| ７ 島村さんの過去 射精が終り、もう、どれだけ時間が経過したのだろうか？。 僕は、彼女の体の上から降りた。 むろん、まだ、彼女の体の上に乗って、彼女の胸にしがみついていたかった。 でも、さすがに、それは許されないだろう。 彼女にきらわれたくなかった。 彼女のからだの上から降りて、僕は横になって、彼女を横から抱えた。 僕は、左の腋腹をつけて横になっていたが、右手は自由に使えた。 それで、右の手で、彼女の背中を撫でた。 「重かったかい？。ごめんね」 「だいじょうぶよ」 「それなら、よかった」 「どうして？」 「いっぱい、一杯出ちゃって、僕は疲れたから、ずっと甘えていたかったんだ」 「うれしいわ」 「どうして？」 「あなたに甘えてもらって、わたし、うれしいの」 僕も、うれしくて、彼女の背中に回した手に力を込め、さらに彼女のからだを引き寄せる。 ペニスにも再び、力が蘇ってくるような気がした。 「ねぇ、わたしの話、聞いてくれる？」 彼女の言葉に、僕は、一瞬不安になる。 が、ことわるわけにもいかない。 「ああ、いいよ」 「わたしね、本当は、若い頃、同棲していたことがあるの」 「……」 僕は、内心、ショックだった。 がもっとも、女が３９歳にもなって、これまで何にもなかったなんて、そういうこと自体が奇妙なことだ。彼女だって女だ。今までに、何かあって当然だろう。 心を落ち着かせたい。 僕は深呼吸をした。そして、言った。 「意外ですよね。でも、あなたは魅力的な人だし、そういうことがあったとしても、別に不思議なことじゃないですよ」 僕は、額に汗をして言った。 でも、やはり、島村さんに、男の過去があったなんて、ショックで、腋の下には冷や汗を掻いていた。 「でも、未だに、彼が出て行った理由がわからないの」 彼女の顔を見たわけではない。 しかし、僕は、彼女が泣いているような気がした。 「わたしのどこがわるかったのか、それをずっと、考えていたの」 彼女の言葉は、僕の耳の中に入っている。 しかし、どう答えたものか。 実際、僕に、ふたりの過去のことが、わかるはずがない。 （彼にとって、彼女のことが重荷になったのかな？） と、僕は考えていた。しかし、そんなことを言葉に出して言えば、島村さんは傷つくだろうなぁ、と思う。 僕は、沈黙に耐えかねていた。 そして、島村さんを少しでも慰めたいと思った。 「僕には、わからないです、あなたにどんな至らない点があったのか、なんて。ただ、僕は、男です。だから、相手の男の人の気持ち、多少推測はつきますが…」 「何、それは？」 「例えば、男って、突然、自分をデリート（消去）したくなる時、って、あるんです。何もかもがいやになって…」 「わからないわ、そんなこと…」 「そうかもしれませんね。しかし、考えてみてください。突然、蒸発して、ホームレスになるって、男の人に多いでしょ。女の人のホームレス、って、僕はあまり聞いたことがないですよ」 「どうしてなの？」 「よくはわかりませんが、会社のしがらみから逃れたい、家庭の夫としての重い責任から逃れたい、そういうことって、男の場合、あると思うんですよ」 「そんなの、わがままだわ」 「しかし、何もかも忘れて、一人っきりになりたい、と思うものなんです」 「あなたも、そうなの？」 「あるかもしれませんね、僕にも、そういう願望が…」 僕は、そう答えた。 何故なら、彼女は、黙って去って行った昔の恋人のことが気になっており、その去って行った理由が自分のせいだと思っており、その罪の意識を消してあげるには、男の方にも責任がある、という風なことを伝えたかったからなのだ。たとえ、彼女が僕のことを悪く思おうとも。 「ますます、わたし、わからなくなったわ」 「あまり、深刻にならないでください。あなただけが、わるいわけでもないのですから」 「村越さん、って、優しいのね」 「そうですかね。自分ではわかりません…」 僕は、そう答えた。 実際、島村さんが言うように、 僕が優しかったとしたら、妻とは別れることはなかっただろう。 優しくなかったからこそ、とにかく、あの頃、僕は家庭を顧みることも無く、ただ、ただ、出世を夢見ていただけなのだから…。 