携帯マル秘人妻サイト

105.

　サイト登録者の口コミで治代のことを聞き、沙希は治代を勧誘しようと思った。

「毎日、大変ですね。仕事も家もいろいろと」
「えぇ、でも離婚は考えてないの」
「だったら尚更、サイトに参加して気分転換されては？閉鎖されたサイトだから秘密が洩れる心配もありませんし」
「そうね・・・・」
　治代は自分の立場も考え、サイトへの登録に気持ちが傾いた。
（ストレスを解消したくても、やたらと人目が気になるし、夫とのセックスは、もう２年以上も無いし・・・・）
　問題は登録するためのオトコだった。
（急に言われても、すぐには見つからないわ）
　治代は沙希への返事を保留した。

　公務員という職業が自分に適しているかどうか、最初の頃は疑問だった。
　だが慣れというものは不思議なもので、１年、２年と年数を重ねるごとに、それらしくなっていた。
（入庁して12年か・・・・いつの間にか、わたしもすっかり公務員らしくなって・・・・常に周囲の目を気にして品行方正、生真面目に仕事を行なう。だけど必要以上に仕事はしない・・・・ふぅ～何なんだろう？）
　枠に嵌められた生活に慣れていた治代だったが、夫のこともあり、最近は役所に来るのでさえ億劫に感じていた。

　この日も何となく気が重く、机に向かってボォ～としていた。
「あれ！川口さん？」
　通路に沿う形で机に向かっていた治代は、通りかかった男に声を掛けられた。
「エッ！あ、高垣さん」
「今年度はここですか？」
「えぇ、そうなの。去年はいろいろとお世話になりまして」
「いえいえ、こちらこそ。それではまた」
　高垣は挨拶を済ませると急ぎ足で去っていった。
（ふふっ、高垣さん、相変わらず忙しそうだわ）

　高垣は役所に出入りしているシステム会社の営業課長で、マメな提案と対応によって各課で重宝されていた。
　年齢は治代より４歳年上の38歳で、子どもが２人居た。
　去年、治代が教育委員会にいた時に、住民との情報交換のためのシステムを高垣に依頼したのだ。
（仕事熱心な人、でも冗談も言うし空気を読むのが上手いわ。高垣さんのようなタイプは、絶対に役所には居ない）
　治代は去年の高垣とのやり取りを思い出していた。

　さらに１週間ほど過ぎた日、治代はいつもに比べれ少し明るい顔をしていた。
　それというのも昨日、夫の悟がトップセールスをする為に韓国に行ったのだ。
（１週間か・・・・夫の嫌味から解放される。久し振りに、今度の土日はノンビリできそうだわ）
　気鬱な悟の顔を見ないで済むと思うと、少しは気が楽になった。

「こんにちは～」
「はい、こんにちは。アッ、高垣さん」
「コレを」
　高垣が名刺を治代に差し出した。
「名刺？前に頂いたのがありますよ」
「いえ、こちらを・・・・同じように川口さんの名刺を頂けますか？」
　高垣は名刺を裏返して治代に手渡した。

（携帯電話の番号とメールアドレス・・・・、コレと同じようなわたしの名刺が欲しいって？）
　高垣の意図が分からなかった。
（誘ってるの？個人的な付き合いはご法度よ！）
　そう思った治代だったが、即座に突き返さないで考えた。
（役所の常識は世間の非常識、たまにはわたしも・・・・）
　治代は自分の名刺の裏面に携帯の番号とメアドを書き、周囲には何でもないような顔をして高垣に渡した。
「それでは、その時は宜しくお願いします」
　片目を閉じてニヤッとする高垣に、治代は目で頷いてみせた。
（わたしは公務員で人妻、高垣さんは出入り業者で妻帯者、こんなことをしていいの？・・・・リスクは同じ？）
　出入り業者との個人的な付き合いは固く禁じられいた。
　治代は敢えて、その禁を破ったのだ。

　特別な感情を高垣に抱いていたわけではなかったが、治代は高垣からの電話とメールを待っていた。

『エッ！結婚してるんですか？』
『えぇ、もう９年も前に』
『エッ、20代じゃないんですか？』
『そうよ。もう30代、よく若く見られるけどオバサンよ』
『へぇ～信じられないなぁ』

　去年、システムの打合せをしている時、高垣と交わした会話を思い出した。
（高垣さん、わたしの年齢も人妻だということも知ってて？感じの良い人だけど、どうして危険を冒すのかしら？）
　自宅に戻った治代は、夫の悟が居ないのでマイペースで過ごしていた。
（あの人の愚痴や嫌味を聞かないで過ごせるのは久し振り・・・・）
　外食で夕飯を済ませた治代は、自宅でノンビリしていた。

『メールだよ♪』
　治代の携帯にメールが着信した。
（高垣さん？）
　時計の針は21:00を指していた。
『去年から思っていたのですが、仕事を離れて個人的にお会いできませんか？』
　やはり高垣からの誘いのメールだった。
（まさか、話しをしたいだけってことは無いわよね・・・・どうしよう？返事をしないわけにはいかないし・・・・）

　治代は迷っていた・・・・。
　

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2009.8.29掲載

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