携帯マル秘人妻サイト

40．

　奈央子のことは杏子の友人の紹介だった。
『一口で言えば知的美人と言えばいいのかしら・・・・今の登録者９名とは少し違うタイプだから、どうかな？』
　そう言われて紹介されたのだが、杏子は何故、紹介者が少し違うタイプと言ったのか、その訳が分かる気がした。
（お高いオンナ・・・・男からも女からも敬遠されるタイプだわ！確かに、登録相手を探すのに苦労しそうだけど、こういうタイプもひとりぐらい居ても面白いかも・・・・まぁ、仮に１ヶ月以内に相手が見つからなければ、他の人妻を探せばいいし・・・・）
　杏子は誓約書を示して罰則も説明し、奈央子の了解を得た。

　行橋奈央子、確かに知的な美人だった。
　だがプライドが高く、サイト参加をＯＫするようには見えなかった。
　奈央子は国立の大学を優秀な成績で卒業し、経済研究所に勤めた。
　そこで３年ほど経った25歳の時、早くから立てていた人生設計に基づき、同じ研究所の主席研究員だった高広と結婚し、現在に至っていた。
　結婚と同時に研究所を辞め、子どもを作る計画だったが、そこは奈央子の人生設計でも上手く出来ていない点だった。
（わたしが悪いんじゃない！あの人が弱いだけよ！）
　子どもに恵まれない原因は夫の精力の弱さだと決めつけていた。
　最近では暇を持て余し、時々、地域のカルチャー講師などを行ない、自分のプライドを保っていたようだった。

　細い金属フレームのメガネは伊達メガネだった。
　周囲の評判は悪かったが、本人は気に入っていて常時掛けていた。
　神経質そうな顔立ちには確かに似合っているかも知れないが、女性としての魅力には大きくマイナスに見えた。
　身長162cm、86・57・87のプロポーションも標準以上で、鼻筋の通った顔は目、鼻、口のバランスが整い、確かに誰が見ても美人だった。
　外での服装はダークスーツがほとんどで、ショートヘアにすっきりした面持ち、細いフレームのメガネの姿は、そのプロポーションの良さを殺し、肉感を感じさせるものではなかった。
（スタイルなんて、わたしには意味が無いわ！身体に頼るのは、他に能の無いバカ女よ！）
　外見とは裏腹に、口を開けばキツイ高慢ちきな女でしかなかった。

　そんな奈央子が何故、サイトへの登録参加を即答したのか？
　その理由のひとつは、今の自分の置かれている状況だった。
　人生設計が狂い、子どもに恵まれない人妻の立場・・・・
　能力があっても生かせないという苛立ちにストレス・・・・
　夫高広の忙しさとセックスの弱さによる欲求不満・・・・
　何でもいいから没頭して不遇な(？)自分からの逃避・・・・
　そして理由のもうひとつは、サイトがクローズで秘密が洩れたり、病気になるという心配の無いことだった。
　奈央子らしく理由の全てが自分のプライドと欲に起因していた。
（ふぅ～狂ったように欲求不満を発散したいと思っても・・・・）
　自分でも言っていたように、そんな相手に心当たりはなかった。
（でも誰でもいいってもんじゃないわね・・・・わたしより全てに優れているか、アレだけが立派な男がいいわ！中途半端な男が一番ダメ・・・・うぅ～ん、誰か・・・・）
　奈央子は仕方が無いので、周囲の男たちに目を向けた。

　奈央子は地域のカルチャー講師を引き受けた時の事務局に顔を出した。
　そこには以前「家庭の経済」という講義を担当した片岡修一郎と、コンピュータ関係を担当している田沼毅彦という２人の男がいた。
　片岡は中央からの出向で役所に来ている真面目な男で、田沼は何かと悪い噂の多い男だった。
（丁度いいかも・・・・アレは分からないけど、ふたりとも最初からわたしを毛嫌いはしないと思うから・・・・）
　奈央子は自分を知っている男たちでは受け入れられないと思い、とりあえず敬遠しないで相手をしてくれそうな男を選んだ。

「あれ！どうしたんですか？行橋さん」
　奈央子は先ず事務局にした片岡に会った。
「いえ、先日の講義の反響はどうかと思いまして」
「あぁ、それならば上々でしたよ！少し難しい内容だったという意見もありましたが・・・・・・・・」
「そう、そんなもんね！」
（アッ！今日は少しはオンナを出さないと・・・・いつもどおりじゃ片岡さんも敬遠するわよね）
　奈央子はいつもの高い所からではなく、目線を落として接しようと思い直した。

　片岡は35歳でスポーツも好きで体躯も逞しく、大学で経済を専攻していたので、奈央子も高次元で話しのできる年長として接していた。
　家族構成は妻と娘がひとり居るが、今は出向でひとり暮らしをしていた。

「ところで・・・・片岡さんは、今ひとり暮らしですよね？」
「えぇ」
「じゃあ、何かと大変なことも多いんじゃありません？」
「えぇ、でも、もう慣れましたし、あと１年ぐらいで戻れるでると思いますから・・・・エッ！？行橋さんが僕のことを心配してくださっているんですか？」
「えぇ、先日もお世話になりましたし、気になりまして・・・・」
　奈央子は掛けていたメガネを外してケースにしまい、片岡の出してくれたコーヒーを口に運んだ。

「噂どおり、行橋さんはメガネを取られた方が素敵ですね！」
「あら！尊敬する片岡さんに言われると、お世辞でも嬉しいわ！」
「お世辞ではなく、才色兼備というのがピッタリですよ」
　片岡は奈央子が噂で聞いていたのと違い、相手を立てて話しをする女性の優しさを感じていた。

（自分を抑えて気に入られるようにするって難しいのね・・・・）
　奈央子には、こうしていることもストレスだったのだ。
（皆、どうやってアッチの方向に持っていくのかしら？こうなったら、その気にさせることを楽しむしかないわね！）
　ストレスを感じた奈央子は、基本的な姿勢を考え直した・・・・。

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2009.1.24掲載

［41話］／［39話］

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