あの当時、僕は、出世欲のかたまりで、将来、本社の部長にはなりたかったと思う。役員にまで、出世できるとは思わなかったけれど。 いずれにしろ、課長止まりで、終り（定年）になりたくなかったように思う。 本社の部長になれば、人事部の力によって、子会社か系列会社に、定年後の再就職の斡旋をしてもらえるのだから。課長では世話をしてもらえないルールに、僕の会社ではなっている。 「あの頃のこと、わたしは、まだ、引きずっているんです」 「そうなんですか」 僕は、そう答えざるを得なかった。 しかし、意外ではあった。 島村さんは、職場では、あっさりとして、てきぱきと仕事をどんどん、前に進めていく方だったから。過去のいやなことを引きずっているなんて、想像できなかった。 やはり、公（おおやけ）のことと、プライベートなこととでは、何かが違うのだろうか…。 『過去のことは、早く、忘れた方がいいですよ』 と、僕は、島村さんに、言ってあげたかった。 しかし、なかなか言えない。 僕自身だって、離婚の苦い思い出が、やはり、胸のどこかに、うずくまっているような気がする。 「わたしに、昔のこと、忘れさせてくれますか、あなた？」 気がつくと、僕は、少し上半身を離した格好で、島村さんに問われていた。島村さんの目を見た。近くなので、薄闇ながら、よく見えた。その目は光っていた。そして、目の色を見るに、真剣そうだった。とても、冗談半分で言っているようには思えなかった。 僕は、どきまぎした。 彼女の目から逃れたい。 でも、少なくとも、この際、目を逸らすのは卑怯に思えた。 「今でも、その同棲していた彼氏のこと、思い出しておられるなら、ちょっと、僕では、無理かもしれませんね」 「どうして？」 「僕は、いい男ではないし。精神的な度量にも乏しいし…」 「そんなこと、ないわ。あなたは優しい人よ…」 彼女の目が濡れている。 ひょっとして、彼女は、僕に頼ろうとしているのかもしれない。 僕は、少し上体を後ろに引いて、彼女の目だけでなく、彼女の顔全体を見た。暗いので、ややぼんやりとはしている。がそれでも、彼女は色白で、目鼻立ちも整っているのが見てて取れた。 僕は、急に、彼女に、また欲情を感じた。股間のモノが勃起しているのだ。と、それが、彼女の股間に当たるのを感じた。 「あら、元気になったの？」 彼女にそう指摘され、薄闇ながら、僕は、恥ずかしさに赤面した。 「すみません」 「もう一度、抱きたい？、わたしのこと」 「そんな」 「わたしは、抱いて欲しいのだけれど」 「しかし、それでは…」 「どうしたの？」 「僕は、意志薄弱なんです。だから、あなたのこと、また抱いたら、あなたに情が移ってしまって…」 「そうなったら、いけないのかしら？」 「ええ、そんなことになったら、どうしていいか、僕は、わからなくなってしまうでしょう」 「わたしのこと、好きになってしまうということ？」 「いや、よくわかりません。でも、体の関係を持つと、その女の人に情が移り、その人と別れられなくなってしまう、ということは、世間では、よくあることではないですか」 「そうかもしれないわね」 彼女は、目を伏せた。 少し悲しそうで、さびしげだった。 僕は、そんな彼女をまた、自分の方に引き寄せ、慰めるしかなかった。 彼女の肩を少し、わが身の方に、抱き寄せる。 彼女は、いやがらない。 彼女を横に抱えながら、空いている右の手で、彼女の髪を撫で、首の後ろのあたりをなで、彼女の背中の上の辺りを撫でていた。 が何と言うことだろう、そういう仕草をしているうちに、股間のモノは、ますます硬くなっていくのだ。 おんなの体を触る。スケベェな心が頭をもたげる。股間のペニスが大きくなる。一般的な男性のパターンに、完全に、僕は、嵌まりつつあったのだ。 こんなに下半身を密着させているのだ。僕のペニスがどうなっているのか、もう、彼女にも、わかっているはずだ。 僕は、弁解していた。 「ごめんなさい、こんなになってしまって」 「いいのよ」 「好きでもないのに…」 「好きになって！」 「こんな僕でもいいのですか？」 「いいの、いいのよ」 彼女は、うわごとのように、そう言った。 