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54.

　食事は橘が言ってたとおりの山菜料理だった。
「素敵ですね！」
「浅丘さんには、ここは不向きでしたね」
「エッ、どうして？」
「こんな鄙びた場所より、華やかなレストランの方がお似合いのように」
「そんなことはないわ！確かに、こういう場所は初めてだけど、この山菜料理は美味しそうで素敵だわ！」
「じゃあ、早速いただきましょうか？」
　ふたりは山の幸に喜び、お互いの農園の作物やプライベートな話しをし、食後のお茶をゆっくりと楽しんだ。

　お茶を飲みながら、稀美恵は久し振りにゆったりとした気分に浸った。
「いいわね・・・・こうして美味しい空気と美味しい山菜を味わって」
「そうですね。個室というのも他の人を意識しないでいいですね」
「わたし、こういう場所は初めてなんですが、どういう風に皆さん過ごすんでしょう？」
「さぁ、僕も個室は初めてなので・・・・多分、温泉で疲れを癒して、山菜料理を食べ、心身ともにリフレッシュされる方が多いのでしょう」
「ふぅ～ん・・・・」
　稀美恵は本当に憩いでいた。
（こんな気分、久し振り、いえ、初めてかな？）
　稀美恵は立ち上がって再び障子を開き、板の間の窓を開いて大きく深呼吸をし、周辺や遠景を眺めた。

　橘も稀美恵の後を追うようにして稀美恵の横に立ち、稀美恵と同じように遠景や山の空気を楽しんだ。
「この露天は、人目に晒されないのかしら？」
「そうですね・・・・えぇ、上手く囲われているようですね。温泉に入られますか？」
「わたしは・・・・橘さんは？」
「僕は入りたいのですが・・・・」
「それじゃ、露天と檜風呂とに別れて入りませんか？浴衣もありますし、少し、ゆっくりされてはどうですか？」
「そうですね・・・・それじゃそういうことに」
　結局、稀美恵は檜風呂に、橘は露天風呂を使うことにした。

　稀美恵は檜の香りに包まれて湯を楽しんだ。
（本当にいい気持ち・・・・日頃の鬱な気持ちが晴れていくゎ・・・・）
　稀美恵は浴室の窓を開いて戸外を見た。
　板の間から見た風景と同様、自然に彩られた緑と空気が心地良かった。
（エッ！）
　視線を左に向けた時だった。
　そこには橘が入っている露天風呂があった。
（ここから露天風呂が・・・・）
　稀美恵は何故か橘の姿を目で追っていた。

　橘は稀美恵が見ているとは気づかず、露天の淵で身体を洗い流していた。
（わっ！た、橘さんて逞しい身体してるのね・・・・エッ、あんなふうにして、アレを洗うの・・・・あっ、わたし、覗きのようなことをしてる）
　稀美恵は自分が恥かしくなり、慌てて窓を閉じ湯に身体を沈めた。
（ふぅ～～驚いたゎ・・・・まだドキドキしてる！）
　稀美恵は乳房の上を抑えて大きく息を吐いた。
（稀な美しさに恵まれてる・・・・杏子さん、そんなことを言っていたけど、橘さんは、全くそんな風にわたしを見ていなかったわ！34歳か・・・・もうすぐ40歳、このまま老いるのかな・・・・）
　稀美恵は胸を抑えた手で自分の乳房を擦りながら目をそっと閉じた。

　コンコン！
「浅丘さん・・・・僕、出ましたけど・・・・」
「アッ、あ、はい！」
　稀美恵は急いで身体を拭い、浴衣を着けてドアを開けた。
「あっ・・・・」
「エッ、どうかしました？」
「い、いえ、湯上りの浴衣姿で、浅丘さんの美しさが際立って」
「まぁ、橘さんも女性を誉めることもあるんですね」
「え、あ、いやぁ、ずっと思っていましたが、なかなか言う機会がなかったので・・・・それに、浅丘さんはいつも皆さんから言われているでしょうし、僕のような男から言われても嬉しくないだろうと・・・・」
「嬉しいゎ・・・・」
「エッ！」
「確かに若い時から誉め言葉は数多く聞いてきましたが、結婚をして、この年になると、あまり関係ない気がして・・・・でも、橘さんのような方に誉めていただくと、やっぱり嬉しいわ」
　ふたりはテーブルを前に並んで座り、黙ってしまった。

　湯上がりの浴衣姿の稀美恵は、艶やかな様相を呈していた。
　セミロングで柔らかなウェーブのかかった毛先は濡れ、湯で火照った肌からは檜の香りと稀美恵の匂いが仄かに漂っていた。

（農園で土をいじっている時でも美麗さは際立っていたけど・・・・敢えて意識しないでいたが、こんなに艶っぽいと・・・・）
　橘は淫な欲望が沸き上がるのを抑えきれなかった。
　稀美恵の浴衣の胸元からは浴衣を慌てて着けて出てきたようで、薄桃色に艶々と輝く乳房の膨らみが、時折り橘の目に映った。
「露天の方はいかがでしたか？」
「エッ！大浴場と違って自分だけの解放感のある憩いの温泉と言うか・・・・」
　橘は稀美恵の身体に向けていた視線を慌てて外した。

「そうですか」
「まだ時間がありますから、後で浅丘さんもいかがですか？」
「え、えぇ・・・・」
　稀美恵は内風呂の中から橘の逞しい体躯と肉棒を見たことを思い出し、自分も逆に橘に見られてしまったらと思うと、温泉で火照った身体の奥が、カッと熱くなった。

　稀美恵は視線を遣るつもりは無かったが、何気なく橘の股間を見た。
（アッ!!・・・・）
　稀美恵は思わず息を呑んだ・・・・。

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2009.2.25掲載

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秋水さんの他作品（2009.2/2現在）
『淫香』	『淫蜜』	『サブリミナル』
『サイコ・・・千年王国』	『ＳＥＸ仕置人　ミカ』	『劇団ＩＮ＝イン』
『青春放浪記』	『淫界大迷宮』	『雨宿り・・・』
『実践結婚相談所』	『プロフェッショナルのオンナたち』	『萠・・・その性』
『性春浪人』	『市役所の人妻たち』	『平成の団地模様part1』
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『引越しサービス』	『犯す！』	『平成の団地模様part2』
『恵子・・・不惑の時』	『撮られた女』	『哀しくも悦びの・・・性（さが）』
『強姦日記』	『続平成団地模様』	『異次元ＰＯＳＴ』
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