 （まるで、母親に甘える幼い子どものようね） 真衣は、眞司のことを愛おしく想った。 真衣は、眞司の頭をゆっくりと撫で続けている。 と、眞司が、子犬のように、クンクンと顔を太腿にくっつけはじめている。太腿の外側のところが何やらくすぐったい。 そして、奇妙なことに、両腿の内側にある、付け根のあたりが、ひどく熱を帯びてきたように感じられた。 （つづく） |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2010.10.9掲載 |
| [最新・コラボ小説]／[完結小説（長編）］／［完結小説（中編）］／[完結小説（短編）]／［休載？小説］／［体験告白］／［ＭＡＩＮ］ |