ひょっとしたら、昔、同棲していた男の人のことを、彼女は思い出しているのかもしれない。 僕は、急に、ペニスの中心部に芯が通ったような気がした。おそらく、嫉妬なのだろう。昔のカレに対する嫉妬心が、僕の欲望に、さらに火をつけたのだろう。僕は、無意識のうちに、半身の体を起こし、彼女の上にかぶさっていた。 彼女のくちびるに、僕の唇を当てた。彼女は逃げなかった。 だから僕は、彼女のくちびるをこじあけるようにして、彼女の口びるや、口の中の歯茎のあたりをむさぼった。僕の唇が、彼女の舌先を捕らえると、その舌先を吸い込むようにした。 彼女もあえぐ。僕もあえぎながら、彼女のくちびるを吸い、彼女の唾液を啜り込み、彼女の舌を吸い込んだ。 理性が飛んでいた。 同じ会社の仲間なのに。 結婚する気もないのに。 僕は、欲情だけに押し流されていた。 彼女がずり上がり、股を大きく広げたようだ。 それで、僕は、僕の下半身が、彼女の股の間に、ストンと落ちたような気がした。 僕は、彼女の首の下にキスをしていた。おっぱいを揉んでいた。 ペニスが、彼女の指でつままれた。 僕は、何かと思い、腰を浮かした。 すると、彼女は、両足の膝を立て、Ｍ字型に下肢を大きく開いたようだった。 そして、彼女はペニスを、自らのヴァギナに挿入しようとしていた。 僕は、彼女の指の動きに合わせ、腰を前にゆっくり進めた。 ヌルッとペニスが膣内にもぐり込む。すでに彼女の膣内は淫液であふれていたのだ。 彼女の膣の中は、熱く煮えたぎっていた。 気持ちがいい。ぴったりと、股間と股間をくっつけ合う。 「あああっ…」 彼女も、僕の熱い肉棒を受け入れて、ためいきを漏らす。 僕は、上体を密着させたまま、少し動いた。 中が濡れているので、小幅ながらも、動きやすい。 僕は、彼女が好きなのかどうか、わからなかった。 でも、こうしていると、気持ちよくて、彼女が好きになる。 今後のふたりの仲なんて、今は理性的には考えられなかった。 僕はともかく、快楽に関して貪欲だった。 互いに上体を密着させたままでは、ストロークが短すぎて、物足りなさを感じはじめた。 僕は、両腕のひじをピンと伸ばし、上半身を起こした。 そして、大きく腰を動かして、抜き差しをすることにした。 上半身を起こした方が、動きやすいのだ。 長いストロークになる。 ゆっくりと動く。 ペニスが長く膣壁で擦られるのか、気持ちがいい。 彼女も、気持ちいいのか、上半身をくねらせている。 下を覗くと、二人の接した、股間の上のあたりが、空いている。 僕は、左手１本で上体を支える。そして、自由になった右手で、彼女の股間をさわる。指先で、恥毛の中から、クリトリスを見つける。そのクリトリスを揉んだ。 愛液がひたひたと溢れ出て、恥毛を濡らしている。 僕は、射精が近いような気がした。 えぐるようにペニスを突き入れ、そして、ゆっくりと抜く。 背中が汗ばむ。 突き入れ、抜く。 そのスピードが速まる。 「ああああ、ああああ」 彼女はあえぎつつ、上半身を左右に揺らす。 僕の頭の中が真っ白になった。 目の前に、何本もの閃光が走った。 僕は、両手を突っぱね、上体を反らしつつ、子宮口にめがけ、何度も、ドク、ドクッとばかり、精を打ち放った。 そして、彼女がからだを弓なりに反らすと、ペニスの根元の辺りが、ギュッと絞り込まれた。 彼女は下肢を痙攣させ、低く呻いた…。 僕は、彼女のからだにしがみついた。 「ごめんね。でも、僕はスゴク気持ちよかったよ」 僕は、彼女の耳もとで、そう囁いた。 「わたしも…」 彼女からも、かすかながらも、返答があった。 僕は、うれしかった。彼女も感じてくれたようだ。 熱くなった彼女のからだを上から、ギュッと抱き締める。 （もう、彼女とは離れられなくなるかもしれないな…） 僕は、ちょっとした疲労を感じながら、そんなことを、ぼんやりと考えていた…。 （つづく） |
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| 2011.12.17掲載 |
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