携帯マル秘人妻サイト

48.

　天井の高い室内は照明器具があるだけの広い空間だった。
　無機質な部屋の天井には縦横にレールが張られ、照明器具がいくつも取り付けられていた。
「ここで撮影を？」
「そうですよ。他で撮影した背景と後で合成するので、あのブルーの背景の前で撮影するだけです」
　小長井が指差す壁には、広く大きな青色の布があった。

「へぇ～そうなんですか・・・・」
　久美子は何か異次元に迷い込んだような気分だった。

「それじゃ、早速、あのドアの向こうの部屋で着替えを」
「あ、はい！あのぉ～お化粧や髪は・・・・」
「着替えが済んだら呼んでください。僕がやりますから」
「エッ、あなたが？」
「えぇ、今回は主婦である普段のあなたが生きるようにとのご注文で、ファインダーを覗いた写真家の目でまとめてくれと・・・・」
「そ、そうなんですか・・・・」
　久美子は着替えの衣服が入ったバッグを抱え、小長井の指示した部屋に向かった。

　着替え用に指定された部屋の中には、簡易な衣装収納とＴＶなどで見かけるような化粧台があった。
　久美子はジーンズやブラウスを脱ぎ、バッグの中から明るい模様のワンピースとエプロンを取り出し、手際良く着替えて鏡の前で確認し、脱いだ物を片付けた。
「あのぉ～」
「はい、今、行きます！」
　久美子がドアを少し開き小長井に声を掛けると、照明のセットをしていた小長井が顔を上げて返事をした。

「衣装はこれで？」
「それが雑誌社の注文なら仕方がありませんね。僕個人としては、来られた時のラフな服の方がいいと思いますが・・・・じゃあ、その化粧台の前に座ってください」
　久美子は小長井の指示に従い、化粧台の前に座った。

「ふ～ん、久美子さん、ですよね！？」
「エッ！あ、はい」
「素肌がキレイですね。化粧をするのが勿体ない！」
「い、いえ」
「顔だけじゃなく、腕も脚もキレイと言うことは、久美子さんの身体全体の肌がキメ細かくキレイと言うことですね？」
「い、いえ、そんなことは」
「見なくても分かるんです！これでも写真家ですので・・・・」
「いえ、そういうつもりでは」
「あぁ、分かっています。いえ、女性のヌードも数多く撮ってますから」
「ヌ、ヌード！」
「えぇ、グラビア写真や何やら・・・・
最近は顔立ちはまぁまぁでも肌のキレイな女性が少なくて」
「そ,そうなんですか・・・・」
　久美子は自分の素肌を誉められたことがなかったのと、ヌードという言葉に、急に胸が高まりドキドキしていた。

　小長井は手際良くヘアースタイルをまとめた。
「小長井さんは何でもプロなんですね！」
「エッ？」
「写真家、ヘアー、メイク・・・・何でも」
「ハハハ、今はこうしてスタジオを構えていますが、昔はまともな仕事が無くて、何でも自分でやっていたので・・・・じゃぁ、反射を抑える為に・・・・それと瞳をもっと、それと口元を・・・・」

　久美子は閉じていた目を開き、鏡に映っている自分を見て驚いた。
（エッ！こ、これがわたし・・・・）
　僅かな時間で久美子は自分が自分ではないような気がした。
（うぅん！・・・・そうよね、そんなに驚くほどは・・・・）
　久美子は首を左右に振って改めて鏡を見た。
　先ほどでは無かったが、いつもとは違うような自分がそこに居た。
（メイクひとつヘアースタイルひとつで、姿形が変わって見える・・・・）

　小長井は仕上げに少しだけ頬紅をさした。
「さぁ、行きますよ～」
　小長井は久美子を撮影場所へと促した。

　ブルーバックの前で数カットの写真が撮られた。
「はい！もう結構ですよ」
「エッ！？もぅ、もういいんですか？」
「えぇ、久美子さんが緊張しないで自然体でいてくださったから」
「いえ、それは小長井さんが話掛けてくださって・・・・」
「ふっ、もし宜しければ、雑誌写真ではなく、久美子さんらしい写真も撮ってみますか？デジタルですから、すぐに見ることができますし、イヤなら、すぐに消去すれば残りませんし」
「エッ！でも、そんな個人的な写真を小長井さんのような方に・・・・」
「いえ、僕の個人的な興味で」
「個人的な興味・・・・？」
「えぇ、久美子さんは、まだ本来のご自分を表現できていないのでは？」
「本来の自分？・・・・わたしなんかにそんなものはありませんよ！ご覧になっているとおり、パッとしませんし・・・・」
「ほらほら、それが自覚されていない証拠！お時間は？」
「いえ、この後はフリーですが、小長井さんの方こそ、お忙しくて」
「それが、この通り、今日は不思議と時間が空いていまして」
　小長井はスケジュール表を久美子に示して微笑んだ。

　その爽やかな小長井の微笑に、久美子は誘われるように頷いた。
「どんな風なご自分を見たいですか？」
「どんな・・・・と言われても自分では・・・・」
「そうですよね！それじゃ、ごく普通の久美子さんを見てみましょう。普段着に着替え直して・・・・」
「えぇ」

　久美子は着替え室に戻り、来た時のジーンズとブラウスに着替えた。
（本当に平凡なオンナなのよね・・・・これじゃ、例のサイトへの登録は無理だわ・・・・）
　鏡に映った自分の下着姿にも魅力を見出せなかった久美子は、大きく溜息をついて着替えを済ませた。
（やっぱりこのまま帰ろうかな・・・・無駄なことをしても申し訳無いし）

　久美子は丁重に断ろうと、着替え室を出て小長井の方に向かった・・・・。

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2009.2.11掲載

［49］／［47］

秋水さんの他作品（2009.2/2現在）
『淫香』	『淫蜜』	『サブリミナル』
『サイコ・・・千年王国』	『ＳＥＸ仕置人　ミカ』	『劇団ＩＮ＝イン』
『青春放浪記』	『淫界大迷宮』	『雨宿り・・・』
『実践結婚相談所』	『プロフェッショナルのオンナたち』	『萠・・・その性』
『性春浪人』	『市役所の人妻たち』	『平成の団地模様part1』
『ベビーシッター亜季』	『主婦の中に潜むオンナ・・・』	『性少女・・・Ａ』
『引越しサービス』	『犯す！』	『平成の団地模様part2』
『恵子・・・不惑の時』	『撮られた女』	『哀しくも悦びの・・・性（さが）』
『強姦日記』	『続平成団地模様』	『異次元ＰＯＳＴ』
『妄想と現実の狭間で』	『遠い日の記憶』