携帯マル秘人妻サイト

秋水 作

98.


 沙希はサイト開設日を早めることにした。
「登録者の方々は、もう待っていられないって」
「そりゃそうかもね。それじゃ、予約受付できるようにするわ」
「杏子さん、お願い。わたしは続けて登録者候補にあたるから」
 沙希は杏子にサイトの開設を頼み、自分は悩める人妻たちとの接触を進めた。


 38歳になる市橋 有里は、疲れ果てていた。
 結婚して15年、中学2年になった恵里、自動車メーカーに勤める45歳の夫 雅之、それと71歳の義母 雅子との4人暮らしだった。
 結婚生活は順調で何の問題も無く過ごしてきたのだが、2年前に義父が74歳で他界してから、少しずつ翳りが見えてきた。

 義母の雅子が認知症になったのだ。
 認定を受けた時は物忘れがひどいと感じる程度だったが、その後、次第に症状が悪化し、最近では毎日、有里を煩わせるようになっていた。
 施設に頼もうかと夫とも相談をしたが、どこも予約がいっぱいで空きが無く、夫は仕事が忙しいと言って、有里任せの状態だった。
 朝から夜まで目が離せず、トイレの心配までしていた。
(雅之さんは自分のお母さんのことなのに、全部わたし任せ。もう神経がおかしくなりそうだわ!こんな生活がこの先、何年も続くのかと思うと・・・・)
 有里はうつ病に近い状態だった。

 そんなある日のこと、義母がデイサービスを受けられることになった。
 午前中に施設から迎えの車が来て、一日中その施設で過ごし、夕方帰ってくると言うものだった。
(週に1日でも、凄く助かるわ!)
 四六時中、義母に手が掛かっていた有里にとって、それは天の助けとも思えるほど喜ばしいものだったのだ。
(お義母さんの世話をするのがイヤというわけじゃない・・・・ただ、自分の時間が、自分のための自由が欲しかった)
 介護に明け暮れるひとたち共通の思いだろう。

 義母が施設に行った日、有里はひたすら眠った。
 家事を終えてから、昼食も摂らずに、ただただ眠っていた。
 夕方になり、義母が施設から帰ってくるまで、気づかなかった。

 夫の雅之は相変わらず無関心のような受け答えを耳にし、有里は自分がどうしてここに居るのか、疑問さえ抱いていた。

 その有里の元に 『携帯マル秘 人妻サイト』の話しがあった。
『エッ!そんなこと・・・・絶対に無理よ!お義母さんの介護から解放されない限り、何もできないわ』
 時間と自由さえあれば、サイトに参加して思い切り乱れたいと、そう思った有里だった。
(夫とのセックスなんて、とうの昔に消滅してるし、もうすぐ40歳・・・・。わたしのオンナとしての人生は終わったんだわ・・・・)
 サイトに参加できる人妻たちが羨ましく思えた。

 家事と義母の介護に追われる日々が続いた。
 そして義母が一日施設に行った日、有里は家事を終え、近くの公園のベンチに座っていた。
 何をするわけでもなく、ただボォ〜としていた。
「有里さん、どうしたんですか?」
 有里は声の方に顔を向けた。
「あぁ、ジャック、久し振りね」
 有里に声を掛けたのは、近所に住むジャックという黒人だった。

 ジャックは35歳のアメリカ人で、5年ほど前から有里の家の近所のマンションに住む外科医だった。
 勤務先は大学病院で、有里とは3年ほど前に知り合った。
 今は日本語を流暢にしゃべるが、3年前、通りで困っていたジャックに助け舟を出したのが、最初の出会いだった。
 その後は、時々、この公園や街中で会う程度だった。

 元気のない有里を心配したジャックは、有里の隣に座った。
「元気のない有里さん、何かあったんですか?」
「うぅん、今日は元気のあるほうよ」
「エッ?僕には元気なさそうに見えますよ」
「そぉ?心配してくれてありがとう」
 有里は明るく振舞いジャックに微笑んだ。
(ふっ、無心で接してくれるジャックの顔を見るとホッとするわ)

 ジャックは有里の笑顔を見て少し安心した。
「有里さんには、いつもお世話になって。僕で役立つことがあれば何でも言ってください」
「ありがとう。それよりジャック、忙しいんじゃないの?」
「いえ、今日はお休みなんです」
「そうなの。じゃあ、一緒にコーヒーでも飲む?」
「えぇ、有里さんと一緒なら嬉しいです」
「まぁ、ジャック、いつの間にお世辞を覚えたの?」
「エッ、お世辞じゃなく・・・・」
「はいはい、じゃあ、家でゆっくり飲みましょう」
 有里はジャックを連れて家に向かった。

 有里はジャックをリビングに迎え入れ、コーヒーを淹れた。
「あれ?有里さん、ひとりなんですか?」
「そう・・・・」
「やっぱり何かあるんですね?話しを聞かせてくださいよ。誰かに話しをするだけで違うものだって、前に有里さんが僕に言ったことですよ」
「そうね・・・・」
 有里は優しいジャックの言葉に甘え、義母の介護のことや今の自分の精神状態などを話し始めた・・・・。
 
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2009.8.10掲載
秋水さんの他作品(2009.7/22現在)
『淫 香』 『淫 蜜』 『サブリミナル』
『サイコ・・・千年王国』 『SEX仕置人 ミカ』 『劇団 IN=イン』
『淫界大迷宮』 『雨宿り・・・』
『実践 結婚相談所』 『プロフェッショナルのオンナたち』 『萠・・・その性』
『性春浪人』 『市役所の人妻たち』 『平成の団地模様part1』
『ベビーシッター亜季』 『主婦の中に潜むオンナ・・・』 『性少女・・・A』
『引越しサービス』 『犯す!』 『平成の団地模様part2』
『恵子・・・不惑の時』 『撮られた女』 『哀しくも悦びの・・・性(さが)』
『強姦日記』 『続 平成団地模様』 『異次元POST』
『妄想と現実の狭間で』 『遠い日の記憶』 『SEX仕置き人チェリー』
[最新・コラボ小説][完結小説(長編)][完結小説(中編)][完結小説(短編)][休載?小説][体験告白][MAIN]